なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど 作:S-A023736-9
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やあ、最強聖女の伴侶ことS-A023736-9だよ。
この世界における結婚っていうのが、基本的に契約関係以外の何物でもないわけだけれど。
まあ、ミナミとならギリギリそれを契約関係以外の意味合いを持たせられるんじゃないか、なんて考えてはいる。
「『
速射に優れる私の魔法で、敵性存在の足を破壊する。
その後、私の背中側で黒色の腐食性光線が圧縮され──解放。
まあ、大体の敵はこれだけで倒れてくれるんだけども。
「Vih……?aflv!」
「うーん、再生能力持ちか。面倒だなぁ」
逆に考えると、上手くやれば素材だけ大量に回収出来るってことでもあるんだけど。
大概、こういう相手って普通に強いから『上手くやれば』なんて考えてる余裕がないんだよね。
「『Xalh,Xalh──」
さて、ここでひとつ。
ある程度以上強い魔族というのは、魔法を使う。
実は魔族は人間と違って代償なしで発動出来ます、なんてことはなくて。きっちり臓器らへんを犠牲に発動する。まあ、たまに記憶とかのこともあるけれど。
「『
ここでの問題は。戦闘大好き魔族ちゃんの臓器を大量に使った魔法というのは、大抵の場合威力や効果が化物級になるということで。
「──Yevz,Yevz』」
ドン、なんていう軽い踏み込みの後。
大地がそのまま、捲れあがる。
地盤ごと巻き上げられ、それが空中で変形し、無数の槍としての形状を獲得していく。そして、それが紫色の焔を帯びて。
うーん、やっぱり面倒なことになった。
一応は張ってみた防御魔法も、どうせ槍の一発か二発を相殺するので限界だろうから。
まあ、仕方ない。
「──『
突如として、雲が湧き立つ。
何の前兆もなく、全ての光を呑み込む呪いの──澱みの雨雲が、頭上に顕現する。
背中に抱えていたミナミを持ち替えるのと、ほぼ同時に。
湧き出た雨雲は、そのままに黒色の雨を降らす。
ぽつり、ぽつりと。直に少し雨足が強まって。
咄嗟に何かをしたらしい魔族の抵抗ごと、その命を奪い去る。
そして、世界を破壊する雨は上がる。
この世界で見慣れた、紫の太陽が視界に入る。
緑色の雲が、赤い空に浮かぶ光景。
物理学という存在に唾を吐き捨てたような世界が、戻ってくる。
ああ、そして。
「『
背後から魔法を私に向けて撃とうとした、おおよそ三十人の人類。
残念ながら、見えているよ。漁夫の利でもしようと思ったんだろうけれどね。王国最強の座は、そんなに軽くないから。
まあ、これで前にいた魔族も後ろにいた人類も全滅したわけで。目撃者は私とミナミ以外全滅かな。
こういうことをしているから、『
いやでも、ここまで大規模なのは久しぶりだから違うのかな?
『ノースちゃん、今のはなんですか?』
いつもだったら、適当に誤魔化して終わらせるところだったけれど。
監視員もいないし、ミナミは信じられるからね。
……どちらかというと、そういう状況だからこそこんなことをしたって順序の方が正しいんだけれど。
「え?一回の詠唱で三十発くらい撃てたこと?」
一回の詠唱で何発でも撃てるんじゃないか、って疑惑?
それとも、実はそもそも詠唱なんていらないってことか。
『違いますよ!“崩壊の雨”のことです。ノースちゃんが、発動させてたんですか?』
そりゃそうなるよね。世界における自然発生的大災害を使っていたら、訊きたくもなる。
恐らくミナミに顔があったら、すごい訝しげな顔とかしてるんじゃないかな。あるいは、侮蔑かもしれないけれど。
だから。これは前も言ったけれど。
「実は、私がこの『災害の原因』かもしれないよ?」
今度はそれに、一言だけ添えて。
「だとしたら、どうする?聖女様は。此処で世紀の大悪党を討伐する?それとも、法国や王国に一斉通報とかする?」
まあ、ただで殺られてあげる気は更々ないけれどね。
道連れに法国軍ぐらいなら、今の残存リソースでも滅亡させられると思うけれど。
舐めないで欲しい。私は
それは、長年あの王国で生きてきた猛者達の全てよりも、強いという意味でしかないのだから。
「それとも──」
と続けようとして、ミナミの触手で口を塞がれる。
うーん、これは事実上の接吻なのかな?
『ノースちゃんは、悪い人じゃないですから。絶対に、そんなことをする人じゃありません。他の誰が信じなくても、私だけは味方ですからね!』
いつぞやの時と似たような答え。
また『妹が心を開いてくれません』なんてスパムメールが他の聖女に送信される前に決着しないとね。
「よく信じられるね。まあ、そうだけども」
『やっぱり!じゃあ、どういうことですか?』
「“崩壊の雨”はね。もともと、私より昔の異世界転移者が死に際に呪いとして世界に遺したものなのよ。で、何のお節介か知らないけれど、また別の転移者が『自分よりも後の転移者』に呪いを少しだけ扱えるようにしようとしてね。それで、あんな感じ」
つまり、自分の命を捧げてもいいほどこの世界が嫌いだった転移者が沢山いたって話。
こんな世界だからね。納得だけれど、そこまでして呪いたいかってのはある。
お願いだから人類も魔族も滅んでくれ。
あるいは、自分よりも後の転移者も絶対にこの世界を嫌うから──滅ぼす手段を与えよう。
そんな考えの転移者が、きっかりと存在していたってだけ。
「だから、私は“崩壊の雨”をちょっとだけ扱えるんだよね。これ、実は王国にも言ってない話だったりするよ?」
信頼しているから、こんな手札があるよってのも紹介出来たりする。
まあ、ミナミは結婚相手だから。
『これ、ノースちゃんから信頼を得られたって素直に喜んでいいんでしょうか?なんか、大変な人から信頼を得ちゃった気がします』
「それは……ミナミも法国最強でしょ?だから、王国最強と法国最強で対等だからね。あんまり変わらないよ」
『法国は王国と比べて、個の強さとかないんですよ?』
いやぁ、そもそも今の人類が集団の強さとか説けるような状況じゃないでしょうに。
左から倫理観0点、潜在的大罪人、性根腐敗人間、特権階級──みたいな状況だから。
ほら、すぐ向こうの村からも雨が見えてたから漁夫の利ハイエナ人類達が向かって来ようとしてるし。
「ま、だからそういうこと。ミナミは気にしなくていいんだよ、面倒事とかね」
『ちなみに、さっきの“雨”って代償あるんですか?』
「むしろ魔法なのに無かったらびっくりだよね。きっちり毟り取られるよ」
『軽いものですよね!?』
うーん、まあ軽くはあるかな。この世界だと。
「大丈夫大丈夫。
ほら、軽かったでしょ?
『ノースちゃん。本気で怒りますよ?』
まあまあ。減った分だけ、この地獄からはやく抜け出せるってことで。