カラスの恩返し   作:ゼノアplus+

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「本日よりB小町マネージャーを務めさせていただきます。『烏間こよみ』です。よろしくお願いします」

「いやちょっと待て!!」

「何怒鳴ってんのお兄ちゃん。知り合いでしょ?」

「そうそう、見つけるの苦労したんだから。アクアが連絡先聞いてればもっと早かったのに」

「貴方たち、スカウトとしてもやっていけるんじゃないの?アクアと有馬さんの話ね」

「なんでコイツがっ……」

「まあ色々あって……」


熱烈なスカウト

 時は巻き戻り、具体的に説明すると『今ガチ』が始まって少しした頃。『今ガチ』メンバーが打ち上げとして焼肉に行った日くらいの出来事だった。

 

 アクアは『今ガチ』の収録、ルビーは事務所でぐーたらしているという最近では定番の状況でストーカーにも面白みがなかったので珍しく街に繰り出していた。18歳くらいに肉体操作をしてウィンドウショッピングと洒落込んでいた。

 

 え、お金?実質実家と絶縁状態で家無しの俺がどうやって生きてるのかって?はっはっは……今更過ぎん?そういや言ってなかったっけ?寝床は高千穂の神社だよ。本当に寝るために帰るだけだから従姉妹には見つからないし、万が一見つかっても認識阻害かけてあるから違和感を抱かない。

 

 そしてお金だけど、普通にバイトしてるぜ?俺ちゃんと戸籍あるし、保護者とかそういうのだけちょっと細工してる。流石にお金まで神様パワー使うのは違うじゃん?

 俺がバイトしてる店は、舞台『東京ブレイド』の打ち上げで星野アクアと姫川大輝が2軒目に寄ったバー。キャバクラとガールズバーの中間のような店で、モデルとかアイドルとかの顔が良くても食えない人が事務所に内緒で働く場所という認識だ。会員制なので客層も良いし、望まない限りは手荒なこともない。バイト中の俺は20歳モードで客観的に見て結構な美人なので割とすんなり採用された。ちなみに芸能事務所に所属してないしそもそも芸能人ではないことを言うとちょっと渋られたけど、他の従業員の希望シフトを食うようなことをしないと名言したので入れてもらえた。

 いやー、めっちゃ美人の人多くてさ。スタッフ側の俺ですら眼福だよね。女同士のコミュニティになるから俺は制約があまり強く働かないように大人しくしてる。どうせ衣食住の金がかからないからさ、こういう時に遊びに行くお金があればちょうどいい。バイトを始めたのは結構前からなのでそこそこ貯蓄もある。うーん素晴らしい、酔っ払いの相手だけは少し面倒だけどそもそもバイトの頻度が高くないので辛くもない。最高かよ。

 

 

「うわ、『よくわかるインターネットウミウシ』と『よくわかるエリマキトカゲ』だ。マジで気になるやつじゃん」

 

 

 アクアや有馬かなは一体どういう気持ちでこれ読んでたんだろうか。欲しいけど本を置くスペースがないので見るだけだ。こういう時は基本、映画とかカラオケとかネカフェとか荷物が発生しない遊び方しかできないんだよなぁ。

 

 

「あっ、あったあった。アクアが持ってたのって確かこれよね……」

 

 

 おや?気のせいかな、今なぜか急に最推しの声が聞こえた気がしたんだが……うん、きっと気のせいに違いないなんか知り合いの名前を呼んでた気もするけどそれも気のせいなんだ。だから俺は一刻もこの場を離れなくてはいけない。

 

 

「きゃっ」

 

「ああ、すいません。お怪我は?」

 

「いえ、大丈夫です……わぁ、すっごい美人」

 

 

 早足で歩き始めたところで見知らぬ一般人とぶつかってしまった。ちょっと焦りながら謝罪をしてその場を去ろうとしたんだけど……人とぶつかった時に手元が狂ったならぬ、権能の行使をミスった。

 

 

「あっ……あ!?」

 

 

 アクアに見つかった時から認識阻害をもっと丁寧にかけていたのに今回もまた同じミスをやらかした。周りの人間に俺のことがしっかり認識できるようになり、赤髪の少女が俺に気づいて素っ頓狂な声をあげている。かわいい。好き。推せる……いやもう推してる。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!!私よ、かなよ、有馬かな!!」

 

「……………えっと、取り敢えずここから出ない?」

 

 

 でも流石、有馬かな。芸能人としての意識が高いくせにこういう感情的な場面で素が出る。そこが良い!!でもさ?君一応顔も名前も知れてるんだっ。こんなところで自分の名前大声で叫んでたら注目されるし、ここ本屋だよ?

 そして辺りを見回して気まずそうな顔をした後気付いたように赤面したその表情もとても良い。今この瞬間だけは俺の中の上位存在君と俺が完璧にリンクしている。

 

 もうここから逃げることもできないので大人しく個室で話せるようにカラオケに入った。1時間にしようとしたら有馬かなに3時間にされてしまった。そんなに話すことないよ?そもそも俺と君は距離が開いてるからこの関係性が成り立ってるんだぞ?って思ったけど、そう言えば俺が一方的に言っているだけだったので有馬かなに一切の非はない。ただ昔の知り合いがたまたまいたから話しかけたにすぎない。

 

 いやぁ……あの、めっちゃ緊張するんですけど。一応さ、最推しなんだよね?最推しとタイマンでカラオケとか天国のようなんだけどそれはそれとして超緊張してる。

 

 

「アクアから聞いたわよ。久しぶりじゃない、卑屈な泣き虫さん?」

 

「久しぶり、です」

 

「なんで敬語なのよ。てか名前は?呼びにくいから先に聞いときたいわ」

 

「…………はぁ、『烏間こよみ』」

 

 

 名前を教えずに逃れられると思ってたけど、無理そうなので仕方なく俺の戸籍上の本名を言う。偶然なのか、それとも他の神から与えられた運命なのか、ツク()()擬き、前世は()()、今世はこ()()とあからさまに文字が被っている。分かりやすくていいけどな。

 

 

「こよみ、ね。今日はカラス連れてないし泣いてもないのねー」

 

「初っ端から刺すじゃん」

 

 

うぼぁ、推しと喋ってるぅ……吐きそー、最近飲み食いしてないから吐くものないけど吐きそー。

 

 

「冗談よ。でも、やっと見つけた」

 

「っ」

 

「ずっと、会いたかった。でも名前も住所も連絡先もわからないし諦めるしかなかったの。こんなところで会えるなんてね、東京にでも住んでるの?」

 

「えっとぉ……」

 

 

 やっべぇ……バ先であんまり会話しないからこういう時なんて返せばいいのかわからねぇ……!!あれ、もしかして俺って結構コミュ症!?アクアと喋る時はツクヨミモードだからそれなりに喋れるけど、一度素の自分を曝け出してる相手だと下手なこと言っても仕方ないし何言えばいいのかもわからん!!

 

 

「……まあ秘密主義もいいけど、アンタには言いたいことがあったのよ」

 

 

 ストローでジュースを飲む姿も可愛い。推しが何やってても映えるし見てて楽しい。ああ、これが生きるということか……

 

 

「ありがとね、今の有馬かなを見てくれて。アンタあの頃から美人顔だったしどうせ芸能界で会うと思ってたから言う機会が無かったのよ。本当に……こんなところで会えるなんてね」

 

「まあ宮崎帰ってたし」

 

「宮崎からこっち来てたの!?遠いわねー、そりゃ会えないわけだわ。アンタはテレビで私の事見てたってアクアから聞いたけど、私はアンタのこと全然知らないから聞きたいこと全部聞くまで帰さないわよー」

 

「ははっ……お手柔らかに……な?」

 

 

 それから、根掘り葉掘り、深掘れワンチャン⭐︎かっていうくらいには色んなことを聞かれた。個人情報に関しては話せる範囲で話し尽くしたけど、家族の事については一切聞かれなかった。昔の会話から従姉妹の事くらいは聞かれるものだと思ってたんだけど、これが今の『有馬かな』だと気付いてしまえば推しの成長に思わずにやけ顔になりそうなくらいには心が穏やかだった。

 

 

「へぇ……じゃあここら辺でバイトしてるんだ。なんのバイト?」

 

「バーの店員、酒作ったりはまだ出来ないけどな」

 

「アンタがバーテンダーみたいな格好したら目の保養超えて毒になりそうね」

 

「褒めてる?貶してる?バイトは基本私服だよ。ちょっと気を使うけどさっ、未成年で色々制限あるし」

 

 

 バイト中の体は20歳モードなので全然酒も飲めるのだが、別に必要ないから飲んだことはない。というより実年齢は星野兄妹と同じ16歳なので普通に未成年。

 

 

「ふぅーん。じゃあ、はいこれ」

 

「……なに?」

 

「連絡先よ。芸能人とファンって関係だけど、ここまで話したらもう友達よね?友達って言いなさい」

 

「え、あ、はい……てかいいのか?俺が友達で?」

 

「はぁ?卑屈なところは治ってないのね。いやまあそれは私もなんだけど……私はこれでも歴は長いのよ。そういうリスクマネジメントはちゃんと出来てる自覚はあるわ」

 

 

 精神的に参った結果、スキャンダル編とかいう地獄が巻き起こってたんですけどね……とか言えない。俺がファンでいる限りそんなこと起こさせるつもりもないからだ。未来の話だけど、俺ができる最大の恩返しはそこだろう。俺の脆い精神を救ってくれた恩は全力で返していく所存。アクアに話してこっそり、とか思ってたけどこうなった以上もう直接助けたって変わらないだろうよ。その方が早くて楽だし。

 

 有馬かなの連絡先が俺の携帯に追加された。おおぅ……推しの連絡先……死ぬが?昇天するが?待ってろ俺のマイヘブン……いやまだ死ねぬ。

 

 

「で、本題なんだけど〜」

 

「……本題?」

 

 

俺と会って別に本題があったの?え、なに怖いんだけど。もしかしてアクアとの関係性を深掘りされるとか?うわあありそう。全然そんな関係値無いどころか多分鬱陶しがられてるし嫌われてるから一切合切問題ないんだけど……

 

 

「アイドル、興味ない?」

 

「…………ん???」

 

「だーかーらー、アイドルやらない?」

 

「んん!?!?」

 

 

 アイドル?俺が……?ははは、何を言ってるんだ元天才子役。この俺がアイドルだって?一応これでも人間よりは全然くらいの高い神様的上位存在なわけで……人間に媚びとか売るわけなくね!?(バーでバイト中)

 

 え、でもほんとに何言ってんの。アイドルってことはB小町ですか。俺がですか?え、原作改変どころの話じゃないんですけど。ワンチャンMEMちょ未加入になるのは避けたいんだけどっていうか、学歴終わってる怪しい奴を斉藤ミヤコが所属させるとは思えないしルビーとの付き合い方にアクアがえぐい顔しそうだしってか制約のせいで苺プロが俺というサークルクラッシャーで終わるくね???あれでもバイト続いてるし上手くやればワンチャン?いや、でも流石にないか。

 

 

「やらないかな、表に出たくないんだ。目立ちたくない、注目を浴びたくない……多くの人の目に触れて、少しでも嫌な事が目に入ったら……耐えられない」

 

「…………そっ、悪かったわ。昔のあの会話、忘れたわけじゃないの。芸能界なんて良いことの方が少ないし、アンタのメンタルの弱さは分かってるつもりだし今も変わってないならそりゃそうよね。忘れてちょうだい」

 

 

 今のは俺の本音か?そんなことを思ってたのか?気づかなかった、なぜ気づけたんだ。どうして有馬かなには話せたんだ。

 

 

「大丈夫……むしろ今、初めて俺の本音に気づいた。また、君に救われた……」

 

「大袈裟ねぇ。まあ、なんかスッキリしたような顔してるし?アンタ、どうせ溜め込むタイプでしょ?いるのよねー、気づかないうちに溜まりに溜まったストレスが爆発して変な事に走っちゃう奴」

 

 

それスキャンダル編の貴方ですぅ!?さっきから全部未来の有馬かなに刺さってるんですけどぉ!!

 

 

「まあ、吐き出す先がないからな。そういう意味では今日俺のこと見つけてくれて嬉しいよ」

 

「っ……アンタ、自分の破壊力を自覚した方がいいわよ。誰にでもそんな……って、ないのよね」

 

「分かってるから目立ちたくないんだよ。ノーメイクでこれだぜ?」

 

「嘘でしょ!?嘘だと言ってよ!!全国の女性の憧れでしょそれぇ!!」

 

 

 ぶっちゃけツクヨミの身体の造形はすごいなんていうものを超えている。完璧という言葉が似合いすぎてしまうほどの黄金比だ。だからクソ目立つのを嫌って、認識阻害だったり、5歳児モードだったりで対策しているというわけだ。実年齢である16歳モードはぶっちゃけ不知火フリル以上、言うなれば傾国の美女ともいうべき見た目だ。

 

 ひとしきりテンションの高い会話をしたところで、急に有馬かなの瞳が曇った。何を考えているのかは知らないけど、何を感じてるのかはなんとなくわかる。

 

 

「気にしなくていい」

 

「え、なにがよ」

 

「あの日……ファンになれって言ったこと、後悔してんだろ」

 

「ッ!?」

 

 

 どうやら図星らしい。でも、今日こうして話してみてよく分かった。

 

 

「ずっと見てきたから知ってるさ。少しずつ減っていく仕事やファンに焦ったんだよな。自覚できるくらいしっかりしたファンが欲しい、『誰か私を見て』って訴えてたんだよな。そこで俺と出会った。まっ、いいんじゃねーの。あの時の言葉、打算もあっただろうけど……女優がどうのとか言ってたけど、()()()有馬かなとして接してくれたじゃん?だから俺も……本音が話せたんだ」

 

 

 危ねぇ、次は俺が言葉を濁すところだった。()()()俺ってなんなんだ。前前世の俺か、前世のヨミか、今世のこよみか、それとも上位存在か。俺はまだ俺の定義がしっかりしてない。下手なことは言うもんじゃない。

 

 

「分かったようなこと言うじゃない?……まあ、大体当たってるわよ。でも、アンタは実際ずっと見てくれてた。アクアからアンタの話を聞いた時、結構嬉しかったのよ。その分、罪悪感も募ってた。気付いたのは最近だけどね」

 

「自分本位に行動すると出来る影、それは自分の責任って思うと……苦しいよな」

 

「あら、分かってるじゃない。元々気が合うのね私たち、そういうことよ。てかアンタまだ厨二病残ってるわね?早く卒業したら?端的に言ってキモいわよ?」

 

「端的すぎる……!!これくらいで厨二病とか言われたくないんだけど!?ギャン泣きしたるぞおい」

 

「だったら私も10秒でギャン泣きしてあげるわよ。気が合いそうね、色んな意味で」

 

「この女レスバつよいぃ……!!」

 

 

 楽しい。ああ、会話が楽しいのは……うん、あの日の有馬かなと話した以来だ。アクアの気持ちがわかる。ずけずけと踏み込んでくるから本音を引きづり出されるけど、培ってきた『受け』の技術が会話や普段の態度に無意識に活かされるから聞き上手で話し上手。才能と努力を煮詰めた圧倒的な技術。やはり有馬かなは、良い……!!

 

 

「ねぇ、やっぱりウチ来ない?アンタの見た目ならウチの生意気な小娘にも負けてないし。ダンスとか歌とか私が見てあげるわよ。ご存知の通りまだ自称アイドルで暇なもので……!!」

 

「悲しい現実だなぁ……うーん、まあいいか。ちょっと一曲歌うから感想を聞かせてくれよ」

 

「あら、自信満々じゃない。いいわよ、鼻っ柱折ってあげるわ。私もそんなに上手い方じゃないけどね」

 

 

 大体10分後、3曲くらい俺が歌い終わって息を整えてから有馬かなに感想を求めるために視線を向けると、なんとも言えない顔をしていた。

 

 

「どうだった?」

 

「なんと言うか上手いのよ?点数も90点超えてるしすんごい上手なんだけど……虚無ね」

 

「はっ、やっぱりそうだろ?」

 

「歌や言葉って、人によって必ず何か伝わってくるものがあるのよ。喜怒哀楽の感情とかメッセージ性とか。その内容によってはより強く……でもアンタのそれには一切何も感じなかった。意識してるわけじゃないのよね?」

 

「ああ、どうしてもこうなるんだ」

 

 

 俺は感情が豊かな方だと自負してる。ご存知の通りめっちゃ泣くし過剰とも言えるリアクションを取ることもある。でも歌とか、ダンスとか、そういうのをするとどうしてもただの文字の羅列として発音される。こぶしも乗るしビブラートも出る。歌としてはこれ以上ないくらい上手に出るけれど、なぜか聞き手の印象に何も感じられない。それは俺が『芸能』を司ってないからなのか、母親の腹の中にそういうのを忘れてきたのか。

 

 

「ここまで()()()()()()()歌唱も聞いたことがないわねぇ」

 

「そっ、1人ならそういうの気にならないし楽しめるんだけどな〜。つまるところ向いてないし、不可能なんだよな。そしてなによりやる気もない」

 

「役満じゃないの。そこまでなら仕方ないわねー」

 

 

 ここでカラオケの受話器がなった。え、嘘だろ。もう3時間経つのか?時計見てなかったとは言えこんなに会話が続くと思ってなかった。てか、なんか今日普通に話せたし制約が機能してなかったな。どうしてだ?

 

 

「あら、もうそんな時間?意外に熱中しちゃったわね」

 

「久しぶりに楽しかったよ。お礼と言っちゃ安いけど今日は俺が払う」

 

「俺口調だからデートでときめくセリフに聞こえるけどいいわよ。呼び止めたの私だし、バイトしてるくらいなんでしょ?これでも私、お金だけはあるから」

 

 

 卑屈にも程があるだろ。目が死んでるぞ有馬かな。子役時代の財産が今もこうして余裕たっぷりに生活できるくらいあるってすごい話だよな。親は全部有馬かなが使えるようにしたんだろうか。あーいや、なんだっけ。資産運用してたんだっけ、こういうところ普通に頭良くて要領いいよな。

 

 

「じゃあ遠慮なく。ごちです」

 

「また連絡するから。次は私の愚痴に付き合いなさいよね」

 

「ははっ、ファンとしては光栄の極みだ」

 

「またね、こよみ」

 

「っ……またな」

 

 

やばい、やばいやばいやばい……!!推しに名前を呼んでもらえることがこんなに嬉しいと思ってなかった。あっ、少し涙腺が……うわぁ、今日だけで俺もう死ぬんじゃね?ってくらい幸福で包まれているなぁ。あっ、これあれだ。アクアをどうにかするために『黒川あかね』を使おうかと思ってたけどダメだ。有馬かな最推し同盟組んでもっと担ぎ上げるべきだわ。待ってろ未来の親友、黒川あかね。存分に語り合おうなっ、同担拒否じゃないことを祈る。

 

 

 

 

 

 

そして数日後。なぜか俺は苺プロの事務所にいたのだった。

 

 

「『烏間こよみ』さん、宮崎出身の16歳。学歴は……幼稚園中退、理由は聞かせてもらえる?」

 

「生まれた時から実の両親にネグレクトされてました。親族が宗教一家で、神子とか担ぎ上げられて学校に行かずに育ってきたのが理由です」

 

「…………そう、ごめんなさいね。辛いこと聞いて、でも必要なことなのよ」

 

「もちろんです」

 

「アンタ……そんな事になってたの?」

 

「言う必要もないしな」

 

 

 デスクで俺の履歴書を読んでいる斎藤ミヤコ社長と、すぐそこのソファに座って俺たちの会話を聞いている有馬かな。俺は立っている。ああ、有馬かな。そんな表情をしないでくれ。ここまでボロボロだったクソガキを救ってくれたのが他ならない君なんだからさ。

 

 

「有馬さんがスカウトしてきたのは分かっているけれど、一応志望理由を聞かせてちょうだい」

 

 

 そう、俺は有馬かなにスカウトされてこの場にいる。話に出てたアイドルではなく、そのマネージャーとして。昨日の夜に有馬かなから連絡があったんだけどさ、『社長にマネに適任がいるって伝えたから事務所来てよ、住所送るから』って押し切られました。推しの誘い断るわけねぇじゃん?まあ、そうじゃなくても、今のバイト先はシフトが少ないからもう少し稼ぎたいとは思ってた。それでも制約の関係で働く場所は選べないから慎重にならざるを得ない状態での連絡だったからちょうど良かったんだよな。

 

 

「1番の理由は、有馬かなさんへの恩返しです。幼少の頃、偶然出会った有馬かなさんに精神的に救われました。恩返しが出来ていなかった所、先日たまたま出逢いまして……そこで再度恩返ししたいと認識しました。あと今のバイト先が低収入なのでもう少し稼ぎたいです」

 

「素直でよろしい。なるほど……率直な感想だけ伝えるわね」

 

「はい」

 

「よくここまでまともに育ったわね!?」

 

「私もそれ思ってたわよ……よくもまぁそんな家庭環境で真人間に育ったわね……性格とかはともかく、知識とか、礼儀とか、常識とか」

 

 

 まあ普通そうだよな。俺が前世の記憶がある転生者だということはもちろん伝えていないので、この2人の目線からは精神的虐待を受け続けたやばい子供が,普通にバイトして働けるくらいまともに成長しているように見えるのだ。文字にするととんでもねぇな確かに。

 

 

「親族は全員頭おかしいんですけどね。常識はYoutubeで学びました」

 

「「Youtubeすごいわね!!」」

 

 わぁ、息ぴったり。どこかで聞いたフレーズだったから言ってみたけど効果覿面だった。それでいいのか社長と天才子役。

 

「はぁ……有馬さんがわざわざ推薦してくるからどんな子かと思ったけれど、またすごい方向性の子を拾ってきたわね?所属してる子が慕われてるのは好ましいけれど」

 

「あははー……はい、ほんとすんませんした」

 

 

 咎めるような、呆れているようなミヤコ社長の視線が有馬かなを射止めている。この反応が普通。本当ならもっと色々俺が言われるはずだから全然マシな方だ。

 

 

「志望理由は後付けにしてはしっかりしてる、受け答えも満点……でも学歴社会の現代じゃ厳しいのが難点。その点芸能関係者ならそこまで学歴を重視されるわけでもなく、どちらかと言えば人柄を重視される傾向にあるわ。そのあたり、有馬さんから見たらどう?知り合いの贔屓目なしにね」

 

「メンタルが弱いこと以外問題ないと思います。メンタルも、その場でカッとなるとかじゃなくて、溜め込んで後から爆発するっぽいですしちゃんとケアすれば普通に使えるんじゃないですか?」

 

「ええ、私も同じ意見よ。経験不足はアイドルの子達も同じだけれどマネージャーはそれ以上に責任が伴うわ。将来的にマネージャー業を主にやってもらうけど、まずは事務から。そこが最大の妥協点ね。本当はモデルとしてやってくのが1番売れるんだろうけど、本人が望んでないことをやらせるのはただのパワハラよ」

 

「あの……質問いいですか」

 

「どうぞ?」

 

「おれ……私は部外者です。星野アクアとは交流があるのである程度は知っていますが、自分でもわかるくらい不審な経歴と信用の無さ、リスクの方が大きいと思います」

 

 

なぜミヤコ社長から高評価を受けているのかがわからない。もしそれが経歴と現状のギャップで勘違いしているだけならちゃんと正せばいいだけなんだけどさ、ミヤコ社長って元々マネージャー業務がメインなんだぜ?元社長が逃げたから代わりにやってるだけで本業じゃない。だからマネージャー業がどれほどのものなのか1番分かっているはず、なのに割と肯定してくれるのもおかしい。なぜなら今は神様パワーを一切使っていないからだ。全くの他人に、素の自分を曝け出そうとしている。さっきから震えが止まらない。怖い。

 

 

「なるほど。今の発言を踏まえて言わせてもらえばね、それが分かっているだけで十分なのよ。あり大抵に言えば身の程を弁えている、ということ。企業に関わるということはその守秘義務に触れるということでもあるの。この経歴でここまで理解できているのならあなた自身がリスクマネジメントが出来ているしこういう()()()()経歴の人間はそこら辺に慎重になるの」

 

「過分な評価、痛み入ります」

 

 

 べ、ベタ褒めだ〜……!!やっぱり制約が効いてない?なんで!?まさか有馬かな?一緒にいるから?え、なんでだろう、()()()()()()()が今の所少なすぎて疑心暗鬼になりすぎかなぁ。ああ、こわい。今日はこれが終わってからちゃんと自分のこと整理しないと。

 

 

「だいたいこんな感じだけどどうかしらルビー?」

 

「え」

 

 

思わず振り返ると、目と鼻の先に星野ルビーがいた。心臓跳ねたわ、びっくりしたぁ。距離感バグってるなぁこの子、相変わらず。ていうかルビーとはこんなところで会う予定じゃなかったんだけど……まあ話すくらいならいいか。

 

 

「わぁ!!すっごい美人だ、きれ〜!!あっ、星野ルビーです!!自称アイドルですっ!!」

 

「烏間こよみです。よろしくお願いします」

 

「うん、超いい!!こんな美人がマネージャーとかテンション上がる〜!!でも、あなたアイドルやらない?すっごい人気出ると思うよ!?」

 

「その件はもう断られてるわよルビー。だから改めて私がマネージャーとしてスカウトしたの」

 

「へぇ〜!!先輩、友達いたんだ!!」

 

「よっしゃ表でろや。徹底的に先輩への口の利き方ってやつわからせてやるわ」

 

 

 面白いなぁこの子達。ルビーの方はストーカーしてる時に結構思ってたけどさ、寿みなみとか不知火フリルと喋ってる時とかやっぱりリアクションが大きいとその分周りの反応も良くなるから見ていて楽しい。

 

 

「烏間さん、本人達は割と好印象みたいだしあとはあなたの気持ち次第よ」

 

 

 まあ、悪い話ではない。もし制約が作用した時が地獄だけど、そこはミヤコ社長に土下座して俺が辞めればいい。そして何より、星野ルビーと有馬かなを傍から眺めていられるというのが何よりいい!!今までは同じ画角にいるだけで扉一枚隔てたところからだったけど今は間近で見れる!!え、ただのファンがそんな距離感でいいのかって?知るか!!俺はマネージャーだぞ!?(迫真)

 

 

「いやちょっと待て!?」

 

 

 そして話は冒頭に戻る。タイミングよく事務所に帰ってきたアクアが一連の話を聞いて困惑している。そして何より16歳モードな俺を見てめちゃめちゃ微妙な顔をしているが、そりゃそうだよな。今まで5歳モードしか見たことないもんな?うん、まじでごめんて。ちゃんと後で説明しますやんか。だからその人でも殺せそうな眼をやめていただけませんかね。




「で、どういうことだ?」

「あの……かくかくしかじかで……」

「バカだろ」

「今回に関しては何の言い逃れもできません……」

「はぁ……偉そうなガキだと思ってんだが、実年齢タメじゃねえかよ」


苺プロの人と顔合わせを終えて解散したその夜。いつもの公園に呼び出されていた俺はアクアと話をしていた。


「何だっけ、『君の知りたいこと全部知ってる』だとか『君たちには幸せになってほしいんだ』だっけ」

「ぐぅ……!!神秘性の塊みたいなイメージがぁ……!!」

「自分への評価それかよ。厨二病もいい加減にしとけよ」

「どいつもこいつも俺のこと厨二病呼ばわりしやがってぇ」


なんかアクアからの目線が可哀想なものを見るものになった気がする。きっと気のせいだ。


「こう何度も出てくると神秘性もクソもないだろうが」

「仰るとおりで……だから当分大人しくするはずだったんだよ。ショッピング中だったからね」

「自業自得じゃねえか。だけど、信用してるぞ烏間」

「えぇ……こわ。急に態度変えるじゃん。疫病神らしく不幸をもたらすとか考えなかったのかい?」

「兼有馬かなのガチファン兼俺とルビーの幸せを願ってるやつが下手なことするとでも?卑屈なやつだな。それともアレか、できるか分からなくて不安です助けてください……って言えよ」

「はあー?できるし、舐めんな!!」


 やったろうじゃねえかおいアクア君よぉ……上位存在を舐めてもらっちゃあ困るぜ?ぶっ飛ばすぞ?
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