4月――――それは新しい季節。
クラシック初戦、桜花賞と皐月賞―――はもちろんだがトレセン学園に新入生がやってくる時期でもある。
そこでチームを探しているウオッカとダイワスカーレットが加入してくれるのは本来の流れ……なのか?
アニメの時系列の詳細はさっぱりだが、ともかく沖トレの謎ポスターに何故か惹かれてやってきたウオダスを勧誘することになった。
「わー、まるでアグネスタキオンみたいな未知数のスピード性を感じさせる逸材。そしてタニノギムレットのような超クールなセンスを感じさせる逸材だー」
「えっ、タキオンさんみたいな? そ、そうかしら」
「えっ、ギム先輩みたいな? そ、そうかぁ」
ちょろい……あまりにチョロい……。
ウマ娘はなんでか純真な子が多いよね。ウマソウルのせいだろうか。
「オメーなかなかやるな……」
「恐悦至極」
「お前もトレーナーらしくなってきたな…」
なんか悟空さみたいになってるゴルシはさておいて、照れ顔で入部届を受け取る二人。後方トレーナー面の沖トレも置いておいて、これでひとまずいい感じに人数が増えて来たなーと――――。
「――――何してるの?」
「げ」
ジト目でこちらを見つめているのは、見慣れた栗毛のウマ娘。
ウオダスを見て、ついでにゴルシちゃんを見て、「ふーん」と拗ねたように呟いたスズカさんは、若干耳を絞りつつ言った。
「研修に来るって聞いてたのに。……ナンパしてたの?」
「いやチーム勧誘だけど」
「……研修生なのに?」
「なぜかそう。恐らくそう」
なんで? と言いたげながら誤解だったのは伝わったのか機嫌はなおしてくれたらしいスズカと不思議そうな顔で見つめ合い。
「いやー立派だよな研修生なのに! ゴルシちゃんの専属として雇ってもいいぜ」
「嬉しいけど過大評価だと思う」
「……むぅ」
「好きだろ美人なお姉さんとかさ」
「……ノーコメントで」
「……むぅ~~っ」
こ、コイツ……俺の恋心に気づいてやがる!?
ニヤニヤ顔で揶揄ってくるゴルシから目を逸らすと、今度こそ不機嫌そうなスズカと目が合う。
や、やめろぉ! ただでさえ「遊び人」疑惑を持たれてるんだぞ、軽蔑されてからでは遅いんだ!
が、何を言えばいいのか分からず。
途方に暮れていると、たっぷり数十秒悩んだスズカは絞り出すように言った。
「………私のことは、誘ってくれないの?」
はい誘わせていただきます。
と気軽に言えたらどんなに良かったか。リギルがー、とか皐月賞がーとか、色々なことが頭を過り。
でも本気で悲しそうな顔をされて何も言えない程度の想いでもなくて。
「……一番近くでスズカの走りを見たかったよ。でも主席になれなくて、リギルには研修に行けなくて……俺じゃ、ダメだったんだ。姉さんに相応しいトレーナーにはなれなかった」
だから。だから――――諦める、とその一言はどうしても口に出せなくて。
「だから――――ごめん」
背を向けて逃げる。
いつだって追いかけて来た憧れの背中が、見えないように。
――――――――――――――――
――――なんやかんやあっても、研修生として引き続きトレセン学園に行かなくてはならない。沖トレも心配だし、ウオダスを勧誘した責任もある――――そんなわけで朝早くからスピカの部室へ。
「おはようございまーす」
「おう、はよっす」
「おう、早いな研修生」
意外と性根は真面目なのかサボる気配はないゴルシ。まだ眠そうな沖トレ。
「おはよう」
そしてにっこり笑顔の栗毛のウマ娘。
……んんん?
「あのさ、スズカさん?」
「リギル、辞めてきちゃった」
てへ、と仕草は可愛いが言ってることは可愛くない。
スズカさんのやり方正しくないよ!?
「なんで!? こっちは妖怪トモ撫でトレーナーと研修生しかいないのに!?」
「だって、君がいるでしょう?」
――――そんな告白みたいな台詞、真剣な顔で言わないで欲しいんだけど!?
「ま、まだ間に合うかもしれない…!」
「嫌」
「スズカさん」
「……つーん」
「姉さん」
「やだ」
急に幼児退行しないで!?
おかしい、姉さんと言われればいつも大抵のお願いは聞いてくれるのに……。
「リギルに不満はないんでしょ…?」
「好きに走らせてくれないもん」
もんじゃないが。
それにそれはスピカだって同じでは?
「トレーナー、どうするんです?」
「んー、おハナさんからは『今回ばかりは仕方ないけど潰したら承知しない』だとさ」
……いいのかぁ。おハナさん優しすぎでは?
でもそれはそれとして戦術は?
「いいんですか、スズカなら好き放題逃げますけど」
「お前が言えば守るんじゃね?」
………い、いやそれは……。
ちらりとスズカさんを見ると、「お姉ちゃんに任せなさい」とでも言いたげな顔でドヤっていた。
しかしねぇ、こちらとしては某レジェンドジョッキーみたいな能力はないし研修生の立場にいるのだから……。
「負けたらトレーナーの責任にされるのでは」
「そんなもん慣れてるから、気にしなくていいぞ。責任は俺がとる」
「なかなか言うじゃない、トレーナー」
「クールだな…! 俺もちょっと言ってみてぇ」
……いい人すぎない?
ちょうどゴルシに連れられてやってきたウオダスがトレーナーの評価を上げているが、狙ったのかゴルシ。ゴルシならやりかねない。
「ち、チームメンバー足りないし……」
「死ぬほど悪目立ちするって言えばマーチャンが来たがりそうだな」
「ウオッカも偶にはいいこと言うじゃない」
そんな悪名は無名に勝るみたいな…。
一応原作沿いでトウカイテイオー誘ったほうがいいんじゃなかろうか。シンボリルドルフを超えるのは君だけだ! って誘えば割とノってくれそう。
とかなんとか心配していると、自信ありげなスズカが言った。
「大丈夫。必ず私が勝つから。―――だから、一緒に最高の景色を見に行きましょう?」
仮にも憧れの人にここまで言われて断れるわけもなく。
あれよあれよという間に皐月賞の日が近づいていた――――。
――――――――――――
「よし、蹄鉄も勝負服も問題ないな」
「はい」
(あれ、緊張してるの俺だけじゃね…?)
控え室。
真剣な表情で勝負服や蹄鉄のチェックをしているスズカさんとトレーナー。
なんとなく場違いながらも後ろでそわそわしている俺を見て、姉さんはくすっと笑って言った。
「大丈夫。今ならきっと、すごく良い景色が見られそうな気がするの」
「……レースは?」
「むぅ。お姉ちゃんが負けると思う?」
「いや思わないけど…。俺も何かこう、姉さんのために役立つことが言いたいなぁと」
素直な気持ちを伝えると、ちょっと驚いた顔になった後にっこり微笑んで言った。
「……じゃあ、ゴールで待ってて。最高の景色を見せてあげるから」