なんかこの聖女、箱入りでねちゃねちゃしてるんだけど 作:S-A023736-9
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やあ、呪災継承者ことS-A023736-9だよ。
人の足を引っ張ることで生活が可能になる世界こと、異世界を今日も今日とて生きていきましょう、って感じ。
『そういえば、前にノースちゃんが王国最強だって話をしていたじゃないですか』
あれからまた三ヶ月。
“人柱”を崩したり、“崩壊の雨”から逃げたり、魔族を処分したり、人類から奇襲を受けたり……そんな、全く変わらない日常を過ごしていて。
ふと、ミナミが思い出したように王国最強を擦りはじめる。
「そうだけれど。どうしたの?」
数えるのも嫌になるほど、罪を重ねた結果の王国最強。
扱える魔法の種類も、今までで溜め込んできた“人的資源”の総量も、殺してきた魔族の数も。恐らく、王国で一番だろうね。
『いや、本当に三年で王国最強になれるのかなって思いまして』
ああ、そういうこと。
仕方ない。此処は実践形式で経験者が教えてあげてもいいんだけど。
異世界人式……とか言うと、日本がよくわからない風評被害を受けることになるか。なら、もうちょっと違った言い方で。
「現王国最強流、やってみる?」
必要なものは殺傷道具と勇者魔法です、なんてね。
『内容だけちょっと訊いてみようかなって』
うん、振り返ってみればそんなに難しいことじゃない。
王国辺境都市で居住人類全体に向かって、
そこで回収した素材を用いて、雪崩のように向かってくる住民から素材を剥ぎ取りますが──その内、対処しきれなくなるので魔族との戦線まで逃亡しましょう。
この時のポイントは、申し訳なさそうにしながら吐いたりして弱っておくことです。すると獰猛なハイエ……狩猟採集が本能的に得意な人類は、全く追いかけるのをやめてくれません。
また、その道すがらで弱めの魔族を殺したり、追い付いてきた人を適度に殺して、適度に逃がしてあげましょう。
そうすると、『こいつ素材持ってるぞ』となって余計に追っ手が追跡をやめません。やったね、って感じ。
あとは魔族数人と人類の集団をかち合わせて、乱戦状態にしてから漁夫の利ったりすれば……まあ、大体一年くらいで
なんとなく、そんな話をミナミに伝える。
うーん。こうやって振り返ってみると、当時の私は色々若かったなぁ。というか、この世界に適応出来ていなかった。
普通に考えて、この世界で多くの人に向けて『命は大切にしようぜ、皆仲良く!』なんて世迷い言を本気で宣言したら、殺意の雨霰が完成することなんてわかりきってるでしょ。
『ここまでやっても、ある程度なんですね』
そりゃあね。これぐらいじゃあ、長年この世界の人類として疑心暗鬼の研鑽を積んできた妖怪達には勝てないよ。
あの妖怪達は……なんか、なかなかに楽しそうな性格してるから。伊達に長年生き残ってないよね。
「そうそう。だから、その後は──大体4つ位、王国の都市を破壊して。ついでにこっそり法国の都市も3つ位壊して。それで、こんな感じかな」
『あれ? もしかして、ちょっと前に法国とか王国で発生していた都市災害ってノースちゃんの仕業ですか?』
あ、うん。多分そうだと思う。
精神状態がまだ不安定だったから、割と壊れ気味だった時期だし。
『
「どうも。“消滅の穴”──五つ目の災害系に認定されかけてた人間ってことで。よろしくね?」
“終焉の境”、“崩壊の雨”、“浸潤の樹”、“回帰の灰”についで“消滅の穴”。
まったく。そんな世界的災害と同列に扱わないで欲しいよね。
いや、確かにさ。分類的には同類なのかもしれないけれどさ。
『ノースちゃんは、どうしてそんなことをしたんですか?』
いやぁ、性根が快楽殺人鬼なもので。
なんて冗談でも言おうものなら、今度こそ腐食性液体で殺される気がする。
寿命磨り減らした宣言の後のミナミ、普通に怖かったんだから。
「王国に捕まって、それから……まあ、色々ね? 私の精神が不安定になる感じの色々があったんだよ。そこら辺は深く追及しないでくれると助かるんだけども」
薬剤と魔法と、その他諸々。
そんな感じで誤魔化しておくのも時には必要なのです。
ほら、『知らぬが仏』って言うでしょ。この世界には天地がひっくり返ってもいなさそうな存在になっておこうよ。
「それで七都市を破壊した後、運良く精神的ピンチから回復してね。それからは……まあ、なんかいい感じに過ごして、ミナミとの法王城での出逢いって流れかな」
総じて一つだけ教訓が得られたとしたら。
如何に強大な妖怪だとしても、暗殺とか下克上には気を付けようってこと。この世界では慢心した瞬間が、ほとんど同義で死亡時刻なんだから。
なんなら、慢心してなくても“雨”とかで普通に死ぬからね。いや、それ以前に慢心してなくても人類からの奇襲もあるか。
『苦労してきたんですね、という一言で纏めていいのでしょうか?』
「いいんじゃない。本人が良いって言ってるくらいだし」
さあ、それはそれとして。
最近。個人的にちょっと困ったことが起きてるから、その解決もしなきゃいけないんだよね。
タイミングを伺って、どう切り出そうかと悩んでいる間に。
『そういえば、王国ってなんで異世界から人を召喚してきたんですか?』
おっと危ない、ニアミス。
うーん、一説によると普通にアウトだって説もあるけれど。訊かれたのに説明しないほうが色々とダメだから。
「なんでも、剥ぎ取れる素材の質が違うんだとか。同年齢と比較して、大体
どうも、同年代より三千倍価値がある女です。
今度何か自己紹介の機会でも貰った時とかに使おうかな。
だからこそ昔の異世界転移者の最終自爆魔法がここまで強くなってるとも言うんだけどさ。
『へぇ、すごいじゃないですか! いや、でもそれならもっとバンバン召喚してもおかしくないですよね』
「ああ、それは呼び出す為の素材が、大体同年代の人間5,000人分くらいらしいから。そんな大量のリソースを捧げようって人も、協力しようって人もあんまいないってことじゃない?」
で、上澄みの化物達は前の勇者のやらかしを知ってるから、召喚なんて協力するはずがないと。そもそもの性根からして協力とか対等とか、そんな感じのことが死よりも嫌いな連中だったけど。
『それはそうかもしれませんね』
人間、気軽に捧げられすぎ問題。
もうちょっと人権とか優しさとか、そういうものを持っていきたいよね。
うーん、そんな青臭いのこの世界からは根絶されてるかもしれない。
「そういえば、ミナミ……というより、箱入り粘液スライムって寿命はあるの?」
『大体10年くらいらしいですよ』
うーん、私が未亡人になることが確定してしまった。
まあでも、それなら別にいいか。
さあ、剥ぎ取れる素材の質が三千倍。
それって、どういうことなんだろうね?
これも、とりあえずは知らぬが仏ってことで。
死ぬまでに、ミナミが気付けばもしかしたら。