なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど 作:S-A023736-9
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あれから二ヶ月、各地の異世界人の滅却祭を開催し続けているけれど……もうほとんどいないのではっていうのが、正直な感想。
最初のうちは一日で十から二十人ペースだったのに、ここ三日で一人も見つけられていないくらいには。
残りがどれくらいかわからないけれど、あんまりいないんじゃないかと予想を立ててはいる。
「そういえば、今日ってもしかして私の誕生日?」
短剣にこびりついた血を拭いながら、暦を思い出す。
此処までの行動の結果、事実上不老不死みたいな寿命になっている私的には誕生日を何回迎えたのかっていうのが、大した意味を持たない。
既に七万の年を無為に過ごした人間である以上、一年年を加算したところで端数として切り捨てられるだけではある。
『触れられないまま今日が終わると思って、ちょっと怖かったですが……これ、プレゼントです』
「……ありがとう?」
箱の中から出てきたものは……私とミナミがセットになった人形?
いつの間にこんなものを、という気持ちと嬉しい気持ちが混ざって上手く言葉が出てこない。
最近の日頃の行いはお世辞にも良いとは言えないけれど、コツコツと『死体異形化事件』解決に向けて奔走しているから……そのお返し、と考えれば納得の行くものかもしれない。
「これ、何処で……いや、どうやって作ったの?」
今や王国内指名手配犯どころか国際指名手配犯なんて人気者になっている私達──の人形。そんなものを作ってくれる人がいるとは思えない。
なら考えられる可能性としては、ミナミが時間を見つけて作っていたという可能性だけれど……技術的にも、時間的にもどうやって? という疑問がわきあがってくる。
『この世界は、あっちの世界と違ってお人好しの方がいますから。案外、ちゃんと頼めば作ってくれますよ』
それでもミナミが粘液生命体だっていう事実が変わったわけじゃない。
この二ヶ月に限っても、繰り返し万物腐食レーザーを何回も放ち、家屋や地形をちょこちょこ変えてきた指名手配済生命体の依頼を受注してくれるところがあるとは考えにくい。
そんな、誰にとっても良くなさそうな事を請け負ってくれるお人好しの──そして、技量のある職人がいるのかって言われると怪しい。
「ありがとね。大切にしたい……のはすごくあるんだけれど」
残念ながら私は、無限インベントリを持ち合わせているわけじゃない。それに、いつ突発的に襲われるかもわからない不安定な身の上である以上、荷物を背負い続けるわけにもいかない。
ということで。
「
それ以外の可動性を減らさない持ち運び方が思い浮かばない。
幸いにして、箱の中はミナミの粘液部分で埋め尽くされているわけじゃないので、容積的余裕はある程度存在している。
『本当はノースちゃんに持っていて欲しいですが、わかりました。特別ですよ?』
「要らないわけじゃなくて、本当に持ち運びの問題ってだけだから──っと」
さて、この世界もこの世界で終わっているという話が何回か出ていると思うんだけれど。
どうやら、大呪なんて呼ばれているものが何個かあるらしい。何処の世界でもあるのかな、こういうの。
例えば、無作為に天空から狙撃してくる衛星的魔物だとか、突然発生して知人の声で人を誘き寄せる妖精だとか。
それこそ、此処から見えている大きな火山の火口にいるらしい『それに敵意を抱いた瞬間に火山弾を高速で打ち出してくる』存在。
あっちの“雨”や“灰”よりは直接的な危険を前面に出してはいるけれど、こっちはこっちで日常生活を安心して送れなくなる大呪が多い。
突然どうしてこの世界の大呪の話をしたのか、と言われると。
その内のひとつである『自律歩行型
ついこの間、私とミナミがそのラインナップに追加されたって話を聞いていて……討伐隊、組まれているっぽいんだよね。しかも結構大規模な。
「ところでミナミ。あれって
大体前方1キロメートル先。
剣や弓、杖を携えた二百人位の集団がいるのはいい。
ついでに、その人達が白い服を着ているのもまだいい。
どうやら、何かと黒い私達は
問題はそこではなく。
此処から見た感想として、体が腐敗しているように見えるんだよね。
手だけだったり、全身だったり腐敗部位と範囲には個人差があるようだけれど……確実にまともな討伐隊じゃない。
『どう見ても大呪の犠牲になった私達の討伐隊ですよね』
奇遇だね、私もそう思ってた。
この世界で大呪と接近遭遇した場合の常識的対処を説く言葉がこちら。
『大呪と相対する事を考える事勿れ。不可避の場合は、大呪の性質を深く知れ』──まあ、基本的に逃げるが第一選択肢である、ということらしい。
それは性質がわかった所で対処出来るようなものじゃないことが多いだとか、そもそも性質がわからない事が多いだとか、色々な理由がある。
「無視しても良い気がするけれど……あの中にしれっと紛れ込んでる可能性はあるから」
あそこまでわかりやすくはないけれど、大呪を利用する形で防御陣地を形成していた異世界人は存在した。
だから、今回も中に紛れている可能性が……そこそこにある。
いや、私だったら腐乱死体集団の中に隠れたいかって言われたら嫌だけど。
「『
威力偵察兼、一撃必殺。
前世界では割と愛用していた、超遠距離からの一方的狙撃を実行出来る魔法。
とはいえ。超遠距離戦なんてすることが少なかったから、相対的に使った回数は少なめではある。
何で少ないのかって言われれば、超遠距離の敵に対処するより先に五歩先に転がってる殺意と敵意マシマシの奇襲者の対応をしなきゃいけないからでもある。
上空という普通は警戒しない場所から、小さめの岩を高速で落下させる
たったそれだけの魔法が、どれだけ効果的なのかは物理学の端っこを齧っていれば──もしくは、類似魔法が出てくるようなファンタジー世界を知っていれば、わかるはず。
二百人程度の集団は衝撃波に吹き飛ばされ、そして──腐った肉塊から飛び散った胞子が、糊のようにそれらを繋ぎあわせる。
その過程で、腐食部分でその胞子が増殖しているのが見える。
「なるほど、そういうタイプ」
なんか、見えている地獄度合いが前世界とあんまり変わってないような気がしてきた。
人間は倫理観を持っているし、世界自体のどん詰まり感はあっちに比べて大したことないんだけれど……大半の人間が私に敵対しているのと、小さな地獄が積み上がっている、みたいな。
「ミナミ。今更だけど、あれって
『残念ながら、れっきとした腐敗加速ですね。今回は何も出来ないと思います』
だよね、やっぱり。
腐敗環境で増殖する胞子群生地に、腐食超加速魔法をぶつけたら大量増殖する未来しか見えない。
「いやまあ、流石に私単体で負けるとは思えないけれど──」
『ノースちゃん。それなら、退くべきです。その考え方はノースちゃんらしくないですよ』
ミナミにしては珍しい慎重な姿勢。
確かに大呪の効果で復活があるとはいえ、たった二百人程度でしかない。
『
むしろ。一般的には慎重になり過ぎて取り落とす危険性があるんだから、そっちの方が良いと思う。
さっさと異世界人を滅ぼして回らないと、色々良くない結果になるわけだから。
『そもそも、出会い頭に流星魔法を使うのもノースちゃんらしくありませんよ。あの中に大呪の影響下にない人がいたらどうするんですか?』
流石にあの状態で真っ当な生きている人がいるとは思えない。
それに、どちらにせよ私達の討伐隊の一員である以上……戦闘になれば私達を攻撃してくる可能性が高い。なら、どっちにしろ変わらないっていうのが私の意見ではあるんだけども。
「でも、どっちにしろ私達の敵じゃん?」
『最初の街から、ノースちゃんは敵対していた人を殺していませんでしたよ』
あの時は時間制限がなかったからね。
ついでに言えば、急いだ方が良いのは明確で──ああ、なるほどね。
「ごめん。確かに帰ったほうがいいね、これ」
……明確に思考回路に異常が発生している。
「今日はありがとね。危うく良くない──私らしくない行動をするところだった」
『ノースちゃん、やっぱりあの魔法は……』
「多分ね」
思考汚濁魔法、あれは前世界の典型的思考パターンに変えてく──じゃなくて。汚染する魔法、かな。