一匹狼スコート、敗北ループに出向す   作:彼岸花すずか

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2.一匹狼、敗北ループに陥る

 やあ、私だ。一匹狼のスコートだ。

 今まで色々と不思議で、理不尽な出来事を経験してきたつもりだが、ここまで意味の分からないことは初めてだ。開拓者の灰色女と賭けをして負けたと思ったら、次の瞬間には賭けをした時点まで戻って来た。何を言っているかわからないと思うが、私にとっても何が何やらという感じなので黙っていてほしい。

 

 いや待て。理解したぞ。よくよく考えなくても分かることではないか。

 事情はこうだ。私は別に過去に戻ったわけではない。これまでのことは全て私の妄想。開拓者一行との戦いにおける敗北の経験から、柄にもなく勝負の前から怖気づいていたにすぎない。それにわが社のセキュリティーロボが半人前のピンク髪剣士に負けるはずもないのである。

 私が勝負に負けるなどというのは紛れもなく間違いで、もう一度戦えば三月なのかの無様な姿を金人港で晒すことができるに違いない。一応、一応だがロボの装甲を強化しておこう。部下がなにやら抗議してきたが無視した。できないじゃない、やるんだよ上司命令だ!

 さてさて、お待たせして申し訳ない。少々変なことも起きたが、かくしてこの私、スコート様は見事に……

 

「ミルクティーはやっぱりサイコー!」

 

 見事に、再び敗北を味わうこととなった。

 三月なのか、本当になんなんだこいつは。カンパニーの容易したロボは折り紙付き。かてでくわえて装甲まで強化したにもかかわらず、奴の双剣はバターのようにそれらを切り裂いた。装甲を突破されたロボは三月の剣術の下破壊されるほかなく、私の敗北は鮮烈に金人港の衆目に焼き付けられたことだろう。

 そして私は例のごとく豚の真似をすることになり……。

 

 案の定、先と同じような展開で私は15日前の不夜候へと戻っていた。それにしてもまあ、なんというか……

 

「ループってやつだなぁ、これは!」

「ねぇ本当にどうしたの、あんた?」

 

 あまりの困惑から叫んだところ、私の部下だけでなく開拓者一行までもが心配そうにこちらを見ていた。いや、どちらかというと好機の目といった方が正しいのかもしれないが……、っておい!お前らはおかしいだろ、一般職員のくせに。

 

 

 あれから複数回経験してみて分かったのだが、私はこの15日間のループに取り込まれてしまったようだ。10回を超えたあたりで数えるのをやめたので、何回経験したのかとか聞かれても困る。

 私が負けて、最初にもどって。修行を経てまた負けて。このような具合で私の敗北と豚の鳴きまねをトリガーに世界がループしているようだ。ということは、私が勝利すればループは解消する?いや、たらればでは物事は解決しない。まずは現状分析だ。

 というわけで、このループの中で分かったことはいくつかある。

 1つ目。ループを認知しているのは私だけのようだということ。正確には世界そのものがリセットされているようで、私が記憶を引き継ぐという点を除いて全てのことは私の敗北を契機に15日前の状態に復元されているらしかった。三月の剣術は試行ごとにちゃんと素人のそれへと戻っていたし、破壊されたはずのロボは型番まで全くの同一個体として復元されたのだ。昔読んだ創作にこんな設定あったような。まあありきたりなものだ。

 2つ目。どういうわけか私は本来のシナリオ、あまり認めたくはないものだが、から逸脱した行動を取れないようになっていること。例えば私が全てを捨てて「羅浮」から逃げ出そうとしたときなんかは、どういうわけか毎回致命的な事故が起こって出航できなくなってしまっていた。他には、私がプライドを捨てて開拓者一行との賭けを取り下げるよう土下座で頼みこんでみても拒否されたことがあった。私とて本心から謝罪しているわけではなく、向こうが負け犬を憐れむような目をしてきたときは思わず殴りかかってしまった。……そのときはよけられて私が指を骨折するだけではあったが。私自らロボを指揮したときもあったが、結果は言わずとも分かるであろう。

 そして3つ目。これまではループそのものに関わることに触れてきたが、これが最も重要。三月の修行の秘密だ。これに関しては言葉で説明するよりも見てもらった方が早い。

 

「ええと、その。そ、それで三月さん、アタシに協力してほしいことって言うのは?」

 

 いつの時代も戦は相手を知ることから。私が三月の修行風景を偵察していたときのこと、奴のもとに緑髪の狐族の女が訪れたのだ。フォフォというらしいその女はシッポ、とかいう歳陽を連れた十王司の判官で、開拓者の友人らしい。今更だがアイツの人脈はどうなっているんだ。私のそれの何倍もあるような気がする。

 閑話休題。実を言うとコイツの存在は最初の勝負の時から知っていた。どこからともなくフォフォが現れた途端、三月の剣術の上達速度がみるみる内に上がっていったのは記憶によく残っている。コイツと話をした開拓者一行が意味の分からない発見をしたかと思えば、素人の私でも分かるぐらい珍妙な修行をメニューに組み込むようになるのだ。確かに理解の範疇にあるものではないが、コイツの手助けが三月成長の鍵といったところだろうか。

 ちなみにフォフォの行動を妨害しようとする試みは、全て原因不明のアクシデントによって失敗に終わるようだ。分かってはいたが、くそぅ。

 

 例にもれずフォフォもループの度に記憶をリセットされているようだが、三月の成長速度は段々と上がってきている。この前のループの決戦時にはロボの片腕を切り飛ばせるようになっていた。怖。

 だが、成長をしているのはこちらも同じ。私は別にメカニックではないが、このスコートブレインが高速回転をして画期的な解決策をはじき出した。

 

――名付けて、決戦時に部下も戦わせる作戦。

 

 なんだ?不満そうな顔して。私も指揮役として戦うのだから文句を言うんじゃない。決戦の数日前から訓練を始めたので奴らの偵察は行えなくなったが、まあ問題なかろう。ロボもぬかりなく強化したのだ、敗北などするはずあるまい。正々堂々、というのはあまり気持ちのいい言葉ではないが、これで勝ってこそ奴の鼻っ柱をたたき折れるというもの。そもそも少女独りにロボと大人複数人をぶつける時点で十分に卑劣。全力で迎え撃ってやる。

 

 

 そして、再びやってきたのは金人港。

 毎回のループで必ず訪れることになり、そして毎回毎回スコート様渾身の豚の真似を披露する場所。前のループでは来るのも嫌で無理やり連れてこられたこともあったが、今回は違う。

 全力で準備し、全力で奴を潰すのだ。最悪ひねり潰すつもりでいかなければ敗北は必至なのだ。さあ、さあ!やるのだ。

 

「遅かったじゃないか。もしや、私に負けるのを恐れているわけではあるまいな?」

 

 開拓者らはいつもより遅れてやってきた。そして私のセリフは完璧に無視された。これだけはいつも通りだな。

 というか、人が足りなくないか?今いるのは開拓者、星という名前らしい。いつも通りのコスプレ三月。そして助っ人のフォフォ……、彦卿と雲璃は?三月の剣の師匠がどちらもいない。それに三月なのかが心配そうな顔をしているような……。今回は色々とおかしい。いないいないと言えば、シッポとかいう歳陽はどこにいった。

 もしかしたら三月も、自分の剣術の不自然な上達速度を不審に思っているのかもしれないな。だがまあ、この程度の人数でのこのことやってくるなんて。

 

「なめやがって」

 

 私がそう毒づいても、奴らは歯牙にもかけないようだ。……まあいい。三月なのかが手を抜いても、このスコート様はフェアプレーをするつもりなど毛頭ない。全力で潰しに行かせてもらう!

 さあ行け!私の……

 

「ねぇ、これで本当に大丈夫なの?……、まあやるしかないけどさ。そしたら、あんた覚悟してよね。えい!」

 

 おいおい、こっちはまだ指示を出していないのに、もう剣を抜くのか。というか、切っ先がこちらに向いているような……、って!?

 

 修行の成果はどこへやら、三月がへっぴり腰で剣をこちらに振りかざした瞬間、緑の炎のようなものがこちらに向かって飛んできた。部下やロボが庇うにはあまりに速く、それは私の顔面に直撃した。

 

「わぶっ」

 

 緑の靄が私の視界を取り囲んだ瞬間、全身から力が抜けて膝から崩れ落ちた。振り払おうとする気も起きず、緑の靄が頭の中にまで侵入してきているような感覚を覚える。

 

「成功したの?」

「た、多分?あとはシッポがやってくれずはず……」

 

 そして、次の瞬間。私の中で大切なモノが砕け散った。

 

「あ、戻って来た」

 

 手をついた私の下に部下が駆け寄ってくるのが見える。うぅ……。

 

「えぇと、スコート様?」

 

 ワンワン!

 

「え!ちょっと待」

 

 グルルルゥ、ウワンワン。引っ搔くぞ!

 

「ちょっと、本当にどうしたんですか!?」

 

 グルワンワン、アオーン。噛みつくぞ!

 

「スコート様、やめてください!」

 

 ワンワン、逃げるな!

 

「シッポ、一体何をしたの?」

「ああ、コイツの中の一番強い欲望を見つけてやったんだが、本当に狼になっちまったようだな」

「ええと、そうしたら約束通り豚の真似をしたもらおうかな」

「星、あんた性格悪いね」

「え?」

「あ、アタシもそう思う」

「流石に俺もどうかと思うぞ」

「えぇ!?」

 

 ワンワン。私はスコート、私は一匹狼。アオーン!

 アオーン。

 

 

 ……さて、お待たせした。私は三月なのかの珍妙な剣技により犬畜生に成り下がったわけだが、支障なく再びここまで戻って来たようだ。犬畜生のまま治らなかったらどうしようかと思ったが、大丈夫であった。

 それにしても三月なのかがあんな変化球を売ってくるとは。その卑怯さには感服するが、同時にとてつもない脅威だ。この少女は、ただバカ真面目にぶつかっているだけでは解決しないのだと教えてくれたのだ。

 それはそれとして……

 

「死にたい」

「ねぇ、アンタ本当に大丈夫?不戦敗にしてあげてもいいけど」

「ふざけるな、私は勝たなければならないのだ」

「そう?」

 

 くそ。いつものことだが、お前のとぼけたような顔が癪に障るよ。




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