なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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『善意の模造品』
『二回目の悪意』


 ◇◆◆◇

 

「申し訳ないんですけど、王様。私の伴侶である聖女は少しばかり『箱入り』でして……」

 

 ガタガタ、と箱が揺れる音がする。

 出来れば変なことにならないで欲しいと、ここ数万年程度信じてもいなかった神へ祈りを捧げつつ、目の前の国王との話に意識を向ける。

 

「まあ構わないが……その聖女様とやらは何処に?」

 

 ガタッ、と箱の中から音がする。

 続いてねちゃねちゃとした音が鼓膜に届く。

 それは恐らく数メートル離れたところにいる国王の鼓膜にもばっちり届いている。

 

 粘液音。とてもじゃないけど王城の雰囲気にあっていないBGMを見なかったことにする。

 違う違う、敵対的なスライムじゃないよ、という雰囲気を醸し出してから。

 

「えっと……この箱の中、とかかなぁ」

 

 やっぱり? という表情を浮かべる国王。

 そして、マジでどうしようという表情を浮かべている臣下の皆様方。さて、どうしたものか。

 

 実はそっちと同じ……どころか、それ以上に私も困り果ててるんだよね。気分としては。

 

 

 

 

 

 

 

 長年に渡る魔族との戦争によって、人類は追い詰められていた。

 数では勝っているものの、一人一人の武力に差が有りすぎる。

 それでも、と人類は足掻き続けた結果。

 王国と法国。その二つの国家以外、その全てが滅びてしまった。

 

 

 ──そんな世界に、『転移』してきたのが数万年前の私である。

 それで寿命三千倍パワーというチートを盾に、紆余曲折ドタバタ冒険劇を繰り広げてようやく世界が平和になったと思ったら、もう一度異世界転移である(こんな目にあってる)

 

 此処まで来ると、人類どうこうっていうより異世界転移とかいう概念を全世界から排斥したくなってくる気持ちがかなり強くなってくるよね。

 

 

 というわけで、改めて。

 

 

 

 ──やあ、異世界転移者(・・・・・・)ことS-A023736-9だよ。

 

 

 やあ、異世界転移者だよ。二回目の異世界転移。

 本当にどうしてこうなってるんだろうね。気付いた時は本気で発狂するかと思ったけれど。

 あの世界で善性の塊(ミナミ)が生まれるなんて奇跡──一回目があるなら、二回目もきっとあると思う。きっとね。とか考えていた自分が馬鹿みたいだよね。

 考えられる限り最悪に限りなく近い形で『二回目』が実現してる。

 

 まだ、現地(あの世界の)住民による未開の地面への転移魔法なんかの方が千倍はマシだったと思う。

 

 二回目の異世界転移であるという事実に気付いて、真っ先にしたことは絶望だった。ようやく上手く回る雰囲気が出てきて、ソフィアやアステルみたいな色々会話出来そうな人を見つけたところで、この仕打ちかと。

 

 いや、確かに私はあんな世界からさっさと逃げたいだのミナミ以外滅んで欲しいとも思っていた。かなり本気で思っていたけれど、よりによってあのタイミングで……? 

 

 次に確認したのは、命よりも大事な()が一緒に存在するか。

 これがなかったらいよいよ存在不確かな異世界転移(神隠し)主犯ぶん殴りツアーがこの異世界で開催されるところだったけれど、不幸中の……本当に不幸の幸いにも、伴侶()は一緒に付いてきてくれていた。

 

 というわけで、三つ目にしたことは箱の開封。

 まさかこんな成り行きで開封することになるとは思わなかったけれど、流石に開封しないわけには行かなかったから。

 

 

 

 

「──“隔絶の箱(Last・Curse)”」

 

『お帰りなさい! あなたのパートナー、ミナミです!』

 

 私の体感時間で七万年と端数(六百八十五年)

 ミナミの体感時間では一瞬未満の世間からの隔絶が終わり──パートナーの第一声はとても有難いものだった。

 この状況でなければ、特に。

 

『綺麗なお城ですが、ここは何処ですか? もしかしてノースちゃんが世界の主になっちゃったりしましたか?』

 

 そうだったらどれだけ幸せだったか、と前置きしてから事実を伝えて。

 一応、七万年間何していたかは誤魔化しつつ。

 

 私が話し終わって、数秒間続いたのは痛い静寂。

 

『……それ、酷くないですか? 幾らなんでも許せません。ノースちゃんを何だと思ってるのか理解出来ません』

 

 スライムでも怒髪天を衝いてる様子って、端から見て──言葉なしでも──わかるものなんだ、という謎の感慨があった。

 当事者である私はといえば、そのくらいのことを考えられる程度には一周回っているとしか言えない。

 怒りも呆れもなくなって、事実を客観的に受け止めるフェーズ。

 

 そんなやり取りをしてから、転移場所──王城広間(・・・・)から謁見室へと移動して、さっきの会話という流れ。

 

 

 まあ身の上話はともかくとして、結果だけ纏めると。

 

 異世界転移させられたから、七万年くらい耐えて何とか希望の兆しが見えるくらいまで平和に向かっていたタイミングで、パートナーの粘液生命体と共に再度異世界転移させられた、というところ。

 

 

 なんかもう、此処まで来ると全部投げ出したくなってくるよね。

 

 

 ◇

 

 というわけで、現在。

 案内された豪華な部屋に、ミナミと一緒に存在している。

 どうやら、王国サイドも私達をどう扱うか困っているらしい。前の世界と違って、私達を召喚しようと思って召喚したわけじゃないらしいから、尚更扱いに困るとのこと。

 加えて、転移してきた人の隣にいるのが粘液生命体ともなれば、その警戒は妥当……と言いたいところだけれど。

 

 正直、そんなことより一番気になっていることはこの世界の倫理観(・・・)の程度だったりする。

 地球程であれ、なんて贅沢は言わないから……せめて、せめて七万年前のあの世界よりは良くあって欲しい。

 本当に、お願いだから。

 

『それで、どうしますか?』

 

 七万年ぶりのねちゃねちゃを眺めながら、今後の身の振り方を考える。

 この世界の倫理水準がわからない以上、年中警戒しなきゃいけないのは事実として……今の私はほとんど資源(リソース)がないんだよね。

 

 おおよそ七万年前、『継承の業(フィフス・カース)』を使った影響で手持ちリソースは、下界に降りてからの分しかない。

 時間的にはそこそこ長いとはいえ、いつぞやと違ってかなり平和めだったから稼げていない……という表現が正しいのかわからないけれど、ほとんど稼げていない。

 

 だから、万が一の時はミナミに頼るしかなくなる。

 

「この国が私達への対応を決めるまで、ちょっと暇だから……そうね、折角だし昔話でもしようかな」

 

『ノースちゃんの七万年耐久話ですか?』

 

 諸事情につき、それはちょっとナシ。

 世間で『灰神』誅滅なんて呼ばれていた出来事とかは、確かに私がやったけれど……私も完璧に状況を理解しているわけじゃないから。

 

「いいや、紆余曲折あって知ることになった昔話。私に関係ない──とは言えないぐらいの距離感の話だね」

 

『歴史ですか? 私としては、戻れなさそうな世界の歴史を知っても仕方ないと思うのですけれど』

 

 まあまあ、そう言わないで。

 結果的に私があの時代に召喚された遠因にもなっていたわけだから。

 

「それに、一番の理由として……ミナミの強化(・・)にも繋がるから」

 

 相対的に私の弱体化には繋がる──というか、私が相対的にいらない子になる、という副作用はあるんだけれど。

 

『わかりました。ノースちゃんが私の為だと言ってくれるなら、聴いてあげますよ』

 

 ちなみに、個人的に一番不安だったのが七万年の経過で私が変わっていないかっていうところ。

 私自身としてはなるべく変化がないように生活していたけれど、知らない間にミナミの好みから外れていたらどうしよう、という不安があった──なんて話は置いておくとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、話す前に。もう一つだけ良いお知らせがあるかな」

 

『どんな内容ですか?』

 

 他でもないミナミのこと。

 私も関係するけれど、ミナミにとっては一大事だから。

 

「異世界転移ボーナス──もとい、寿命三千倍(・・・・・)ボーナス。今回もあるらしいよ?」

 

 

まあ残りが三千倍、ではあるけどね。

 

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