なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど 作:S-A023736-9
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やあ、異世界渡り歩き系勇者ことS-A023736-9だよ。
二度目の異世界転移とかいう許されざる事態が発生しているけれど、恋人……伴侶とのゆったり時間は大事にしたい主義なので。
部屋で隅っこぐらししている蜘蛛もファンタジー風情の一個だと思ってね。
『ちなみに、その昔話とやらはどれくらいの長さですか?』
「大体……寝る前の時間を使うことになると思うから、今日いれて九日分くらいかな」
流石にそれだけあれば終わるでしょう、という予想でもあるけれど。
気軽に聞ける……ものかはさておき、軽い物語的な認識で聞けばいいんじゃない? 偶然にもそれが書いてあった日記帳もそういう文体だったわけだから。
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世界の中心、或いは最終存続点。
とてつもない分量の憎悪と憤怒が渦巻く場所に、私と彼女はいた。
「貴様が──お前が、『賢者』か」
「如何にも。私こそがあなたを陥れた『賢者』よ。オクトルム戦役、オペレーション:D、黒熱疫争、死災。それら全ては私によって発案、そして実行されたもの。恨むならば、恨め。憎むのなら、憎め。今更、その程度で私は心持ちを変えたりしないのだから」
──『冒涜王』。
魔法の名が世界の中心に響く。
世界に轟く悪名。死した存在を操作する、冒涜の化身。
死後の安寧を許さず、生前の安楽すらも拒絶する悪辣たる賢者。
数百万の人間を死に至らしめ、数千万の人間を不幸に陥れた人類史上最低最悪の『賢者』。
諸悪の根源は。絶命させるべき極悪人は、『勇者』の目の前に。
「殺したいのならば、殺すがいい。私の撒いた悪意の種は既に終息見えぬところまで広がっている」
数々の国を崩壊させ、輝かしい栄光の全てを穢した大罪人。
それが、私である。それが、『賢者』である。
夥しい数の屍が顕現する。
地を埋め尽くし、血と腐敗臭にまみれた──まさしく、血塗られた世界の中心。
『勇者』と『賢者』が相対する。
「──ッ、『
「まあ、本当に一対一だと思ったそっちの負けだけど」
最後まで馬鹿正直だったから、と悪態をつく。
だが、『崩壊の雨』という魔法は確かに発動され。
暗雲が立ち込める。巨大な積乱雲が、世界を包む。
天空を、圧倒的な曇天が覆い隠す。見上げる事も許されないほどの大雲。
周囲一帯が。死体で構成されていた大地が、破壊されていく。
それは、『勇者』を狙っていた刺客──正確には。その役目を終えた人達を含めて。
丁寧に心臓を穿たれた『勇者』は膝をつき、血を吐く。
「……ッ、どこまでも……卑怯な……!」
「覚えておきなさい、これが『賢者』よ。嘆き、苦しみ、そして──この死災の終わりを喜びなさい。これら全ては、あなた一人を排除する為の施策だったのだから」
「……どこ、までも。この世界は、クソッタレで……っ! なんで、私なんかが召喚されたのよ……!」
そんなこと、知らない。
偶然、不運、運命。
それらの言葉は誰もが説明不可能な隙間の神を肯定する言葉でしかないから。
「全員……苦しんで、苦しんで。死にたいと喚いてもなお生きろ。生きて、苦しめ。
とびきりの怨嗟。そして、極上の憎悪が濃縮された声色で。
世界を穢す呪いは放たれる。
「────“
こうして、世界に六つ目の呪いが刻まれた。
◇
──それは、悪夢でしかなかった。
朝っぱらから最悪な気分。
加えて生憎の悪天候ともなれば、下がりきった気分が下限を突破して吐き気を催すこともある。
今でも思い出すだけで、胃と頭が激痛に苛まれる。
無力感と、後悔とかで。
「──『賢者』よ。何か欲しいものはあるか?」
「何でもいい。出来れば人材がいいけれどね」
いつも通りの光景。
『賢者』なんて呼ばれているけれど、所詮は王国上層部にとっての体のいい使いっぱしり。
精々が高めで汎用性が少しだけ高い駒、というところ。
この世界は、基本的に人を利用することと疑うことで構成されている。
私だって、先代『勇者』の遺した書物を読んでいなければ私達に欠けているものが“良心”や“信頼”だって名前をしていることも気付けなかったんだから、文句は強く言えないんだけれど……まあ、そんな世界。
長年に渡る魔族との戦争によって、人類は追い詰められていた。数では勝っているものの、一人一人の武力に差が有りすぎる。
それでも、と人類は足掻き続けた結果。
現在。王国と法国という二国を残し、他全ての国家は滅亡してしまった。
まあ、大国のひとつだった帝国を滅ぼしたのは『賢者』だけれど。
火の海と食糧飢饉、疫病と内乱──末期の地獄を造り出したことへの責任は、『賢者』という存在にある。
まあ正確には、『勇者』を殺す為に帝国を滅ぼしたんだけれどもね。
「ふむ……そうだな。念願の『勇者』殺害が出来たのだから、褒美のひとつでも取らせるのが筋というところか。なら、所望通り人材を送ろう。
別にあの部屋、広いわけじゃないから。どうせ食糧配給の分量とかも変わらないんだから、ただでさえ食べる分が少なくなるし。普通に餓死の危険性が上がる。
「ああ、後。今後お前は自由だぞ? 自らの暮らしを見つけるといい」
「えっと……それって、家を追い出されるってこと?」
「当然だ。『勇者』を殺したんだから、もう用済みだろう?」
さて、どうしようかな。
『勇者』殺害という大仕事を終えた翌日、家なき子にジョブチェンジしてしまった。子って年齢ではないけど。
「一時間後に家に残っている私物は公共物になる。それまでに退去せよ」
しかもそんな急激に。
まあ逆らう気力とかないけれど……もうちょっと何とかならなかったのか。いいけど。いいけどさぁ。
「『大賢者』よ、ご苦労であった」
『賢者』から『大賢者』になっても仕方ないでしょ。どっちにしろ一時間後には無職なんだから。
今の私は魑魅魍魎が蠢く王国で、『賢者』と呼ばれている。
というか、恐らく今の世界で『賢者』といったら私以外を指すことはほとんどない位の知名度を持っている自負すらある。
それほど、『賢者』が行った悪行というのは世界中に知れ渡っている。
曰く、子供の生き血を啜り寿命を得る異形の化物であるとか。
曰く、数百万の人間を殺戮してもなお満ち足りぬ快楽殺人鬼であるとか。
曰く、人類の未来を背負う『勇者』を殺した大罪人であるとか。
順番に評するなら──真っ赤な嘘、前半は一部正解、ほぼほぼ本当、となる悪名、
まあこれ以外にも酷い噂が、それこそ“『賢者』が撒き散らした疫病”くらいの速度で広がっていっている。
普通に考えて、そんな輩を世間に離したら大惨事が起きるに決まっている。
選択肢はふたつ。これまで以上の殺戮が始まるか、それともこれまでの報復とばかりの殺戮解体ショーが始まってしまうか。
ちなみに、私は後者だと思っている。
どうしてか。
解答は単純明快。
──『賢者』の行った罪。
そのほとんどは私は関係ないのだから。
数百万人を殺せる悪辣な思考力も、大国を滅ぼせる計画力も、一騎当千を実現出来る魔法も私は持ち合わせていない。
ただ、『大賢者』だとか『冒涜の賢者』と呼ばれただけの人間に過ぎないのだから。
当然。野放しにされた後、その結末は考えるまでもない。
まあ。別に一般人だったとしても追い剥ぎや殺人被害には逢うと思うけれど。
この世界の治安は──まあこの世界自体もだけれど──基本的に終焉一歩手前だから。
本当に──『善』って何なんだろうね。
私にとっての、永遠の課題かもしれない。