救難活動に区切りがつくと、各国艦艇の任務が組み直された。
日本の海防艦とイルメリアの通報艦は救難群から離れ、それぞれの艦隊に戻った。
クワ・トイネとクイラの哨戒艦は、引き続きル・ブリアス近郊の警備と漂流者の捜索に当たる。
両国の艦艇を皇都近海の戦闘へ加えないための措置でもあったが、海域警備は必要な任務だった。
日本艦隊とイルメリア艦隊はパーパルディア方面に変針した。
状況盤上で各艦の符号が新たな隊形に組み直される。
先頭はイルメリアの巡察艦三隻と『長鯨』、その後方に『大鷲』、海防輸送艦『トロパリオン』、二隻の高速輸送艦、日本の運送艦『宗谷』『筑紫丸』が続いていた。
イルメリアの通報艦と無人哨戒艦、日本の海防艦は、艦隊外縁に配置された。
マイラスとラッサンには、演習の概要と進行予定が事前に示されていた。
彼らには。海戦演習の終了後、日本とイルメリアの艦隊が皇都南方で上陸演習を行うことは既知のものだった。
「予定どおり、上陸演習に移るのですね」
「計画に変更はありません。艦隊はエストシラント南方の上陸地点へ向かいます」
上陸地点は、パーパルディア最大の海軍基地近郊である。
ラッサンは演習概要を開いた。
「この『未統治地域』という記述ですが」
「イルメリアは、パーパルディア皇国を国家として承認していません」
「それは承知しています。しかし、日本側も同じ表現を使っている」
連絡士官は少し間を置いた。
「日本は、イルメリア軍が実施する演習に協力しています」
説明になっているようで、説明になっていなかった。
マイラスは状況盤へ目を戻した。
地図から国名を消したところで、その土地を支配する者まで消えるわけではない。
日本側も、それを承知したうえで、今回の計画に加わっていた。
*
■正規空母『大鷲』
格納庫では、第十一飛行隊――正式には第一艦隊第一飛行隊に所属する六花の再出撃準備が進められていた。
目標は皇都南方のワイバーン飛行場、主翼下には
る。
パーパルディアのワイバーンロードは、品種改良によって飛翔能力が増した反面、魔力が充分にない土地では専用の滑走路を用意しないと離陸できないという欠点があった。
目標図には滑走路の両端と中央部に投弾地点が指定されていた。
一方、飛行場に隣接する建物や巨大な魔導レーダー塔には、攻撃禁止を示す斜線が引かれている。
第十一飛行隊長、志賀良夫少佐は目標図を見下ろした。
「この塔は?」
「イルメリア側の保全指定です。付属施設にも投弾してはならないとのことです」
「理由は聞いているか?」
「保全指定とだけです」
彼の後ろでは、山田飛曹が目標図を確かめていた。
ロウリア艦隊への攻撃にも参加した元零戦乗りである。
やがて、再び飛行甲板へ上げられた六花が、電磁カタパルトのシャトルへ接続された。
志賀機は甲高い作動音とエンジンの轟音を残して艦を離れた。
各機は編隊を整えると、皇都南方へ向かった。
*
■エストシラント防衛基地
女性魔信技術士パイは、魔導レーダー塔の探知盤を見つめていた。
出撃したワイバーンの反応が、先ほどから急速に減っていた。
いくつかは皇都へ戻りつつあったが、多くは途中で途絶えている。
「帰還中の騎体から、敵の位置と数を聞き出してください」
パイは受話器を押さえながら言った。
「敵の反応はごく僅か、機械兵器と思われます」
魔導レーダーは、ワイバーンや魔導兵器が発する魔力を遠方から捉えられる反面、魔力を持たない物体は、ほとんど探知できなかった。
ようやく飛行場に緊急発進が命じられた頃、見張りから報告が上がった。
「南方、飛行機械!」
窓に駆け寄ると、灰色の飛行機械が海岸線を越え、地面を這うような高度で飛行場へ迫っていた。
「全騎、滑走路から退避!」
警報が鳴り響く。
滑走路に向かっていたワイバーンロードが、竜騎士に手綱を引かれ、のろのろと竜舎側に戻り始めた。
志賀機が爆撃コースに入り、高度を下げた。
投下地点に達した機体から、六番陸用爆弾六発が投下される。
機体が飛行場を通過した直後、連続した爆発が起こり、土砂が帯状に噴き上がった。
後続機も一機ずつ同じ経路へ進入し、六番陸用爆弾を投下していく。
山田飛曹は照準器の中央に指定区画を収め、投下把柄を引いた。
爆弾架から六発が順に外れ、そのたびに機体がわずかに上がった。
爆撃が終わる頃には、固く締められた路面の各所に大小の穴が開き、掘り返された土が広い範囲に散乱していた。
一つひとつの破孔は大きくなかったが、長い滑走が必要なワイバーンロードの離陸は不可能な状態となっていた。
一方、竜舎や兵舎は空襲を免れ、魔導レーダー塔も爆撃を受けなかった。
「被害を確認して。基地司令部には、滑走路が使用不能になったと報告します」
パイは席に戻ると、受話器を着け直した。