アイがいた。星野アイを知る者は全員がそう思うであろうその姿……黒川あかね大復活から時はすぎ、もうそろそろ『今ガチ』も最終回を迎えようとしていた。
「それでね〜!!」
「ウン、ソウダナー」
ルビーは事務所を留守にしている、寿みなみと遊ぶらしい。社長もなんかの用事でいないということで俺は事務所の留守番ついでに有馬かなと雑談をしていた。
「アクアったら乙女とのデートにキャッチボールとか意外と少年誌っぽいこと?好きなのよね〜」
「ウン、ソウダナー」
この話題、すでに5週目である。最推しとの会話でこれくらい返事が雑になるのも仕方ないと思います。推しが好きな人の話をキラキラした目で頬を赤くさせながらしてるのとか超眼福なのよ。でもさ、限度ってあるじゃん?素面でこれだぜ、酒とか飲ませちゃいけないタイプだと思うんだ。『東京ブレイド』の飲み会でクソ場酔いしてた原作が目に浮かぶよ全く……雰囲気で酔えるのは羨ましい限りだけど、タガが外れるとヤバそうってのは俺も同じなんだろうな。めっちゃ泣き上戸な自信あるわ。
「そういえば、『今ガチ』どうなるのかしらね」
「おや、もう見ないんじゃなかったっけ?」
「……分かってるくせに、意地が悪いわね。もうそろ慣れたけどー」
「ごめんって。アクアと黒川あかねがカップル成立でエンドだろうな」
「はぁ?そんなことあるわけ……いえ、アンタに誤魔化してももうダメな気がするわ。そうね、私の読みも同じよ。それが1番
俺は原作知識で全部言ってるから読みもクソもない。有馬かなの言う
いや別に、1番の理由は俺が『今ガチ』に全く干渉してないからだけどさ。『B小町』マネージャーとしてルビーや有馬かなと一緒にいるからあっちと関わることないし。今の所MEMちょにも黒川あかねにも興味が湧かない。MEMちょには原作通りにアイドルデビューしてもらう必要があるし黒川あかねにはアクアの恋人になってもらう必要がある。つまり全て俺のエゴである。もしかしたら俺が関わろうがそうでなかろうが因果関係はないのかもしれないけど、こうして罪悪感を自分勝手に抱えていなければ、この楽しい日常に溺れてしまいそうなんだよ。
「恋する乙女は大変だねぇ。見てておもろい」
「アンタはそうでしょうねぇ!?てかよく見てるわね!!」
「ルビーいるところで言えんやん?あの子はあれで結構兄譲りの毒舌なんだから『え、騙されてるよ?』とか平気で言ってくるぞ」
「うわ、言いそー……アンタも何気にあの兄妹の解像度高いわよね」
「だって君ら分かりやすいし」
「そ、そんなに?」
そりゃあ、君の読んでる本『よく分かる喫茶店経営』とかまさにだろ?アクアと夫婦で喫茶店のマスターと看板娘やる未来まで見えてるじゃん。副業学んでるにしても露骨だよ。
「お、『今ガチ』最終回更新された。ルビー待つ?」
「………ッ、くぅ……!!」
「葛藤すご、ルビーとか以前に見る見ないの方で悩んでそう」
「見……るわ……!!私達の読み通りだったら後で憂さ晴らしに付き合いなさいよ!!カラオケ、ボウリング、美味しいご飯!!分かったマネージャー!?」
「へいへい、了解しましたよお姫様」
元気でいいねぇ、さてと……意外そうな店でも探しとくか。あ、そういえばアクアは今日は『今ガチ』クランクアップの打ち上げか。
そして約1時間後、無事に撃沈して隅っこで体育座りしてる有馬かなが発見されましたとさ。いいね、よしじゃあボウリング行くぞ。その後カラオケね……君カラオケ好きだね?
「……分かってたのよ?でも、実際に見るのは違うじゃない……しかも、あんな……!!」
「うんうん、流石の俺でもあんなガッツリキスするとは思ってなかった。ビビるわ」
「いうんじゃないわよ!!でもこよみなら分かってくれると思ってたわ……!!」
はい、俺です。数時間が経ち一通りストレス発散がわりに遊んだので現在ブチギレ中の有馬かなと一緒に完全個室の焼肉屋に来てます。もちろん有馬かなの奢りで。いやー、いい店のいい肉は違うね。当たり前のように特選〇〇とか出てくるんだぜ?値段なんか見たらおしまいだけど思わずチラ見したら潰れたカエルのような声出そうだった。どれくらいかって言うと思わず比較的安めな鶏のせせりとか選びたくなるくらいに。鶏肉好きなだけだけど。
「なんだっけ、前の時もカップル成立の時にキスしたとか?流れ作ったそいつらが悪ぃ」
「演出だって分かってるはずなのにぃ……!!」
なんか、息子夫婦を認めきれない姑みたいだな。てか酔っ払ってないよな?ジンジャーエール飲んでるだけだよね、俺もジュースだし。
「こよみはどうも思わないわけ?身近な男に彼女が出来て」
「あの顔でここまで彼女いない方が珍しいだろ。普通の男ならそもそも俺に一目惚れしてもおかしくないし。そう言う意味では貞操観念しっかりしてるよね」
「そう言うこと聞いてるんじゃないでしょーがー!?アンタ、話逸らそうとしてるのバレバレよ!!」
「ですよねー……まあこう言う言い方も良くないけどさ。アクアが幸せならそれでいいかな。ずーっと思い詰めた感じ醸し出してるじゃん?ああいうのが意外と甘えん坊だったりするんだよ。そーいうの見れたら……超面白いはず!!」
「他人事だからってアンタねぇ……なんか意外だわ。こよみもアクアの事好きなのかと思ってた」
「自分の恋愛には興味ないんだよなー。アクアはねぇ、恋愛って感じじゃないんだよな。うーん適切な言葉……あっ、同担だ」
対外向けな良い言葉が見つかったわ。今度からアクアとの関係聞かれたときこれ言おうっと。
「同担?誰のよ」
「かなとルビー」
「箱推しかい!!」
へへっ、良いツッコミ頂きました。
◆
数日後、アクアが何やら女を事務所に連れ込んだとタレコミがあったので俺、ルビー、有馬かなの3人で小声で会話しながら盗み聞きをしている。さあ耳を澄ましてごらん。
「前々から思ってたけど、本当にスカウトマンになるべきだったのかもしれないわね」
なんと今まさに、扉一枚挟んで社長がMEMの勧誘をしているところ。詳しくは面接だな。
「その前に……烏間さん、入ってらっしゃい」
「え……はい。初めまして、私は『B小町』のマネージャー見習いをさせていただいております、烏間こよみと申します。よろしくお願いしますMEMさん」
「「「うーわ」」」
おい、そこの小娘2人と無表情イケメン。なんだうーわって。そんなに俺が丁寧語使うのおかしいか?一応まだMEMちょは部外者なんだから敬語使うに決まってるだろ。ほら、ミヤコ社長だって……あれ、社長?どうしてそんな引き攣った笑みをしているのでしょうか……あ、はい、日頃の行いですよね。はい、ワカッテマス。
「よろしくお願いします……見習い?」
「16歳なんです」
「え、すっごい美人!?うっそぉ……あれ、ノーメイク?ヤバすぎない……?」
「よく言われます」
「本当によく言われてる人の反応してる!?」
おもろこの人、俺の中じゃもう合格なんだけど。だめかな社長、てかなんで俺呼ばれたの?
「見習いだけどゆくゆくはちゃんとしたマネージャーとして育てるつもりなので同席してもらうわ。彼女のことは知ってる?」
「人気ユーチューバーで『今ガチ』で良い賑やかしキャラしてたなって」
「ざっくりだな。大体合ってるけど」
その後は、彼女のプロフィールの再確認に移る。経歴や現在の契約など基本的な確認事項を見ている。
「今は自分で自由に仕事をとってきて良い契約になってます」
「なるほど、烏間さん?」
「この場合だと……苺プロからアイドル業務を依頼する、という形になりますね。私は分かりませんが苺プロ自体ぴえヨンをはじめとしてネットタレントが多く在籍しているのでノウハウはあると思います。むしろ大歓迎では?」
「その通りね。本当にアクアはいい人材を見つけてくれたわ。ただ……その顔だと何か言わなくればならない事情がありそうね」
社長にそう言われたMEMは冷や汗を浮かべながら目を逸らした。俺はあんまり年齢のサバ読みをする感覚って分からないんだけど、そう後ろめたいものなのか?まあ5歳児モードの時に随分はしゃいでたね、とか言われたら冷や汗だらだらになるとは思う。
「まあ察しはつくわ。年齢、サバ読んでるでしょ?」
「!!……分かりますか」
「ええ、骨格からして幼く見えるけど私の目は誤魔化せないわよ」
「お……私はまだ分からないですねー。骨格って見てわかるものなのかもちょっと怪しいですけど」
「そこは突っ込むところじゃないぞ烏間」
「まあ個人でやっててサバ読みなんて、アイドルでもユーチューバーでもいろんな業界でありそうなものですが」
「そうね、気にするほどのことでもないわ。それでいくつ盛ったの?」
「あの……その……」
流石に俺には耳打ちしてくれないらしい、今までで1番キョドりながら社長に耳打ちした。俺とアクアは今の所聞こえないので、小声で何歳か当てるゲームをしている。そして聴き終わった社長の顔が宇宙猫と化した。
「ガッツリ盛ったわね!?」
「申し訳ございません〜!!」
「いくつ盛ったの?3歳くらい?」
「意外と10とか?」
「25だよ!?10も盛る勇気ないよ!!」
「「それでもけっこう盛ったな!?」」
でもまあ6,7歳も盛るって結構すごいよね。小学生と中学生くらい年齢差あるんでしょ?6年もあればダイパがBW超えてXYに差し掛かるんじゃね?うーわ、死にたくなってきた。ああ、青春が過ぎ去る音がする……今世じゃないですけどね。
「25でJK名乗って番組出てたのか?メンタル化け物だろ」
「アクア、刺しすぎ」
「これには事情があってぇ!?」
そして彼女から語られる事情というのは確かに同情の余地がある。
「夢を追えるようになった時には、夢を追える年齢じゃなくなってた」
原作でこのセリフを聞いた時は、めちゃくちゃ考えさせられた。前前世の俺は恵まれていたのだと思えるくらいにはMEMの経歴には動揺したし、ぶっちゃけ前前世の最推しがMEMってのもある。前前世MEM、前世さりなちゃん(ルビー)、今世有馬かな、と見事にB小町箱推し体勢が出来上がっていた。
「やっぱりだめですよね、7つもサバ読んで。バレた時大変ですもんね。25がアイドルなんて……」
「そんなことない!!」
卑屈なMEMの言葉に反応したのは、扉越しにのぞいていたルビーだった。俺はと言えば、そうそうに社長と目配せして俺目線MEMを加入させることに対して賛成なのを示した。
「話は聞かせてもらったわ。私も年齢でウダウダ言われた側だからその気持ちちょっと分かる……!!」
「ちょっとじゃなさそうだな」
有馬かなは号泣だった。感受性の高さは生まれつきだなこりゃ。はいはいハンカチ渡しますねー。
「私と烏間さんは反対しないわ」
「もちろん!!アイドルをやるのに年齢なんて関係ない、だって憧れは止められない!!ようこそ、B小町へ!!」
そしてルビーはMEMに手を差し出した。
「全く、うちの妹はまた綺麗事を……」
「その綺麗事に救われることもあるさ」
「お前もか?」
「……まだ、だな」
フッ、とキザに笑みをこぼすアクアに話しかけた。言うか言うまいか悩んでたんだけど、このすごいいい場面でなんだその【アクア(魚の絵)】なTシャツは。クソダサいぞおい、ルビーとペアルックなこと多いけど今日に関しては言い訳できないくらいちゃんとネタ全開すぎるだろ。何したってかっこつかねぇよ。
「烏間、有馬。ルビーとメムをよろしくな」
「うるさい、気安く話しかけないで、アンタは黒川あかねとよろしくやってなさいよ。このスケコマシ三太夫」
「ブフッ……w……くはっ……ははは!!スケコマシ三太夫は面白すぎるだろっ!!」
「笑いすぎだろ烏間……おい」
「え、あの……烏間さん?」
「あの子あれが素だよ?多分外部の人にはちゃんとしてるんじゃないかな?一人称俺だし」
「俺くんなの!?」
「あっ、ハンコ押した?じゃあいいや、改めまして俺は烏間こよみです。幼稚園中退のド不良だけどコンゴトモヨロシク!!」
「個性豊かすぎて頭パンクするよ〜!!」
あ、目がグルグルになった。本当にパンクしてる、おもしろ。
「うん、そうだよね。じゃあみんなでご飯行こっか」
「いいじゃない、こよみもいくわよね?」
「ハブられたら泣いたるからなー?MEM好きな食べ物は?今から店予約するよ」
「なんだこの子達、あったけぇよぉ……!!」
数日前に有馬かなと焼肉食ったばかりだけど、今日も焼肉行った。今日は社長の奢りだった。ほんっとうにゴチになります。MEMはお酒飲んでたけど、有馬かなの方が場酔いで泣き上戸だった気がする。もう本当に酒飲ませないようにしなきゃな。