なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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『頂点の簒奪者』

 ◇

 

 やあ、北の九番(ノース・ナイン)ことS-A023736-9だよ。

 

「さて、と……本格的にどうしよっかな」

 

『タロスリオン、という存在は今ので殺せた……とは考えてないんですよね』

 

「あの手の存在は別に本体がいるって相場が決まってるからね」

 

 前世界出身の倫理観とち狂いヒューマンであることは確定だとして、それがこっちの世界の人と触れあったことで『善行』という概念が如何に便利(・・)かを知った、というところが妥当な推測点。

 なんでもう、あの世界の人は……というかあの世界は他世界にまで色々なものを波及させてくるのか。

 ろくでもなさパラメータ、限度(カウンターストップ)とか欲しくなってくるよね、切実に。

 

 まあ、この世界はこの世界で地獄要素があるらしいのは知ってるんだけども。

 地下遺跡を発掘したら人間の脳と思われるものの大量保管が発覚、ってどんなニュースなのか。

 それを民間に流せるってところまで含めて、ちょっと……いや、かなり不気味。

 

 ◇

 

「それにしても、ミナミ的にはどう思う?」

 

 与えられた部屋から謁見の間への移動の最中。

 かなり広い王城を移動する時間に、訊いておきたいことを済ませておく。

 

『どう思う、というのは何についてですか?』

 

「何についてだと思う?」

 

 忘れちゃいけないのは、ミナミ自身もあの世界出身の人物……スライム物であるということ。

 私を気軽にスライム風呂に突っ込んだり、最近だと触手でご飯を食べさせたりしてくれるけれど、そもそもの出自が奇跡の産物みたいなもの。

 

 だからこそ、ああいう刺々しい前世界の灰汁に出会ってしまった時、その思想にどう影響されるのかがわからない。

 考えたくはないけれど、あれに感化される──なんていうことも可能性としてはある。

 

『正直、昔……ノースちゃんと出会う前なら、納得していたと思います。だって、生き残る為に弱肉強食は必然ですし、それに加えてどんな形(・・・・)であれ一応お願いは叶っていますよね。何も叶わないよりは、と思ってしまいます』

 

 やっぱりあの世界出身の感性だとそうなってしまうらしい。

 ミナミですらこれなのだから、一般人なら酷いことは容易に予想出来る。

 

 まあ、弱肉強食が必然という論理に反対する術を私は持たない。

 加えて、生きるにあたっての余裕がなければ倫理観とかいうものに構っていられないのも正論ではあるのかもしれないけれど……なんだろうね。

 ちょっと言葉に出来ない部分に忌避感がある。

 そして多分、そこは一生かけても埋まらない溝だとも思う。

 

『でも、ノースちゃんなら嫌がるだろうなって考えました。ノースちゃんの考えは、誰かが踏み台で終わって欲しくないんですよね? ちょっと違うかもしれませんが』

 

 ……合ってはいない。正解では、断じてない。

 命の尊厳や倫理観の話を「踏み台になって欲しくない」という一文にまとめられて、正解であるとは思えない。

 ただ、それでも方向性……じゃないけれど、間違っているって拒絶したくないかな。

 

「うーん、四十点。ついでにアドバイスするなら、この点数に何ら意味がないことに気付いたら六十点」

 

『点数に意味がないのに完璧な点数じゃないの、意味がわかりません……』

 

 まあ、そういうことで。

 辿り着いたのは王城中心部の謁見室。

 

 他国に対して貧乏ではないことに示せる程度には豪華絢爛でありながらも、実用性という重要な項目を忘れていない歴史ある様式。

 隙あれば相手を奇襲する為に造られたとしか思えないどこかしらの謁見室とは全く違う。

 ここまで発展させてきた人の血脈っていうものが感じられる。それを無神経に破壊しようとしている世界があるらしいけれど。

 

「この中で、突然実力を買われて登用されてる人っていますか?」

 

 扉を開けるなり、無遠慮で質問を投げ放つ。

 本来の常識を参照すれば、許されざること。

 

 あの化け物は私達のことを、確かに認識していた。

 伝説の人や、歴史上の人という扱いではなくね。

 

 北の九番(ノース・ナイン)はまだしも、『法国最強』なんて言葉を知っているのは、あの時代の人だけ。

 それこそ、ソフィアだって知らないはず。

 つまり、あの時代の人だって考えるのが自然なこと。

 

 あの時代からこっちに来たんだとしたら、遺体資源(リソース)は潤沢にあるはず。何なら国から支援されているから、あの時代の平均以上に持っている可能性はある。

 

『ノースちゃん。どうして質問をするのですか? どう考えても、目の前の三人(・・)が怪しいと思うんですが』

 

「儀礼的にね。お伺いを立てないと失礼でしょ? 大臣様には」

 

 謁見室には複数の惨殺死体。

 近衛騎士には抵抗があったからこそ、それは惨殺死体という結果に終わってしまっていた。

 抵抗しなければ死体は綺麗だったはずのにね、というのは倫理観が終わった上で『死体異形化』事件が起きていない時にだけ使えるブラックジョーク。

 

 恐らく防衛機能が数多付いていたのだろう玉座周囲には、女性の死体と二つの子供の死体。

 なら、その手前にある異形は──なるほどね。

 

 やっぱりこの世界は捨てたものじゃないどころか、拾うところだらけだと思い直す。

 同時に、あっちの世界は最早捨てるところ以外存在しないんじゃないかって疑惑が強まるばかり。

 

 ──まあ、そんなの今に始まったことじゃないんだけれど。

 

「いませんよ。全員、善行を買われましたから」

 

 妙齢の女性が答える。

 残りの二人が、賛同とばかりに頷く。

 

「じゃあ重ねて質問。どうして殺したの?」

 

 挙手して質問してみる。

 

「ここまでくれば、秩序を無くすことが善行──ですから。法律なんてものに縛られている人達を解放する、善行ですよ」

 

 短髪の長身男性が答える。

 

 なるほどね、確かに法律って面倒なとこあるから。

 わかるわかる、私も何度五分くらい変わらない赤信号にイライラしたかわからないし。七万年以上前の記憶だけどさ。

 

「じゃあ最後に」

 

 吐きたくなる気持ちを抑え、血の池地獄の上に立っている三人をしっかりと見て訊く。

 

「そっち。累計何人いるの?」

 

「知りません。何人こっちに送り込んでいるのでしょうか」

 

 どうやら、大罪のバーゲンセールが大開催中らしい。

 

 三人の前世界人から魔法で狙われる。

 一つは精神汚濁系。自意識を乱され、自分の思考の中に異物が入ってくる感覚。

 一つは純粋な殺意。視認難易度の高い風による鎌鼬(かまいたち)再現。

 一つは防御系。飛んできた魔法を反射し、相手に追尾させる魔法。

 

 まあどれもこれも優秀な魔法だこと。

 累計消費資源(リソース)は──五万から十万人分ってところかな。流石こっちに送られてくる人材、ちゃんとリソースを持ってこれているらしい。

 ちなみに内訳は、最初の精神汚濁魔法が八割。

 

「『浸潤の樹(サード・カース)』、『崩壊の雨(セカンド・カース)』」

 

 鎌鼬(かまいたち)を“樹”で防ぎ、“雨”で反射障壁を破壊する。

 私は“雨”の影響を受けないからね。反射されようが関係ない。

 精神汚濁についてはどうしようもないので、目の前の輩をさっさと殺して私にとっての善行を──違う違う、さっさと倒していこう。

 

「ミナミ──ありがとね」

 

 防御魔法が解除された時点で、相手方からしたらミナミの触手から放たれる腐食黒線(レーザー)を防ぐ手段がない。

 私が名前を言う前に、謁見室の壁ごとぶち抜いてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これ、どうするんですか? 何も知らない人から見たらノースちゃんが王族大量殺人犯ですよね』

 

「夜逃げが一番平和な選択肢な気がしてきたよね」

 

『ノースちゃん、損な役割しか引き受けてなくないですか?』

 

 それはそう。

 具体的には、一回目の異世界転移からミナミに出会えたこと以外大幅な役得が存在してないと思うんだよね。

 

 

 

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