なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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ぬちょぬちょしてる。

 

 ◇

 

 どうも、『異世界転移勇者』ことS-A023736-9だよ。

 紆余曲折あってS-A023736-8ちゃん、改めミナミちゃん……ミナミお姉ちゃんの名前が決まったところで。

 

 

『なら、私も名前をあげたほうがいいですか? お姉ちゃんとして!』

 

 わざわざ『!』と書くあたりに、かなりテンションが上がっていることが見て取れる。

 そんなに名前が貰えること、嬉しいかなぁ。私の場合、地球での名前があるから感覚が違うだけかもしれない。

 もしくは、『名前がない人の感覚』がわからないだけって説。

 

 ま、どっちでもいいんだけどね。

 

「うーん、別にどっちでも……あ、いやミナミお姉ちゃんが付けたいって言うなら別だけど」

 

 見るからに萎れていく液状生命体のせいで、本心は喉元あたりで塞き止められる。代わりに出てきたのは『どっちでもいいよ』という濁したもの。

 

『どうして私の名前をミナミにしたのですか? 妹ちゃんもS-A023736部分は同じですよね』

 

 妹ちゃんって。いや、別にいいんだけどね。

 管理番号的には明確にそっちのほうが姉ではあるし、私がお姉ちゃんって呼んだせいでもあるんだから。

 まあその結果血の繋がっていない姉妹による婚姻とかいう、色々込み入り過ぎな状況になってもいるんだけど。

 

「それには海より深くて山より高い理由があってね」

 

 なんか上手い感じに影武者になってくれないかな、なんて思考がないとは言えない。王国で活動する時の偽名として『ミナミ』って私も使ってたから。

 なんか……こう、上手く色々なもの擦り付けられないかなって。

 

 まあそんなこと言われたとしても、不和の原因になるだけだし。加えて理由としてはそれ以外にもあるわけで。

 

「ほら、可愛いからいいじゃん。ミナミって響き」

 

 漢字にするなら、多分(ミナミ)南美(ミナミ)とかなのかな。

 

『じゃあ、妹ちゃんはノース(・・・)でどうですか? 02部分から取る感じで。それか()ース・ナイン(・・)でノインというのもありますけれど』

 

 ナインとノイン、どっちも9じゃん。

 

「まあ…………どっちでもいい、けれど」

 

 思いがけないところでノース、なんて出てきたものだから少しびっくりしてしまった。まあノースとノインだったら流石にノインのほうを選んでくれるでしょ。名前的にも。

 

『じゃあ私達はノースとミナミですね!』

 

 何故か、南北が揃った。

 選ばれたのはノースの方だったらしい。どうして? 

 ……どっちでも良いと言った手前、引き返すことは出来ないかぁ。

 

「じゃあノースということで。よろしくね。ミナミおね──いや、結婚相手なんだよね」

 

『子供はイーストかサウスでしょうか? 三人以上子供が生まれたらどうしましょう?』

 

 いやいや、そういう話じゃなくて。まずなんで一捻りした上で方角を被らせるんだよ、とかじゃなくて。

 なんかこの液状生命体、聖女の癖に無駄に色ボケしてない? 

 

『ノースは子供とかあまり欲しくないですか?』

 

 私が否定的な反応を示したことを察したのか、ミナミは紙の黒い面積を増やしていく。

 

 いやまず、子供が欲しいとか欲しくないとかじゃなくて。

 前提条件として同性……というか、同種族のようには見えないんだよね。いたって常識的な考えを持っている私からすれば、子供を作れる間柄じゃないように思える。物理的にね。

 

「言っておくけれど、私は産めないよ? 持病的なあれそれで」

 

 正確には王国の実験的あれそれのせいで。

 生命を誕生させる臓器、なんて魔法の触媒に使えそうなものが健常な状態で残っているわけがない。しかも異世界転移者とかいう身元不明人(よくわからん人)のものなら、尚更。

 

『治せるか試してみてもいいですか?』

 

「いや、無理に決まって……そういえば聖女だったっけ」

 

 ちょっと聖女以外のインパクトがデカすぎて、完全に忘れてた。自分のことも勇者だと思ったことないし、それと同じ部類。

 

「ちなみにどうやって治すの?」

 

『触手を伸ばして、患部に触れる感じです!』

 

 ねちゃねちゃ、ぬちょぬちょ。

 粘液聖女(ミナミ)の触腕がうにょーん、と伸びる。

 どろり、と垂れる粘液。

 

 そういえば聖女である前に、ねちゃねちゃ箱入り娘だった。

 

「うん……ちょっと、遠慮しとこうかな? またの機会ってことで」

 

 大分良心とか常識、羞恥心あたりは磨耗してきたけれど、別に0になったわけじゃない。ちょっと社会的にも精神的にも死にそうな施術を受けるわけにはいかない。

 

 残念そうに萎れてたって対応は変わらないからね。ノーと言える日本人にはなっていきたいところ。

 

「そういえば、この箱……なんか新しいの買ったほうがいいよね」

 

 2ミリくらい気まずくなった空気を入れ換える為。

 言い換えるならば話をそらす為に、箱入り娘の入っていたボロボロの箱へと視線を向ける。

 

 木製の箱で、粘液聖女がしょっちゅう中で暴れていたからかかなりボロボロになっている。まだ穴はないものの……特に内側はあんまり衛生的にもよくないでしょ。

 

 まあ取り敢えず燃えるゴミにでも出すか、と部屋の扉側に移動させて──触手が指に触れる。

 

「っ……どうしたの?」

 

『私の外皮は箱なので、その箱も含めて、私です! そっちにも痛覚とか触覚ありますよ!』

 

 え、マジで言ってる? 本当に? 

 

 私は中のぬめりを取る為に魔法で作った雑巾を取り落とす。

 いやいや、冗談キツイって。

 

 箱入り娘どころか箱ごと娘じゃん。

 というか箱が外皮なら、なんでこの聖女は内臓だけで動き回ってるんですかね。

 

『流石に中身を拭かれるのは恥ずかしいので、やめて欲しいです……』

 

「なんかごめん」

 

 なんか、ごめん。色々と。

 人類の多様性とかこの世界の地獄さ、舐めてたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに他の聖女もこんな感じなの?」

 

『私は人間視点で生命として認識出来ますから、普通の方ですよ』

 

 やっぱこの世界の人類、魔族に滅ぼされたほうがいいんじゃない? 

 

『そもそもノースちゃんがさっきまでいた法王城も──』

 

「あーっ、聞きたくない聞きたくない。なんのことかわからないなー」

 

 もう終わりだよ、色々と。

 

 

 

 

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