なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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『善行の必然性』

 ◇

 

 やあ、悪役系勇者ことS-A023736-9だよ。

 

 どうして異世界転移させられた挙げ句、こんな後始末をやらされているのかは理解できないけれど……そういう星のもとに産まれたってことでいいのかな。此処までくると最早原罪感が出てくるよね。

 

『ノースちゃん、大丈夫ですか? さっきは相当体調が悪そうでしたけれど……』

 

 場所は王城で割り当てられた自室。

 恐怖で怯えた住民から子供を捧げられそうになったり、妻を庇いながら私を睨む夫がいたりと、なかなかにメンタルダメージが加算されそうなことが連続したから仕方がない部分もあるのかもしれない。

 

 ようやく世界が平和になってミナミを箱から出せるってなってたところでこれだから、反動でダメージが倍増しているっていう説もある。まあ、自分のことだけどそこら辺は案外曖昧になってくるよね。

 

「語源的には大丈夫じゃないかもしれないけれど……特別問題にはならないと思うよ」

 

 正直な話、あんまり大丈夫だとは認識していない。

 ミナミはそういう隠し事全般に弱いから何とか騙しきれているけれど、このままだと精神的ダメージで何かしらのエラーが発生しかねない。

 

 とはいえ、精神的に回復する手段がパッと思い付かないのも事実。ミナミといられることはストレス回復にはなるものの、根本的解決ではないから……本当にどうしようか。

 

 何とか元凶を見つけられるか、手頃にストレス発散出来るような相手がいればいいんだけれど……

 

「ねぇ、どう思う? 蜘蛛さんは」

 

 私は天井についている蜘蛛(・・)相手に話しかける。

 蜘蛛の糸と蜘蛛。まあ大きな建築物では一切発生させずに清掃するのは難しい。それは重々承知した上で、私はそれをあり得ない(・・・・・)と断じる。

 

 十五日間あって蜘蛛の巣の大きさも蜘蛛本体の居場所も全く動かないことはないっていうのは、流石にあり得ない。

 

『ノースちゃん、どうしたんですか?』

 

 そもそも、前提として理論が通っていない。

 社会的立場が高い人ほどそう(・・)なりやすい、『死体異形化』事件において王城が一番平和なこと自体がおかしい。

 

 国王や大臣、法則的にはそういった部類の人が真っ先にそう(・・)なっているはず。

『死体異形化』したからといって生前の精神性が変わるわけじゃなくない? という反論には頷くしかないけれど、それはそれとしてこの傾向下で平和に生活出来る国王や大臣が今まで通りの精神性だったら、それはそれで怖い。

 

 としたら、この世界の倫理水準が数年前まで一般的だったとして──考えられるケースは三つ。

 

 王族あたりが底抜けに楽観主義のお人好しか、王族あたりに犯人がいるか、王族は既に手遅れであるという三つ。

 

 九日間プラスアルファを王城で入り浸って過ごした感想としては、そこまで楽観主義ではなかった様に見えたから──そう考えると、どちらにせよ手遅れ。

 

 で、犯人がいるにせよ手遅れであるにせよ。

 王城に忍び込んだ異物(・・)を監視しない理由にはならない。

 

「目敏いですね。善行、ですよ。目敏い事は悪ではありません。この世界(・・・・)の規範に従っている、善行です」

 

 さて、予想以上に面倒臭そうな存在を炙り出してしまった気がするけれど、もうこの際気にすることじゃない。

 重要なのは何が出てきたのかより、出てきた事自体。

 

「出来れば自己紹介でもしてくれると有難いかな」

 

 数本の触手(ミナミの手足)も狙いを定められた蜘蛛は、発声器官がないというのに音を伝えてくる。

 

「『北の勇者(ノース・ブレイブ)』様、『法国最強』様──」

 

 その言葉を聞いた瞬間、全てを察する。

 ああ、目の前の存在は間違いなく前世界の存在であり──同時に、この『死体異形化』事件の主犯であると。

 

「『砂縛厄災』タロスリオンと、この世界(・・・・)では呼ばれている存在です。以後、お見知りおきを。友誼を結ぶという善行を積んでいきましょう。善行、それが世界を救ってくれますから!」

 

 そして、ついでに話が通じないタイプであることも確定した。あの世界に住んでいて、善行について断言的に論じる人でまともな人がいるわけない。考えるまでもない、至極当然な事実。

 

「それで、どういうつもりなの?」

 

「質問の意味がわかりません。善行探究の為に訊ねますが──何が理解不能なのですか? なるほど、なるほど。この世界は気持ち悪い(・・・・・)ですよね。しかし、それは善行の素晴らしさを知らないからです! 勇者様も、聖女様も善行に身を任せてみれば理解可能になると思います」

 

 さて、改めて安心出来る要素が増えてきた。

 安心出来るところとしては、明確に元凶が存在してくれていたところ。前の世界みたいに、どん詰まりで世界自体の性質を何万年もかけてもう一回変えてくれ、と言われたら──いよいよメンタルブレイクしてミナミに泣きつくことしか出来ない。

 

 ただ、わかりやすく敵がいるならやりやすい。

 それを倒すって最終目標が明確だからね。

 

「そこじゃなくて。どうして『死体異形化』を実行してるの?」

 

「善行、だからに決まっています。だって、皆死後に爪痕を遺したがっていましたから。死後に、何か遺したいんですよね? 価値ある物、人々の記憶から忘れられない物、忘れないで欲しい──この世界の人達には、そんな欲望があると、学びましたから!」

 

 倫理観が欠片もなく、同時に文脈読解力すら微塵もない事が発覚した主犯の動機は置いておくとして。

 だとしたら、高い地位を持っている人ほど異形化しやすいという現象に説明が付けられない。

 私の怪訝な表情に何を察したのか、化け物は滔々と語り始める。

 

「納得していないご様子ですから。善行を、善行を積まなくてはいけません。簡単です。そもそも、この国に未感染(・・・)の人なんていませんよ。異形化出来ない、遺す程の価値をその人は持てなかった、それだけです。ですから、価値のない人の死と価値のない物──空気や塵──が交換されているだけです。等価交換という、善行です。それでも、死後に遺せていますから! 欲望は満たされ、幸福になります。そして、いずれはこの世界全てに!」

 

 つまり。

 人が死んだ場合、社会的立場などを含めた総合的価値(・・)を判断して、それに見合った前世界(あの地獄)のものを出現させている、ということ。

 

「何の為に?」

 

 死後に何か(・・)を遺したい、という細やかな願望を歪めて解釈する精神性に──それを善行だと心底から供述出来る価値観に反吐が出る。

 

「善行の為です。聖女創造はゴミ(・・)が沢山出ますから。様々な世界に散らばるよりは、一点に集めた方が善行ですよね? そして、そのゴミによって世界の悪行が消え、ついでに住民も我欲が満たせる。だって、ゴミはこの世界の魔法形式では壊せませんから。双方にとって利がある、善行。善行ですよ?」

 

 要は、異世界をゴミ処理場として扱っているわけね。

 そして挙げ句の果てに、そのゴミ処理場を前世界式の終焉倫理観へテラフォーミングする、というこの上なく要らないハッピーセットを押し売りしている、と。

 

「最後に。どうして、『善行』とやらに拘るの?」

 

 前世界の人達は、それこそミナミですら善行に拘ることなんてなかった。

 最後の最後まで悩み抜いた大賢者が、私の知っている唯一の例外であり──そんな彼女ですら、最後まで疑義を呈し続けていた。

 

 だというのに、目の前の怪物は何故善行に拘り続けるのか。

 

「何故そんな疑問を抱いたのかはわかりませんが、答えはひとつです。この世界のみんなは、そうやって(・・・・・)動いているからですよ?」

 

「なら、死ぬことが善行なら死ぬの?」

 

 剣を構え、言う。

 返答次第では剣で介錯してあげる為に。

 

「死ぬわけありませんよ。所詮、そんなのは生きる為の道具ですよ?」

 

 残念ながら、介錯権は得られなかったらしい。

 残当だよ、さっさとくたばって欲しいね。

 

「『消滅魔法(ソウル・バニッシュ)』」

 

 

 さて、どうせ本体的なのがいるんでしょうね。

 どうしよっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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