なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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生誕の法(シックス・カース)

 ◇

 

 ──これが、“生誕の法(シックス・カース)”か。

 

 

 予期してはいたけれど、思った以上の大混乱になっている。

 

「『冒涜王』!」

 

 奴隷ちゃんを抱えながら、森の中を走る。

 追っ手を塞ぐ為の死体を散らばし、素材剥ぎにでも時間を使ってくれればと思考し──うーん、やっぱり駄目か。

 

「『賢者』様、私を置いていけば──」

 

「馬鹿言わないの。私の奴隷ちゃんを私が逃すわけないでしょ! それに──」

 

 まあ、理由はもうひとつあるんだけど。

 

「──着火」

 

 私の言葉に続いて、森を振動させる轟音。

 追っ手とその周囲の樹木、それらを纏めて吹き飛ばす。

 

「それに。こんな奥の手もあったからね」

 

 地面へと奴隷ちゃんを下ろしながら、余裕がある風に言う。

 実際のところ、私の体力や精神力というのはかなり限界に近くなっている。だとしても、ある程度安全な場所を見つけるまでは持ちこたえる必要がある。

 

「……『賢者』様は爆破魔法も使えたりするってことですか?」

 

「ううん。これは昔取った杵柄でね。万が一ここまで“何かしら”が攻めてきた時にでも使おうと思っていた罠ってところ」

 

 猛烈な吐き気。

 罠の発動に支払う代償は、激烈な体調不良。

 正確には『片腎臓の欠損に加えて』という文言が付け加えられるんだけども。

 まあ、それを今言ったところで仕方ないからね。

 

「……“生誕の法”。『賢者』が殺した『勇者』が最後に使った魔法──知ってる?」

 

「知らないです。というか、知ってる人なんていないと思います。『勇者』の扱う魔法といえば、『流星魔法』くらいしか知られていないと思います」

 

 だろうね。ほとんどの人は知る由がない。

 “雨”、“樹”、“灰”くらいにわかりやすく世界を破壊してきたら認識されやすいんだろうけれど……今回のは、少しわかりにくかったから。

 気付いてしまえば、そのどん詰まり(・・・・・)に突き当たるのもかなり早いけれどね。

 

 奴隷ちゃんに、その魔法の概要を説明する。

 

 “生誕の法”、その一つ目の効果は──“『無痛で、即座に、ある程度人格の存在する人類を産めるような魔法』を、誰でも少量の血液と皮膚を代償に使えるようにする”魔法。

 幾ら殺したとしても、すぐに生産出来るようになってしまった。

 

 そんなの、人間が利用しないわけがない。

 適当に襲って、魔法を使って出てきた『子供』を少し放置してから素材にする。第一にそんな方法が出てくることぐらい、誰でも思い付く。

 

 と。

 そんな理由で、私達は襲われていた。

 

「なるほど……でも、どうしてそれがどん詰まりなんですか?」

 

 倫理観と時間。そんな名前を冠していた最後のストッパーが弾け飛んだからじゃないかな。

 

 それだけでも十分地獄ではあるんだけど。

 もうひとつ。そう、もうひとつ理由があって──

 

 続きを話そうとして。

 襲ってきていた輩の生き残り。彼らが奴隷ちゃんに向けて猛毒矢を向けていること──それが、視界に入る。

 

 ほとんど無意識的に。

 何か脳で判断する前に。奴隷ちゃんの前に立っていて。

 

「『賢者』様!」

 

 私より身長の低い奴隷ちゃんの胸部を狙ったそれは、私の腹部へと直撃する。

 

「全く。しぶといな……『冒涜王』!」

 

 相手の頭上に死体を複数体生成。

 落下の衝撃で、それごと押し潰す。

 

 何とか二撃目を阻止する。これで奴隷ちゃんは守れたでしょう。

 

「まあ、安心していいよ」

 

 丁度激烈に気持ち悪かったわけだしね。

 今代『勇者』の遺した最悪の悪意。繁栄することで滅亡しろ、というこの上ない『苦悶の道』を選ばせてくる悪意。

 

 ちらりと太陽を見上げて。

 

「大体……あと、3時間くらいだから」

 

 逃げたかったら、逃げてもいいよ。

 そんなことを言ってから、私は意識を闇へと突き放す。

 

 

 

 ■

 

 

 丁寧に心臓を穿たれた『勇者』は膝をつき、血を吐く。

 

「……ッ、どこまでも……卑怯な……!」

 

「覚えておきなさい、これが『賢者』よ。嘆き、苦しみ、そして──この死災の終わりを喜びなさい。これら全ては、あなた一人を排除する為の施策だったのだから」

 

「……どこ、までも。この世界は、クソッタレで……っ! なんで、私なんかが召喚されたのよ……!」

 

 そんなこと、知らない。

 偶然、不運、運命。

 それらの言葉は誰もが説明不可能な隙間の神を肯定する言葉でしかないから。

 

「全員……苦しんで、苦しんで。死にたいと喚いてもなお生きろ。生きて、苦しめ。私の為に(・・・・)、苦しんで生きろ。永劫の生に苦しみ、朽ちろ」

 

 とびきりの怨嗟。そして、極上の憎悪が濃縮された声色で。

 世界を穢す呪いは放たれる。

 

「────“生誕の法(シックス・カース)”!」

 

 世界を犯す六つ目の災厄が、刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいなくなった地獄の跡地。

 無数の死体と、おぞましい悪夢だけが確かに大地へと刻まれている。

 

 そんな中で。

 

「本当に性格が悪い。そう思うでしょ?」

 

「残当。この世界はそれだけ恨まれることをしてるから。むしろ──これ(・・)を思い付いたことを誉めたいくらい」

 

「『冒涜の賢者』に誉められる──そんな不名誉なことないわ」

 

『勇者』との会話。

 今まで『仮死魔法』で偽装していた瀕死の存在と、会話をしている。

 

「それにしても。良かったの? 『戦士』や『聖女』は──」

 

「確かにそれは恨んでいる。でも、それは貴女のせいじゃない。そうでしょ?」

 

 だとしても、その責任は『賢者』にある。

 全人類の嫌悪(ヘイト)を集める為に存在する看板へと、怨嗟が集積されている。

 

「恨みも怒りもある。でも、それは王国や法国上層部に対してだから。貴女が抱えるべきものじゃない」

 

「『勇者』は……何処までいっても、勇者だこと」

 

「そんなことない。真の勇者なら、貴女みたいな人を巻き込まない復讐をするだろうから。それに、元々私自身の寿命ももうほぼないからね。代償やら何やらで」

 

 ──これの、何処が。

 唇を噛み締めることしか出来なかった。

 異世界からやってきた異邦人がこれだけの姿勢を見せているというのに、全く動かない私は何なんだと。

 

 どうせ逆らったら死ぬんだから、と全てを受容していた自分が情けなくなって。

 

「私が──『冒涜の賢者』が保証しよう。この復讐は正当であり、妥当なものであったと」

 

 後世の知恵者からは、確実に最低最悪な大呪という評価を受けるだろう。

 無限出産に、無限蘇生(・・・・)

 いつか人類の数が臨界を越え、文明そのものが自重を支えられなくなり崩壊するという、繁栄による滅亡。

 繁栄が道中にあるが故に、その進行を止めることは難しい。

 

 地獄への道は善意によって舗装されている──それを、自覚的に。歪み狂った善意により行っているわけだから。

 

 だからこそ。

 

「五代目『勇者』の手記を読み、六代目『勇者』とこうして会話した『賢者』として」

 

 二世代の『勇者』を知り、世界の悪辣さのおおよそを知っている存在として。

 

「──あなたの復讐を壊して、人類文明に可能性を作ろうじゃない」

 

 私自身は無力だけど。

 それは、今後の人類が抱える可能性を潰していい理由にはならない。

 改めて。そのことを再確認する。

 

「私も先代『勇者』の手記は読んでいるけれど──その意気や良し。最早どっちが『勇者』なのかわからないわ」

 

「でも、私は『勇者』達がいなければこうはならなかったから。誇るが良い」

 

 一度言葉を区切って。

 偉大な先達であり、本来無関係な異邦人への感謝と尊敬を込めて。

 

「貴女達は──確かに『冒涜の大賢者』を倒した。世界に巣食い、人類を玩具とする最低最悪を滅ぼすことに、成功したのだ」

 

 数百万の殺戮と、数千万の不幸を振り撒いた諸悪の根源。

 それは確かに異世界からやってきた、勇気ある者によって倒された。

 

 風前の灯火である勇者を前に。

 満身創痍であり、今にも死にそうな一人の異世界人を前に。

『冒涜の大賢者』の誅伐こそが、功績であると告げる。

 

「なら……異世界から呼ばれた勇者として、最低限の活躍は出来たかな。最低最悪で──誰よりも、苦しんでいた人を倒せたのだから」

 

 何のことか、全くわからない。

 私は苦しんでいるわけではないのだから。苦しんでいるのなら──こう(・・)なっていない。

 

 良心を代償に発動する魔法。

 良心が無ければ、発動しない唯一の特異魔法。

 苦しみ続けることを要求してくる、切り札なんて私は知らない。

 

 そもそも。過去は変わらない。

 行ったこと、認めたことは幾ら苦しんでいたとしても変わらない。事実は、何よりも重く私にのしかかってくる。

 

 数百万の虐殺も、数千万に降りかかる災禍も、滅んだ国々も。

 その全ては、『賢者』の責任であるという──事実は、変わらない。

 

「改めて。勇者よ──よくぞ、悪辣なる賢者を誅滅した」

 

 不条理に沈む地獄こそが、この世界の姿だとしても。

 人類が目指すべき星が、そこにない証明にはならないのだから。

 

 滅び行く終末世界で、“人並みの幸せ”が手に入れられることが当たり前になるような。

『勇者』も、『賢者』も、『聖女』も要らなくなるような──そんな世界が生まれる可能性を守った、現代の勇者に最大級の謝辞を。

 

 私達、この世界の人類が果たさなくてはいけなかった使命。

 自分達自身で気付くべきであった事実を、突きつけてくれた勇者に感謝を。

 

「なら。冥土の土産にあなたの名前を教えてくれない?」

 

「如何にも。私こそが『賢者』であり──」

 

 

 こうして。

『勇者』と『賢者』は、お互い裏切ったのだ。

 

 

 死災。『勇者』の死を以て、終わった厄災。

 それは──死という概念にとっての、厄災の始まりでもあった。

 

 

 

 

 ◇

 

「……まさか、いるとはね」

 

 目を覚ますと、目の前に行くのは目元を腫らした奴隷ちゃん。

 正直、逃げられている可能性は高かったと思うんだけど……まあ、いいや。いて困ることはない。むしろ完全に嬉しいより。

 

 

「当たり前ですよ。どうして、命の恩人の最期の言葉を期待しないなんて発想が出るんですか」

 

 それが、この世界の当然だからじゃないかな。

 

「というわけで。これでわかったと思うけれど……」

 

 

 

 “生誕の法”、その第二効果。

 六代目『勇者』が遺した、最大級の大呪にして私への応援。希望を繋げる為の、時間稼ぎ。

 何も持たない無力な私が、死なない為の保険(おうえん)でもあり──歴代最強の勇者による、全世界への強烈な憎悪と厭忌。

 

 

 それは、七日ごとに発生する全人類蘇生である。

 

 

 

 

 

 

 

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