北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『消えた時計台を探せ』   作:カムラー

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学園入学

 広大な敷地面積を有する、初等部から高等部まである学園~北海道(ほっかいどう)札(さっ)教(きょう)学園(がくえん)~は、札幌駅を北西に向かってすぐのところにある。

 

 学園の存在を知ったカムイちゃんと西宮は、早速透の案内で学園に行き、彼女の紹介もあってスムーズに面接を受けることができた。

 

 その結果、カムイちゃんと西宮は学園が管理する寮に滞在を許された。

 

 寮の部屋は個人部屋で、透の隣の部屋を与えられたカムイちゃんは、彼女に色々と面倒を見てもらっている。

 

「カムイちゃん、明日の用意は終わった?」

 

 薄紫のマントを外した透が、備え付けの机やロッカーなどを乾いた布で掃除しつつ尋ねる。ベッドにあぐらをかいて座っているカムイちゃんは、いつも持っている青いバックを軽く叩く。

 

「パーペキのバッチグーだニャ」

 

 その返しに、透は苦笑を浮かべる。

 

 と、何かを思い出した顔をしたカムイちゃんはスマホを取り出し、

 

「西宮に話があったニャ。ちょっと出てくるニャ」

 

 西宮にメールを送って立ち上がる。

 

 部屋の掃除を終えた透は、片付けの手を止めて驚いた顔を向ける。

 

「え? だ、だめですよ。こんな時間に男子と会うなんて」

 

 時刻は夕食を終え、もう九時近くだった。

 

 慌てて制止しようとする透に、カムイちゃんは平然とした顔でパタパタと手を振り、

 

「今日中に言っておかないとダメなのニャ。すぐに戻って来るってニャ」

 

 ドアじゃなく窓を開けて出て、身軽に三階から下りていった。

 

「すごい。札も使わずに……」

 

 透は走り去って行くカムイちゃんを窓から見送った。

 

 

 寮から少し離れた所にある駐輪所で、先に来ていたカムイちゃんは遅れてきた西宮を迎えた。

 

「何だよカムイ、話って?」

 

 夜の寒気で白い息を出しながら、西宮がカムイちゃんに尋ねる。

 

「明日から学園生活が始まるけどニャ……」

 

「数十年ぶりの学業が不安だと?」

 

「なわけないニャ! 私が学校に通っていたのはつい最近の話ニャ!」

 

 設定十六歳のカムイちゃんが、すかさずツッコんだ。

 

「土曜日の授業は?」

 

「第二土曜日だけ休みで、他は半ドンだったにゃ~、懐かし……(とんぼ)」

 

 カムイちゃんは途中で気づいて言葉を止めるが、西宮はうんうんと頷き、

 

「半ドンって初めて聞いたわ。ちょっと感動」

 

「そんな話をしに来たんじゃないニャ~!」

 

 両手を上げて頭のてっぺんから湯気を出したカムイちゃんは、仕切り直すように咳払いをして、

 

「私の予想だと、時計台がこの世界から切り離されるまで今日をいれずに後三日だニャ」

 

 真剣な目をして伝えてくるカムイちゃんに合わせて、西宮もふざけるのを止める。

 

「そうだった。何でそんなスピード解決目指してるんだ?」

 

「私の都合じゃないニャ。説明するとだにゃ~、時計台がないのに鐘が変わらず聞こえてきたってことは、その鐘によって時計台はこの世界と繋がりが保たれているのかもしれないニャ。だから時計が止まったら繋がりが切れるかもしれないニャ」

 

 カムイちゃんの話を聞き、西宮はキョトンとした顔をする。

 

「じゃけっこう余裕あるんじゃねえの? 時計って簡単に止まらないだろ」

 

 その西宮の言葉を聞き、カムイちゃんは肩から力が抜け、呆れたため息を長く吐く。

 

「…………西宮、時計台の時計が何で動いているのか知らないのかニャ?」

 

「え? 電気とかじゃねえの?」

 

「本当に学校でキチンと教えるべきだと思うニャ……もう~」

 

 苛立ち気にカムイちゃんは体を起こし、細い指を西宮の胸元に突きつける。

 

「いいかニャ!? 時計台は現存する現役塔時計として日本最古のもので、多くの人の協力と市内時計店の尽力のおかげで動く、重りの力を利用した振り子式ニャ!」

 

「そう~だったの!?」

 

 心底驚いた顔をする西宮を見て、カムイちゃんは頭上にぐしゃぐしゃの線を浮かべる。

 

「週に二度、四日に一度ハンドルを使ってワイヤーを巻き上げないといけないニャ。巻かないで何日もつかは分からないニャ」

 

「だから後三日なのか」

 

 設定された期限に納得して、西宮は顎に手を当てて呟く。

 

「なるほど。それで? 時計台を取り戻すため、明日からどう考えている?」

 

「か、考え?」

 

 明日の予定を聞かれ、カムイちゃんは目をパチクリとさせる。

 

 その態度を見て、西宮の目つきが一層険しくなる。

 

「まさか、何とかしたいって思いと勢いだけで来て、何も考えていなかった……とかって言うんじゃないだろうな?」

 

「ま、まさかニャ~。え、え~っと……時計台がどこにあるのか人に聞いて回るニャ」

 

 その内容に、西宮は首をガックリと落とす。

 

「人に聞いて分かるんなら道警がすぐに見つけてくれるわ……まあ、カムイが具体的な案を考えてるとは思わなかったから別にいいけど」

 

 最初っから期待していないと言われ、カムイちゃんは不満に頬を膨らませる。

 

「何ニャ、人を行き当たりばったりの勢い人間みたく」

 

「実際そうだし……まあ、それがカムイの良さと面白さの一つだけどな」

 

 西宮の評価に、カムイちゃんは難しそうな顔で小首を傾げる。

 

「褒めてるのかニャ?」

 

「ああ~、褒めてる褒めてる。とりあえず明日は学園で札の使い方を勉強して、時計台に関する情報を集める。それで行動の大まかな指針を立てよう。で、明後日(あさって)からその指針に沿って時計台を探して、明々後日(しあさって)までに犯人から時計台を取り戻す、と」

 

「西宮ってマネージャーみたいだニャ~」

 

 その評価に、西宮は嘆息しながら頭をかく。

 

「Hさんも連れてきてほしかったよ。Hさんならもっと上手く計画してくれただろうに」

 

「チッチッチッ、あのマネージャーにそんな器用なことはできっこないニャ。それに、あいつは私に相応しいイケメンマネージャーが現れたら、即刻お払い箱だニャ~」

 

「……あ~、果てしない二人の信頼を感じるわ~」

 

「何を聞いているのかニャ~!」

 

 ムキになって怒るカムイちゃんの前で、西宮はすでに疲れを感じて肩をズシンと落とす。

 

「あ~も~、とにかく、濃厚な三日間になりそうだな」

 

「北海道の乳製品で育ってきた私達なら、濃厚は慣れっこだろニャ」

 

 カムイちゃんはバチンっとウインクを一つ飛ばす。疲れを感じさせない、元気を与えてくれるアイドルの笑顔を見て、西宮は苦笑しながら髪をかく仕草で体を起こす。

 

「今さら文句も言わないって」

 

「あ、そうだ。透に関してだけどニャ」

 

 スッとカムイちゃんの目が細くなり、西宮は思わず一歩後退した。

 

「な、何だよ? 重要なことか」

 

 カムイちゃんは神妙な顔をして頷き、手招きをして西宮の顔を近づけさせて耳打ちする。

 

「私より背が低いのに、私より胸があるのニャ」

 

 顔を赤くした西宮の無言チョップが、カムイちゃんの脳天に落ちた。

 

 

 

 カムイちゃん達が異世界に来て二日目。

 

 カムイちゃんと西宮は透と別クラスH組に案内され、クラスメート達に自己紹介した。異世界から来たと言うとクラスメート達から興味津々な顔をされたが、一時間目の授業が実技のためすぐ移動しなくてはならず、クラスメート達の質問攻めにあうのは後になった。

 

「貴様らが異世界からやってきたコンビか」

 

 ホッケー・ハンドボール場で待っていたのは、グルグルメガネと白衣が特徴的な荒谷(あらや)先生だった。彼が成績最低クラスH組の実技を担当する先生だ。荒谷先生はカムイちゃんと隣の西宮を見て、あからさまに口元を嫌そうに歪める。

 

「まったく面倒な。大体にして由緒ある学園の授業を貴様らの様なぽっと出の者が受けること自体気にくわん」

 

 隠す気もない嫌味な物言いに、カムイちゃんは星を飛ばしてカチンと来る。

 

「しっかり実力を評価されて入学を許されているのニャ。一先生に文句を言われる筋合いはないのニャ」

 

「ふん、勘違いするな。貴様らはまだ体験入学扱いだ。現在異世界から来た者が襲われる事件が多発しているから、道警からの信頼も厚い学園が警護も兼ねて貴様らを置いているだけだ。それなのに実力だと? 勘違いも甚だしいわ」

 

 荒谷先生の言う通り、カムイちゃんと西宮はまだ制服をもらっていない。今も私服姿で授業を受けている。この学園の制服は男女共に上着は白を基調としたもので、下は女子が赤のスカート、男子は薄い水色のズボンだ。

 

「勘違いとは何ニャ! 私は自分の札の力をパートナーに付加させ、威力を跳ね上げることができるニャ。すごいだろにゃ~」

 

「それは異世界から来た者が稀に持つ特殊性で、貴様自身の実力や才能とはいっっっっさい関係ない運の話だ。それで得意気になるなど、お門違いもいいところだ」

 

「才能と実力だって無いよりはあるニャ! モンスターだって一匹倒しているニャ!」

 

 クラスメート達は、カムイちゃんの強気な言葉でざわついた。このクラスの生徒は中等部時代にフィールドに入る許可をもらったことがないか、入っても見学のみがほとんどで、モンスターを倒したことがある人なんて稀なのだ。

 

 だが、荒谷先生は鼻息でカムイちゃんの発言を飛ばす。

 

「ふん、モンスターを倒しただ~? 面白い。どのモンスターを倒したと言うんだ?」

 

 荒谷先生は白衣の下から分厚い辞典を取り出し、カムイちゃんに投げてよこす。隣の西宮が辞典を覗きこむと、それはモンスターの写真と説明がついている資料だった。

 

 カムイちゃんはページを次々とめくっていくが、

 

「あれ? 見当たらないニャ」

 

 資料は几帳面に丁目ごとにカテゴリー分けされ、モンスターの特徴や攻撃法、レア度、発見者名まで書かれていたが、十二丁目に出るモンスターの中に熊がいない。

 

「ふん。やっぱり倒したなんて嘘なんだろ」

 

「ウソじゃないニャ!」

 

 荒谷先生と言い争うカムイちゃんの代わりに、西宮が資料を確認していく。

 

「あ、あったぞ」

 

 すぐさまカムイちゃんが西宮から資料を受け取り確認すると、

 

「ホントニャ。見るがいいニャこれを!」

 

 二人が倒した熊のモンスターのページを、自信たっぷりに荒谷先生に突き出す。

 

「ほう。どれどれ……!」

 

 メガネのツルを持って見た荒谷先生の動きが固まった。不思議に思ったクラスメート達もカムイちゃんの周りに集まって、ページのモンスターを確認する。

 

「あれ? これの出現ポイント、十か九丁目ってなっているけど」

 

「え? うそ、すご~い」

 

「マジかよ。マジで二人ともツキノワールを倒したのか?」

 

 クラスメートの羨望の眼差しが、カムイちゃんと西宮に集まる。

 

 カムイちゃんは鼻を高くした笑顔で、「どうニャ!」と荒谷先生に勝ち誇る。

 

「待て、騒ぐぬぁ! おい、二人とも。もしかしてそのモンスターには、どっかに札がはられていなかったか?」

 

 言われて思い出すと、確かにモンスターの額に札がはられていた。

 

「額に札がはられていたニャ」

 

 それを聞くと、

 

「は~はっはっはっはっ、やはりな。そんなことだろうと思ったわ!」

 

 荒谷先生が鬼の首を取ったかのように興奮した。

 

「な、何ニャ?」

 

「武身強化(クロエゾ)を敵にはると、その効果が逆転して影響を与えるのだ。〝硬化〟ならば防御力が下がり、〝加速〟ならばスピードが下がる。大方そのモンスターは事前に誰かと戦い弱って逃げていたのだろう。でなければ、十丁目のモンスターが十二丁目にいるわけがなく、貴様らの様な異世界から来たばかりの奴らが倒せるわけもないのだ!」

 

 その説明を聞き、クラスメート達の羨望の視線がかなり弱くなった。

 

「弱っていたようには見えなかったけど……」

 

「む~」

 

 カムイちゃんは悔しそうに唇を噛むが、知識が無いカムイちゃんは言い返すこともできず、勝ち誇る荒谷先生を睨むことしかできなかった。

 

「さあ、さっさと授業を始めるぞ。面倒で仕方ないが、新しく来た者もいるから軽くおさらいをする。まずは森羅万象(アカエゾ)についてだ」

 

 気分を良くした荒谷先生は、ポケットから赤字で書かれた札を取り出し、両手で一枚ずつ持つ。

 

「浮力の方が強い森羅万象(アカエゾ)は使い勝手が良く、二つの攻撃方法がある。一つは手元で札を発動させて敵を狙う方法。もう一つは札を投げ飛ばして敵にはって発動させる方法だ」

 

 荒谷先生は生徒達の前で十メートルほど先にある的に向かって、右手の札を発動させて野球ボール大の火球を飛ばして壊した。地面に落ちた的は、中心に焦げ跡があった。

 

 その次に、左手の札を投げ飛ばして別の的にはりつけ発動させた。その札は激しく燃え上がり、的を炭に変えた。

 

 荒谷先生の見本に、生徒の間から感心する呟きが漏れる。

 

「見ての通り、威力は敵に直接はる方が強い。だから、手元で発動させて敵を牽制しつつ、隙を見て直接札をはる。というのがスタンダードな戦法だ。それと札を投げ飛ばす利点の一つは、投げ飛ばした札が敵に避けられても、拾って再度使うことができることだ。持ち札が少ない場合など、消費する枚数を抑えられる」

 

 自分に関係がある札の説明に、カムイちゃんはマジメに聞きつつ頷く。

 

「次は張力が強い武身強化(クロエゾ)だ。こっちは森羅万象(アカエゾ)と比べて扱いが難しい。とりあえず、札を張った箇所にだけ効果を発揮する部分強化と、それより効果は落ちるが全身に発揮する全体強化を使い分けできるようになってもらう。この使い分けができなければどれだけ大変なことになるか……」

 

 荒谷先生が西宮に目を止め、彼を手招きして前に呼ぶ。

 

「おまえは確か武身強化(クロエゾ)と相性がいいはずだったな。この札を足にはって走ってみろ」

 

 そう言われ西宮は〝加速〟の札を手渡された。

 

 西宮は嫌な予感に顔をしかめつつも、断れずに右足に札をはる。そして、荒谷先生が指差しながら「向こうまで走ってみろ」と言い、渋々スタンディングで構える。

 

「よ~い、ドン!」

 

 スタートの合図で右足の一歩目を踏み込んだ西宮は一気に加速し、次の左足をついた瞬間、勢いを殺せず前方に激しく回転し、地面を削って転がっていった。

 

「…………(とんぼ)。吹っ飛んでいったニャ~」

 

 カムイちゃんが顔を出して確認すると、三十メートルぐらい先の地面に白い煙を上げる西宮が倒れていた。

 

 クラスメート達はこの結果が分かっていたのか、痛そうに顔をしかめていた。

 

「強化された右足の勢いを、されていない左足で止めることはできん。それと体内の血流や動体視力のためにも全体を強化しておかないと、速さに体が追いつかない」

 

 その説明を聞き、カムイちゃんはポンッと拳で手の平を叩く。

 

「西宮が前にモンスターを硬化した腕で殴った時、腕より肩を痛めていたニャ」

 

「そういうことだ。武身強化(クロエゾ)は本当に扱いが難しく、特に部分強化は威力が高い分、もろ刃の剣になることが多い」

 

「……口で言えば、分かるわ~! それと、実験台にされたパートナーを心配する言葉すらなしかい!」

 

 向こうから西宮の苦しむ怨嗟(えんさ)の声が聞こえてくるが、

 

「さあ! それでは各自練習に移れ!」

 

 荒谷先生は無視して指示を出す。

 

 生徒がそれぞれ練習に適した場所に移動する中、

 

「先生、繋力(けいりょく)について教えてほしいニャ」

 

 カムイちゃんが荒谷先生に質問する。

 

「ハァ?」

 

 明らかに「何言ってんだ、コイツ」という顔で、荒谷先生はカムイちゃんを見る。

 

「どこで知ったかは知らないが、素人が使えるものだと思ってんのか? あれは札同士の力を繋ぎ合わせる必要があり、そのためには使用する枚数全てに一定以上の意識を同程度集中させなければいけないんだ。何年も札を触っていてようやく二枚繋げることができるようになるんだ。連続して使うとか同時に使うとかとはレベルが違うんだ。分かったら、そんなできもしないこと聞いてないで、まずは投げ飛ばす練習でもしてろ」

 

 シッシッと荒谷先生は手を振ってカムイちゃんを向こうへやる。

 

 ちなみに、心優しいクラスメートに手当てされ、擦り傷だけですんだ西宮はそのまま授業を受けた。




基本的に週末(金曜あたり)に更新していこうと思います。
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