なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど   作:S-A023736-9

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ぐちゃぐちゃしてる。

 ◇

 

 やあ、北の勇者(ノース・ブレイブ)ことS-A023736-9だよ。

 

 ──“崩壊の雨”とは、何なのか。

 

 一言で説明するならば『何の前触れもなく現れては、周囲を壊滅させて消える自然現象』といった評価になる。

 ただ、悲しいことに『何の前触れもなく現れては、周囲を壊滅させて消える自然現象』って何? と問われたとしても、“崩壊の雨”だけには定まらないんだけど。

 

 “崩壊の雨”、“浸潤の樹”、“回帰の灰”。

 この世界を突発的に蝕んでいる輩であり、人類と魔族双方が追い詰められている原因……の一部。

 

 雨が降った範囲を雑に壊し散らかしていく“崩壊の雨”。

 どこからともなくやってきた種が周囲の大地を巻き上げ、最終的に爆発する“浸潤の樹”。

 人類や魔族関係なく、生命体が触れると記憶と知性全てが剥がれ落ちる“回帰の灰”。

 

 そして、範囲を『壊滅させる自然現象』と区切るのならば、もうひとつ“終焉の境”というものが増えてくる。

 これは端的に言えば、『世界の端っこ』からゆっくりと消えていく謎現象のこと。

 まあ、そんなわけで。

 

 神話の時代──本物の神々がいた時代からあるらしい、この四つによって文明は。というか、世界は常に滅亡とお隣さんになってしまっている。

 まあ、そういうわけで人類と魔族は本来大戦争なんてしてる場合でもないのかもしれない。

 

「……賢者曰く“言語の壁”が五つ目の災害らしいけれど」

 

 文字通りの言語の壁ではなく、今までの四つの絶望と同様のもの。神話時代から変えられない、この世界の理。

 とはいっても、その賢者も“回帰の灰”に飲み込まれてるから、これ以上の真相を突き止める手段はない。

 

『言語の壁、ですか?』

 

「知ってる? あんまり聖女が知ってるべき話じゃないのかもしれないけれど」

 

 魔法で(・・・)生み出した食料を食べながら、箱入り粘液と会話する。昔は食事の度に吐いてたけれど、流石にもう慣れたよね。

 

『私は知りませんね。昔は魔族と人類も会話が出来ていた、と聞いたことはありますが』

 

 あ、そうなの? 

 だとしたら“言語の壁”ってのは元々ある感じの呪いとかではなく、どっかのタイミングで人為的に発生させられたものだったりするのかな。

 まあそんなこと考えても仕方ないんだけど。

 

「うーん。むしろ王国の人は“雨”とかの仲間じゃないかって言ってたけれど」

 

『昔の法国の人がそういう魔法を使ったらしいです。滅亡寸前の小国を丸々生贄に捧げる感じで』

 

 うわぁ、最悪さに拍車がかかっていくね。

 そこまでして対立して何がしたいんだろうか。やっぱり見た目とかが生理的に無理だったのかな。

 

「えぇ……」

 

『逆に、“信仰の神”って知ってますか? 自分の信じる神への信仰心の深さと、魔法の威力が比例するという話ですが』

 

「あ、それは知ってるかな」

 

 基本的に魔法というものが致命的な代償を要求してくる割に、その効果が控えめであるというのは変えられない事実として存在する。ただ、覆すとまでは行かないものの威力を上昇させる方法はある。それが『己の信じる神を信仰する』というもの。

 何故かは知らないけれど、それによって魔法の威力が上昇する。具体的にはそこら辺の強盗と、真摯に信じる(狂ってる)枢機卿では魔法の威力が3倍くらい違う。

 

『じゃあ、ノースちゃんは神を信じているんですね!』

 

 まあ、問題はそこになる。

 日本生まれ日本育ちの私は、そんなに宗教家ではない。加えてこの世界に来る時も上位存在には出会っていない……どころか、転移先がこんなんだから、信じる余地がない。

 

 だから、答えとしては。

 非常に。極めて聖女に対する物言いではないということは承知しているけれど。

 

「全く信じてないよ。聖女に言うことじゃないけれどね」

 

 この地獄みたいな状況、大抵は人類とか魔族の行動が原因だし。救世主みたいな神がいるなら、とっとと救ってくれって感じ。

 

『でも、ノースちゃんの魔法の威力すごかったですよね? とてもじゃないですが、あの程度の代償で支払えるものじゃないと思いますが』

 

「まあ、そう思うよね。でも実は違うらしいよ?」

 

 カラクリは単純。信仰心が強ければ、魔法の威力が上がるんじゃない。真相はその真逆。

 

「信仰心が弱ければ、魔法の威力が下がる──つまり、元々高いものを減らしている(・・・・・・)。それが“信仰の神”の正体だよ」

 

 だから、あれは信仰心に応じた強化魔法なんかではない。信仰心に応じた、全体弱化魔法で。

 その上で格差が出来ることを期待されて、発動された人為的魔法。

 

「私は勇者だから、その『魔法威力減退魔法』の対象じゃないだけ」

 

 勇者だから。つまりは、異世界転移者だから。

 流石に『魔法威力減退魔法』の対象に、異世界からやってきた人間というのは含まれていないらしい。

 というか、それがわかっているから王国は異世界から人間を呼び出そうとしていたわけだし。

 

『法国と違って信仰に篤い人が減ってきた』らしいからね。

 さあ、何故でしょう? 

 答えは自分の胸に手を当ててみろよって感じ。

 

「まあ、何となく予想は出来ていると思うけれど。そんな魔法を使ったのは──」

 

『法国、ですよね』

 

 残念。この世界においては、往々にして人類ってのは予想よりも下の行動をしてくれるんだよね。

 

「ううん、どちらかといえば王国だよ。当時国一番の賢者が法国に寝返る際の置き土産」

 

 何でも当時、魔法触媒用に保管していた貴重な『魔族サンプル』を全て消費して使ったとか。

 それだけじゃ足りなかったのか、かなり遠い国の都市を犠牲にしたらしいけれど。

 

 ちなみに、その賢者は法国側からも寝返りを拒否されたらしい。何がやりたかったんだろうね、本当に。

 

『人類、なんでまだ生き残ってるんでしょうか?』

 

 それはあれだよ。ほら、誰もが知ってる格言。

 争いは同レベルでしか発生しないってやつ。

 

 まあ、だから。

 

「魔族も同じくらい愚かなんかじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ灯り消すよ」

 

『やめてください! 私暗いところ苦手なので!』

 

 箱の中にいるのに……? 

 

「……まあ、なら仕方ないか」

 

『ノースちゃん、色々とありがとうございます!』

 

 本心からの感謝の言葉、久しぶりに聞いたな。

 

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