なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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賢者の現実

 

 ◇

 

 ──この世界で、王国が存在しているということの意味。

 

 ぶっちゃけ悪意の煮物みたいな醜悪さを漂わせている王国が生き残っているのは、上層部の腐り果てた精神性と老獪さによるものが、かなり大きい。

 異世界からの『勇者』召喚、自らの身と居城だけを守る為に作動し続けている生贄大魔法。

 

 まあ、有り体に言ってしまえばさっさと滅んだほうがいいもの代表になるんだろうね。

 ただ、迅速に滅んで貰うとそれはそれで困る……というか、面倒なことがあったりもするんだけれど。

 

「『賢者』様……そんな呑気にしている場合です?」

 

 最近、私に対してあんまり遠慮がなくなってきている気がする奴隷ちゃん。

 もちろんイヤってことはないけれど……それはさておき。

 

「どうして? 別に呑気に過ごせる時間が長ければ、嬉しいことだらけだと思わない?」

 

 それに、もう少しで目的地に着くんだから。

 

「そうですけれど。そうではあるんだけれど それは不定形の化け物に追われてない時に言ってくれませんか!」

 

 息を軽く整えてから、後ろを振り返る。

 そこに在るのは、樹木の背丈を越える大きさを誇ってくれやがる、黒く蠢く不定形。

 粘液状(べたべた)ってよりは、固形的ニュアンスが強めの──言ってしまえば。

 

「『聖女』かぁ……面倒だなぁ」

 

 法国の生み出す化け物であり、人の体を根本的に造り変えることで強大な魔法の力を得ている物体。それが『聖女』と呼ばれているのは、確か四代目『勇者』が──

 

「面倒とか言ってる場合じゃなくて──逃げないと追い付かれちゃいますって!」

 

『聖女』の周囲に魔法陣が滞空する。

 照準は確かに私へと定められていて。

 

「『冒涜王』!」

 

 直線上に飛来するレーザーを肉盾を使って防御する。

 状況だけ俯瞰すれば、かなり異常な状況。救いようがないとしか思えない。

 

 このタイプの『聖女』の何が面倒臭いか、と言われるとその不死性がとにかく面倒。

 寿命自体を数年だったり数ヵ月に制限しているかわりに、破片でも残っていればそこから再生するとかいう反則的蘇生を自力でやってみせるところ。

 

 つまり、事実上実行可能な撃退策が時間切れを祈るぐらいしかないところ。

『勇者』だったり、前に出会った『魔王』なら一片も残さない消滅とか出来るんだろうけれど──生憎、そんな手札はないものでね。

 

「確かにあっちはやろうとすれば不眠不休で動けるから、睡眠や食事が必要な私達では大分キツイとは思うけれど……」

 

 だからこそ。この不死性と稼働力があるからこそ、法国は生存し続けられた。王国という邪悪に対抗出来るだけの残忍さと醜悪さを持ち合わせていたからこそ、まだ法国は存続出来ている。

 

「でも、それは私達が逃げられないってことを意味するわけじゃない」

 

『聖女』という人工生命体。

 意識を希薄にされたり中枢を破壊されたりして半分……ほとんど自動的に命令を受諾されている状態である個体が多い、その生命体は王国とは真逆のスタイルを取っている。

 

 世界の外から人を呼び寄せ、無関係な人を拉致する『勇者』とは真逆。

 作成過程において必要な代償(・・)を、他の世界に支払わせる。その技術を開発出来たからこそ、『聖女』という存在は確立されている。

 

 異世界の人類に、この世界の殻を被せたのが『勇者』ならば。

 この世界の人類に、異世界の殻を被せたのが『聖女』。

 

 

 だから、『聖女』という存在を滅ぼす方法は単純。

 

 ひとつは、異世界とこの世界にある繋がりを断絶させること。もう既に来てしまっている『勇者』と違って、生存するだけで異世界に代償を排出し続けている『聖女』は、異世界とのリンクが切れれば勝手に自壊してくれる。

 だから、そのリンクの繋がり方次第で寿命が設定されたりするわけで。

 

 まあ、こんな大掛かりなことを実現可能なのはそれこそ『勇者』や『魔王』だから、私には到底実現出来るものじゃない。残念ながらね。

 

 

 というわけで、もうひとつの方法。

 

 それは──

 

「『聖女』だって、元人間だからね。恐怖(・・)させられる」

 

 詳しい理屈は私も理解出来ていないけれど。

 五代目『勇者』曰く、『聖女』にも本能的な感情は残っていると。数々の感情から、恐怖だけを分離出来るほどこの世界の文明は発展していない、と。

 

 しかも、不定形タイプの『聖女』というのは大分新しい……最近造られた存在だから。

 

 

 

 ──息を吸い込む。

 

 

「『冒涜王』。その名に覚えがないとは言わせない」

 

 同族の大量殺戮者。

 この世界に存在しているのならば、聞いたことがないとは言わせない。生命と尊厳を愚弄し、地獄の底すらも生温い悪夢を現実に顕現させる存在。

 

「大疫病を引き起こし、未曾有の大災を励起させ、人類の希望を打ち砕いた、この名を知らないとは言わせない」

 

 広大な平原を死の証で埋める。

 果てから果てまで、その全てに苦悶の表情を浮かべた死体が打ち捨てられている。何処の部位かもわからなくなったような、凄惨な生命だったものが転がる。

 

 根源的恐怖。自らが狩る側ではないという自覚。

 文字通りに屍の山の頂点から、私はそれを見下ろす。

 

「貴様の生死、尊厳、自由意思すらもが我が掌の上にある。惰弱な人工物如き、幾らでも破壊する術を持ち合わせている。生きたければ──背後を警戒しながら、無様に逃げ惑うが良い」

 

 

 

「怯えてる……?」

 

「そりゃね」

 

 基本的に『聖女』は、人間の姿から離れていればいるほど、臆病(・・)なものだから。基本的に。

 ほら、予想通り去っていく。

 なんで倫理観が終わってる割に臆病な人が多いのかね。

 

 

 

 

 ■

 

『オペレーション:D』。

 存在していた勇者支援団体が崩壊した大混乱は、人為的なものでしかなかった。

 

 疑心暗鬼の大渦。

 法国の造る『聖女』と、王国の資金により完成された八百長の果てである。

 

「あぁ、あなたが……偽りの主導者でしたか」

 

「如何にも。私こそが『賢者』である」

 

 隔離された小世界において、間違った道理というのは木霊され、極論へと繋がっていく。

 理想郷と銘打たれた反論者の存在しない空間は、大層居心地が良かっただろう。

 

 所詮、利己主義でしかない輩はその奇跡(・・)にどんな犠牲が払われているか気付くことはない。

 街を包む外郭の外で万の死体が量産されてようと、周囲の村が燃料とされても、気付くことはない。

 

 この世界において誰かの幸福は、誰かの不幸によってのみ作られている──先代『勇者』の言葉に、誰も気付くことは出来ない。

 

 人工聖女による思想誘導。

 物に『人格を演算したもの』を宿らせるその魔法によって、容易に実現された民意。

 

 歓迎と待遇。

 何処にいても対等な会話相手が存在し、どこにいても自らの承認欲求を満たしてくれる存在が身近なところに存在してくれる理想郷。

 それらによって誘き寄せられていった人々は、増えていく。

 

 そして。あっという間に崩れていった。

 

 切られた食べ物から悲鳴があがり、踏まれた地面から罵声を浴びせられ、逃げようとすれば自らが敷いた強固な扉により阻まれる。

 

 小石が。城壁が。看板が。

 視界に入るあらゆるものが聴覚の自由を奪ってくる。

 異物を排除し、楽園を永久に楽園とする為の防衛装置が十全に機能し、反転しているだけ。

 

 無論、今の私も例外ではないんだけれど。

 

 まあ、最終的には逃げようとする人の眼球(・・)に『演算人格』が埋め込まれたりと、かなりの地獄絵図だった。

 

 中に存在している人は全員死に絶えているというのに、賑やかな死の理想郷。

 聳える城壁は賑わいを見せ、未だ人を誘き寄せようと勧誘している。

 

「結局、『勇者』支援なんて本気じゃなかった。半分くらいはその証明でしかない」

 

 勇者を祀りあげ、手駒にしようとする団体。

 私欲と強欲、そして傲慢以外に感じられないその団体は確かに理想郷の渦に飲み込まれた。

 

 

機械駆動式(オペレーション)反理想郷(ディストピア)』。

 

 果てに生まれた理想郷は、瞬時に栄枯盛衰の()を辿った。

 

 

 

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