一匹狼スコート、敗北ループに出向す   作:彼岸花すずか

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7. 一匹狼、中庸

 再びこの宇宙空間のような場所に訪れたが、丹枢とパスカルはいなかった。しかしそんなことはどうでもよい。ここに来たのが久しぶりなのかそうでないのかは分からない。それほどまでに今私が経験したものは衝撃的だったのだ。

 あれは1つの可能性の写し見に違いなかった。あのとき私は父の教えに背き、アシャワットを支え、ラクシュミーに固執していた。つまり、一匹狼を捨てていたのだ。

 私が一匹狼を捨てるなどありえない。そう思っていた。しかしあの光景はそれによって引き起こされたものだし、夢というにはあまりにも……。そう思った瞬間、背後から声が聞こえた。

 

「そうだ。お前は歯抜けの犬畜生に成り下がったのだ」

 

 振り返ると、そこには犬がいた。

 

「貴様と一緒にするな。私は一匹狼スコート。誇り高きリンドン・スコートだ」

 

 狼、狼か。そうか?そうかも。正直見た目だけだと薬王秘伝の化け物にしか見えないが……。ともかく、仕方がないので話を聞くことにする。

 

「仕方がないとはなんだ。今起きていることは全てお前の責任なのだぞ。もっと当事者意識を持て」

「そんなこと言われても私にも何がなにやら……、いや。そもそも。そもそもだ。お前こそ誰なのだ」

「言っただろう。リンドン・スコート」

「そんなこと言われて信じると思うのか」

「そうだよ。あんたは時代遅れの虚勢に過ぎない」

 

 そう言ったのは私ではない。これまた背後から聞こえたのだ。

 振り返ると、そこには私とうり二つの男がいた。違うところがあるとすれば髪から滴が滴っているのと、やけに酒臭いこと。これは、あの後の私の姿か。

 

「その時代遅れな考えに逆らって無様な目にあったのはどこのどいつだ」

「それでも大切な物は失わなかった」

「それは何も得ていないからだろう」

 

 私を置き去りにして行われる両者の応酬。

 

「お前自分は関係ないみたいな顔してるけど、本当に自覚しているのか」

「そうだ。あんたが一番の元凶だぞ」

「え、私?」

「ふん、なんとも腑抜けた顔だ。これでは父に顔向けできまい」

 

 なんだ。いったい何が起こっている。これは、一体なんなのだ。

 

「言わないと分からない?なら一から説明してあげるよ」

「お前は金人港での2回目の敗北を喫した時、心が砕けたのだ。1度目の敗北を思い出して、もうやっていけないと感じてしまったのだ」

 

 確かにそのような気がする。いわゆる負け癖のようなものがついていたのかもしれない。

 

「元々この一連の事件をめぐっては開拓者が大きく干渉していた。連れてくる助っ人の違いという形で、無数の平行宇宙が形成された。そこに身を投じたあんたは自分を見失っていた状態だったから、多様な可能性の前に八つ裂きにされたのだ。そうして平衡宇宙を渡り歩いて、その違い1つ1つに翻弄され続けた。それが、それこそがあんたの経験したループの原因」

「歳陽にあてられたり、不良小娘に安っぽく感化されたり。果ては敵を称賛するなど、見ていられなかったぞ」

 

 うるさい。

 結局どうすればよかったのだ。この世界は開拓者を中心に回っている。私が何をしようが、どんなに頑張ろうが、あの灰色女は全てを否定してくる。自己効力感などないに等しかった。

 

「お前は気高さを失った。それゆえ惨めったらしく吠え面をかいて、自分がぶれてしまったのだ」

 

 ……うるさい。

 

「いいや、そもそもあんたはこれまで人に冷たすぎたんだ。だから周りの人から見放されるし、今でも人に優しくすることを知らない」

「おいそれは聞き捨てならないぞ」

「黙ってな」

 

 うるさい、うるさい。

 

「結局しょうもないんだよ、あんた」

「その点に関しては私も賛成だ。中途半端な醜態は見るに堪えない」

 

 うるさいぞ、お前ら!

 結局私は何をするべきだったのか、これから何をするべきなのか。

 目の前で私をおいて口論する両者を見る。今自分の何がいけないのか。

―そんなことは分かり切っている。ただ、目を背けていたにすぎない。

 

「お、どうした」

「ついに改心したのかな。それで、どっちにするか決めt……。あぁ」

 

 こいつらも言っていたではないか。中途半端なのがいけなかったのだ。これまで貫いてきた一匹狼を自分の中で曲げてしまうのがよくなかったのだ。

 さっきから気味の悪かった私に向かって振り落としたこぶしは、すんなりヤツの体を貫いていた。出血は無い。ただ、穴が開いたところから、静かにそれは崩れていった。

 一匹狼はにやりと笑った。

 

「おお、お前もやっと分かったか。これで私についてくる気になッ、……どういうことだ」

「勘違いするな。”私”は一匹狼だ。馴れ合いをするつもりはない」

「きっと後悔するぞ」

「その覚悟の上だ」

 

 いつの間にか生えていた爪と牙で、虚勢ばかりの犬畜生を引きちぎる。すぐにそれは喋らなくなった。なんだ、死んでしまえばちっぽけな存在に過ぎない。

 

 一匹狼は孤高の美しさ故そう呼ばれる。

 かつてのリンドン・スコートはもういない。

 毛並みの美しい獣がその場を去った。




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