なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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ねちゃねちゃしてた。
ねちゃねちゃしてる。


 

 ◇◆◆◇

 

「すまないのう、勇者。当代最高の聖女は少しばかり『箱入り』でな……」

 

 ガタガタ、と箱が揺れる音がする。

 ほんのり湧いてくる嫌な予感を見なかったことにして、目の前の法王との話に意識を向ける。

 

「はぁ、まあ構いませんが……」

 

 ガタッ、と箱の中から音がする。

 続いてねちゃねちゃとした音が鼓膜に届く。気のせい気のせい。

 

「それで、聖女様はどちらに?」

 

 粘液音。とてもじゃないけど教会の清廉な雰囲気にあっていないBGMを見なかったことにする。

 違う違う、気のせいだと自己暗示をして。

 

「そなたの目の前におるじゃろう?」

 

 やっぱりね? 

 

 

 

 

 

 

 長年に渡る魔族との戦争によって、人類は追い詰められていた。数では勝っているものの、一人一人の武力に差が有りすぎる。

 それでも、と人類は足掻き続けた結果。

 

 王国と法国。その二つの国家以外、その全てが滅びてしまった。

 

 

 ──そんな世界に、『転移』してきたのが私である。

 

 

 

 百歩譲って異世界転移したのはいいとしよう。

 いや、全然良くないんだけど。

 でも転移した途端に、周りの研究者達が感激しながら魔力切れで息絶えていくのを見ていたら、流石に私から一方的に文句を言う気ではなくなっていて。

 

 それから三年間。王国の戦線を停滞状態に持ち込む為に色々させられた。そう、問題はそこなのよ。

『数で勝っているのが人類の長所』だからって、命を命と思わない非道な作戦を多数実行させられた。

 

 魔力を持った人間を突っ込ませて敵陣近くで自爆魔法を使わせる、なんてものは比較的平和よりのもので。

 死んだ兵士の脳や脊髄を触媒にした『魔力増幅装置』の作成とか、それを使った土地全体を数百年間不毛の土地にする魔法『腐敗世界』の使用だとか。

 

 少なくとも日本ではあんまり歓迎されない内容の作戦を実行させられ続けてきた。

 もちろん、逃げ出そうと思ったことだって幾らでもある。

 ただ、転移初期につけられた『隷属の首輪』によって私の行動の自由というのは奪われた。自由意思が残存しているのはあっち側としても予想外だったらしいけれど、『それはそれで使い途がある』みたい結論にはなったらしい。

 

 

 そんな身の上話はともかくとして、結果だけ纏めると。

 

 王国と法国は同盟を結ぶことにした。

 その際、ついでにお互いの『最高戦力』──もとい勇者(わたし)と聖女の結婚をさせて、結束力を固めようということらしい。

 

 ここまでの道中、『そもそも私も女性なんだけどな……』とか『聖女様なんて清廉潔白な存在、私とは全然釣り合わないでしょ』とか色々考えてはいた。

 

 ただ、その思考は全部無駄になった。

 無駄になったというよりは、全て上書きされたというか。それより濃い何かに押し潰された。

 

 多分、私の平和な結婚生活の夢とかもついでに。

 

 ◇

 

「それで……聖女様で、いいんだよね?」

 

 宿に戻り、背負ってきた箱を寝具の上に置いて。

 私は横に持ってきた椅子に座りながら、問いかける。

 

 箱から出てきた聖女様、もとい不定形生命体はヌチャヌチャと音を立てる。肯定なのか、否定なのかもわからない。

 転移の時に与えられた『言語チート』みたいなのは、残念ながら粘液生命体(スライム人間)には適用してくれないらしい。

 

 

「えっと……まず、会話の方法とか決めようか。文字とか書ける?」

 

 筆記用具を粘液の中に沈めてみる。

 すると、にゅーんと音を立てて伸びた触腕が筆記用具を掴む。これは……理解しているし、何なら出来るんじゃないか? 

 

 

 試しに紙を渡してみると、普通に文字が書ける。

『周りの人達が、書いていましたから。それで覚えました!』と極めて綺麗な文字で書かれた時には何とも言えない気分になったよね。そういうとこは聖女っぽいんだ、って。

 

「とりあえず……名前とか聞いていい?」

 

 この世界において名前は大事なものではある。

 具体的にどう大事かというと、本名を使った呪いや魔法は威力が増えるという観点で。私の召喚を主導した国王も名前によって呪殺されてたし。

 

 まあ、そんな世界ではあるけれど。

 一応結婚相手ではある。望んでるか望んでないか、というのはもう置いておくとして。色々と自暴自棄になっていたからか、名前ぐらい良いかという気分になっていた。

 

 私の言葉に反応して、目の前に文字列が書かれた紙が置かれる。

 

『S-A023736-8。聖女(Saint)だからでしょうか?』

 

 おっと、猛烈に嫌な予感がしてきたな。

 これが名前とか言いたげに、粘液は主張してくる。

 

「これが名前……?」

 

『はい!』

 

 そうらしい。さて、どうしよっかな……

 下手に名前がないよりも困る展開になってきた。

 

 S-A023736-8ちゃんが蠢いている様子を横目に、私は名案を思い付く。

 

「じゃあ……ミナミって名前とかどう?」

 

 S-A02373(ミナミ)6-8──なんて、何も考えていない命名ではあるけれど。とりあえず私は結婚相手を識別番号みたいなもので呼びたい性癖ではないので。

 

『ミナミ……ですか。ありがとうございます、とても嬉しいです!』

 

 ぴょんぴょんと跳ねる液状生命体(けっこんあいて)

 何か一周回って可愛く見えてきたな……

 

『貴女の名前を、聞いてもいいですか?』

 

 まあそうなるよね。

 私が一方的に名前を知っているというのはアンフェア。

 

「私の名前は──」

 

 正確には、本名ではないけれど。

 正しくは、この世界(・・・・)における名前ではあるけれど。

 

「S-A023736-9。よろしくね、お姉ちゃん?」

 

 そして一個、残念なお知らせ。頭文字のSは聖女(Saint)ではなく。

 ただの、奴隷(Slave)番号だったりする。

 

 

 

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