一匹狼スコート、敗北ループに出向す   作:彼岸花すずか

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3.一匹狼、不良麻雀娘に論破される

 おまえたち。私だ。スコート様だ。

 さて、あれからも私はループの中に生き続けている。三月なのかが修行をして、私が敗北して。細かいところは微妙に違うが、大まかにはそんな感じの過程を繰り返し続けている。ちなみにあの後のループで全力のロボ軍団プラスアルファをもって三月に正々堂々挑んだが惨敗した。私にどうしろというのだ。

 そろそろ私も自信がなくなってきそうだが、ともかくやれることは続けるのみ。もう何度目のループかは忘れたが、この世界でループを知覚しているのは私だけというのは変わらない。私がループから抜け出すためには、どのみち私が頑張る他ないのだ。

 

 それにしても三月なのかがおかしな術で攻撃してきたときは驚いた。私は犬畜生に成り果てながら、同時に懐かしい思いに包まれてもいたのだ。私の父。控えめに言ってもくず野郎であり、かつ最高の師であった。それと我が友アシャワットに、ラクシュミー。今となっては合わせる顔もない面々だ。目覚めたのは、記憶の中の彼らをまさに奈落へと突き落とした瞬間であった。

 確かにあいつも搦手を使うのだなと感心した。搦手に対して正攻法で行くのはどうかと思われるが、それ以外の方法はないのだ。あれからも諦めずに妨害工作にいそしんではみたものの、やはりうまくいくことはなかった。向こうはできて、こっちはできないなんて道理が通らなくないかね。

 通常、このようなループにおかれた人物は心をすり減らしていくものだ。代り映えのない風景に、それを欠片も変えることのできない無力感。まさに私の境遇と同じだ。しかし、それは一匹狼を挫くには足らない。これは何かの間違いだ。カンパニーの製品が小娘に負けるなどまぐれだ。この凶器とも呼べる熱意が私を突き動かしていた。

 

 そういうわけで今日も今日とて決戦に向け準備をしていたのだが、驚くべきことが起こった。

 例のように偵察していたところ、司辰宮の裏庭、三月の修行場所にフォフォが来なかったのだ。代わりに訪れたのは小柄な仙舟人、その名も青雀。太卜司に努める不良麻雀娘だ。奴の助っ人が変わったのである。

 ちなみになぜ私が青雀の身柄まで知っているのかと言うと、彼女が三月の助っ人となってから既に数回負けているからだ。なお三月の剣術は増々上達している。前回のループでは斬撃が音を置き去りにしていた。本当に素人かお前。

 

 失礼。ともかく、このようなループの変化は私にとって願ってもないこと。悔やまれるのが未だに私自身は列車組に干渉できないということ。そもそも私は彼女らにとって敵だし、よりによってループの開始地点がアレなためイメージの挽回もしようがない。

 というか、そもそも私が彼女に合わせる道理はないのだ。三月の環境は変化しても、私には関係のないこと。私は打倒三月のためカンパニーのロボを強化していくのに尽力するばかりである。あと、ここだけの話になるが、ループのなかで勉強に勉強を重ねた結果、機械いじりができるようになってしまった。そこらへんにうろつく豊穣の忌み者はワンパンできるだろう。いやぁループでも仕事は楽しい。

 

 青雀が助っ人になってからさらに複数回のループを終えたあるとき、私はロボを渾身の出来に仕上げられたと感じた。私自ら調整、訓練を施したロボはどこか光り輝いているようにさえ思う。正直今回も三月に倒されることは目に見えているが、もしかしたらもしかすることを期待して……。

 いざ。

 

 

 金人港に来るのも何度目だろうか。冷ややかな衆目はもはや私を応援してくれているようにすら感じる。緊張感が高まって、奴を倒すという点にだけ意識が向くのを感じる。……おい、コラそこの一般職員。どうせ負けるみたいな雰囲気を出しているんじゃない。いいから持ち場に着け。

 そうこうしていると、ついに三月一行がやってきた。

 

 そして、今回は彦卿と雲璃がいなかった。

 既視感がある。これは奴が搦手を打ってくるときのパターンだ。

 自信満々そうな開拓者と青雀、そしてどこか不安そうな三月。構図まで似ているではないか。警戒するに越したことはないが、どのみち私には正攻法しかない。少女相手でも手加減をするつもりはない。行くぞ、部下ども。

 相対する三月とロボの軍団、その間に麻雀娘が挟まってきた。

 

「……お前は誰だ。仙舟の人間は招かれていなくても勝手にやってくるのか?」

 

 別に知らないわけではないが、向こうは私の偵察を認識していないはずなので辻褄を合わせておこう。それにしても本当にこいつは何の策があって介入してきたのだろうか。死にたいのか?

 

「あなたが私のことを知らなくても、関係ないよ。私は青雀。太卜司の卜者を務めているの」

「たかが卜者の何が偉いんだ?私はカンパニー責任者だ。これほどの部下はいるか?信用ポイントは?お前にはあるのか」

 

 こいつももれなくループを認知していない一般人に過ぎない。私がどれほど試行錯誤を積み重ねてきたか、部下を訓練してきたか、知るはずもあるまい。

 

「あなたって、いい年して精神は子供みたいだね。人生を仕事に捧げて、それでいてそれを”仕事好き”だって美化しちゃってさ」

 

 ……なんだと。

 

「外野に身を置いて、客観的なふりをしながら無関心を装っているにすぎない」

「お前に何がわかる!」

 

 たかが卜者のお前に、何が分かる。

 正直言って、ループに巻き込まれて以降の私には当事者意識しかないわけだが、それはそれとして青雀の発言は気に入らなかった。

 ループが終われば全てを忘れるくせに。今何が起こっているのか知らないくせに!

 

「自分はなんでも知ってるみたいに言うな!」

 

 私のやっていることは無駄ではない。ループの中であがいて、いつ勝てるかもわからない勝負に挑み続けているのは、いつかループの終焉へと至るためにほかならない。

 もういい、今日は問答をしに来たわけじゃない。あくまで三月との決戦だ。一時は取り乱したが、この程度の搦手などどうということはない。さあ、お前ら身構えろ。

 

「……聞きたいんだけど、カンパニーはあなたの家なの」

 

 どうやら青雀はこの問答を続けたいらしい。仕方がない、付き合ってやろう。今度は取り乱すものか。

 

「当然だ。カンパニーにはたくさんの仲間がいる。『人材奨励部」の同僚はカンパニーを実家よりも暖かくしてくれる」

 

 ループを経てお前らが敵であり続けるように、こいつらは見方であり続けてくれる。

 

「本当にそう?連れてきた仲間に聞いてきなよ。あんたは彼らを仲間だと思っていたとしても、向こうはそう思ってるの?」

 

 茶々を入れてきた開拓者の言葉を否定するように、振り向いて確認してみせる。私は部下に、一匹狼としての気高さを見せ続けてきたつもりだ。……そうだろ?

 

「……私はスコートさんの下で、孫のように働いています」

「孫はいわば家族だ、そうだろう!?」

「それに、あなたはカンパニーの成果をあげつらっていたけど、それはあなた自身とは何の関係があるの?」

「も、もちろんあるさ。例えば……、そうだ。金人港のマネージャーは私にしか務まるまい!?」

「あんたがいなくなった後の方がうまくいったけど?」

「それにカンパニーは毎年ものすごい人数が入社するって聞いたけど?あんたのかわりなんて、いくらでもいるでしょ」

 

 剣を下した三月までもが加勢してくる。お前ら、なんなんだよ。

 動揺する私の隙を逃さず青雀が追及してくる。

 

「明け方に見るスマホは面白い?稼ぐためとはいえ辛い思いして、それで上司からは何をしても無駄だって言われて……」

――ループにあらがうのは無駄なのか?

  ループの最中でもなぜ私は仕事を続けるのか?

 

 やめろ。

 

「仕事以外の生活で思い浮かぶことは?」

――ループを終えた後に、私に待っているのは?

 

 やめてくれ。

 

「残・業~~!」

 

 やめてくれぇ!

 

「スコートさん、あなたはもう少し自分を大切にした方がいい。趣味を見つけるとかさ」

「……私に趣味などない」

「趣味は育てるものだよ。あなたは思いあがって他人を見下す癖に、生活を楽しむ時間もなければ、共感能力もない。尊敬されないことを恐れ、カンパニーから自信を得ようとしている」

 

 どうしてそんなこというの。

 

「私だって普通の人間だから心が痛むよ。……不夜候の女将さんは私たちのような疲れた労働者のために席を用意してくれていたんだよ」

 

 私は、謝らなければいけない。

 思わず金人港を飛び出す。

 

 そして、例のごとく金色の光が私を包み、例のごとく不夜候の前まで戻っていた。

 

「今まで、本当に申し訳なかった!」

「あんた何言ってんの。そんなんで許さないからね!それじゃあ15日後」

 

 例のごとく世界はリセットされており、私の謝罪は無駄に終わったのである。最近は異常者扱いに慣れてきたつもりだったが、この場にいる全員から白い目で見られるのは流石に堪える。

 

「スコートさん、必要でしたらメンタルケアをおすすめします」

「やめてくれ本当に」




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