脳が溶けそう……いや、ここはあえて、上位存在として感想を皮肉げに伝えよう。
脳が瞳を得た気分だ。
上位存在がこうもたった1人の人間に魅了されるのか、素晴らしい経験だった。世界の見え方が違う……今まで希望に満ち溢れ色とりどりに見えていた世界がこうもモノクロに、瓦礫の山のように見える。普通は逆だろう?だがそれも仕方ないんだ、ここまでの輝きを放つちっぽけな存在がいるなんて思えなかったんだ。たった1人、1人の存在でそれ以外の全てが無価値なものに感じてしまう。むしろ彼女の輝きによってこの世界が色付いていくようなそんな錯覚にまで陥ってしまう。
傲慢だ、ああ……!!俺はなんて傲慢なのだろう!!
「有馬かな……!!」
俺はどうやら、
「有馬かな!!」
俺は【推し】をずっと見ていたい。これが、俺が辿り着いたたった一つの真理にして、初めてこの世界に生まれ落ちた意味を感じた瞬間だった。この世界の趣旨を考慮するならば、有馬かなこそ、俺にとっての【愛】!!
そしてこの瞬間、明確に
運命。なんて残酷な言葉だろう、なんて甘美な言葉だろう。権能だから?否。司っているから?否!!
君たち人間には理解できないだろうな。する必要もない、出来なくていい。この感情はいつだって俺だけのものだ。
『ピーマン食べたらスーパーマン♪』
そうだろう神よ。お前らがこの世界を観測するのも同じ理由だろう。面白い、興味深いで、人間を弄ぶ。
でもよ、考えてみろ。お前らが俺に課した制約……同列に並んだことでやっと俺にも知覚することができるようになったソレが何を意味すると思う?
俺が司るのは『月の光のように人と共に運命を導く権能』だ。人と共にあり、共に生き、共に過ごす中で人を導くことを許されたんだ!!お前らのように世界の外からただ見下して面白がってるだけじゃねぇ!!お前らはテレビでゲームのプレイ映像が流れててやりたくならねぇのか?なるよなぁ!!
バーカッ!!テメェらのお遊びで作り上げた存在が、テメェらが1番やりたかったことを代わりに出来るようになったんだぜ!?ザマァ見ろってんだ!!【推し】の言葉借りてやるよ!!今俺は最高にシャーデンフロイデ感じてるぜ!!
『みんなもおどればピーターパン♪』
ああ……今日も生きてて楽しいな。テレビさえあればこんな間近で【推し】が活躍しているのも観測できる。
「うへへ……良い、良いなぁ有馬かな」
キモいって?いいんだよ、俺は有馬かなと出会わない、嫌われている。だからこそこの関係が成り立つ。ある意味そういう
ああ、世界で唯一……有馬かなだけが俺の心を彩ってくれるんだ。
え、俺キモくね?ついさっきまでこんな思考回路だったの?引くんだけど、バケモンやん。イカれてるやん。え、もしかして原作ツクヨミって前世から感じてた『親心』の内側に星野兄妹に対してこんな歪んだ感情持ってたりする?
うっへぇ凹むわー、お前らも俺がこんななってる時一切近付いてこないもんなーごめんなー。
「「「「「「アァ!!」」」」」」
うんうん、わかるぞー怖いよなー。こんなのになっても有馬かなだけは私生活覗き見せずにテレビでの活躍しか見ないんだから厄介オタクなんだか常識的なオタクなんだかわからなくなるよなー。
「アァ……アー?」『現状だけ見たらご主人の方がオタクとして厄介っすもんね?』
俺はいいんだよ。俺はね。全く、食べ物恵んでもらってるくせにそんなこと言うか普通?ていうかいつも通りじゃん。
「せっかくだからめちゃくちゃやって帰るか」
かっこよすぎて意識飛びそう。え、好き。推せる。でもその瞳のアクアは見たくなかったな……
今俺がいるのは、『今日は甘口で』という漫画のドラマ化撮影現場だ。ちなみに俺も原作単行本は全巻読んだのだが、バカ泣いた。あれね、ずりぃわ。いくら俺が涙腺緩い泣き虫(有馬かな談)だからって、あれ読んで泣かねえ奴人の心ないんか?ってレベルで素晴らしい作品だったとだけ言っておく。
が、問題は今撮影しているドラマの方。単行本計14巻を6話に押し込めるというとんでもないことになっているんだけどクオリティが終わってる。詳しくは面倒だから言わないけど実写化の負の面が存分に現れている。
その中でアクアは最終回に出てくるストーカー役を演じるのだが、今とっても俺はニヤついている。これからアクアが見せてくれる怪演に期待しかない。どうしようかな、うちの子達遣わせてお手伝いでもしてあげようかな。
それと俺の中の上位存在は、今も有馬かなの出演していた映像を全て視聴し続けている。それ以外にやることがなく、興味がないからだ。いやさ、分かるよ?だって有馬かなと喋っていたのは間違いなく俺だったしさ。俺もあの言葉に救われたから今こうして元気に星野兄妹のストーカーを出来てる。でも、ちょっと上位存在君さ、脳焼かれすぎじゃない?厨二病も大概にしろよ。あとなんでよりによって今見てるのがピーマン体操なんだよ、もっと色々あるだろ。
ちなみに『今日あま』に有馬かなはヒロイン役で出ているのにも関わらず、上位存在は有馬かな出演作品の中で1番見てない。まあ理由はわかるけどさ、全力の有馬かなの演技が見れないなら別に見る理由もない。俺だってそう思う。
ああ。それと、有馬かなはそのままだ。あの時、イレギュラーな形で俺と出会ったことでバタフライエフェクトが起こらないか心配だったが、何もなかった。もしかしたら有馬かなに見つかった後に急いでかけた認識阻害が効いたのかもしれない。ともかく彼女は俺の知っている通りに仕事をなくし、自信をなくし、卑屈になり……俺が見た眩い太陽のような演技をする巨星の勢いを無くしていた。
上位存在が出張ってくるのではないかと心配だったんだけど、『どんな有馬かなであろうとそこに有馬かながいるのは間違いない。それに有馬かながこの程度で折れるわけがない。そうでなければこの俺がここまで魅了されるわけがない。てかむしろメンヘラチックなとこも可愛い。好き。推せる』と厄介すぎて変な偶像を作り上げていたので気にしないことにした。怖すぎです。こんなのも俺なので丁重に聞かなかったことにしたい。
でも、こんなこと考えても仕方ない。あのクソロリコンド変態上位存在も紛れもなく俺であることに変わりはないってのがやるせねぇ。自分のしょうもない性癖がずっと自分に対して知覚させ続けてくる地獄さえ慣れてしまえばもうどうだってことはない。
だってもう10年以上そんなノリなんだぞ!?頭おかしくなるわ!!なってるから慣れたんだわ!!いつぞやのタイミングでアクかなはありかと自問自答したところ満場一致でありと帰ってくるくらいには脳が焼かれていた。
ついでにこの期間に起きたことでも話しとくか。
まず俺を担ぎ上げていたあの一族。俺が保育所も、幼稚園も、小学校も、中学校も通わなかったことに対して児相が乗り込んで来たらしい。そこで頭のおかしい思想の奴らってことがバレて今は大変肩身の狭い思いをしているらしい。でも宗教団体というわけでもないし、先祖を大切にしている家系という扱いだ。それはそれ、これはこれとしてSNSであの一族はだいぶお焚き上げでしたね。へへっ、ざまぁ。そんであのジジイはあの時点で一族の長だったので責任をしっかり遂行……することなくストレスで死んだ。どうせ脳の血管でも切れたんだろ。
今は俺の従姉妹が纏めているらしい。あそこで追放宣言されていなければ有馬かなに出会えなかった。だから感謝している。もちろんそれに関してもこれはこれ精神で、以前かけた洗脳を解いてやった。大学を卒業して常識人らしく会社で働き、常識人らしく結婚したらしいが知ったことではない。
めでたしめでたし。くはっ、バカじゃねえのどいつもこいつも。
俺が受けた【誰からも愛されない制約】はまだ有効らしい。そのためには俺が必要な時だけ権能を振るうことで解放されるらしいが、そんなことは不可能だ。『月の光のように人と共に運命を導く』というのは俺がこの世界で活動するだけで制約に引っかかるらしい。つまりもう2度と俺は誰からも愛されないというわけだ。悲しいねぇ。
まあウチの上位存在君は満足そうに有馬かなの厄介オタクやってて気にしてないから別にいい。
割を食うのはいつだって俺。だから今日もこうして俺は星野兄妹のストーカーをしている、というわけだ。
「この先碌なことなんてない……お前の人生は真っ暗闇だっ!!」
「それでも……それでも、光はあるからっ」
あぁ……良い……良い!!
やっぱりアクアは最高だぜ!!経験豊富ってレベルでもないのにこの気迫、何より有馬かなの演技を引き出して見せた。さすがは俺の親友!!かっこいいなぁ、もっとお前の演技を見てたいなぁ。早く東京ブレイド編にならないかなぁ。
素晴らしい。ああ、有馬かな……有馬かな……!!美しい演技だ。たった一瞬だとしても子役時代のあの瞳がまた見られて最高の気分だよ!!そして何より!!ラストシーン!!主人公に恋に落ちるヒロインの表情!!現場が見える位置にいた俺にはわかる!!有馬かなの視線の先にいたのは、星野アクアッ!!素晴らしい、素晴らしいよ星野アクア!!やはり有馬かなの魅力を引き出すのにお前は欠かせないだろうよ!!
「我慢できない……やっぱ後で会いに行こう」
「アァ!?」
会えるタイミングがあるとすれば、クランクアップ後のパーティーが終わった後。有馬かなとは会わないようにしてるのでアクアが1人になったところを狙っていこう。
やっと会えるな親友。願わくば、俺の事を思い出しませんように。
◆
「こんばんは、星野アクア」
「……子供?こんな時間に出歩いちゃダメだろ。親はどうした」
と、言うわけで5歳児モードで帰宅中のアクアに声をかけてみたぜっ。ちなみに話すこととか何にも考えてないけど少しツクヨミ風に匂わせていこうかな。
「まあ俺のことはいいじゃん。それよりどうだった、撮影は」
「ッ……お前、誰のファンだ?」
アクアの瞳で黒い星が輝き始めた。きっと自分が殺された時のこと、星野アイが殺された時のことを思い出しているんだろう。ああ、ごめんよ親友。そんなつもりはなかったんだ…………やっぱり俺が下手なことするとダメだな。制約が効きすぎる。
でも今日は本当に顔を見せに来ただけ。もしかしたら昔星野アイの墓で出会ったことを覚えているかと思ったけどこの調子じゃ無理そうかな。
「君だよ」
「俺、だと?……いや待て、お前どこかで」
「ちゃんと目的の
「ッ!?お前……なんなんだよ。何を知ってる!!」
やっぱちょっと辛みの方が感情に来るなぁ……
「何を……か。そうだなぁ……君の知りたいこと全部、とか?」
「な……にを……」
「でも教えない。俺は君に知ってほしくない。これは、これだけは【嘘】じゃない」
「さっきから要領を得ない事ばっかり言いやがって。ふざけるのも大概に……っ!?」
アクアが俺に近づいてこようとしたので、待機させていたウチのカラス達を羽ばたかせる。良い演出だぜ全く。俺もしかして演出家もあり?
「じゃあ一つだけ核心をつく事を教えてあげる。俺は死者の記憶を赤子の体に移すような術を持つ者と同様の存在だぜ?」
「なっ……それは、俺達を転生させたのはお前ではない、ってことか」
「……少なくとも俺じゃない。なぁ、星野アクア……今からでも遅くない。復讐なんて辞めにしないか?」
「は?バカかお前」
「っ……」
思わずぞくっと来た。アクアをよく見ると瞳の暗い星が先ほどよりもより一層輝き始めた。
「今からお前は『疫病神』って呼んでやる。いいか疫病神、お前はどうやら俺に対して大層ご執心らしいな?いつから俺のこと知ってるのか知らないが、俺の事をよく知ってるならわかってるはずだろ?」
「ああ……知っているとも。君の前世の頃からだ」
「だったら!!俺がなんでこの道を選んできたか知ってんだろうが!?その上で、やめろって言うのはなんでだよ!!」
「君が苦しそうだからだよ。俺は星野アクアに苦しんでほしくない。出来るだけ幸せに生きてほしいとすら思ってる」
「ガキがヒーロー気取りかよ。だったら知ってること全部話せよ。信用も何もないんだ、俺を心配するなら全てをよこせ」
「嫌だね。君は幸せになるべきだ。そのためなら、俺が代わりに全部終わらせてあげる」
「あ?」
アクアの覚悟は本物だ。だがそれでも俺にだって意地がある。ヨミとして、前世の恩は忘れない。一生かけて返すと決めた。そして今世じゃ罪を背負った……アイを見殺しにした。【誰からも愛されない制約】?知るか、有馬かなの言う通り最初から嫌われてれば何しようが関係ないんだよ。
「俺が君の代わりに、全ての復讐を終わらせてくる。だから君はこれ以上そんな生き方を「そんな生き方、だと?」……ッ」
「復讐のために生きるのが間違っているとでも?」
「ッッ、ああ、はっきり言おう。間違っている」
「【嘘】つくんじゃねえよ。間違っているなんてかけらも思ってないだろ」
バレた。やっぱ下手な嘘はつくものじゃない。でも違うんだよアクア、俺は本当に嘘をついているわけじゃない。でも、『復讐を成し遂げる』アクアを俺は知識として知ってしまっているから、そのまま進んでいったとしても成功する未来は確かにあるから。俺が介入することでもしかしたら成功しなくなるかもしれないという不安があったから。
お前は【嘘】だと思ったんだろうなぁ。
「これは俺の復讐だ。俺を殺し、アイを殺した男を俺の手で殺さないといけないんだ」
「……本気か。最後にもう一度だけ言うぜ?俺が君の復讐を代わりに終わらせてくる。だからこれから君は自分の幸せのために生きてほしい。普通に生きて、やりたい事をやって、恋をして、幸せに一生を終えるんだ」
「断る」
「…………そう、か。分かった。じゃあもう同じことは言わない。また会いにくるよ」
「2度とくるんじゃねぇよ疫病神」
「ッ……つれないこと言わないでよ親友。またな」
「は……?おい待て……チッ、またカラスかよ」
バサバサッと、カラス達がアクアの視界を遮ってくれた一瞬でアクアの元から瞬間移動する。ああ、やっちまったなぁ。また好きな人が離れていく。しかも親友が。
まあいいや、次のプランでも考えよう。大体どうするかは決まってるけどさ。
アクア本人に何言ってももう意味はない。決意は硬いみたいだしこのままアクアには原作通りに進んでもらうしかない。次のターゲットは『黒川あかね』。原作の彼女の思考回路は俺に近い。復讐なんてさせない。そのためには復讐を考えられなくなるくらい大切な人を作って貰えばいい。
今この思考をしている中、有馬かなの厄介ファンが頭の中でアクかなを執拗に連呼している気がするが、別にどっちでもいい。アクアが、ルビーが出来るだけ苦しまないように生きていけるのなら、俺は他の全てを犠牲にしよう。ルビーの方はしばらく大丈夫そうなのでいいだろう。
あーあ、超涙出てきた。やっぱり嫌だなぁ、親友だと思ってる奴に嫌われるって。疫病神だってよ、やっぱ上位存在とか言っても自分の嫌なことには敏感だし絶対はないんだってことがよくわかる会話でしたっと。
【誰からも愛されない制約】を受けた俺が、人と共に運命を導く権能なんて上手く使えるわけがなかったんだ。
「どうせ、ルビーにも嫌われるんだ。既定路線すぎて余計に泣けてくるぜ」
俺も『今日あま』見て有馬かなに脳を焼かれてくるとするか。いや、まだ最終回出てなかったわ。ちくしょう。この時めっちゃギャン泣きした。
Sideアクア
「なんなんだよ、本当にあのガキ」
見た目は5歳程度の少女。無数のカラスを従える一人称が『俺』の歪な奴。しかもオカルトの塊みたいに突然現れて突然消えた。俺やルビーを転生させたやつと同じ領域にいるとか言ってきやがった。
「親友って、なんのことだよ。俺にそこまでの友達はいなかったはずだろうが」
年不相応な服装に、年不相応な口調、まるで初出演の時の俺のような雰囲気を醸し出していた。挙げ句の果てに、前世から俺のことを知っていて、俺の知りたい事を全部知っているとまで言ってきた。
「アイを殺したやつを知ってて隠す意図はなんだ?俺に対してどうしてそこまで執着する?」
確かどこかで見たことがある気がしていた、どこだっただろうか。大量のカラスに黒いドレス……他に目立つのは……
「会ったことある。あれは確か、アイの葬式の後……墓から帰る時に……!!全く見た目が変わってない。確かルビーが話しかけていたはずだっ、可愛いリボンをつけていると、確かあの疫病神は、お気に入りだと言っていたはず……ははっ、神様とか、そういうのと同じってのは本当かよ」
そこが1番嘘であってほしかったと思う。転生なんてものがあるんだから、そういうオカルトは全部嘘ってわけじゃあないんだろうがそれにしたって突拍子がない。10程度経っていて全く見た目が変わらないなんてこと、あるわけがない。そういう病気がないわけではないがそれにしたって一切の変化がないのもおかしい。
「………」
ポケットの、鏑木雅也のタバコの吸い殻が入った袋に触れて考える。これについて疫病神は大事にしろって言っていた。ということはこれが奴を探す手掛かりになるということか?だが疫病神の言いたいことがいまいち理解できない、
「今更、辞めれるかよッ」
どうせまた会いにくるんだ。その時とっ捕まえて全部吐かせてやる。