「マネちゃんセンスあるよ!!今からでもウチの助手に……」
「ならねぇよ。流石にそれは買いすぎだ。俺はまだペーペーだぞ?」
「こんなに早くチャンネル登録者数1.5万人行くなんてとんでもないことだよ!?」
「だったらMEMの手腕がいいんじゃね?インフルエンサーは伊達じゃねぇってな」
「も〜、この褒め上手めっ!!」
MEMが正式にB小町に加入してから、俺は劇的に忙しくなった。ユーチューブチャンネルを設立し、名目上の管理者は社長、俺とMEMが主な運営を担うこととなった。俺はその時いなかったが、ルビーと有馬かながぴえヨンチャンネルに出演した時の映像をもらい自己紹介動画を作り投稿したのが最初の動画。なんと、俺がアクアに教えを乞うたのである。
「マネージャー、メムのこと贔屓しすぎじゃな〜い?」
「今1番B小町で働いてるのはメムよ。働き者を労うのはマネージャーとして当然。てか、こよみもタスク抱えすぎじゃないかしら?」
「今の所ついていけてるよ。でもこっからきついのはお前らなんだからな?」
「そうそう、まだメイン張れる動画が自己紹介しか無いからね。ゆくゆくはPVとかもなんだけど……マネちゃん、楽曲周りって今どうなってるの?」
「社長が知り合いのアーティストに掛け合ってくれてるらしい。まあ別に大丈夫、前のB小町の曲使えるし」
「うげっ、気づいてたのね……」
「あ、そっか!!昔の曲使っても問題ないんだ!!」
昔のB小町の曲とは言っても、その権利は苺プロが所有している。ミヤコ社長がOKを出せば使えるのでバンバン押し出していく。て言うかB小町名乗ってるんだからむしろそこらへんなかったらファンに怒られるだろうよ。
「今からでもやれることはいっぱいある!!チンタラやってたらあっという間にアラサーだから!!」
「うわー自虐ー」
「そういうこと。俺はまだ見習いで本格的に君らのマネージャーを出来るほど実力がない。業界についてはかな、ユーチューブとかネット関係のことはMEM、マネージャー業は社長、動画制作はアクアのようにジャンルごとに突出してる人から少しずつ学んでいくしかない。でもお前らは各自で出来ることをやってもらう、俺よりできることが多いんだからな」
「こよみちゃん、私はー?」
「…………可愛さ?」
「面食いじゃん!?」
「ルビーの得意な事、知らないんだよね」
「え……あー、うーん……あっ!!ダンス!!B小町の楽曲は全部完璧に踊れます!!」
「天才。採用」
「やったぁ!!」
「アンタもまあまあルビーに甘いわよね?」
うるせっ、前世の恩もあるけど普通にルビーは友達レベルなんだよ。でもそうと決まれば話は早い。今日からアイドル組にはダンスの振り入れをやってもらうことにしよう。講師はルビー、完璧に踊れるなんて言い切ったんだからその力を存分に発揮してもらおうか。
それから3人のレッスンが始まった。ルビーの自信も正しいもので、本当に映像と完璧に踊っている。有馬かなは元々体づくりが出来ているし演技で培った技術で習得も早い。1番意外だったMEMも、伊達にインフルエンサーで色々飛び回ってるわけじゃないらしい。2人に食らいつくようにメキメキと技術をあげている。だからこそ、マネージャーである俺がその分のメンタルケアもするべきなのだ。
「かな、ちょっといい?はい、水」
「ありがと。いいわよ、ちょうど休みたかったし。まったく……元気すぎない?どんなモチベしてんのよ」
事務所の廊下で有馬かなが休憩している。本当はアクアが相談に乗るところだが、ここは俺がしゃべらせてもらう。
「まあ、あの子らは憧れが強いからね。大丈夫?やる気の差で疎外感感じてたら相談してくれよ?事情は知ってる」
「あら、そうなの。こよみももう一端のマネージャーね」
「それっぽい事しようと心掛けてるだけ。まあ、かなの場合モチベはあるけどコンディションの悪さの方が目立つと思うけどな」
「……さすがね。ええ、この前発散したつもりだけどやっぱりすぐにはいかないわ」
「それについては今まで思わせぶりなアクアも悪いが、素直になりきれないお前も悪い。色恋沙汰はアイドルの天敵なんだからやるなら上手くやってくれよ」
「やるな、とは言わないの?」
「……お前はアクアのこと考えてる時が1番乙女らしくて良い。アクアに自分のことをもっと見てほしいと思って頑張るその姿は、贔屓目なしでこの世で最も美しいと感じる」
久しぶりに、俺と俺の中の上位存在の意見が一致する。この数ヶ月テレビの向こう側の有馬かなじゃない、人間の有馬かなと接して上位存在君が新しい魅力に気づいた。何が言いたいかというと、今の上位存在君は『有馬かな限界厄介オタク』から『有馬かな限界全肯定オタク』にランクアップしたのだ。
うん、余計にタチが悪いね?でもそんな上位存在君も俺であることに変わりないのでちゃんと手綱は握らないといけない。じゃなきゃ邪魔になる一切合切を消し飛ばしてしまいそうだ。
「そんなふうに思ってたの!!口説かれてる!?」
「口説いてねぇ。まあ120%を出す起爆剤が片思いの相手とかアイドルとしてどうかなって思うけど」
「うぐっ……でも、アンタにそんなところ見せた記憶ないんだけど」
「『今日あま』ラストシーンの乙女面、感情演技にしては気合い入ってたね」
「ぐ、ぎぎぎ……」
「あの時の有馬かなは最高だった」
灼かれた目、もがれた羽根、創造的堕天……なんつって。お互いの距離感がわかっているからこそ俺たちはこうやって攻撃し合える。お互いメンタルが強くないから軽めに攻めることで良い発散になるのだよ。
「アンタ、私にそんな重い感情持ってたのね」
「ああ、重い自覚はあるよ。辞める気もない。俺はどうしようもなく君のファンなんだから」
「……ふぅん、ファンにそこまで言われちゃやる気も出るってものね。マネージャーとしての仕事は果たせてないけど」
「結果的にアイドルのメンケアが成功してるから仕事してますぅ。ほら、さっさと行きな」
「はいはい、ありがとね」
俺が渡したペットボトルを持って歩きだした有馬かなを見送った後、背後の気配に声をかける。
「行ったぞ、アクア」
「……あぁ」
本来、この場面はアクアと有馬かなのやりとりで、焦った有馬かながアクアにひどい言葉を投げかけるシーンだ。だが今の有馬かなは俺がストレス発散に付き合い、今のメンタルケアでそこそこ穏やかな状態なのでそんなことは起こらない。
だが、コイツはそうと限らない。なぜなら俺たちの会話を全て聞いていたからだ。どういうことか分かるか?有馬かなの好意がアクアにまるっと伝わってしまったのである!!あっはー!!超おもろいやんけ!!
「ていうか、気づいてたのかよ」
「俺を誰だと思ってるんだって話」
「……そうだったな」
「で、放っておいていいの?」
俺の問いに、アクアは一瞬顔を俯かせそれでも俺に表情を悟らせたくないのかすぐに返答してきた。
「お前の言葉で十分だろ」
「ふぅん?俺とかなの会話でいろ〜んな事に気づいちゃったのにそういう事言っていいんだ」
「……それとこれとは関係ない」
俺と有馬かなの会話を聞いていた、それはつまりアクアが有馬かなの感情を知ってしまったという事だ。もちろん知らせるつもりであんな会話をしたので諸悪の根源は俺になるんだけどさ、全く後悔はないね。だって俺はアクアに幸せになって欲しいんだ。そして俺はアクかな推しだ!!これ重要。
「……まっ、俺はアクアのマネージャーでもなんでもないし別にアドバイス出来るくらい偉い人間でもないんだけどさ」
「厄病神だろ」
「言葉の綾に皮肉で返すなよ、泣くぞいい加減。まあなんだ……焦るなよ」
「なんだそれ……お前が俺に何を見てるか知らないが、俺だって拒絶されたら傷つくんだよ」
「知ってるよ。だから……あー、うん。せっかくだしやってもらうか」
ぶっちゃけこのイベントを逃すとアクアのぴえヨン化がなくなって面白いもの見れないのかと心配してたけど俺から提案するか。
「何が?」
「そろそろ本格的にレッスンを始めようと思ってるんだけど、コーチを頼もうと思ってた人が今休暇で海外いんのよ」
「海外?どんな大物捕まえようとしてんだ」
「でもぉ、事務所の後輩のために時間作ってくれるらしいんだよ。いい先輩だよな〜……うん、お前がそのコーチに扮して指導してくれ」
「…………はぁ?別にいいけど、事務所の先輩?……おい、まさか」
「はい言質とったぁ!!もうキャンセル出来ませ〜ん!!……くくっ、じゃあこれ被ってね?
「………………貸し5だ」
「闇金もひっくり返るくらい高金利じゃね!?」
俺が懐から取り出しぴえヨンマスクに、見たことがないほど渋い顔でOKしてくれたアクア。もちろん俺はニッコニコ。
でも引き受けてくれるアクア君、そういうとこだよな。へへ。
◆
side有馬かな
アイドルなんてやりたくない。そう思っていたけどこよみのせいで変なやる気が出てきちゃった。あの子は全く、私のこと好きすぎでしょう。まあそれでやる気出ちゃう私もチョロいのかしらね……
「「「ア・ナ・タのアイドル♪サインはB♡」」」
センターまで引き受けちゃった私は本当にチョロい!!だって仕方ないじゃない!?あんなにアイドル志望の2人があそこまで歌ヒドいとは思ってなかったのよ!!
私だってあんな地獄みたいな雰囲気から巻き返されるとは思ってなかった。ていうかグループ崩壊一歩手前から自分たちの歌下手で勝負しにくるとは思わないじゃない???どういう根性してたらあそこまで図太くなれるのよ。
え?その件にこよみは何も言ってこなかったのかって?んー、なんかここ最近アクアとずっと口論してて忙しそうだったのよね。気晴らしのカラオケにも付き合ってくれなかったし。なんだっけ、社会的?に死ぬとか不敬とか信仰心が足りないとか変な事ばかり言っててついにタスクのキャパオーバーで気でも狂ったのかと思ったわ。
「話はまとまったみたいね。ステージまでもう日数もない、これから追い込みをかけるところだろうしサポートしてくれる子捕まえたからこき使ってあげて。烏間さんはその子の補助よ」
社長が来てそんな事を言っていた。うん、でも正直ドキッとした。もしかしてアクアが来てくれるんじゃないのかって。
でも、ぶっちゃけ予想外の形で期待を裏切られたわ。
「ヤァ」
「いやアンタかい!?」
入室してきたのぴえヨン。まさかの人物だったし、そういえば筋トレ系なら適任だろうと思った。入室時のインパクトはともかくね?でもそれ以上に……
「や、やぁ」
「ゲンキが足りないヨォ!!」
「ヤァ……!!
「「「ブフッw」」」
ぴえヨンに続いて入ってきたのは、同じくぴえヨンマスクの不審者……もとい、ぴえヨンマスクに収まりきらなかったであろう綺麗な銀髪を靡かせたこよみ(?)だった。しかもクソ高いアヒル声をぴえヨンに強制されて……
「あっはっは!!こよみちゃん何それ!!似合ってない!!」
「え?ぴえヨンさん本物!?嘘でしょ!!あーでも待って、マネちゃんもツッコミ箇所多い!!情報量が多すぎるよ!?」
「あはははは!!何やってんのよこよみ!!ドッキリ?ドッキリなの???ついにマネージャーすらYouTubeデビューですかっての〜」
「くっ……言ってくれるじゃねえかかなさんよぉ……」
「こよみ君?」
「うぐ……今日から俺もレッスンのサポートするヨ!!よろしくネ!!」
「ふふ……うふふ……あーっっっはっはっ!!」
「キサマァ……」
この状況で笑うなって言う方が無理じゃないそれ!?
ぴえヨンこよみから怨嗟のオーラが見えるわぁ。あーもう最高。そうね。こないだは随分とご高説垂れてくれたけど、蓋を開ければこれなのねぇ。
「マァ、こよみ君はいつも通りにしてくれていいよ。あ、マスクは脱いじゃダメだからネ」
「チッ……ハイ、ワカリマシタ……」
「こよみちゃんこっち向いて。ハイチーズ笑」
「」チラッ
「ププー笑」
ルビー、アンタ存外えぐいわね。そういえばこの子時々言葉のナイフが鋭いのよねぇ。
「ぴえヨンさん、プロから見てどうですか私達は?多少形になってるとは思うんですが……」
あ、MEMちょはもうツッコミ放棄したのね。正しい判断だわ、キリないし。主に私の口角が。
でもここからが地獄の始まり。
坂道ダッシュ10本→セットリスト通しで3回とか正気を疑うレッスンメニューだった。キツい!!普段から体力作りをしてる私でもキツいって思うのに、ルビーとMEMちょはよく着いてきてる方だと思う。モチベの高さは勿論だけどそれにしたって随分楽しそうに走ってる。あとはそうね、ぴえヨンこよみが結構良いアクセントになってるわ。レッスンメニューをこなすのに精一杯だった最初の頃はドリンクを渡しに来るぴえヨンこよみを見るたびにコイツふざけすぎだろって思ってたけど、慣れてきてぴえヨンこよみに意識を向ける余裕ができてからはただただ面白いだけの存在だった。
「ハイ、ドリンクドウゾー」
「無理スンナヨー」
「食事モシッカリー。睡眠モナー」
「こよみ君も一緒に走ろうネ」
「はあ!?そこまでは貸しに含まれて……ハイ、ヤリマス、ヤラセテイタダキマス。チックショーガー!?オラーー!!」
なんだコイツ。なんだコイツ???
これがあの烏間こよみか。まあ私をここまでやる気にさせたのだから少しくらい分かち合いなさいとか思ってたけど、あのマスクして坂道ダッシュしてるの面白すぎる。これだけでご飯たべれるわ。あっ、食事制限してるから白飯食べてないんだった。
一日中レッスンしてるから事務所に泊まり込む頻度も多くなった。ヘトヘトだからって言うのもあるけど、セットリストの配置決めとかアレンジとかの相談をするのにも深夜まで話し込むのにその方が効率がいい、とはMEMちょが言っていた。ルビーも乗り気だったし本当にこの子たちはモチベが高くて逆に羨ましくなるくらい。ちなみにこよみも泊まり込んでいるけど、マネージャー業もしっかりやってるから疲労でマスクを脱ぐことも忘れて倒れて寝てる。そろそろぶっ倒れるんじゃないかしら?とか思うけど翌日にはケロッとしてるのでもう慣れた。
そんなこんなで数週間、今日も今日とて2人がキャーキャーとライブについて談笑している声を聞きながら私はベランダで黄昏ていた。
「後悔してる?アイドルになったこと」
「ぴえヨンさん……いえ、自分で決めたことなので後悔とかは……でも向いてないとは思ってます。センターなんてもってのほかだし、全然アイドルをやれる気しない……」
「歌上手いのになんでそんなにセンター嫌がるの?」
「私なんかが居るべきポジションじゃないってことですよ。あーいうのはルビーとかMEMちょとかキラキラしてる子が適任なんです。あの子達がまだその域に居ないから現状私が適任ってだけで……」
あぁ、どうしてこう私は口が悪いんだろう。こよみは別にそのままでいいって言ってくれてるけど、ぴえヨンさんにまでこんな風に愚痴っちゃうなんてね。
「私なんかって何?有馬かなは、すごいと思うけど」
「私の何を知ってそんな褒め方するんです?」
ほら。またこんなこと言っちゃって。
「毎朝走り込みと発声を欠かさない努力家。口の悪さがコンプレックス。自分個人より作品全体が評価される方が嬉しい。実はピーマンが大嫌い」
「えー、めっちゃ見てくれてる。嬉しい……」
なんか最近、自己肯定感がすごい上がるわね……こよみ然りぴえヨン然り……それだけ私を見てくれる人がいるって自覚が芽生えてきた。ぴえヨンちょっと好きになってきたかも。
ついつい話が弾む。ピーマン嫌いの同士だったし、なんと私のファンらしい。今はめっちゃ細マッチョに見えるこの人も、先日取ったコラボ動画の時みたいに脱いだらすごい着やせタイプなのもギャップよね。
私を見てくれる人……居たんだ。
チラッと室内を見れば、今日も今日とてこよみが打ち上げられた魚みたいにピクピクしながらぶっ倒れてる。大丈夫かしらあの子……?
きっと私は恵まれているんだろう。努力が実らない辛さは十分味わってきたけれど、こよみのおかげで今日までやって来れてる。こんな風に黄昏れる余裕ができたのもアホヅラ(マスク姿)でぶっ倒れてるあの子のサポートあってこそ。恵まれてるわねぇ私。
あー……もうアクアなんてポイしてこっちに乗り換えようかなー。年収も億いってるらしいし。
『……お前はアクアのこと考えてる時が1番乙女らしくて良い。アクアに自分のことをもっと見てほしいと思って頑張るその姿は、贔屓目なしでこの世で最も美しいと感じる』
……なーんてね。はぁ、思い出したら顔が熱くなってきたわ。夜風が気持ちいい。分かってるわよ、そんな事。
あの子はこんなにも人を思って言葉にできるのに、自分のことになるとちょっとバカね。
なんだっけ、『誰にも愛されない運命』?なーに言ってんだか。そういう卑屈なところは嫌いよ、まだね。でもこんなに大勢と関わって誰にも嫌われてなんかないじゃない。
恐れている事がある……私がこよみにこの気持ちを伝えたら、あの子は離れていってしまうかもしれない。そう考えると絶対に言えない、言うつもりもない。このくらいの距離感でちょうどいいのよ。
私はちゃんとアンタとの約束守ってるんだから、私から目を離さないでよね……親友。
『アー……(姐さん、最近構ってくれない……)』
『アァ?(でもご飯くれるじゃん?)』
『アー!!(もっと構ってほしい!!)』
『アァ、アァ(姐さんは忙しいんだよ。姐さんが死んじまってから生まれ変わってくるまでの寂しい時間よりマシだろ)』
『アァ〜(確かに。楽しそうな姐さん見てるだけで……)』
『『『アー!!(超嬉しい!!)』』』
『アァ……(けど……)』
『『『アァ?(なんで餌(魚)みたいにピチピチ跳ねてるんだろう???)』
聞こえてるぞテメェらぁ……誰が好き好んでぴえヨンマスクでのたうち回るんだよぉ……アクアァ……この屈辱、神に対する不敬……いつか必ず返してやるぅ……!!天罰だ天罰ゥ!!