なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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ぐちょぐちょしてる。

 

 ◇

 

 やあ、ノースちゃんことS-A023736-9だよ。

 

 どうやらこの世界において、人類ってものの尊厳はないらしい。

 人類の尊厳がなくて、敵対存在である魔族の尊厳も認めていない以上、人類視点で尊厳を未だ確保している生命体っているのだろうか──なんて疑問が一瞬だけ顔を覗かせる。

 

 さっき触られたことで、べたべたになった手を魔法を使って洗いながら箱入り粘液(ミナミ)の話を聴く。

 

『法王城もそうですし、何なら都市のインフラは基本的に聖女ですよ』

 

 うーん、同じ言語を話してると信じたくないよね。

 可能なら意志疎通が取れてないよ、ってことにしておきたい。

 聖女の魔法ですよ、とかじゃなくて聖女ですよってなんなんだろう。現実逃避してもいいかな。

 

 最早ここまで来ると、このまま寝返って魔族サイドについた方が幸せな生活を送れるんじゃないか、なんて思ってしまいそうになる。

 まあ残念ながらこの世界の魔族君、実は優しくて……みたいなことはない。全然わかりあえないタイプ。

 何なら私の場合首輪もあるし。

 

「なんでこの国、宗教国家とか名乗れるんだろう……」

 

 聖女は神の使いである。

 一応そんな感じの名目ではあったはずなんだけどな。

 その聖女、箱入りねちょねちょになってたりインフラになってたり随分と人類とは……ちょっとばかり離れた形態を取っていらっしゃる気がするんだよね。

 

『人類の為に身を捧げるのは、善い事ですから。ちょっとやり方が変な気もしますけれど』

 

 それをちょっとで済ませられる感性をお持ちなら、私の異世界生活は、SANチェックにまみれることはなかった。

 

「まあいいや、取り敢えず今日は疲れたし寝よっか。明日は魔族退治だし」

 

『初めての共同作業ですね!』

 

 その心は命をいただきます、って? 

 出来れば美味しいケーキが良かったなぁ。

 個人的には苺の乗ってるショートケーキとか好きなんだけど。

 

 ケーキ型の魔族とかいたりしない? 

 

 

 ◇

 

 

 そうだった、ミナミと戦闘中に意志疎通出来ないじゃん! 

 昨晩は普通に話せてから感覚がバグったんだって! 

 

「──『射撃魔法(セレブロ・シュート)』!」

 

 人の命と等価の魔法。

 むしろ、一人の命……あらかじめセットしてある『脊髄』を撃ち出すことで発動させられる魔法。

 その結果、得られる物は魔族の腕一本。

 まあ、普通の人が正面から戦闘するよりは成果があるよね。

 

「Xflt……mza! mza!」

 

 人類による反撃、なんてものを初めて食らった魔族が怒りを見せる。このパターン、割と何回も見たんだよね。

 魔族、何故か激昂状態になると戦術的に強くなるんだけど。そこは冷静さを欠いといて欲しい。

 

 はぁ、と心の中で溜め息をつきながら二撃目を放とうとして。

 

 私の背中から異形が。黒く染まった触手が這い出す。

 その数は六本。それぞれが何かを貯めているようにみえて。

 

「Vih……!?」

 

 濃黒の光が、放たれる。

 六本の腕を持つ、人間でいうと上半身だけの魔族──それに衝突する。

 

 ぐちょぐちょ。或いは、ボドボドという音が聞こえる。

 それはミナミの音ではなく、光線に直撃した魔族から発される音。体のあちこちが腐り落ちていく。

 とてつもなく脆いのか、動けば動くほどに黒紫色の肉塊になり──ついには、小さな黒色の水溜まりになる。

 

 要約するならば、だ。

 箱入り粘液から放たれた光は敵を腐食させ、溶解させる効果があるらしい。

 

 聖、女……? 

 

 とてもじゃないけど聖女って言葉から出てくるイメージ像とは異なる現実に、一瞬我を忘れそうになる。

 まあ私も勇者らしい魔法なんて使っていないから、お仲間ってことでいいんじゃないでしょうか。

 

『ノースちゃん、すごいじゃないですか!』

 

 ちょっと黒く染まった紙に書かれた文字が視界に入る。

 あ、敵味方の判別とか出来ない系なのかな。あれ。

 

 劇毒腐食性物質を背負っていると考えると、今すぐ結婚相手を置いていきたい衝動に駆られるよね。

 怖い……というか、なんか生理的嫌悪というか。

 

 ぽたり、と黒い雫が地面に落ちる。

 じゅくじゅくと音を立てて、何かが腐り落ちる。

 

 全自動魔族抹殺スプリンクラーとかに就職する気、ない? 多分就職出来るよ。

 

「……そっちこそ。何か代償とかあったりするんじゃない?」

 

 ああいう強い魔法には、代償が付き物。

 私の場合は人間の脊髄だし、他の魔法も大脳だったり臓器だったり、まともな物を要求された記憶がない。

 現在の私は、文字通り何千何万もの屍の上で勇者やってますって感じ。

 民衆の犠牲は忘れないぜ、ってね。

 

『大丈夫ですよ。いらなくなった聖女の残骸を使い捨ててるだけですから』

 

 どうやら、民間人を犠牲にするより不要な聖女を犠牲にする方が魔法の威力ってのは出やすいらしい。

 命の価値は平等じゃない。なんか嫌な現実を魔法っていうファンタジーを通して思い知らされてる。

 

『逆に、ノースちゃんのセレブロ・シュートは何を代償にしてるんですか?』

 

「人間の脊髄が弾丸代わりって感じ。事前に消費することで、いつでも打ち出せるタイプ。他にも『回復魔法(セレブロ・リペア)』とか『剣撃魔法(セレブロ・チャージ)』とかあるよ」

 

『すごいじゃないですか!』

 

 実はこれでもかなり代償は少ない方。

 王国の研究部が数十年かけて考えた魔法シリーズだったりする。

 昔は丸々人間一人で弾丸一発、とかだったのに今や人間一人で弾丸も斬撃も回復も出来る、とか。イヤな世界。

 

 まあ、素材になった人間によって威力や効果は変わるんですけどね。ちなみに今回のは平均くらい。

 

『王国もすごいんですね。私はさっきのしか使えないですし、威力調節とかも出来ませんよ? しかも一人あたり一回しか使えませんし』

 

 それは出来て欲しかった。

 あとさ、人の命を代償に魔法を使うのが平常になってるけれど……何とかならないものかな。

 

 

 そういえば明日、王国から魔法補充用の素材が届くんだっけ。あれ、腐敗臭とかすごいから嫌なんだよなぁ。

 防腐加工とか出来ないものかな。いや、それに魔法を使えるほど“人材”は潤沢じゃないんだろうけど。

 

『ノースちゃん、“崩壊の雨”ですよ。これはもう引き上げていいんじゃないですか?』

 

「そうね。魔族もとりあえず一匹倒したし、兵士百……二百人分くらいは仕事したよね。きっと」

 

 多分、あの魔族箱入り粘液が惨殺しただけで平均くらいの強さだったと思うし。

 おっ、ということは平均的な人間一人で平均的な魔族を……いやダメじゃん。残骸聖女を使い捨ててた。

 

 うーん、コスパ的には微妙。

 私の射撃の腕がもうちょっとあったらいいんだけど。

 

 

 “崩壊の雨”が魔族の基地と人間の町を区別なく飲み込んでいくのを見ながら、そんなことを考える。

 

『今回の雨、動きが活発ですね』

 

 うーん、言われてみればそうかも。

 ……まあ、戦線は停滞させられたでしょう。きっと。

 

 

 あ、ストーカーしてた王国の監視員が飲み込まれた。

 やったぜ。

 

 

 

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