こいしとさとりとお燐の三角関係   作:愉悦部出身

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幸せに召し上がる

 地霊殿は広い。数々のペットがここにはいるが、こんなに広い必要もない。どうしてこれほどの空間が必要かというと、灼熱地獄跡を蓋し、下にいる怨霊を管理する役割があるからだ。

 

 さとり様が怨霊を管理し制御する。その対価として地底の妖怪の存在を認める。そういうルールが昔取り決められた、らしい。私たちペットはそのお手伝いをしているわけだ。

 

 私は今、灼熱地獄跡で怨霊の選別をしている。タチの悪いモノは燃やしたりして処分する。あまりに一か所に集中しているときは散らす。比較的マトモそうなモノは連れ帰り自身のシモベにして仕事に協力させる。案外に怨霊同士のほうが上手くいく場合があるのだ。ときどき成仏して感謝しだすこともあるし。

 

 私が怨霊を管理していると、下から羽ばたく音がした。お空だ。

 

「お燐。ぼちぼち休んだら?」

 

 お空は心配げに言った。前もそうだったけど、コイツはより一層、私のことを心配してくるようになった。

 

 自分自身だって、慣れない身体で精一杯なはずなのに。

 

「いや、もう少しやってから帰るよ。まだ大量にいるしねぇ」

 

 私は帰りたくなかったのでこう言ったが、お空はなおも被せてきた。

 

「……最近ずっと同じこと言ってるよ?それに、怨霊の数が多いのはいつものことでしょう。お燐、最近働きすぎだよ」

 

 お空の言う通り、確かに私は働き詰めだった。でも今はそれくらいがちょうどよい。何も考えたくない。

 

「はは。まあ私だって、たまにはがんばりたくなるってものさ。ほら、最近太り気味でさ。ちょっとくらい運動しないと」

 

 お空は私の言葉を全く信用していなかった。

 

「何言ってるの?近ごろは全然食べてないでしょ?いいから戻るよ」

 

 そう言ってお空は私の腕をつかみ上へ引っ張ろうとする。

 

 私は抗う気も起きずにそのまま従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は地霊殿に戻り、お空に自室に放り込まれた。あとはやっとくから今日はとにかく休んで、と無理やりにだ。

 

 ただ正直、お空が騒動を起こす直前よりも居心地が悪い。さとり様に見つかったらどうしよう。今、心を読んでほしくない。さとり様に嫌な思いをさせてしまう。私はどうしてもじっとしている気になれなかった。

 

 水でも飲もう、と私は自室から出てキッチンに向かう。耳をそばたて、誰とも会わないようにしながら。

 

キッチンに着き、コップに水を入れる。ぐっと一息に飲み干す。思いのほか、喉が渇いていたみたいだ。

 

そのとき、か細い声が聞こえる。

 

「お燐……」

 

 私はその声のほうを振り向いた。

 

 そこにはこいし様が立っていた。紙袋を抱きかかえている。顔は伏せており、帽子に隠れてしまって表情が見えない。

 

そのまま、こいし様がゆっくりと私のほうに近寄ってくる。

 

 こいし様は一体、何がしたいのだろうか。

 

 私は何が起ころうとも反応できるよう、身構えた。

 

 こいし様は、片手一つ分くらいまで近寄ってきて、話しはじめた。私のほうは見ず、顔を伏せたまま。

 

「ごめんっ……。お燐、ごめんなさい。……不快にさせてしまって、ごめんなさい。あなたを、嫌な気持ちにするつもりは、なかったの」

 

 こいし様の声は震えていた。

 

「あなたの死体を……ぅぅ、盗んで、しまって、ごめんなさい。あなたに、……来てほしかったの。……一緒に、遊びたかったの」

 

 私はひどくショックを受けた。こいし様がこんなことを言い出すなんて、とても信じられない。

 

「でもっ、でも、それは、……あなた、には、迷惑で……。わたしっ、ヒトの、……気持ちが、分からないの。……心が読めてたときから、ずっと」

 

 こいし様が紙袋を私に差し出す。

 

「これ……。チーズケーキ。良かったら……食べて。最近人里にできた、ケーキ屋さんのものなの。……これをお燐と一緒に食べたかっただけなの」

 

 私はもう一度、ガツンと頭を殴られたかの衝撃を受けた。中身を確認すると、確かにチーズケーキが2つ、入っている。

 

「お燐。チーズ大好きだった……よね?きっと、喜んでくれるかな、と思って……。でも、そのまま言っても、来てくれそうになくて、……死体遊びなら、お燐もよくやってるし、すぐ、見つけてくれるな、って……」

 

 こいし様が顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃで、目は赤い。

 

「お燐、お願い。許して。私、あなたのことが好きなの。あなたのことを考えると、胸が苦しいの。お願い。許して……」

 

 本当にこいし様が喋ってるのか?私が好き?一体何を言っているんだ?こいし様はもっと無邪気で残虐で、私はおろか、さとり様でも捉えきれない存在だったはずだ。そんなこいし様が、私に?

 

 でも、辻褄は合う。こいし様はさとり様でもお空でもなく、私に接触することが多かった。あのパーティの日も、わざわざ私の横に座っていた。さとり様のことが嫌すぎてだと思っていたのだが、違ったのか。あれは気まぐれじゃなくて、本当にしたいからやったのか。

 

 じゃあ、そんなこいし様に、私は一体何をしていたんだ?

 

 私は改めてこいし様のほうを見た。もう顔は伏せられており、ぐすっと泣いている。

 

 ――――私は、こいし様を抱きしめた。

 

「こいし様。私も悪かったです。こいし様の気持ちに、気づくことができませんでした。私は、こいし様に酷いことを言ってしまいました。私のほうこそ、謝罪するべきです。こいし様。怒ってしまって、ごめんなさい」

 

 私はこいし様の震えが止まったのを感じた。

 

「こいし様がしたこともよくなかったですけれど、私は許します。……私の好物がチーズだということを、知ってくれていたんですね。ありがとうございます。良かったら、一緒に食べましょう?」

 

 こいし様は胸に顔をうずめて、また泣きはじめた。私は泣き止むまで、背中をさすり続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に食べたチーズケーキは、本当に美味しかった。

 

 

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