太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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更新遅くなりました。


PDA

■日本国 東京都

 中央暦1638年4月初旬

 首相官邸

 

 

 武田首相は日本語で丁寧に書かれた親書を読み返していた。

 つい先ほど、大湊からもたらされたものである。

 しかしながら、何度読み返しても腑に落ちないのは、イルメリアというらしい相手方が日本の事を知っており、将来の日本の発展を見てきたかのように書いていることだった。

 

 

(・・そういえば) 

 

 武田は、新書判サイズのガラスの板のようなものが、親書と一緒に箱に入れられていたことを思い出した。

 何かの機械らしいが、機械に詳しい旧軍の関係者に見せても、「こんなものは見たことが無い」のひとことで済まされたものだ。

 板と一緒に使い方が書かれた説明書らしきものが添えられていたので、読んでみることにした。

 

(なになに・・)

 

 

《政府機関用PDA 取り扱い説明書》

 本機、携帯情報端末RG22は政府職員用です。一般での使用は禁止されております。

 

〇使用方法

 1. 充電ケーブルを接続し充電します。

 2.本体右側のボタンを押して電源を入れます。

 3.画面の指示に従ってユーザー登録を行います。

 4.以後の操作はチュートリアルを参照してください。

 

 

(PDA? 政府機関用? とりあえず危険なものではなさそうだな・・)

 

 

 説明書に従って、横の小さな出っ張りを押すと、画面が明るくなり何やら表示された。

 

(・・お、電源が入ったのか?電気が点いたぞ?)

 

 

 PDAの画面に表示された指示に従って初期設定を終えた武田だったが、その顔には驚きと困惑が深く表れていた。

 

(こんなに小さいのに総天然色なのか・・ それに機械が日本語を喋るとは・・)

 

 

(ん・・? この電話の形の表示は?)

 

 武田は画面に表示された絵の一つに触れてみた。

 すると、プルプルという音が流れ・・

 

「・・こちらはイルメリア領主館、受付担当リュリュコルピです。当主はただいま不在にしております。差し支えなければ、ご用件を伝言いたします。いかがいたしますか?」

 

 

 ガラスの板の向こうから、少しハスキーな若い女性の声。

 武田首相に渡された端末は、まさかのホットラインであった。

 

 

 

■首相官邸 閣議室

 

 

 翌日、首相の呼び掛けにより、閣議室に主だった閣僚が集まっていた。

 

「まずはこれを見て欲しい」

 

 全員に文書が配られた。

 紙質の良くないわら半紙であった。

 インクの匂いが残ることから、急いで印刷されたものであることが判る。

 

 

「・・!?」

 

 文書を見た全員が息を呑んだ。

 それは、日本の首相に宛てられた、聞いたこともない国からの丁寧な親書の写しであった。

 

 

「首相、これは?」

 副総理格の中村内相が尋ねた。

 

 

「昨日、大湊から届いたものだ。判断に困って皆の考えを聞こうと思って配らせてもらった。忌憚のない意見を聞かせて欲しい。」

 

 閣僚たちを見まわして武田は言った。

 閣僚全員の顔には困惑の表情が浮かんでいた。

 

「時代錯誤もはなはだしいですが、ローマ帝国? いや、ローマ皇国ですか。悪戯にしては手が込み過ぎておりますな」

 

と、内相。

 

 

 月島商相が言う。

 

「首相、これを読むと、イルメリアというらしい相手方は日本の事を知っており、将来の日本の発展を見てきたかのように書いているように思えるのですが・・」

 

 

「しかし、国の一部だけが移転ですか。本当だとすると、彼らの状況は我々よりも厳しいのではないでしょうか?」

 

 岩橋蔵相の発言である。

 

 

「皆それぞれの意見からは、私と同じに判断がつかないと感じられる。結論の出ない会議を続けても仕方ないが、一つ打開策がある。」

 

 

「これは親書と同梱されていた機械で、信じられないと思うが、高性能の通信機のようなのだ」

 

 そう言って武田は机に置かれたガラスの板を示し、板に触れるとプルプルという音が流れ・・

 

 

 

「・・お初にお目にかかります。ローマ皇国イルメリア専制公、ユリア・テオドラ・コムネナでございます。どうぞよしなに」

 

 

「「!!!?」」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 驚愕する一同。ガラスの板の上に、若い女性の姿が浮かび上がったのだ。

 実は武田が昨日の電話の際に、閣議の時間に合わせてアポイントメントを取っていたのだった。

 

 

「皆さま、これは立体映像です。実際のわたくしは、3000km離れたイルメリアの領主館からお話ししています。」

 

 

 

 絢爛豪華な深紅の衣装の女性 ーユリア・テオドラが話す内容は、日本国がいた時代から100年後の国の話であった。

 加えて、話の中でユリアと武田たちの歴史認識が一部異なることがわかり、日本とイルメリアでは、元いた世界が異なるのではないかと思われた。

 

 荒唐無稽な話といえるものだったが、そもそも異世界に転移するなどという話自体が、まったく現実味のない話なのである。

 

 まるでヴェルヌの空想科学小説のような話に、一同の困惑はさらに深まった。

 

 

「では皆様、実際に我がイルメリアを見に来られてはいかかでしょうか? 日本のことわざに、百聞は一見に如かずというのがあると聞きますわ」

 

 

 

 見ず知らずの相手からもたらされた親書、高性能の機械に100年先の国の話、そして視察団派遣の提案。

 さすがの閣僚たちも、判断材料が多すぎて思考停止に陥っていた。

 

 

 武田は思った。普段冷静な閣僚たちをこれほど困惑させるとは、イルメリアという連中は、なかなか大したものだと。

 もちろん、表情には噯《おくび》にも出さなかったが。




※内相=内務大臣:地方行財政・警察・土木・衛生などを管掌する内務省を指揮監督する。

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