なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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『善意の模造品』

 ◇

 

 さて。七代目『勇者』ことSlave-Amula:Astrk3736-9だよ。

 

 この世界は、前の世界と違って命に重さが存在している。

 それの是非、善悪について私は論じるつもりはない。

 命に重さがある私の出身世界視点から見れば、考えるまでもなく、それ(・・)こそが善であり、一般的な価値観となる。

 

 ならば、元々命に重さのない──それが当然の人からしてみれば、どうなのか。

 むしろ、命に重さがある方が異常(・・)であり、利用・簒奪を実行しないのは寧ろ、滑稽にしか見えないのではないだろうか。

 

 食人を伝統行事とする地域があれば、死体は不浄なものであるとみなして燃やす地域もある。

 要は、その違い(・・)に過ぎないのではないか──まあ、何が言いたいのかって言うと。

 

 七万年あの世界で過ごしている以上、最早残っている記憶もあの世界のものがほとんどになっている。

 幾ら、ほとんどの期間何もしていなかったとはいえね。

 

 なら、別にそっちなりの価値観で動いても良いんじゃないか……どころか、そっちの方が自然なんじゃないか、とすら最近は思っているわけだけれど。

 

『ノースちゃん、駄目ですよ。ノースちゃん自身が許したとしても、私はそれを認めませんから』

 

 そんなことを伴侶に言われている以上、きっと私の思考回路の何処かが変なんだろうとわかっている。

 ミナミに強く止められる、ということは逆算すれば私の思考回路が当初のものではない──思考汚濁系のものになっている、と推定出来る。

 

 即ち、基本的にミナミの立てた方針に従ったほうが、私らしい行動を出来るということ。

 問題は、その自制もたまに揺らぐ(・・・)ところではあるんだけれど──なんだかんだ、あれから追加で一ヶ月耐えられているから、そこら辺は許して欲しい。

 

 青い空、三つの白い月──まさか、それらに気持ち悪さを感じるとは思わなかったよね。出身故郷と比べて、月の個数が絶賛増量中だけれど。

 毒々しく、禍々しい色の雲と空に戻って欲しい……そんなことを考えている時点で、大分思考は偏っている。

 

「ミナミ、次は何処?」

 

『正直、もうほとんどいないと思いますよ』

 

 変に気持ち悪さを持ったり、衝動的になってもいけないということで。ここ二週間ほど、私は基本的に目を閉じることにしていた。

 

 こっちの世界の一般人を資源(リソース)にしたほうが楽なんじゃないか──という衝動に負けない為、とも言うけれど。

 

『ノースちゃん、あれがいました。腐敗の大呪、あの時の討伐隊です』

 

 前回と違って、私は冷静じゃない。

 何をやらかすかわからないけれど……逆に、ここまで一ヶ月時間を稼いだから、ミナミは色々考えてくれたでしょう。

 多分、私が何やらかしても何とかしてくれる位のことは。

 

『近隣の情報から、少なくとも今は、あの中に生者がいないことはわかっています』

 

 なら、先制攻撃を遠慮する必要はない。

 最近のミナミがしている制止パターンからも、私の現在の思考回路的にも何ら問題のある行動には分類されないはず。

 

「『流星(スター)──」

 

 前回程距離は離れてないけれど、初手は前回と同様に。

 遠距離から一方的に狙撃可能なその魔法を使おうとして。

 

「『北の勇者(ノース・ブレイブ)』様、『法国最強』様──お久し振りです」

 

 腐乱した集団の中から、聞き覚えのある声が響く。

 話が根本的に通じない。価値観の根底が完全に違う存在だと知っている──知っているはずなのに、流星魔法を撃つ手が止まる。

 

「我々の世界から此方に送られてきた人員は、此処までで累計百八人です。勇者様は、この世界における善行を信奉する存在ですから、きっと覚えていますよね? あなた様が此処までに得てきた魔法資源(リソース)の数を」

 

 七万年。それこそ、あの地獄に飛ばされてきたから一回も欠かしたことはない。

 何人の命を奪い、どれだけの資源(リソース)を得て、魔法使用に伴ってどれだけの資源(リソース)を消費してきたか。

 

 どうしてそれをやろうとしていたのかは、最早記憶の彼方だけれど──確固たる意思で続けよう、と考えていたこと自体は忘れていない。

 

「百八。此処までに異世界人を殺して得てきた資源(リソース)は、百七人分。だから──あなたが最後」

 

 目の前の存在こそが、最後の異世界人。

 聖女創造の際に出る廃棄物を特定世界に捨てる為の、原初にして巨大なアンカー。

 

 私が相手と会話する。

 その行動をミナミが阻害しない、ということは続けるべきだと判断する。

 

「善行です。あなた様にとっての善行を此処まで、確かに積み上げて来ました。生き残る為の善──この世界にとっての善、ですよね? わかっています、私は理解しています」

 

「本当に相変わらずだよね」

 

 元々何話しているかわからない──分かりたくもない──以上、せめて理解出来るような話をして欲しい。

 ついでに。善行がどうだのって話は、今の私にとってあんまり良くない話だってこともわかっているから。

 

「異物である異世界人の排斥──それは、確かにこの世界にとっての善行です。異物、それは善なる秩序を破壊する混沌の元凶ですから! ええ、ええ! わかります。ですから──『勇者』様は、自分以外の全異世界人を殺害し、この世界から善行を為したと認定される。その為に動いているんですよね?」

 

 目の前の相手とは前回、王城にて蜘蛛の姿で会っている。

 何となくではあるが、あの個体だと確信出来る。

 現に相手側も『お久し振り』と言っていたわけだからね。それが証明にはならないけれど、裏付けの一つにはなってくれる。

 

 そして、相手はあれから成長している。

 より柔軟に、より悪辣に善意という概念を利用出来るようになっている。

 

 現段階の私がそう直感するということは──元の私からしたら、反吐が出るようなことをしてきたのだろうと推定出来る。

 

 いわば、昔の自分ロールプレイ。

 思考洗脳で元の自意識が保てなくなっているのなら、ミナミの注意傾向から逆算して『昔の自分』を再現すればいい。

 勿論、ミナミの注意ラインが昔の私と完全一致しているわけじゃないから、多少の誤差はあるけれど……ないよりはマシな筈。

 

「ですが、私も善行をまだ積み重ねたいのです。この世界では、善行さえ積み上げれば沢山の人を利用することが出来ますから! とても便利で、善に満ちた世界だと思いませんか?」

 

「要は、善同士の勝負だって言いたい。でしょ?」

 

「勇者様も善を為し、私も善を為し、この世界で己が欲望を──生存を叶えたい。それだけです、最初からそれだけでしかないのです。例え、私を送り込んだ法国上層部が何を考えていようと。彼らもまた、生存こそが望みなのですから」

 

 ああ、そういえば。

 私は、法国上層部がいざとなったらこの世界に避難出来るように──というより。避難してきた時に、色々とやりやすくする為に倫理観と治安を終わらせている、という予想を立てていたわけだけれど。

 

「この世界の人の事を考えてない、ね……」

 

 昔の自分ならば言いそうな言葉。

 思い付いたそれを、目の前の相手に投げかける。

 

「何故、他人の事を考慮する必要があるのですか? 我が身こそを優先し、我が生存こそが世界にとっての善ですよ? どうして、そこに他者を介在させる必要があるのですか? 私がいなければ、世界は存在しません。だって、世界は私のものですから。世界は、私の生存の為の道具ですよ? ですから、ですから! 善行を為し遂げなくてはいけません。当然ですよね?」 

 

 結局その結論にしかなれないっていうのが、あの世界の限界を証明しているとしか思えない。

 

 自分を世界の中心か何かだとしか考えられない、その呆れるほど傲慢な思考回路を鼻で笑い飛ばす。

 

 はっきり言って、相容れない存在でしかない。

 理解しようとする方が呑み込まれかねない強欲と傲慢の塊。

 確かに、前の世界は死体がそこらじゅうに転がっている事や様々な地獄要素があったけれど──やっぱり一番合わない(・・・・)と感じたのは、ヒトの持つ根本的な価値観そのもの。

 

「なるほど、じゃあ──私が名前を訊くのも『善行』になるわけだ。世界(自分のもの)にその名を刻み込むわけだから。こっちの世界での呼び名じゃなくて、元の世界での呼び名を教えてくれてもいいんじゃない?」

 

「理解しました。名乗りをあげることは紛れもない善行です。名前を認識されるということは、この世界における生存において必要事項ですから。確かに、それは善行です。紛れもない善行。私は。私は薄汚く貪欲な……そして、理解し難き『善行』の意義を、利用法を最も深く知る者──故に、改めまして」

 

 人間の信用という、最も脆くありながらも最も大切なものを踏みにじる異世界の化け物が腕を広げる。

 

 空中から人間が、ぱらぱらと音を立てて落下していく。

 それが黒い胞子に貪食され、ぐちゅぐちゅと音を立てて腐敗し、胞子の大群に呑み込まれ──「討伐隊」の一員となる。

 

「『善意の理解者』ノア・フラッド──らしく、ないですか?」

 

 邪悪な化物は、嘲笑を浮かべる。

 

「『流星魔法(スター・レイン)』!」

 

 着火された激情が流星となり、大賢者を騙る生命体を穿つ。

 学習した外道は此処まで面倒になるのか、と吐き捨てながら。

 

 当然の様に、その体は再生して。

 

「酷い行動です。それは、善行ではありませんよ? 名乗る前に攻撃するなんて、この世界の良識に反しています。非合理的な──愚行、ですよ?」

 

 焦点のあっていない視線が、軽薄な怒りと共に私へと向けられる。

 

「『呪災継承者』ノース・アミューラ」

 

『終焉の境』から『魔王の死』まで。

 あの世界において厄災と呼ばれた呪いを、全て扱う武力装置として。

 大都市を破壊し、魔族を虐殺した『勇者』として。

 

 正常な思考が出来ないとしても、目の前の相手だけは殺害しないといけない──そんな、強迫観念に駆られる。

 

「『射撃魔法(セレブロ・シュート)』」

 

 距離が離れていない以上、『流星魔法』よりは威力では劣るもののから攻撃自体の顕現が素早い『射撃魔法』を選択。

 

 放たれた弾丸は確かに化け物に吸い込まれ──肉盾に阻まれる。

 本当に良い性格しているよね、私も相手も。

 

「それにしても、勇者様はどうして生存したいのですか? 確かに、それは勇者様にとっての善行かもしれませんが……私にとっては不必要ですよね? 私の善行と衝突するならば、それを止めるのが更なる善、ですが」

 

 

「残念ながらそっちに理解されようとしてないもので」

 

『射撃魔法』、『剣撃魔法』、『防御魔法』、『回復魔法』。

 即時発動し、それなり以上の効果を発揮できる手札はこの四つと『崩壊の雨(セカンド・カース)』系の勇者魔法だけ。

 

 連発している『射撃魔法』は肉盾や黒い糸(・・・)で防がれ、『剣撃魔法』を使えるほど近距離に近付けるない。

 二百どころか三百を越える肉盾も、弱いとはいえ魔法を使ってくるんだから──厄介この上ない。

 

 死角から狙ってくるようなものに対しては、ミナミが対処してくれてるけれど、それでも手数は不足しており、防戦一方に成らざるを得ない。

 

「勇者様は──勇者様にしか許されない、異世界の呪いを扱わないのですか?」

 

 異世界の呪い──すなわち、勇者魔法のこと。

 確かに今の私にとっては、たった十年分の寿命なんて代償の数にすら入らないものではある。

 

 だけど。前回、理由自体は覚えていないけれど『流星魔法(スター・レイン)』で全体攻撃をしたら、ミナミに止められたことは覚えている。

 あれの問題点は全体攻撃(・・・・)であったからであり、よく見ないで『崩壊の雨(セカンド・カース)』あたりを使うのは正しくない(・・・・・)

 これも昔の私(ノース)ロールプレイの一環、ってね。

 

「『勇者』の悪癖だと思ってくれれば良いよ。どうせ理解出来ないだろうからね」

 

「理解不能です。悪癖と認識しているのなら、善へと転換することが善行、ですよ? あるいは、勇者様が死に、私が生きるという最高の『善行』を──神は祝福するのでしょうか」

 

「神とやらが存在するなら、殴り飛ばす機会が欲しいけれどね」

 

 一度目は異世界召喚で、二度目は事実上の異世界排斥だったとわかってなお。

 存在すら不確かな創造神とやらの顔面に、一発魔法を叩き込んでやりたい程度には怨みがあるもので。

 

 私の発言を聞き、ほんの僅かだけ表情が動く。

 それは無謀への嘲り、或いは存在しない怨敵の存在を信じる愚者への侮蔑か。

 

 そうでもなければ。

 

 

 

 

「やれるものなら、やってみると良い。終焉、崩壊、浸潤、回帰、継承、生誕、魔王、隔絶──それは所詮、奴隷の産物でしかないのだから」

 

 想定外の言葉に、ミナミと私は身構える。

 

 目の前に居座る邪悪が、諸悪の根源であるという事実。

 それを咀嚼する為に思考回路を動かそうとして──気付く、気付く。

 

 この間隙を作らされているという事実と、もう一つ。

 相手が邪悪な笑みを浮かべていることに。

 

 

「──なんて、演技(・・)はどうでしょうか? 『消滅魔法(ソウル・バニッシュ)』」

 

「『防御魔法(ハート・シールド)』!」

 

『消滅魔法』。

 資源(リソース)とは別に十分間の魔法使用禁止という代償を持つ魔法に対して、私の持つ手札の中では使用資源(リソース)が少ない『防御魔法』では防御しきれない。

 何もしなかったとしたも、死までは行かないだろうけれど、意識の喪失ぐらいが妥当か──衝撃を受けながらも、何処か冷静な自分がそう分析する。

 

 ああ、確かに慢心していた。

 相手が大賢者(ノア・フラッド)の名前を知っているということは──五代目『勇者』の魔法を使えてもおかしくない。

継承の業(フィフス・カース)』の影響を受けていても、おかしくない。

 

「『回復魔法(セレブロ・リペア)』」

 

 喪失寸前の意識を『回復魔法』で強制的に取り戻させる。

 自分の体内の血液と臓器が一斉に蠢くような気持ち悪さと資源(リソース)を代償に、地に足を付く。

 

 ただ、『消滅魔法(ソウル・パニッシュ)』を使ったということは代償である十分間の魔法使用不能時間がある。事実として、相手も私を仕留めきれなかったことに僅かな驚きを見せている。

 だから、この間に──

 

演技(ロールプレイ)は入念に。それが、善行ですよ?」

 

 今まで相手が見せていた黒い糸(・・・)

 それが束ねられた──最早、黒い光線(・・・・)とでも呼ぶべきものが私に向けられて。

 

 後ろから、強烈な力で左側に押される。

 感触だけで、それがミナミによるものだと認識出来て。

 

「これ、魔法ではないんですよ」

 

 そう、告げられた直後に鈍い衝撃が右半身を駆け回る。

 分解され、体の繋がりがほどけていくような感覚。

 

 ここまでの損傷を受けて、ようやく思考が明瞭になる。

 勇者魔法を此処まで使おうとしなかったのは、思考汚濁の影響──それならばっ!

 

「『崩壊の雨(セカンド・カース)』!」

 

 意識を喪失する前の悪足掻きとして、呪いの雨を呼び寄せる。

 最も汎用性が高く、最も攻撃的な漆黒の曇天。

 

 それが、ミナミの何らかの助力になると祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響く地響きの轟音、急速な腐敗による人工物の崩壊音。

 それらを目覚まし代わりに、跳ね起きる。

 周囲の状況を確認しようと周囲を見渡して──有り得ない状況になっていることに気付く。

 

「ミナミが二人……?」

 

 既に曇天は晴れ、腐敗を促進する胞子も失くなっている。

 だが、双方向から絶え間なく照射され続けている黒線(レーザー)は地面を融解させ、地形を今この瞬間にも破壊し続けている。

 

 

 まずは……現状を、再確認しよう。

 

 状況としては、ミナミ同士が戦っているようにしか見えない。

 どっちも私が見たことない程の──大体3mぐらいまでに巨大化して、大量に蠢く触手から黒線(レーザー)を放っている。

 

 そして、私は最後の異世界人に騙されて気絶していた。あれからどれぐらい経過したかは知らないけれど、『崩壊の雨』が消えていることから、数秒や数分ではない。

 短くて十分、長く見積もれば──周囲の状況も鑑みて、一時間といったところかな。加えて、右半身がきっちり回復しているのは恐らくミナミのおかげ。『継承の業(フィフス・カース)』で渡しておいた甲斐があった。

 

 

 一般に、この状況から類推される事象は片方が偽物であるという事。

 まあでも、それは別にいい。どっちか見分ければ良いだけではあるから──問題はこうなっている理由の方。

 誰にでも変化出来るのか、それともミナミだから姿と能力を似せられているのか。

 

 蜘蛛の姿で出会った経験がある以上、あれが連絡用端末……姿形を変貌させられる使い魔的存在を使役している可能性もある。

 

 

 これは、再び状況の考察に入るべき? 

 それとも全力の戦闘中に、ミナミから私に言葉を送ることが出来ないこともふまえると、どっちかに助力をした方が──違う、状況は拮抗している。

 私がやるべき事は、その後(・・・)の対策。考察を優先。

 

『崩壊の雨』の影響は双方に出ているから、それでの判別は不可能。

 同時に、あの異世界人相手にも歴代の勇者魔法がきちんと効いていることがわかる。

 位置や傷の位置からの判別や特性予測は──難しい。

 

 胞子は存在せず、腐敗は地面一体に広がり。

 だから──待って、もしかして。

 

 そもそも、なのか。

 

『死体異形化事件』において、死体の代わりに出てくるのは聖女創造の代償(・・)である──それは、此処までに確認されていた事実ではある。

 そこからもう一歩踏み込んで。その代償(・・)とは何なのか。

 

 法王城の破片であったり、爆発であったりと種類が多岐に及んでいたから思考から外していたけれど、それは聖女そのもの(・・・・・・)の一部なんじゃないか。

 思えば聖女の失敗作と呼ばれていた人面連なり化け物も出現していたから。

 

 ならば。

 これが擬態した姿ではない、そんな可能性が有り得てしまう。

 思い出すのは、私を昏倒させた黒い光線(・・・・)

 

 この仮説が正しければ、正体の予想は付いた。

 敵対する粘液生命体は、単純な異世界人ではない。

 異世界にて発生した生命倫理に悖る創造の結果、生まれてしまった代償の産物。

 

 あの世界産の物にしては珍しく王道な事があるのだ、なんて呑気な事を考えてから。

 

「正体はミナミ……S-A023736-8という聖女を創造してきた時の代償(・・)

 

 その発言をした瞬間、双方の粘液生命体による攻撃が一瞬だけ止む。

 恐らく片方は驚き、片方は反応故の硬直なんだけれど……表情を見る手段がない以上、まだ判別は難しい。

 

 あるいは。語弊を恐れず分かりやすく言い直すなら──ミナミが前の世界で、私と出会わずに成長したらどうなるのか。

 仮想(IF)世界線の『法国最強』、ってこと。

 

「さて、考察も終わりにして。どっちが本物か考えるフェーズ」

 

 口頭による確認も、攻撃手段による確認も出来ず、表情を伺うことも出来ない粘液(異形)生命体の真贋判定。

 まさか、そんな技能を試される時が来るとは思わなかったけれど。

 

 左右、どっちが本物か判別出来れば──ああ、良い方法があった。

 

「『流星魔法(スター・レイン)』」

 

 流星を引き寄せ、左の生命体へと降下させる。

 その衝撃で攻防の均衡が崩壊し、右の──ミナミからの追撃が為される。

 

 隙を見つけ、ミナミと異形の間に入り込むことで改めて一対二の構図を再構築する。

 背面にミナミ。やっぱりこの構図が一番安心するから。

 

 ちなみに決め手は、箱の中で音を立てていた人形。

 それしかないってのが、少し悔しいけれど。

 

「私は善行をしているんですよ……?」

 

 惑わすのを諦めたのか、正面の粘液生命体が負傷した人型へと変形し──異形(それ)は言う。

 

「この世界では、善行さえ行えば生存可能ではないのですか? 魔法資源(リソース)になろうとしているゴミの願いを叶えて、さもしい我欲を私は叶え続けて来たんですよ?」

 

 現状を理解出来ておらず、錯乱しているようにすら見える。

 いっそ哀れにすら見える錯乱だけれど。

 

「純粋なる善意です。私は善意で他人の我欲を叶えているのに、どうして誰も味方してくれないんですか? おかしいですよね、おかしいんですよ。そう、そもそも世界が私の思い通りにならないのが異常で、気持ち悪くて──」

 

 自暴自棄になったのか。

 魔法陣が四方八方、空間を埋め尽くすように出現する。

 明らかに今後を考えていないような魔法陣創造。

 自身の命というあの世界において最も高価にして、最も効果の高い魔法触媒を使用したとしか考えられない暴挙。

 百を越えた魔法陣から、天災が一斉に顕現されようとして。

 

 ──黒色の光が、背後で弾ける。

 

 全てを腐食させるそれは、自暴自棄となっていたそれに衝突する。

 しかし、それはその間にいる私も(・・)、当然のように貫通していて。

 

 ぐちょぐちょ。或いは、ボドボドという音が自分の腹部から聞こえてくる。体のあちこちが腐り落ちていく、激痛。神経が朽ち果て、血液が体から漏れ出していく。

 

「ミナ、ミ……?」

 

 振り返ろうとしても、既に神経が機能していないのか首を動かせない。

 視界に入るのは、瀕死の「異形だったもの」だけ。

 

 

「はは、良い……んですか? 私は聖女様(あなた)代償(・・)ですよ? 代償なくして、聖女は……存在出来ません。聖女様(あなた)の害意、殺意、身勝手さ、愚鈍さ──それが、自らの伴侶を、絶望の淵に落とすことに、なるんですよ? 自殺……理解出来ない凶行です。即ち、聖女様は、身勝手にも、強欲にも、怠惰にも──『悪行』を為すことがお望みであると。伴侶の心を傷付け、死へと逃避するんですね」

 

 命の灯火が消えていく。

 

「吐き気を催す邪悪です。決して理解出来ぬ狂人です。何故、私の生存という善行を……それを、拒絶する事が許されるのですか」

 

 薄れ行く視界、朧気になっていく聴覚は確かに死亡を想起させるもので──

 

 

『ノースちゃん。しばらく、お休みなさい』

 

 

 その言葉を認識したのが、最後の記憶になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 実はあの時やったことは、この上なく単純です。

 

 

 私の世界の人がいる限り、その付近の人には代償が付き纏うと言うのならば。

 

 「私の代償」が生きて(・・・)いなければ、私が存在出来ないと言うのならば。

 

 そして、ノースちゃんを襲った精神汚染魔法が死ぬまで(・・・・)治らないのだとしたら。

 

 私の作戦は、一つしかありません。

 

 

 “生誕の法(シックス・カース)”。

 それは六代目『勇者』があの世界を(・・・・・)呪い──あの世界の「価値観」を持つ人を対象に呪った悪夢の大魔法であり。

 生命創造短縮化と全人類蘇生という二つの効果を持つ祝福ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 目を醒ますと、そこは土に覆われた平原だった。

 こう言うと三度目の異世界転移だと思いかねないけれど──全く違うことは直ぐにわかる。

 

「さて、ミナミ。何が起こったのか教えてくれる?」

 

 隣にいるのは今回とても助けられたミナミ。

 そして、眼前に存在するのは箱に納められた人型。

 その見た目は「ミナミの代償」のもの。

 

『精神汚濁魔法は死ぬまで、なんですよね?』

 

「まあ、大抵はね」

 

 来世なんてこの上なく不毛な存在をあの世界の人達は考えない。

 そんなものを信仰する位なら、目の前に存在する資源を奪いあうのが常識である以上ね。

 来世まで呪うぜ、なんてやる必要が何処にもない。

 そんなものを全く考慮していないのだから。

 まあ、全人類蘇生が長期間続いてたら変わってたのかもしれないけれど。

 

『なら、ノースちゃんを一回殺すしかありません。そして、他の人に殺される(食べられる)のはイヤなので、その担い手は私じゃなきゃダメでした』

 

 なるほど、と頷く。

 後半の理論はともかく、前半の理論は納得出来る。

 なのでいつぞやの点数的には六十点、なんてね。

 

『私の代償が存在しなくなれば私は存在出来ない、とそう言ってましたよね』

 

 あの化け物は最後の方、そんなことを言っていた。

 加えて、大賢者の手記にも意訳すればそれの裏付けになりそうな事が書いてあった。

 

「そうね、代償の存在が聖女の存続条件らしい」

 

『なら、私の代償を生存させなきゃいけません。出来れば無力化した状態で』

 

 あれを無力化出来る方法はあるんだろうか、と考えて。

 ……どうやらさっきまでの私は、相当に脳をやられていたらしいと分かる。

 

「『回帰の灰(フォース・カース)』」

 

 指命、目的、存在意義。

 それら全てを剥離する呪いが、「代償」に向けて積もり始める。生存は(・・・)している。

 

『それで、しばらくゆっくり出来るようにお家が欲しいので──此処が、そのお家ですね』

 

 白い部屋を中心に置いた、広めの家屋。

 恐らく私が起きる前にミナミが作った場所なんだろうね。

 雰囲気的に『浸潤の樹(サード・カース)』製。

 

『あと、皆には知られたくないので。『崩壊の雨』を永続的に、家の周囲に発動させてくれませんか?』

 

「『崩壊の雨(セカンド・カース)』」

 

 十分あたりに寿命が十年縮む呪いではあるけれど、現在の私の残り寿命的にはこのままでも数百年単位で継続させられる。だから、あんまり気負うことなく使えるけれど──ああ、そういうこと。

 

 

 そして、同時に私が最後にやるべき事も理解出来た。

 

 

「ミナミ。それ、結構強欲じゃない?」

 

『伴侶の人生を貰いたい、と考えることが強欲認定されるならば、そうですね』

 

 はぁ、と軽く息を吐いて。

 

 ミナミがやろうとしていることは、この世界の隔離──ではない。

 正確には、正しい意味での(アンカー)になろうとしている。

 動かせないようにし、流されないようにする、ストッパー。

 

『そして、ノースちゃんは他の世界に迷惑をかけたくないんですよね?』

 

「出来ればね」

 

 出来れば、と言いながらも口角が上がるのを止められない。

 

『ならば。“生誕の法”でノースちゃんを蘇らせてから、“箱の隔絶”でこの世界(・・・・)を閉じる。それ以外に、方法はありません』

 

 やっぱりね、と嘆息。

 “箱の隔絶(Curse・Last)”を使うことで、これ以上の異世界人侵入を拒否する。異世界の人、なんて特大の新たな異物を転移させてくることを拒絶する。

 

 ただ、元々繋がりのある聖女創造の代償(・・)は切断出来ない。

 それは私やミナミ、「ミナミの代償」が存在している以上仕方のないこと。

 

 ただ、同時に『死体異形化事件』は──近くに異世界人がいないと発生しない。それは、異世界人の存在が(アンカー)になっているから。

 

 従って、唯一の『死体異形化事件』の拡散因子である私達が永続的に家で引きこもっていれば、この世界にとって問題じゃなくなる。

 

 だから、他人を寄せ付けない為に家の周囲を雨で囲わされた──なるほど、ね。

 

 

 これが完成すれば、法国残党による聖女創造は成立不能になる。

 未だにこの世界に私達(アンカー)がいる以上、この世界以外に代償を送付できない。

 

 加えて。こっちで代償を支払おうにも、その為の人間が拡散因子の近くにいない。

 それに。仮に発生したとしても直ぐに倒せば、あっちの世界の聖女が死を迎えるから──

 

『これで、聖女創造の技術ごと破壊出来ます。法国の根本(・・)が崩壊しますね?』

 

 ミナミの策において、一番酷い(・・)のは此処。

 自分以外の聖女を全滅させた上で、聖女創造の秘技ごと完全に崩壊させる。

 これで、何千年かけてきたのかわからないけれど……聖女創造の研究を、完全に白紙へと戻したわけだ。

 

 いやぁ、まさかこんな──こんな作戦を思い付くなんて思っていなかった。

 七万年耐久を選んだ私と同じか、それ以上の奇策。

 

 

 あの世界における大国である法国。

 その基幹技術体系にして、最大産業の完全な崩壊。

 見事。本当に、見事としか言い様がない。

 

『ノースちゃん。私の作戦は、紛れもない悪行(・・)です。一つの大国を完全に崩壊させ、数百万の命を奪い、数千年の歴史を崩壊させるものです。それでも。そんな私でも、一緒にくらしてくれますか?』

 

 

 こうして提案(プロポーズ)は、為された。

 それを承諾する為のステップは、たった一つ。

 

「例えそれがどんな悪行だとしても、私は変わらないよ。既に七万年以上、待ってるからね」

 

 

 

 今さら心変わりなんて、するわけがない。

 

 

 

 

 

 

 それじゃあ改めて、世界よ。

 

 再戦を申し込んでくれたというのに同じ結果になってしまい、非常に申し訳ないけれど──

 

 

 ──これで、完全な試合終了(チェックメイト)だ。

 

 

「────“箱の隔絶(Curse・Last)”」

 

 

 

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転生TS天使ちゃんは怠けたい(作者:テチス)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 天使って休日なしのブラック企業なんですか!? やだー! ……え? 怪我すると療養期間もらえるの!? やったー! じゃあ俺ガンガン悪魔と戦うね!▼ なお傍から見ると、ただの戦闘狂に見える模様。


総合評価:23181/評価:8.74/完結:26話/更新日時:2024年03月13日(水) 19:07 小説情報

転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます(作者:こびとのまち)(オリジナルファンタジー/コメディ)

百合ゲー『フラワーエデン』の世界にTS転生したら、悪役令嬢の取り巻きジト目少女でした。▼でも悪役令嬢の末路はたいしたことなかったので、自由気ままに生きようと思います。▼ジト目少女「悪役なんだし、パンツくらい覗いても……いいよね?」▼百合ゲー主人公「ハアハア……そのジト目をわたしに向けて! 寮に戻ってイチャイチャしたいよぉ」▼悪役令嬢「何かが間違ってます! 何…


総合評価:8400/評価:8.48/完結:28話/更新日時:2020年11月28日(土) 18:02 小説情報

言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる(作者:こびとのまち)(オリジナルファンタジー/コメディ)

ロリエルフに転生したので泣く泣く森を彷徨っていたら、エルフのお姉さんに拾われました。▼だけど、言葉が全く理解できません。▼どうしよう……?▼ロリコンエルフ「この天使はわたしが育てるのっ! えへへ、でへへ」▼ダークエルフ「ヤベェ。遂にフー姐が幼女を攫ってきた……」▼ロリエルフ「……ぐすん(何の話してるんだろう? もしかして失礼なことしちゃった?)」▼勘違い渦巻…


総合評価:10514/評価:8.75/完結:38話/更新日時:2021年08月23日(月) 18:02 小説情報

邪神さまがみてる(作者:原 太)(オリジナルファンタジー/日常)

※クトゥルフ要素は一切ありません。▼ なんか低いおっさんの声で目が覚めたら、薄暗い地下ピラミッドの頂点にある玉座に拘束されていた。しかも武装した人外どもに囲まれてる。やりやがったな畜生。死んでたまるか。▼「12.1」のように小数点がついているサブタイは、主人公以外の視点であることを示しています。▼カクヨムでも投稿中。


総合評価:9406/評価:9.12/連載:32話/更新日時:2026年04月30日(木) 22:45 小説情報

お 守 り く れ る 怪 し い 老 人(作者:老人というだけで怪しい(偏見)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

路地裏からぬっと出てきて何故かお守りくれる怪しい老人をやっている者だ。なお、やっている頻度はそこまで高くない。


総合評価:15668/評価:8.1/連載:31話/更新日時:2024年07月13日(土) 21:24 小説情報


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