なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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かちゃかちゃしてる。

 

 ◇

 

 やあ、気怠げ勇者ことS-A023736-9だよ。

 

 たまには、安らかな休日も悪くない。

 常に何かに追われ続ける人生は、もう十分満足したからね。本当に、心も体も休まらない。

 人類に追われたり、厄災に追われたりね。

 

 

『ノースちゃん、誕生日おめでとうございます!』

 

「ありがとね」

 

 苺のショートケーキをつまみながら、拠点でささやかな誕生日パーティーが行われる。

 そもそも、この世界に誕生日を祝う文化なんて当然のように存在しない。太古の奇祭扱いで残存はしてるけれど、そんな他人を祝うなんて高尚な精神の持ち主は既に絶滅しているものでして。

 

 ついでに、人生で初のお酒を味わいながらそんなことを考える。

 今日を迎えたことで、私も飲酒して大丈夫な感じの年齢になってるから。この世界でそんなこと気にする人いるの? なんて話題をしてはいけない。

 なんなら、そんな法律を作れるような組織が絶滅危惧種なんだから。

 

『ノースちゃんは夢とかあるんですか? あ、ささやかな奴ですよ。世界滅亡とかじゃなくて!』

 

「うーん、平和な結婚生活とかかなぁ。色々と無理な条件が積み重なってはいるものの、なんだかんだそこに戻ってくるのかもね」

 

 散々色々とやらかしてる私が、夢を語る資格はないって意見には大賛成。ただ、身内で話すことくらいは許して欲しい。

 この世界で弱みを見せるというのは、それこそ搾取か利用の開始地点にしかならないから。

 せめて、ミナミといる間くらいは……ということで。お目こぼしを願いたいところ。

 

『え!? 私との結婚生活、嫌でしたか!?』

 

「平和なって形容詞が消し飛んでることを除けば、文句ないんだけどね」

 

 ほとんど毎日魔族や人類を処分する生活は、どう天地がひっくり返っても平和という扱いにはならない。

 一時期ほど地獄ではないものの、多分日本視点とかでみると全然この世の終わりなんだと思う。

 いやまあ、そもそもこの世界は常に終わりみたいなところあるんだけどね。

 

『それじゃあ、魔族を滅亡させればもしかしたら、平和になりますか?』

 

「うーん、無理じゃない」

 

 根本的に。最早この世界の人類はもう救いようがない。

 一度道を踏み外した状態で固定されてしまっている以上、白亜紀の大絶滅みたいなことが起きない限り……なんなら、起きたとしても変わらない可能性が高い。

 

『ほら、魔王を殺せばもしかしたら良い感じになるじゃないですか!』

 

「…………そう、かもね。そうだと良かったんだけどね」

 

『大丈夫ですか?』

 

 普段の私なら、淀みなく言えたんだろうけれど。

 人生初のお酒というのと、ミナミが祝ってくれるせいで浮き足だっていたから。言葉として、出てくるまでほんの少しだけ時間が経ってしまって。

 

 流石に、そろそろいいかな。相手はミナミだし。

 

「まあまあ前、魔族の話をしたよね。魔王がいて、みたいな」

 

『そうですね。あの時  待ってください。ノースちゃん、どうやって詳しい魔族の事情を知ったんですか? 言葉、通じないですよね?』

 

 

 魔族は数が少ないからか、人間ほど大きな集団を作らない。魔王もいるけれど、厳格なルールも別にあるわけじゃない。ただ一番強い人が魔王って呼ばれてるだけだって(・・・)

 

 こんな言い方をしたのは、言葉の通じる魔族がいたから。正確には、魔族の事情にとても通じている──魔王がいたから。それと、相対したことがあるから。

 

 

 話は変わるけれど。

 どうして、人類が考え付くものを魔族が考え付かないと思ったのか。人類が出来ることを、魔族が出来ないと決め付けるのか。

 あれらは別に、野生の獣ではない。知性があり、感情も持っている。だから略奪もするし、搾取だって当然行う。

 

 今一度、考えて欲しい。

 どうして、『異世界から召喚する』なんて所業が人類の専売特許だなんて考えたのか。

 どうして、悪逆無道は人類の特権だなんて考えたのか。

 どうして、私たちは一方的に呼びつけられて酷使されなきゃいけないのか! 

 

「言葉は通じるよ。だって、私の会った魔王は『異世界転移者』だったから」

 

 勇者は全員、不思議と異世界人だけれど。

 全ての異世界人が勇者なわけじゃないから。全ての異世界人が、人類側とは限らないから。

 どうして、それなのに。彼女は魔王だっていうのに。

 

『ノースちゃん、大丈夫ですか? 酷い顔色ですよ』

 

「……ああ、うん。大丈夫。ちょっと感情的になっちゃって」

 

 魔王は、良い人だった。

 人類と魔族が共存出来るような方法を模索して、おおよそ五百年。精神が限界ギリギリまで磨耗するほどに、和平に精を尽くしていた。

 まず魔族を纏めあげようとして、失敗して。人類への嫌悪感を失くす方法を研究して、失敗して。

 世界を蝕む呪いを取り除こうと足掻いて、失敗して。

 

 和平を求めると全て失敗し、混沌を求めた瞬間にすごい勢いでそっちへと傾いていく世界に絶望して。

 

 だから、最終的に。

 彼女は自分の死(・・・・)で世界が何か変わればいいな、と願って。

 異世界から来た勇者である、私に一騎討ちを申し込んできた。

 

「まあ、要は魔王は私が殺したってこと。死んでも、何も変わらなかったよ」

 

 この世界に天国や地獄があるのかは、知らないけれどさ。

 ねぇ、何も変わらなかったよ。何一つ、この世界は変わらなかった。

 戦争も、厄災も、醜悪さも、不毛さも、変わらなかった。

 歴代で最も強く、最も弱い魔王は何も変えられなかったんだよ。

 

 だから、私はもう何もする気が起きていなくて。

 そんな時期に、政略結婚の連絡が来るものだから焦ったよね。

 

『魔王のこと、認めているんですね』

 

「宗教上ダメだったりする?」

 

『いいえ、私が嫉妬します! ノースちゃんを悲しませるなんて酷いですよ!』

 

 まあ、そういうこと。

 だから、異世界人による七つ目の厄災にして。最も新しい大災害は。

 数少ない和平を望むもの全てに対して致命的なダメージを与えた、異世界人の置き土産。

 五百年間この世界で足掻いた魔王が、命を代償に発動させても何も起こらない(・・・・・・・)。まさしく、何も。

 何をしても、何も変わらないという魔法(ぜつぼう)

 

 それが、“魔王の死”だから。

 

 

 

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