なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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ねちゃねちゃしてた。

 

 ◇

 

 さて。魔王撃滅者ことSlave-Amula:Astrk3736-9だよ。

 

 

 この世界には、不条理が満ちている。

 それは基本的に人間の悪意と絶望によって生み出されたもので。その悪意や絶望というのは、ある種偶然誕生したものなのかもしれない。

 

 最早、最初の悲劇が何なのかを知る人なんて何処にもいなくて。

 希望をもたらしてくれる人の足掻きも、根本的な原因も何もわからなくなっている──そんな世界でもある。

 

 つまり、この世界は此処から変わることはない。

 

 

『ノースちゃん、どうしましたか?』

 

 現在地は世界の中心。

 こんな言い方だと大層に見えるのかもしれないけれど、別に大したことはない。

 “終焉の境”が順調に端から崩壊させていくとすると、最後に残るのがこの場所というだけ。

 

 どん詰まりの世界、救いようがない世界の中心点。

 歴代勇者の全てが、自棄の果てに命を投げ棄てた転換点(ターニングポイント)

 

「ミナミ。粘液生命体の寿命じゃなくて、あなたの余命は大体何年?」

 

 思えば、法国が易々と最高戦力を寄越してくれる時点で疑わなきゃいけなかった。

 他国との政治的関係の兼ね合いとはいえ、最強戦力をそんなにすんなりと渡すはずがない。

 

 ミナミからの返答はない。

 

「答えてくれない? いや、別に答えてくれなかったとしても、私のやることは変わらないんだけどさ」

 

 “終焉の境”によって、狭くなっていく世界。

 それにともなって、他の厄災が発生する頻度というのも実は上昇している。

 雨足は強くなり、樹は蔓延り、灰は吹き荒ぶ。

 後世への継承は強大に、生誕は更に倫理観をなくし──変わらないのは、魔王の死だけ。

 

 どうやら最近、王国第三の都市が崩壊したらしいし。

 まあ法国第二の都市も崩壊してるから、似たようなものと言えばそうなのかもしれない。

 

『そんな気にすることじゃないですよ。ノースちゃんだって、最近もまた三回くらい雨使ってたじゃないですか。私としては、そっちの方が心配だったんですよ?』

 

 それは、はやく此処に辿り着きたかったからね。

 今更、たった三十年程度で躊躇しても仕方ない。

 

「大丈夫だよ。そもそも、私の寿命はどれだけ少なめに見積もってもあと十二万年あるから」

 

 三千倍(・・・)、なんてふざけた数字の意味。

 何もそれは異世界から来たという実績がそうさせているわけじゃない。

 この世界と、私の世界では時間の価値が違うだけ。

 あっちでの一年の経験は、こっちでの三千年だというだけで。だから、あっちの世界で余命が四十年あるということは──こっちの世界で余命が十二万年あることになる。

 

 そもそも、異世界転移者である魔王が五百年とか生きている時点で何となくバレるんじゃないかって思ってはいたけれど。

 

『十二万年ですか!?!? えっ!!!!』

 

「そ。だから安心していいよ」

 

 まあ、この世界で十二万年生きるってのはどうみても罰ゲーム……どころか、新しいタイプの地獄だよね。多分餓鬼道とかこんな感じなんじゃない? 

 

「それに対して、ミナミはあとどれくらい?」

 

『長めに見積もって、一ヶ月でしょうか』

 

「長めに見積もらないと?」

 

『三日、とか』

 

 はぁ、これだから本当に箱入りねちょっ娘は良くない。

 やっぱり焦ってここまで来た甲斐があったじゃん。

 これで到着前に寿命で死にました、なんて洒落にならなすぎる。私の人生史上最大の黒歴史になりかねない。

 

「はぁ、仕方ない。私は色々な肩書きを持っているけれど……その前に、ミナミの結婚相手でもあるから。結婚相手を護るのは、そんなに不自然なことじゃないでしょう?」

 

 それに、結婚相手の夢を叶えようと努力するのも。

 この世界で唯一出逢えた、まだ諦めていない生物。

 

『ノースちゃん? 何をしようとしているんですか?』

 

 “終焉の境”、“崩壊の雨”、“浸潤の樹”、“回帰の灰”、“継承の業”、“生誕の法”、“魔王の死”。

 この世界に遺された、異世界人の傷痕は七つ。

 

 魔王は『七つの大罪みたいだね。私が怠惰ポジションかな?』とか言っていたけれど。

 私は彼女の行動を怠惰の結果だとは認めたくないから、その枠組みじゃないと思っている。

 

「そんなの決まってるじゃん。私はあなたの勇者なんだから」

 

『どういうことですか!?』

 

 世界の中心に、箱を置く。

 それは奥底(なかみ)に希望が遺された箱。あるいは、絶望で包まれた箱。

 

「そういえば、前に死ぬ時は一緒に死んでくれるって話してたよね」

 

『そういえば、しましたね。もしかして、そういうことですか?』

 

 そういうこと。

 あの時は異世界からの召喚禁止、とか言ってみたけれど。

 今はそれより私利私欲に使いたい気分なもので。まあ、後続として異世界人が召喚された場合は、私を全面的に恨んでもらって構わない。

 結局、私もこの世界の人間らしく利己的に振る舞ってしまうことを。

 

 本当に申し訳ないけれど。

 私は、この世界(・・・・)の人間になってしまったから。

 全てこのままにするしかなかった。何も、変えられなくて、ごめんなさい。

 

 誰かに、なんて頼むのは私だとしても心苦しいんだけれどね。残念ながら、私の持っているリソースというのにも限界がある。

 

「でも、まだミナミは死なないよ。死なせない。死ぬのは、平和(・・)を見てからだから」

 

『ノースちゃん!? 説明してください! どういうことですか!?』

 

「まあ、大好きだよ。要は、それだけだから」

 

 

 さて、湿っぽい話はそこら辺にしておこう。

 勇者としての、一世一代の大仕事の開始なんだから。

 

 

 

「──『境の終焉(カース・プライマル)』」

 

 初代勇者の呪いを全て打ち消すことは出来ないけれど。

 それでも、侵攻を遅らせることぐらいは出来る。

 端から消えていく世界を、少しだけ延長させることぐらいは。

 

 

「『崩壊の雨(セカンド・カース)』」

 

 暗雲が立ち込める。巨大な積乱雲が、世界を包む。

 醜悪な天空を、圧倒的な曇天が覆い隠す。

 周囲一帯が、破壊されていく。

 街の残骸、荒廃した森林、悪趣味な邸宅が雨に流されていく。雨によって洗われていく。

 ここは、神聖不可侵なる土地だと宣言するように。

 

 きっと、この世界を壊したかったのだろう呪い。

 何が原因かわからず、とりあえず全てを選んだ破壊の呪い。

 私は、それを寿命と人類の過去を代償に振るう。

 

 

「『浸潤の樹(サード・カース)』」

 

 高く高く、誰にも手が届かないほどの高くへ。

 平面であり、端が削れている様子が見届けられる程度には、高く。

 雲を越え、地上が見えないほどの天空へ、私たちを運ぶ。

 

 建物を侵食する樹木は、何も人類や魔族を殲滅するものではない。だから、私やミナミには一切のダメージがない。

 

「『回帰の灰(フォース・カース)』」

 

 監視員をはじめとした、この現象を見ていた人に対しての忘却。

 誰がやったのか。誰を護ろうとしたのか。それが露呈するわけにはいかないから。

 

 

「『継承の業(フィフス・カース)』」

 

 もしも、後続がいたら。

 きちんと対抗する手段くらいは……最終手段くらいは、あげるから。

 私がこの一連の作業で使わない素材。生命維持に不必要な素材。その全てを継承しようじゃない。

 まあいなかったら、それに越したことはないんだけどね。

 

「『法の生誕(カース・シックス)』」

 

 人類最大の罪。

 長く苦しんでから滅びよ、なんて考えているうちは永遠に平和にならない。そりゃあ、当然のことだよね。

 とはいえ、前代勇者の気持ちがわからないでもない。

 だから、時間(・・)は必要にする。妥協してあげようじゃない。

 

 ……これで、倫理観が少し育まれてくれると嬉しいんだけれどね。どうなるでしょうって感じ。

 

 

 

 さて、それじゃあ。

 魔王とは何なのか。その正体は魔族の王なのか。

 いいや、違う。私の知っている魔王はそもそも、異世界転移者で──恒久的平和を望む人類であった。

 ならば、むしろやって来る度に災害を巻き起こしている勇者のほうが世界にとって悪しき(・・・)存在なのではないか。

 

 人王や魔王よりも力を持ち、平和を望む聖女を連れ回している私こそが真の『魔王』なんじゃないか。

 

 なんてね。要は、これは言葉遊びでしかなくて。

 一応は私と話が噛み合った人の意思を、ちょっと継ぐ風にしたかっただけで。

 

「──“魔王の死(セブンス・カース)”」

 

 私は、この世界に関与しない。

 積極的に救いも、滅ぼしもしない。

 ただ、座視するのみ。

 ただ、樹の上から世界を観照するのみ。

 

『ノースちゃん、これどういうことですか!? すんごい高いところに来ちゃってますよ!!』

 

 当然、“雨”や“灰”は既に解除してある。

 別にあんなの続けてても仕方ないからね。

 

「その通り。此処なら、誰も見えないからね。だから、私は待つよ。平和が来るまで。この世界が変わるまで」

 

 足掻いて変わらないのなら、足掻かない。

 この世界が偶然、こんな修羅となったのだから。

 奇跡的に。偶然、平和になる可能性だって……ある。きっとね。

 

『でも、私は見れませんよ? そんな数日で出来るものじゃありませんし』

 

 まったく、これだからミナミは。

 

「今から、ミナミの時間を止めるから。解除方法は、私が触る(・・)こと。どう?」

 

 私は、待つよ。世界が平和になるまで。

 土台は作った。基礎は建てた。障害は優しくした。

 だから、あとはもう待つだけ。

 

『それ。先に“終焉の境”の時間制限が来たり、ノースちゃんの寿命が来たりしたら、永眠になっちゃうじゃないですか。文字通り箱の中で!』

 

 うーん、困ったことにそこは変えられないんだよね。

 待つなんて手段を取る時点で、変えられないところ。

 

「そこは、私を信じて欲しいとしか言えないかな」

 

『じゃあ信じますよ。他ならぬノースちゃんの頼みですからね!』

 

 それならよかった。

 信じられた私は、強いよ。勇者ってそういうものだからね。

 

「──じゃあ、もういいかな」

 

『あ、最後にひとつだけ!』

 

「どうしたの?」

 

 珍しく、慌てて書いたのか文字が乱雑なものになっている。

 それでもきっちり読める文字なんだから、元々の文字が綺麗な人は羨ましい。

 

『言い忘れてました!!』 

 

 なにを? なんて思ってしまったけれど。

 その答えは、案外簡単なもので──同時に。とても嬉しいもので。

 

『私も、ノースちゃんのことが大好きですよ!』

 

 なら、良かったかな。

 これで文字通り十万年以上待てる気がする。

 

 ──どういたしまして、私もだよ。

 

 そんな言葉を流してから。

 

「世界よ。このクソッタレな世界よ。私は、待つぞ。貴様が地獄を好むのなら、私はその飽きが来るまで、永遠に待ってやる。千年、万年、十万──それ以上ですら、待ってみせるぞ」

 

 その後があるかは、わからない。

 現在のこの世界が地獄だということは、厳然たる事実でもある。

 それでも、私は待つ。

 

「嫌なら抗えよ、世界。私は希望を信じるぞ。ミナミみたいな人がいると。きっとこの世界も、いつかは変わってくれると」

 

 言葉に出して、強がってるだけかもしれない。

 それでも魔法は組み上げられていく。代償は吸いとられていく。

 

 この箱入りねちゃっ娘が望んだ夢の世界。

 現実という悪夢から醒められると信じて。

 

「私はこの世界が死ぬほど嫌いで。この救いようのわからないゴミみたいな世界が、本当に嫌いで。だから、これが私からの呪い(・・)だよ」

 

 がんばって、とミナミから言われたような気がして。

 

 

「──“箱の隔絶(Curse・Last)”」

 

 

 いつの日か、最後になることを信じて。

 今は呪い続けようじゃないか。

 いつか、続く必要がなくなると願いながら。

 

 

 おやすみなさい、ミナミ。

 

 

 私は、待っているから。

 

 

 

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