なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

23 / 31
冒涜の大賢者

 ◇

 

 ──私は、この世界の邪悪だ。

 ──私は、この世界の賢者だ。

 

 “崩壊の雨”、“浸潤の樹”、“回帰の灰”。

 三つの大呪が跋扈する、世界中心点。

 

 数々の勇者にとっての、転換点(ターニングポイント)

 死体で埋め尽くされたそこに、私はいた。

 

「舐めるなよ、人類共。私は──『賢者』だ。邪悪の化身であり、貴様らが悪魔と評した醜悪の権化だ」

 

 底抜けの容器に注ぎ続けられる憎悪と殺意が死体として召喚される。

 

「此処は──勇者の墓場だ。それが何を意味するかわかるか?」

 

 オクトルム戦役。オペレーション:D。黒熱疫争。死災。

 八炎戦役。機械駆動式:反理想郷。黒熱疫争。死災。

 

 数百万、数千万の命が私の名のもとに奪われた。

 生命の辿る最も原始的な不可逆現象。

 いずれやってくる事が決定付けられていながらも、多くの人が恐れ怖がり続ける絶対的運命。その名を、我々は死と呼んでいる。

 

「賢者様は……何をするつもりなの?」

 

 目の前には、召喚された死体と同じくらいの分量の軍勢。

 私を始末するために遣わされた王国と法国の混合軍。

 こういう時から団結力があるんだから、と軽く息を吐く。

 

「ちょっとばかり、人類相手に抗議(・・)をしようと思ってね」

 

 この世界において、魔法というのは特別なものではない。

 例えば生活必需品を生成するのだって魔法で行われている以上、『勇者』達が思っているようなスペシャルなものではない。ましてや、あらゆる願いを叶えてくれる万能概念であってくれない。

 

 まあ、万能概念だったとしたら──きっと、それはそれで地獄になる気がするけれど。まあ、それはいいのよ。

 

 ともかく、魔法というのはそんなに特殊なものではない。

 物を手放せば下に落ちることと、命を犠牲にすれば生活必需品が生成されることの間に大した違いはない。

 不可逆性が、という話を言いたいなら卵を熱すれば変性することを例にあげてもいい。

 だから、魔法ってのは『勇者』達が思っているよりも特別なものじゃない。

 

 ただ、例外がある。

 歴代勇者が自身の命を代償に使ってきた最期の魔法。

 特大の呪詛と、あり得ないほどの対価が支払われたそれは単なる『魔法』では収まらない効果を示してくれやがる。

 

 全てを崩壊させる雨、建造物を塗り替える樹木、記憶だけを白紙に上書きする灰。そして、全人類の蘇生と生誕を祝福してくれる法。

 そういったものは、通常の魔法の範疇を超越した──『世界の法則』とでも言うべきものになる。まあ、どうみても呪いだけれど。

 

「貴様達に警告しよう。我が名は『冒涜の大賢者』である。その名を耳にしたことはないのか? 死後の安息すらも愚弄するこの私に逆らおうと言うのか?」

 

 一応言ってみたけれど、反応から見て脅しは無駄かな。

 おそらく、上層部から事実を伝えられてる。私が『死体を出す』以外の能力がないということを。

 

 なら、これ以上の脅しは無意味か。

 むしろ、やればやるほど私が惨めになってくる。虚勢でしかないから。

 

「奴隷ちゃん奴隷ちゃん。ちょっと協力してくれる? 誇大表現をするなら人類の為、事実を言うなら私達の生存の為になることなんだけれど」

 

「賢者様のやることなら、どうせ雰囲気は口だけ(・・・)。お付き合いしますよ、奴隷として」

 

「じゃあ、『冒涜の大賢者』としての全てを渡すから頑張ってね」

 

 口だけじゃなくて、身なりもそう見えるようにしてるんだけどね。まあ、いいや。

 

「さて──私の全力を此処に証明してみせよう」

 

 偽りの大賢者が持っている手札というのは、そこまで多くない。

 無意味に死体を出現させる『冒涜王』。

 そして、奴隷ちゃんの持っている『魔法合成魔法』。

 あとは、此処までの諸々で得た知識──それと、隠してきた手札がもうひとつ。

 

「『冒涜の大賢者』を舐めるなよ。貴様らはどうして、私が(・・)賢者(スケープゴート)に選ばれたのかも理解していない、無知蒙昧な愚者に過ぎない」

 

 私が賢者に選ばれた理由。五万どころか、その何倍も存在するであろう路傍の石から私が最悪不幸抽選で見事的中してしまった理由。

 

『冒涜王』の魔法を使えるから──もちろん、それが一番大きいのは事実であるけれど。

 

 それは、五代目『勇者』の手記を読んだからであり。

 “継承の業(フィフス・カース)”を発動させた先代『勇者』の思想や考え方を継承したから──ではない(・・・・)

 

「我が名はノア・フラッド。『冒涜の大賢者』ノア・フラッド。貴様らの命運を握る大罪人の名だ。覚えて帰るといい」

 

 フードを外し、万を越える軍勢相手に啖呵を切る。

 威勢は強ければ強いほど良し。目的は時間稼ぎと威圧だけ。

 

 “継承の業(フィフス・カース)”という呪いは、他の呪いと違って被害がわかりにくい。

 雨の様な直接的破壊も、樹の様な視覚的インパクトも、灰のような精神的損害も発生させない穏やかなもの。

 

 

 ただ、『継承の業』の効果は他の呪いに負けず劣らずのモノ。

 

『自分の本名を知る者に、自身の使える魔法や貯蓄(ストック)を全て使えるようにするという魔法』──それこそが『継承の業』。

 本家大元の“継承の業”と違って、継承内容とかの細かい指定は出来ないけれど──それだけ出来れば十分。

 

 

 先代『勇者』の手記には、この呪いがかけられていた。

『継承の業』だけが使えるようになる呪い。

 

 これが濫用されれば、誰か一人が習得した魔法が瞬く間に全人類へと広がるようになる。そして、開発された新魔法はあっという間に広がり、それを元に新たな魔法が生まれる──『魔法のインフレ』とでも言うべき状況になってしまう。

 

 実際、それを恐れて“信仰の神(オーディール・アガペー)”が立案されたってのもあるくらいに。

 何なら『生活必需品生成魔法』はそういう経由で全人類に広まってる。

 

 この世界で軍事用魔法なんかが生まれて全人類に広まれば、ただでさえ倫理観が緩い人類種はあっという間に自滅するだろうから。

 先代『勇者』の思い違いは、私達が予想以上に他人の名前を知らないし、公表しないってところだけど──それでも、滅ぼすのには十分だから怖い。

 

 

 ああ、だから。

 奴隷ちゃんが言っていた「『賢者』様に真名が知られると、命を握られるという噂」は、ちょっと惜しい。

 真実は私の真名を知ると『冒涜王』とかいう特典が付くようになる、というもの。

 

 ただ、『継承の業』の効果を知らないだろう目の前の軍勢は、まさか『冒涜王』が使えるようになっているとは思わないだろうから。

 それに、使えたところで大したことにもならないし──多分、代償の問題で使えない。

 

 

 本命はそっちじゃないから、いいんだけど。

『継承の業』は何も敵対軍勢の皆々様に向けてのサービスじゃない。奴隷ちゃん一人に向けたもの。

 

「奴隷ちゃん。あとは、あなたの望む様に動きなさい。『継承の業(フィフス・カース)』」

 

 継承とか言いながら、継承元が使えなくなるなんてことはないから、個人的には『複製の業』とかでも良いんじゃないかとは思うけれど。

 

「どういう──っ、そういうこと! 『冒涜王』!」

 

『継承の業』で渡されるのは『冒涜王』だけじゃない。

 私が理論上扱える魔法、その全て。

 だから。当然、私が本名を知って継承(・・)されている今代『勇者』の魔法も全て。

 

「そして、『生誕の法』の合成です!」

 

 死体だけ出す魔法と、蘇生を繰り返す魔法。

 それらを合成しても、新鮮な死体が定期的に出来上がるだけ。そんなことは本家“生誕の法”で蘇らなかった時点で百も承知。一応の最終確認は出来た。『冒涜王』で作られた死体は、蘇生されない。

 

 

 

 

 

 じゃあ、私の手番。

 

「持ってけ代償、『法の生誕(カース・シックス)』!」

 

 私の此処まで全てを生贄に『生誕の法』──その真逆を発動させる。無秩序に、無差別に、無慈悲に注がれていた蘇生の祝福に法を適応させる。

 対象は、『冒涜王』による死体(・・)。全死体から、『冒涜王』によって作られた死体への変更。

 

 支払った代償は、私の持っていた全て(・・)

 それこそ、手持ちで最も効果が高く貴重で──そして、今代勇者の遺体(最も手放したくないもの)も含めて。

 

 私こそが継承者だと。世界の中心で、六つ目の呪いを世界に刻んだ者の継承者だと主張しながら、それを発動する。

 

 

 

 此処までは、私一人でもやるつもりだった。

 定期的な全人類蘇生なんていう馬鹿げた魔法を解除する。そこまでは、奴隷ちゃんがいなかろうと実行する予定がなかった。

 

 予定が変わったのは、此処から。

 

 

 とりあえず奴隷ちゃんの様子を見て、何が起こるんだと静観している臆病な崩壊倫理観共に天罰でも下さなきゃいけない。

 

「『崩壊の雨(セカンド・カース)』」

 

 十年分の寿命を代償に、破壊の暗雲を招来する。

 上空に暗雲が立ち込める。

 大空を、圧倒的な曇天が包んでいく。

 街の残骸、荒廃した森林、無尽蔵の死体と軍勢。

 それらを包み込むように、無遠慮な積乱雲は巨大なものとなる。

 

 もう寿命が残ってるか怪しいけれど……まあ、これで終わりだから許して欲しい。

 

 さて、騒がしいだけの観客(オーディエンス)は黙らせた。

 突然の“雨”に騒ぐ者。私が無能だという前評判と異なると憤る者。見事に騒ぎ、そして混乱した挙げ句味方であるはずの人を葬り始める。

 

 予想通り。

 追い詰められれば、隣人を狩るのが最も効率的な魔法触媒の回収方法であり──生存確率をあげられる手法だと、これまでの人生で刻みこまれているから。

 

 この状況で私側に向かってこないのは、私が『大賢者』だったから。

 無能だと各国上層部に言われたが、その前提が覆っている以上──今までの噂が真実かもしれない、なんて思考になっていく。

 

 無数の人類を虐殺し、無数の魔族を焼却し、全生命の怨敵である『冒涜の大賢者』。

 その風評が、俄に真実味を帯びていく。

 屍の山、その頂点で“雨”を操る悪鬼羅刹。それこそが真の姿なのだと。

 

 

 さあ、勝手に自滅する愚か者共は捨て置こう。

 生き返ることすらなくなった亡骸は視界の外へ追い出そう。

 

 

「『崩壊の雨(セカンド・カース)』そして──『流星魔法(・・・・)』、合成!」

 

 触れるもの全てを破壊し、粉々にする『勇者』の遺した呪いの代名詞でもある“雨”。

 

 そして、六代目『勇者』の代名詞にして超遠距離からの一方的狙撃を可能とする難攻不落の魔法。

 

 それらが合成され──照準は、天高く聳える王城へと向けられる。

 

 

「────発射!」

 

 

 一瞬。ほんの一瞬だけ、巨大な魔法陣が展開される。

 憎悪と希望。相反する二つが混和された魔法が王城へと向けられ────直撃。

 

 これは私や『勇者』といった、王城への攻撃不能が命じられている人には不可能な所業だから。

 

 飼い犬に手を噛まれる気持ちを──勝手に野生にかえした応報(・・)を受けて貰おうじゃないか。

 

 瓦解していく王城。

 狙った座標は、『勇者』召喚広間──そのど真ん中。

 

「やっっ……た! 異世界からの勇者召喚なんて──ふざけた技術は、人類最大の罪(冒涜の大賢者)と共に消えやがれ!」

 

 あの王国の事だから、どうせ数百年経てば壊した技術も直ってしまうんだろうけれど……これで、犠牲者は減らせた。

 

 私は知っているんだぞ。

賢者(わたし)』を始末してから、また新たな『勇者』を呼ぼうとしていたことを。

 そうやって、何の罪もない異世界からの『勇者』を使い捨てようとしていたことを。

 

 ──これで。これで、ようやく人類側の小康は確保出来たから。

 

『魔王』よ。そして、未来の人達よ。

 何も持たぬ凡人でも、此処まで足掻けるんだ。

 王国に支配されていた『冒涜の大賢者』ですら、此処まで足掻けるんだ。

 

 

 

「『勇者』達よ。私は……私は、善の行動を出来たのかな。この世界の人でも、あなた達目線で()の行動が、出来たって言えるのかな」

 

「はい、きっと認めてくれますよ。私にもわかりませんが──全て終わった後。遠い未来の誰かは、きっと」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。