そのときの作者の感想としては「えっ、fallout世界のパソコン、低スぺ過ぎ⁉」です。テレビが白黒な時点で家電はあまり発展していないんだなーとは思っていましたが、そこまでとは…。
一応MODUSに必要なスペックとしてはスパコン並みのものを想像していた身としては、仰天です。
「役立たずじゃないもん…ボランティア精神溢れるレスポンダーなだけだもん…」
放射性物質が入っていることを表すハザードマークが描かれたドラム缶の上で体育座りをするのは、自分の友人の事柄なのに力になれないと烙印を押された76だった。
最初に言っておくが、76は決して悪くない。76がトレセン学園に来てからまだ一月も経っていない…つまるところ給料日がまだ来ていないため、エアシャカールが期待した役目を果たすことができなかっただけだ。初任給で必要部品がすべて買えるかはさておき、これは単純に時世が悪かった。
加えて言えば、あの後76は十分に努力していた。76は生粋のアパラチア人であり、
ともかく真っ当な手段では稼ぐことができないと察した76はうちひしがれていた。
「友人であるあなたに、私から一つ、建設的な意見があります」
76に失望したエアシャカールがparcaeの予備パーツと余っていたパーツ、そのほか諸々を組み合わせて作った間に合わせのノートパソコンに移されたMODUSはインターネットに接続して入手した情報から一つの計画を作成し76に提案した。
「銀行強盗はダメだぞ。金塊を奪取した経験はあるけど、それは大義名分があったからで…」
「承知しています。Vault79の際はあなたを逮捕する公的機関が機能を停止していましたが、現在我々がいる日本では世界でも群を抜いて優秀な警察が機能しています。私が提案するのは、あなたも聞いたことがあるビジネスです」
「『綺麗な水』*1商売?」
「違います」
ノートパソコンのモニターにMODUSが映し出したのはウマ娘たちがレース場で走る様子とそれに熱狂するファンたち。その様子を見た76は、噂に聞くあれを連想した。
「競馬に似てるなー。まあ走ってるの変異した人だけど」
「はい。どうやらこの世界では馬の代わりにウマ娘という変異した少女たちを走らせているようです」
「確か競馬って公営ギャンブルだよな? それで一発当てろってこと?」
レスポンダーのベルチバードに乗って行ったアパラチアの外で、76は既に競馬…を模したギャンブルゲームに触れている。本物の馬を知らないが競馬は分かるという76はウマ娘レースも同じだと思ったが、MODUSはそれを否定した。
「どうやらウマ娘レースは勝者や入着者に賞金が出るそうですが、観客が馬券を購入してそれを元に…とはしていません。レースやウイニングライブの入場料やグッズ収益で賄っているようです」
「ウイニングライブというのが何なのかはよくわからないが言いたいことは分かった。つまりウマ娘レースに競馬のシステムを導入してその元締めになれということだな」
「ご名答です、友人。そしてこれがそのシステムです」
印刷室にあるプリンターを76が一度オーバーホールして得た知識を基に作った高性能プリンターがMODUSの入力した競馬システムを文字として出力する。ページ数が三桁を越えるその事業計画書を一瞬で見て理解した76は要点だけを摘まみだした。
「レース場付近でトレセン学園応援基金として馬券を販売。馬券の売上金のうち40%を配当金として還元、50%を学園に寄付。残り10%を職員の給料という体で回収。これでうまくいくのか?」
史実…つまるところ現実のJRAでは75%が払戻金に充てられる。そして国庫に納める10%を引いてもとの15%がJRAの手元に残る。MODUSが作成した計画書ではJRAよりも購入者のための割り当てが低い。それはつまるところ払戻金の額が小さいということを意味しており、資本主義の国の形骸で誕生した76は安定した売り上げを維持できるのか問題視していた。
いや、問題はそれだけじゃない。50%が学園に寄付され、10%が手元に残る。学園応援基金と銘打っている以上、JRAが国庫に納める率よりも高いのは仕方がないのかもしれない。しかしその結果が利益…いや、人件費やらなんやらを含めればまだ利益とは言えないそれが10%。自前でスパコン並みの性能を出せる部品を短期間で揃えなければならない76にとって、この割合は枯れかけた湖の上に浄水器を設置するようなものであり、即座に修正が必要な物だった。
近くにあったボールペンを使い裏紙に諸々の計算を始める76を見たMODUSは、それを止める。数値計算が得意な機械の目の前で数値計算をしだした76は苛立ちを抑えながらペンを置き、画面に浮かぶ満面の笑みの男を見る。
「ご安心ください、友人。これで問題はありません」
機械でありながら半ば人間的な特性を習得したMODUSは、柔らかい声色を精一杯作成し、76に聞かせる。忘れているかもしれない、いや76は実際に忘れているのだがMODUSはエングレイブの開発したAI。思考ルーチンにはその後の自己学習で変化したところはあれど開発者であるメンバーが根底を成している。史実よりも苛烈な資源争い、史実よりも緩々な倫理観、史実よりも貪欲な利己心。それらによって財を成した者たちが産みの親であるMODUSが、自己利益を削って学園への寄付金を確保するだろうか。
MODUSが刷った事業計画書を持った76が訪れたのは府中の寂れたビジネス街。駅が近い好立地でありウマ娘産業の心臓であるトレセン学園が同市にあるにも関わらず再開発がされる気配の無い無人ビル群の中を76は歩いていた。
求めるのは事業パートナー。発案者であるMODUSは現実に干渉する術がほとんどなく、76という人間も一人だけ。それに対しレース場の数は大きいところだけでも10。地方レース場を含めればそれよりも数は増え、さらに馬券を売る相手はそれよりも遥かに多い。つまるところ薄利多売をするにせよその多売のために必要な人手を確保したかった。
そして栄えあるパートナーに選ばれたのは
「株式会社ハピネスダービー。なんか胡散臭い名前だな」
MODUSの提示した相手企業は、どことなく不信感漂うものだった。perception15
名前を聞いた時点で76の中に培われた第六感は警鐘を鳴らし、詳しく調べるために開いたホームページは見たところで得られる情報は会社の位置しかなく、業務内容に一切触れていないところから怪しいどころか怪しいという概念そのものだった。
両手を挙げた76はハピネスダービーの名で検索を掛け、ウマッターやウマスタグラムといったSNSも目を通した。しかしそれらはどれもインチキ商品に付属するサクラレビューのような内容で、入社したから彼女ができただの宝くじに当たっただのというもの。これにはMODUSも苦笑いである。
「お邪魔しまーす」 caution
アポを取って来たというのに建物のエントランスには誰もいない。しかし誰かが見ているということを察した76はその場で待機した。
待つこと34分。気付いているのに一向に来ないという状況に会社員が全員シングルタスクの無能AIかと疑いを掛け始めたころ、ようやく奥の部屋から人がやってきた。
「初めまして、私は株式会社ハピネスダービーの社会福祉課。
「どうも、今回はわが社の呼びかけに応じていただいて幸いです。ギルマン興業のレーンです。本日は以前お送りした資料に基づいて御社と業務提携ができたら幸いと考えています」
「よろしくお願いします、レーンさん。早速奥の部屋でやるとしましょう」
76は骨迄の怪しさとハピネスダービーの不信感から偽名を使用した。骨迄は偽名に気付かず、76を案内した。Intelligence8
通された部屋は一般的な応接間だったが、備品は古くソファーは底部の革が破れて中のクッションが漏れていた。出されたお茶も、よく見れば色が悪く明らかに消費期限切れの物だ。
「それでレーンさん、事業計画についてなんですが…」
茶菓子の賞味期限が2年前であることに気付いた76がアパラチアかよと呆れ果てていたそのとき、骨迄が事業計画について書かれた紙を持って話し出した。
「わが社としては、この計画に大賛成です。社内会議で検討したところ、東京や京都レース場だけでなく地方のレース場にも展開することが認められました。そして入場者がこれだけいれはこれほどの額が学園に送れるとの試算です」
「それは素晴らしいですね。栄えあるウマ娘たちの未来がより輝くのが見えます」
「ええ。ええ。これからも是非我々ハピネスダービーをよろしくお願いします」
滞りなくハピネスダービーとの業務提携は76が想像していたよりもうまくいった。しかし同時に帰ってからMODUSに問い詰めなくてはならないことがあった。
それは骨迄が出した試算。仮の数値とはいえ76が出した物よりも額がずっと低い。76の暗算によれば本来の売り上げよりも60%少ない。それを堂々と相手に出してきたハピネスダービー、そしてそれを業務提携相手に選んだMODUS。信頼できる友人ではあるものの、流石の事態にMODUSの能力を疑い始めた。
「初めまして、私は株式会社ハピネスダービーの社会福祉課。
「なんだその貧弱な体は。雨粒にすら潰されそうだぞ」strength12
「セブンティシックスです。親しい者からはナナロクと呼ばれています」
「面白い名前ですね。親の顔が見てみたいです」charisma2