金人港。
仙舟「羅浮」を構成する数多くの洞天のうちの一つで、観光地として有名な長楽天。そんな長楽天の中のグルメストリートがここ金人港である。かつては悪名高い大企業、スターピースカンパニーに圧力をかけられ衰退の危機にあったものの、雲騎軍の阿呆面娘と頭のおかしい灰色女の邪魔……失礼、もとい活躍によって今ではかつて以上の賑わいを取り戻しているように見える。大勢の人から見たら喜ばしい大団円に違いあるまい。
しかし、妨害をした側の人間たる私からすれば、正直あまり気持ちの良いものではない。活気を取り戻した幸せムードのド真ん中で私は明らかな部外者。見える範囲でも両手で数えきれない人々が、埠頭に立つ私たちを遠巻きに指さしている。……ふん。
そうだ。何を隠そう、この私こそかつて金人港を脅かしたスターピースカンパニーの一匹狼、スコート様だ。この半生を振り返ってみれば家族に友情愛情、様々なものから目を背け続けてきた。ただがむしゃらに上のポストを求める孤高の企業戦士でありつづけたのが、このスコート様だ。
私がこれまで取り組んできた仕事は多岐にわたる。今となっては久しいことだが、この金人港のマネージャーもそのひとつであった。
本当に懐かしい。そのとき私は金人港復活のために埠頭の物流拠点化計画を持ち込んだ。そこで、まあ多少やりかたに問題はあったかもしれないが、現地の商会とコンタクトをとって交渉まで持ち込んだ。そこまでは順調だったのだ。そこに現れた風来の灰色少女と対立し賭けをした私は、なぜか敗北して無様に犬の真似をすることになり……。いかん、いやなことまで思い出してきた。
ともかく、あれからも私は別のプロジェクトに移動することにはなったがキャリアに支障なく仕事を続けてきたわけである。
……おいそこの、せっかく私がこれまでの活躍を振り返っていたところなのに一般等級職員のくせしてスマホなぞいじってるんじゃない。え、メカの整備状況の確認をしてた?……うるさい減給するぞ。
閑話休題。
そんなわけでカンパニーのため仕事を続けてきた私は、縁あって勤務中に「羅浮」の近くを訪れることになった。そうしたら、どういうわけか乗っていた輸送船が歩離人の襲撃にあってしまい、これまたどういうわけか薄汚い開拓者に再開したと思えば謎に論破され途方に暮れていた。失態を重ねストレスがたまっていたので星槎海の茶屋、不夜候にいちゃもんをつけていたら、これまた開拓者と連れのコスプレ女に目を付けられたので追加で仙舟の剣術を小馬鹿にしたら賭けをすることになった。お前らなんなんだよ。
向こうのピンク髪のふざけた女、たしか三月なのかというらしい少女がさらにふざけたことに玩具の剣二本でカンパニーセキュリティーロボを倒してみせると言った。指定した十五日の間訓練した結果これを倒すことができなければ、三月なのかの負けで豚の鳴きまねをする。逆に倒すことができたのであれば、私が豚の鳴きまねプラスアルファを課せられることになった。賭けの内容はこんな感じだ。なに心配ないカンパニーの技術を舐めてもらっては困る。
そんな戦いの場としてセッティングしたのがここ、金人港だったというわけである。ここは私にとって因縁の場所。恨めしい開拓者に一泡ふかせることができれば私のプライドも取り戻せよう。
そんなことを考えているうちに、噂をすれば影と言ったところだろうか、開拓者一行がやってきた。おなじみの開拓者に将軍護衛の少年彦卿、そして「朱明」から来たらしい大剣を扱う少女雲璃。そして、三月なのか。自信満々といった様子でこちらに歩いてくる。……こころなしか三月が異様なオーラを放っているような気がするが、気のせいだと信じたい。
どのみちここまで来たら引き下がることはできない。隣にいる部下がヘルメット越しでも分かるぐらい不安そうにこちらを見てきたが、構うことか。戦闘許可はとってあるんだ、小娘一人に大人げないかもしれないが全力をもって相手をするのだ。いいから行け!
「左に青龍、右に白虎、ミルクティーはやっぱりサイコー!」
結論から言おう、私たちは敗北した。
数台のロボットをけしかけたが、三月なのかは珍妙な剣術をもってそれらをしのいでみせた。最後まで残っていたセキュリティーロボも、たった今打ち付けられた双剣の一撃を耐えきることができずに爆散した。
思わず膝から崩れ落ちた。たかが少女に破壊されたロボの脆弱性に失望しているのか、いやそうではない。これから行われる罰ゲームが嫌なのか、そうではない。私は、このスコットは敗北にうちひしがれているのだ。
これで3度目だ、そこの開拓者に辛酸を舐めさせられるのは。
勝てると確信して賭けを申し込んで、そのどちらでもぼろくずのように負けた。まるでこの世界から、お前は主人公ではないのだと言わんばかりの展開である。
見上げると4人はそれぞれの反応をしていた。彦卿と雲璃は弟子の成長を喜び、三月なのかは飛び上がっていた。肝心の開拓者はというと、私は最初から結末が分かっていましたよと言わんばかりのしたり顔でこちらを見つめてくる。しばらくすると残りの3人もこちらに向き直った。
無言の圧力。賭けに負けた私の罰を心待ちにしているのだろう。主に”心待ち”にしているのは星穹列車の二人な気もするが、まあいい。
敗北に甘んじるのは不服だが、ここでさらにみっともなく藻掻く方がもっと気に入らない。私の美学に反するだけでなく、自尊心はとりかえしのつかないことになってしまおう。
すっくと立ちあがった私は、一息吸い込む。先の金人港での惜敗を思い出す。色々と言いたいことはあるが、全て胸の内に抑え込んだ。大人な私はとっさの感情制御という点で優位性を確保し、叫ぶのだ。
「カンパニーのロボは豚でも欲しがりません!ブヒブヒ、フガフガ。フンガー、フンガーッ!」
言った。
言ってしまった。私の自尊心は限りなく傷つけられた。
うちひしがれる私を見て剣客の二人はドン引きしているのに対し、列車組は満足げと言った様子。それだけじゃないよ、あんたには仙舟の剣術と夢茗ちゃんにも謝ってもらわなきゃと言うと、三月は右手で持っていた剣の片方をこちらに見せてきた。
そのときだった。
「なになに?」
三月の剣が光りだしたのである。あまりのまぶしさに私を含め、この場にいる全員が目を塞ぐ。弱った私に追い打ちをしかけようとしていたのかと思ったが、向こうも動揺しているらしいし違うようだ。光はどんどんと強さを増していき、金人港一帯を取り囲むほどになった。
まぶたを閉じても防げない閃光に喘いでいると、段々と光は収まってきた。収まってきたとは言えどまぶしいことには変わりがないので、しばらく手で目のあたりを覆っていると声が聞こえた。
「あんた何やってんの?」
三月なのかの声である。勝負に負けた私に、おそらく違うと思われるが追い打ちのごとき行動。これは問い詰めねばと目を開きながら言った。
「三月なのか、お前の方こそ私に何をした。その珍妙な剣技で……?」
私の目の前の開拓者一行の怒りの表情が困惑へと変わっていくのが見えた。直に私の言葉を咀嚼したのか、再び顔をしかめる。
「あんた、これ以上仙舟の剣技をバカにしたら許さないんだから!ともかく、そういうわけで15日後まで顔洗って待っててよね」
そう言って三月なのかは二人の師匠と一人の助教を連れて去っていった。どういうことだ、というのは奴の突飛な発言に対してではない。
私はさきほどまで金人港にいたはずだ。そこで、不服ながら惜敗を喫したので罰を執行されていたので、まだそこにいるはずだ。
しかし、今私がいるのは星槎海の仙舟下水、じゃなかった不夜候の前であった。
そしてどういうわけか、今は私が惜敗した15日前。つまり私は賭けを取り決めたあの日に戻ってきたらしい。
本当にどういうことだ。
開拓の灰色女と関わると碌なことにならない。
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