ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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大人パイにゃん???!?!



今話は一部、独自考察が混じっております。
予めご了承下さい。





大陸での備忘録

 

『ヒュオオオオオオオオオ!!!!!』

 

小規模エリア。

電脳。

用意したPCの内部。

暴風がその世界を掻き乱す。

 

監視用計器。

繋いでいても、その影響を受けないようにと設計していた類の機器。

ソレ等が異常値を検出し、次いで、問題ないようにしているハズの内部のプログラムくん達が風によろめく。

そのような光景は、既にワイリーは見飽きるほどだった。

 

「………………今度も失敗か」

 

一分ほどの起動。

観察。

結果は不良。

 

十数度目になる失敗にもめげずに頷き、ワイリーはただ、沈静化プログラムを起動した。

数十秒。

その程度の時間を経て、沈黙したネットナビを画面越しに確かめ、しかし更に一分。

念のための時間を置いてからストーンマンをプラグインさせる。

 

以前のこと。

沈静化したと判断してすぐにプラグインさせた結果。

治まり切っていなかったそのナビとストーンマンの戦闘が始まったことがあったのだ。

それほどまでに今回の代物は、じゃじゃ馬だと言って良い。

 

何が悪いのか。

ワイリーはもう幾度目になるかというほどの首を捻る。

だが生憎、特別何かを変えた訳ではない。

いや、相応に合わせてはいるが。

基礎構築におけるミスはないハズなのだ。

 

「ほっほっほ」

「案内はどうした?」

「問題はない、暫くは一本道よ――それで、どうじゃその、ウインドマンは?」

 

ひょっこりと顔を出してきた風天老師。

思わず、面白くもなさそうに顔を顰め、しかし出せる言葉はない。

ワイリーは溜息をついて画面を見やった。

沈静化され、ストーンマンによってPETへと運搬されているネットナビ。

 

ウインドマン。

黒いスリムな人型に、青を基調とした鎧を部分部分に装着させたような見た目のネットナビ。

最大の特徴は、両肩に送風機のようなプロペラを搭載していることだろう。

当然、ただのネットナビではない。

 

遺物『草原の笛』。

シーサーアイランドにて、古来より受け継がれてきた代物。

曰く、かつて大陸に存在していた草原の民達の宝。

大国との戦争によって滅亡した中で遺されたモノ。

どのような経緯で辿り着いたかは、既に語られたことだが。

 

ワイリーの知り得ている種々。

電子的なプロテクトとしても作用させられる盾。

ネットワーク一帯を火の海に変えられる頭蓋骨。

唯一、直接的な干渉こそしてこなかった手裏剣。

そしてこの、笛。

 

手裏剣を基にして創り出したシャドーマン。

変わらず運転をしているミヤビのネットナビ。

既に、一体。

完成させられていたがための油断もあった。

そう自嘲する。

 

上手くいっていない。

理由は、何か。

首を捻れどもワイリーには。

否、ワイリーでも分からなかった。

 

シャドーマンに利用している基幹、根幹。

それ等を基本的に、流用しているだけ。

同じような遺物であれば、同じような手法で上手く行くのではないのか。

調整こそ加えたが、概ねの部分はそうだ。

 

だが、些か考えが甘かったのだと思い知らされていた。

しかも、かなり困るパターンで、だ。

上手く行った手法が失敗している。

つまり。

根本的に実は、シャドーマンも上手く行っていない疑惑がある。

 

さしものワイリーも全身から冷や汗が噴き出すような事態である。

いや、だった。

早々にその懸念に行き当たったワイリーは当然、ミヤビにシャドーマンのチェックをさせるよう確認を取った。

結果は異常なし。

計器に示された数値は、どれをどう見ても平常値を示していたのだから訳が分からない。

 

そのような状態のまま海を渡り、十数日。

チョイナの街並み。

騒然とした、車とバイクの入り乱れた中心地。

ラフな格好をした住民達に紛れられるよう、ミヤビの用意した格好で過ごしつつ。

雑然とした街中を過ぎ、閑散とした町中を通り、疎らな村落も見送って。

 

剥き出しの土道。

人造物の気配すらも感じられないような自然森。

車が通ることすらも、あるいは珍しいのではないか。

そのように思わせる。

いや、自然の中に無理矢理通していると自覚させるような、道筋。

 

一応は電波観測計器の確認をしていたことも相まって、むしろ人間の領域から離れていっている。

そう、自覚させるように計器は沈黙を続けている中。

辛うじてまだ、人間の領域にある。

そう思わせるように、一つの村落が彼方に見えた。

 

「風天」

「うむ、此処じゃ」

 

軽い会話を交わすと共に、ハンドルを握っていたミヤビが頷いた。

念のため道路から外れて。

といっても、空き地等は野原ほどにはあろうという場所だが。

特に誰が何を言うでもなくキャンピングカーから各々が降り立った。

 

十数日前のチョイナ。

其処ほど服装はキチンとしてはいない。

しかし、色がついていてもシャツはシャツ。

ズボンはズボン。

人間の文明領域であることには、間違いない。

 

「ほっほっほ」

 

最初、興味本位でか顔を見せていた幾人か。

それ等はおおよそ、手を振っている風天老師の顔を見、納得したように引っ込んで行った。

それこそがある意味、証明でもあった。

老人が時折であろうとも、此処を訪れているということの。

 

「………………で、風天」

「なにかな、ワイリー」

「計器の反応を見たが、まだ少し遠いな。違うか?」

「うむ。此処から先は車では流石に難しい」

「ふぅん。それで、風天のおじいさま? 私達はどこまで歩けば良いの?」

 

笑いながら己の白髭を撫ぜている風天。

そこに、周囲を見渡しながらゆりこが問う。

計器の反応から、おおよその方向を分かっているワイリーを一瞥し。

輪留めだとか、離れても問題ないよう準備を黙々と進めるミヤビを見。

軽やかに笑いながら、一方を指さした。

 

自然。

向けられた先へと各々の視線が集まる。

その先。

山。

隆々と聳えるようなモノではなく、ただそこにある、ごく普通に見える一つの岩肌もある山。

 

「スイギョウ山」

 

それを示しながら、

 

「――――アレを登る」

 

そう、言った。

等と。

仰々しい風天の口調に反し、山道は穏やかであった。

流石に、平坦とまではいかないが。

風に、竹の揺れる山道はさも観光道を歩くような静謐さがあった。

 

当然だろう。

流石に、老人二人を交えて山登りをするのだ。

傾斜の激しい山であれば、途中でダウンしてもおかしくはない。

 

もっとも。

片方は笑い飛ばし、片方は鼻で笑うだろう。

この程度は大したものではない、と。

 

そのまま軽い会話を交わしながら登り進める先。

時折、先導する風天がUターンに近いほどの曲線を描いて先々進んで行くこともあった。

だが、それに文句を言う者は居ない。

 

全員、見えていた。

一見すれば穏やかでしかない道。

しかしその実、方々に張り巡らされた罠。

何かあると確信させるだけの警戒が。

 

「…………あ」

「どうした、ゆりこ?」

「パンダ!」

「ほっほっほ――この辺りは野生のパンダが住んでおってのぅ。罠も保護の一環じゃ」

「なるほど」

 

唐突に、ゆりこが示した先。

ごろりと寝そべって笹を貪るパンダが一頭。

呵々と笑う風天に、ミヤビが小さく頷いていた。

 

特に関心もないのでそのまま周囲を見渡せば。

まあ、なんだ。

概ね竹林ではある。

だが、よくよく目を凝らせば二ホンやアメロッパとも違う。

あまり見ないような植物の姿がチラホラと垣間見える。

 

「…………見たことのないキノコもあるな」

「蜷局茸」

「なんじゃ、ソレ」

「……蛇がとぐろを巻いた姿に似ていることから名付けられた珍しいキノコです。それでよろしいかと」

「そうか」

 

詳しく語らぬミヤビ。

その言葉に恐らくは何かあるのだろうと察するワイリーだが、詳しくは聞かない。

知らなければ、それで終わりだ。

知的好奇心を満たすのも良いが、無暗に知る必要もない。

少なくともあのキノコはその一つだろう、と。

 

実際、その通りであった。

他二人と違い、ミヤビはそれだけでないことにも気付いてはいた。

稀茸。

薬草。

その類。

 

ミヤビの目に映るのは、ざっと周囲を一瞥するだけでも、一財産築けるのではないかと言う代物の数々。

見るものが見れば宝の山。

果たしてこの山一つにどれほどの価値があるか。

黙考の中で周囲を見渡すミヤビだったが、不意に視線が合った。

 

前方。

最前を行く風天と。

その白眉に隠された目と、確かに視線が合った。

 

時間にして数瞬。

鼻で笑い、ミヤビはワイリーの脇へと控えた。

ミヤビは忍びである。

少なくともこの一時は、ワイリーの影。

その影がまさか、金の光に目を奪われて雇い主の下を離れる等、有ろうハズがない。

 

「――なにか?」

「ほっほっほ。珍しいかね」

「ええ。ですが、どうこうしようとも思いませんが」

「そうか。そりゃ、すまんな……ほっほっほ」

 

風天とミヤビが己を挟んで交わす会話を、不審気に、眉間へと皺を寄せているワイリーだったがそれも数秒程度。

気にするべきでないモノと切って捨て、歩みは進める。

口元が微かに動いたものの、結局は黙った。

問い詰めるようなことでもなし。

そもそもの目的はこの先であるのもあって、追及はなかった。

 

黙々と。

歩みを進める一同。

その先。

遂に、建物が見えた。

 

寺。

であろうか。

人の丈の倍はあろう。

塀に囲まれ、閉ざされた門の向こうに塔が聳えるようにある、寺。

 

寺と分かったのは単純な話。

描かれていた。

そのように。

 

酷く流暢故、逆に読み取り辛い。

金文字の看板。

何と読むか。

恐らく『天鮎寺』辺りであろう。

 

そのように一部、といっても風天以外、が首を傾げているのも束の間。

その下の門が軋みを上げながら開いていく。

独りでに。

 

「………………誰も居らん」

「アヤツも中々、悪戯好きであるからなぁ」

「奴、か」

 

興味本位。

石段を登りすぐ、両扉へと視線を向けたワイリーが呟いた。

扉の後ろには誰も居ない。

ただ遠く、塔もある、住居でもあろう平屋のような場所の前に老人が一人。

手を後ろに佇んでいた。

 

「――――それでは紹介しよう」

 

歩み寄り、風天が片手で示す。

老人。

風天のように白毛が目立つが、むしろその背は高く、真っ直ぐに伸びた背筋と相まって見下ろすような威圧感を醸し出して見える。

しかし元からの雰囲気か、白い眉の奥から覗く瞳には何処か柔らかさも含んでいた。

 

「わしの友人であり薬師をしておる、白蔲仙人。人呼んで――」

「カルダモンって呼んで欲しいんだも~ん」

 

ピースピース。

とでも言わんばかり。

両手をチョキにしながら、その老人は軽やかに笑った。

そうして、

 

「いやはやしかし、よくもこのような場所までお越しになられた……大したもてなしも出来ず申し訳ない」

「興味本位の一環……とでも言えばいいか」

「好奇心を持ち続けるのは悪いことではないじゃろう。刺激を求めるのは良いことじゃ」

 

場所は変わり。

カルダモン。

自らをそう名乗った老人手ずから、艶やかな金色に見える瓢箪から各々へと水を注いでいく。

 

食堂。

壁際には古めかしい瓶が区分けされ、所狭しと並べられている。

中央の円卓。

 

チョイナ的には老人を働かせるのはよろしくない。

そのような気遣いもあって代わりを務めようとしたミヤビを手で制して。

注ぎ続けたカルダモンが椅子へと腰掛け、いの一番に杯の水を口に含んだ。

 

白磁。

如何にも中国的な青の文様が施された、杯に。

警戒を解くためだろう。

釣られる形で同様に口に含んだ。

 

「へぇ。水なのに美味しい」

「それは良かった」

「薬には水が重要と言うことか?」

 

円卓の上に無造作に置かれた瓢箪を一瞥し、ワイリーが問う。

返答はなく、ただ笑みを浮かべ、杯を傾けるのみ。

鼻を鳴らして一息に呷れば、指で一突き、瓢箪がすぐ目の前まで転がされた。

栓を抜いて自身で注ぎ、一口。

険しい表情を微かに緩ませたのも束の間、鋭い視線をカルダモンへとやった。

 

「――さて、カルダモン。風天からはどの程度まで話が行っている?」

「いや、なにも」

「……なにも?」

「なぁんにも。ただ、風天がお主達を連れてくることも、何を求めてやってくるかも、よぉく分かっておるとも――仙人――今風に言えば、超能力者なのでな。アイヤー!」

 

何やら仁王のようなポーズを決めている姿を胡乱げに見詰め、溜息を吐いた。

「またか」と。

ゆりこやミヤビは我関せず。

風天は面白そうに笑うばかり。

さっさと話を進めるべきか。

そのような判断を下し、

 

「であれば」

「条件がある」

「……聞こう」

「大したことじゃないんじゃ。わしにも弟子が二人ばかり居ったんじゃがもう離れていってのう」

「…………」

「ま、その内また取る予定ではあるが。見ての通り、歳でのぉ……忘れん内に色々と記録してくれる弟子やら助手が欲しいんじゃ」

「…………電脳世界に、と言うことか」

「そそ。将来的には本草……いわゆる漢方と機械のコラボレーション! 人の手では足りない分を補って、人々に安定して薬を提供出来るようにしたい訳」

 

「ほう」と小さく。

ワイリーにしては珍しく、感嘆の声を漏らした。

弟子を取っていた。

二人ばかり。

 

次の弟子か助手として、ネットナビが欲しい。

未来を見据えているのならばある種、正しい判断ではある。

どれほどの知恵、知識であろうとも失われることはある。

それは失伝している数多の技術系統が証明している事実。

不慮の事故であったり、そもそも弟子を取ることが叶わなかったりとで。

 

翻って、ネットナビ。

それらは弟子とするならば、非常に優秀である。

現実世界に肉体がない、という欠点は確かにある。

しかし、忘れない。

人間の有する忘却がなく、また得た知識をバックアップと言った形で消えないようにも出来るのだ。

 

コト、遺すことに掛けて。

これ以上に優秀な弟子は存在し得ないだろう。

ロストテクノロジー。

捜して回っている遺物とは異なるが、そう呼ばれるモノは案外多い。

実際ワイリーの脳裏には、意味不明系ネットナビや、最近色々と教えてやっているストーンマン等と言った姿が過った。

 

もっとも、漢方。

特殊な材料の細分化や混合。

相手に合わせて効果の調整もするような代物だ。

前途多難ではあろう。

と言う言葉は、ワイリーは飲み下した。

 

「――なるほど。であれば」

「あ、優秀であれば良いから他みたいにしなくて良いよん」

「……はァ? 馬鹿か、貴様」

 

しかし、だ。

それはある種、危険な思考でもある。

何故か。

データとしてそれらの情報が存在してしまうからだ。

 

データとして存在するということは、データとして奪われる可能性があるということ。

ワイリーにとってそれらの心配は皆無である。

自身の粋を以て創り上げたネットナビの彼等彼女等からデータが奪われる等と言う事態は即ち、自身を超える技術者が現れるということ。

そのような、起こり得ぬ事態に心配等するはずもない。

 

だが、ワイリー等の極一部のネットナビ達以外は違う。

容易く、とはいかない。

しかしそれでもデータを抜き取られ得る存在でしかない。

 

少なくともワイリーは、風天が只人でないことは認めていた。

そしてその風天が「薬師」と認めているのだ。

それなり以上に優秀なのだろうと認識もしていた。

であればこそ、

 

「そんな甘い考えでは、貴様の知識が全てネットに流れるぞ?」

 

薬師の知識。

その危険性も、ある程度は知れる。

薬も過ぎれば毒となる。

飲み合わせに、食い合わせ。

優秀な薬師が知り得る知識が集えばどうなるか等、分かり切ったことである。

 

そのような、警告。

しかし笑ったまま。

カルダモンは返す。

 

「だからお主に頼んどるんじゃ。良い伝手があるじゃろ?」

「……抜かれるのは想定内、という訳か?」

「抜かせるじゃなく知られる、ね? アチラさんなら悪いようにはせんじゃろう?」

 

笑い、嘯くカルダモン。

その姿に、さしものワイリーも薄ら寒い物を禁じ得なかった。

何処まで知られているのか。

このような辺境に住む老人に。

 

睨む見据える。

こと、数秒。

瞼を下ろし、杯で乾いた口を潤した。

 

今更なことと思い直したのだ。

理外。

理解の外。

常識の範囲外。

そんなもの既に幾つも見ているではないか、と。

 

「――――掛け合ってみよう」

「可愛い子二人、よろしくの!」

「……二人?」

「弟子と助手の二人じゃな。弟子はそのうち居なくなるじゃろうし。頼んだ!」

「あー…………分かった。聞いてみよう」

 

眉間の皺を解すように。

軽く抑え、ぼやくワイリーを他所に、雰囲気が些か軽くなった。

読み合いにも似た話し合いが終わったのだ。

風天やミヤビはともかく、子供であるゆりこには些か辛かったらしい。

くたっと力を抜いて椅子に体を預けている姿を尻目に、ふと思い出した形でワイリーが口を開いた。

 

「そういえば」

「なにかな?」

「件の代物はどこにある?」

 

こと此処に到っても。

具体的に何を探しているか口にしない。

本当に知り得ているのか。

風天が既に伝えている可能性をあえて無視して、問うた。

 

「もう見せておるよ」

「なに?」

「分からんかなぁ?」

 

空いた杯に水を注ぎつつ、疑いの目を向けるワイリーだが。

にやにやと悪戯っぽく笑うカルダモン。

そして、小さく笑っている風天の姿を見れば、嫌でも分かる。

本当に既に、見せられていることに。

 

逡巡はない。

すぐさまに片眼鏡の機能を起動し。

見やった。

片手を。

 

「…………おいおい」

「お、バレちゃったかぁ!」

「ほっほっほ。珍しい顔を見れたのぅ」

 

悪戯が成功した子供のように。

軽やかに笑う二人を他所に。

珍しく驚きを隠せないまま。

その片手。

まさに先程まで手ずから水を注いでいた瓢箪に、驚愕の目を向け続けていた。

 

 

 

「カルダモン」

「なんじゃ?」

「これはどういうことだ?」

 

遺物『水満の瓢』。

仮称である。

曰く、「水の出る便利な瓢箪」と言うので、だ。

止め処なく水の溢れ出るソレ。

カルダモンに投げ渡した、普段は水筒代わりに使っているらしい、代物の解析は順調に進んだ。

 

そもそも貸し出すことに微塵の抵抗もなかったことが理由に挙げられる。

山の麓までしかキャンピングカーが寄せられないことが要因ではあるが。

それを差し引いても。

調査と解析が上手く行き過ぎた。

 

僅か数日。

それだけで、取っておきたいデータの取得に成功していた。

仮にナビを創るとなっても、十分に作れるだろうだけのデータを。

 

「なんだって聞かれても、お探しの代物じゃろ?」

「それにしてはおかしい。安定し過ぎておる」

 

しかしこれは、早過ぎる。

盾。

骨。

手裏剣。

笛。

 

ワイリーの接触した遺物の悉くは、大なり小なりあれど暴れ馬に等しかった。

手裏剣はまだマシ。

それ以外の乱れに乱れた電波の奔流は、ワイリーであっても情報の安定的な所得を諦める他に選択肢がないほど乱れていた。

 

サンプルは四件。

それだけだ。

しかしそれでも、大人し過ぎる。

むしろ協力的ですらあるのではないかと錯覚させるほど、あっさりと調査は終了した。

終了出来た。

 

「何でだと思うの?」

「分からんから聞いておる」

 

実の所。

ワイリーとしては答えを聞く等、屈辱の極み。

最終手段。

単なる調査以外にも既に調べ尽くしていた。

それこそ、夢の中での接触すらも含めて。

 

しかし夢の中であってさえも。

仙人と呼ぶのだろう存在達が只々佇むばかり。

何を言うでもなく。

静かな面持ちでワイリーを見返すばかりであった。

乗っ取るどころか、何か用があるのかと聞かんばかりの様相。

 

正直に言えば。

ワイリーは混乱の極みであった。

他の遺物が有する、ある種の暴力性。

それがない。

 

コレが例外なのだろうと思いはすれど、その例外が存在している事実が。

つまりコレは、起こり得るからこそ起きている。

例外であろうとも、起こる可能性がゼロ以上でなければそもそも起こらないのだから。

 

「……ん~、そもそもコレ、どういったモノと考えとるんじゃ?」

「兵器の類と考えておる」

「本当にそうかな?」

「なに……?」

 

訝しむ。

その表情にを不快に思うでもない様子で。

純粋な疑問のように、口を開いた。

 

「なんでそう思ったんじゃい?」

「…………最初に見付けた代物が盾であったこともある。だが、それすらもある種の暴力性――攻撃性を有しておった。他者を乗っ取ろうとするような、な」

「それは本当に乗っ取ろうとしていたのか? そう言っておったのか?」

「本当に? いや、実際…………」

 

ワイリーにとってそれは思い返すまでもない。

夢の中で言っていたことだ。

散々なまでに。

そう、

 

「………………言っておらん。奴等が口にしていたのは」

 

あくまでも、否定。

体を寄越せとは、言っていない。

その力を寄越せ。

種族復興のため、と。

 

「復興?」

「――滅亡は間違いだ、と」

「それが理由かな?」

「いや。その後の調査で入手できたデータが、攻撃に転用出来るような…………転用出来ただけか?」

「攻撃に使うのと、使えるのとでは大きく違うのぅ?」

「……兵器と言う考えがそもそもの間違いか? 創り出した、と言う前提が先ず違うのか? 盾……ソレに気を取られたか。であれば、なんじゃ? いや、言うんじゃあないぞ!!!」

「はいほい」

 

カルダモンの懐から白磁の杯が二つ。

取り出され、片方ワイリーに渡された。

それを受け取り、注がれる様を無言で眺める。

やがてどちらからともなく口を付けた。

 

「――――代物は電波が形となったモノに間違いはない。なぜそうなったかが重要か?」

「うんうん」

「兵器として何らかの方法で形作られた代物と考えてはいたが、そうではない。つまり、偶発的に生じた……?」

「そうかもね。ほれ、もう一杯」

「うん……………………マグネメタルで弾けた。ならばココロ・ネットワークに属するような、何某かの電波であること自体には間違いはない。確認も出来た……実際、見る限りそうじゃ…………」

「……ん、ココロ・ネットワークってなに?」

「ん? ああ。ワシと光のヤツとで基礎理論を組み上げた代物じゃ。人々の心と心を…………? そうか! まさかコレがソウなのかッ!?!」

 

半ば、自身に問い掛けるような調子で呟いていたワイリーが唐突にカルダモンから瓢箪を奪い取った。

全く唐突。

あっさりと奪い去られ、目を白黒させているのを尻目に両の手で握り締めながら、ソレを凝視する。

 

電波が形となったナニカ。

しかし、違う。

これはある種の形なのだと。

 

「…………ふぅむ。何か分かったのかな?」

「……コレは、人の心の形。その一つだった……そう考えれば納得のいく部分がある」

「ん~……具体的には、何が?」

 

混迷。

結び付いた結論。

形にもなっていない結果だけの推察。

それを形とするため、ワイリーは口を動かす。

 

「……ワシは幾つかの疑問を持っておった。そもそも、古い文明の中には電波を形とした兵器を作るだけの技術力なんぞあったのか、と――恐らく、コレが出来たのは偶然……いや、ある種の必然か?」

「必然?」

「……何らかの指向性。人の……だけではなかったな。同一生命体の心が一つの方向に向いていたことで生じた、数多の心の結晶じゃ」

「そんなこと、起こり得るモノかのぅ?」

 

当然の、カルダモンの疑問。

しかしワイリーの答えは一つ。

 

「知るか。だが、事実として存在しておる……定性的な代物が物質になる等と……普通じゃあない……」

「そういうものかねぇ」

「だが考えて見れば兵器と言う予想に疑問もあったか――兵器に数多の意識が宿している等と、明らかに利点の見えぬ邪魔どころか不要で不安定な要素でしかない。命令も聞かん武器なんぞ使えたモノではないからな」

「……よく分からんけども、要するにじゃあコレは何じゃ?」

「――集合意識の具現。一族……いや、あえて言うなら種族か? その心の結晶じゃろう」

「結晶」

「コレはそうなのか自信はないが、他は……恐らく…………」

 

悩まし気に。

あるいは、何処か心苦しそうに。

吐き捨てるように、

 

「…………滅亡への恐れ。ソレによって繋がり、一致し、残り続けた無念……心の結晶じゃ」

 

呟いた。

 

「滅亡」

「恐らくは……根底は、滅びへの恐怖。何かしら滅びを回避しようとしたんじゃろう……守る。滅ぼす。隠れる。遠ざける」

「ふうん?」

「盾。頭蓋。笛――情報の取得に手間取っている奴等は一致している。既に、種族として滅びている。だが忍とお前のソレは違う」

「なるほど。少なくなっとるとは言っても存続はしてるからかねぇ?」

「故にこそまだ落ち着いておるんじゃろう。だが先に上げた三つは既に……」

「……滅びている、と。だから、荒れてるってことか」

 

変わらず。

いや、どこか憐れんでいるような声に、ワイリーは思わず頷いた。

滅びへの恐れ。

種族が滅んでもなお、恐れ続けている。

あくまでも、可能性の話ではあるが。

 

「…………データを取れる訳がなかったわい。要は、恐慌状態の生物から本来の正常な精神を読み取ろうとしているようなもの……土台を間違えておったんじゃからな」

 

再び。

半ば捨てるように瓢箪を投げ渡す。

受け取ってソレを眺めているカルダモンを脇に、ワイリーは地面に座り込んだ。

目元を押さえ、軽く揉みながらボヤくように。

 

「思えばそもそも乗っ取って来ようとしているという部分もワシの主観に過ぎんかったな……思考の奔流に呑まれそうになることが、結果的にそうしようとしていると感じただけ…………かも知れん」

「そうかも知れんな」

 

失敗。

そう、失敗だ。

少なくともこれまでのことを、ワイリー自身はそう定義した。

 

科学者。

観測者。

その立場に居る存在で重要なのは、客観視である。

客観的に事象を捉え、結果を冷徹に見据える。

結果を押さえた後であれば主観が混じっても良かっただろうが、そもそもの初動を間違えた。

 

コレは、コウ。

そう決め付けていたのだ。

検証すらせずに。

失敗だった。

仮説とするべき事柄を、一足飛びに結論とした。

 

乗っ取ろうとしてきていた、かも知れない。

思考の奔流に呑み込まれる、かも知れない。

行き過ぎた警告でしかない、かも知れない。

かも知れない。

かも知れないでしかなかったのに。

 

「……データの取り直しが必要か。ウインドマンについては……何とか間に合わせられるか……?」

「ソレについてはまず、生き残りの人にでも見せれば落ち着くんじゃない?」

「…………ァあ?」

「別に、草原の民だった人達全員が皆殺しにされた訳じゃないじゃろ? チョイナの北の方にでも行けば居るハズじゃ、生き残りの子孫」

 

今一度。

力なく目を閉じたワイリーは仰け反るように背を反らし、そのまま引っ繰り返った。

目元を押さえていた手も離れ、地面に大の字で倒れる。

その視界の端には竹の葉。

疎らに雲の見える青々とした空が、何処までも広がって見えている。

 

それもそうだった。

そう、納得したのだ。

恐竜。

アトランピア人。

それ等はともかく、他の子孫等は幾らか生き残っていても当然である。

 

会わせてみた結果、数値に変化が生じるのならばそれも良し。

生じなくともまた良し。

幾らでも仮説の立て直しが出来る。

なぜこれを初めから思い付かなかったのか。

 

「…………………………ワシ、才能なかったかも知れん」

「そうなの?」

「……いや、そんなことないわ」

 

一瞬落ち込んだワイリーだが、すぐに思い直した。

自身以上の天才。

居るか、そんなの。

いや、居る筈がない。

 

分野。

時代。

その違いだけで光正の後塵を拝す立ち位置にあるが、そうでなければ己が先陣を切っていたに決まっている。

そう思うだけの自負を、ワイリーは有していた。

 

「カルダモン。感謝する」

「可愛い子、よろしく!」

「……調べさせて貰ったデータは土産代わりにするが、良いな?」

「悪用しないようにだけ言っといてちょーだい?」

 

身を起こしたワイリーの言に、軽い調子で返してくる。

そんなカルダモンを呆れ眼で見つつも、宿る僅かな鋭さ。

ただの老人ではないと分かっていた。

分かっていたが、認識が甘かった。

そう、引き締めるように。

 

「話は進めておく。追々、連絡があるじゃろう」

「アイヨー」

「ふんっ――――お前の言葉に従うようで難だが、数日中にワシ等は北に向かう。生き残りを探しにな」

「なら明日の夜は丹精込めて夕飯の用意をさせて貰おう」

「ほっほっほ。楽しみじゃなあ!」

 

さらりと紛れ込んでいる風天。

一瞬だけ訝しむような視線を向け、しかし気にするだけ無駄と切り捨てる。

風の動き等、イチイチ読むモノではない。

 

立ち上がり、ホコリを払う。

そのまま二人に背を向ける。

軽く手を振って見送るカルダモンと、さっさと追い抜き山道へと向かう風天。

呆れた様子でその背を見、後ろへと手を振り、

 

「………………ん」

 

懐。

軽く震える胸の内。

PETの画面を密やかに覗き見、目を細めていた。

 





僅か一日。
それだけの期間。
ワイリーの手とキャンピングカーからの持ち出しによって簡易的ながらネットワークの整った空間。
あくまでも電波の送受信設備が、であり、未だ地域としては隔絶はしている。
それでもかなり近代化した場所。

天鮎寺。
その中。
送られてきたパソコンを手順に沿って組み上げたカルダモンは頷き、電源を付けた。
起動までの間。
瓢箪から水をゆっくりと飲みながら、一息。

束の間。
予定通りの画面が映し出された。
キーボード。
初めてのソレをおっかなびっくりの具合で触りながら、ゆっくりと入力を進め。
やがて手順通りの事柄を済ませられた所で、ため息を吐いた。

「ふぅ……」

慣れない作業。
そう言った事柄は、疲れる。
とはいえ、だ。
十分にお膳立てされている方だと言うのは分かっているだけ、カルダモンの気は楽だった。

「アイヤー? ……おお、これがメール? かな?」

ワイリーの用意したネットワークとも上手い具合に繋がったのだろう。
すぐさま、届いてくるメール。
それもまた、手順書に記載されていた通り。

一つはワイリーより。
おおよその事柄は上手く行った。
その感謝の言葉が短く記載されているのみ。

そしてもう一つ。
そちらがカルダモンにとっての本命であった。
メールの送り主。
そして、そのメールに搭載されているショートカットこそが。

今までにない、緊張。
未知。
軽やかな興奮を携えて、ソレを展開する。

パソコンの電脳空間内に展開されるショートカット。
植物のように芽生え。
花のように開く。
そうして一分と経たず、二つの姿が其処を経て現れた。

「はじめまして、カルダモン様」
「うぃ~っす……」

どちらも看護師の姿。
片方。
先に現れた方が一歩進み出、頭を下げた。

「自己紹介をさせて頂きます。病院ネットワーク用試作型ネットナビ、リネンと申します。此方で取らせて頂くデータをフィードバックし、より良い存在となるよう尽力させて頂きますので、どうかよろしくお願いします」

柔らかに。
人のように微笑む、純白の姿。
思わず感嘆の息を吐いた。

また、その名にも覚えがあった。
リネン。
古くから使われる医療用の布を冠する名前に、少なくとも相手側の本気を感じ取れた。

そしてもう片方。
何処か、気怠げに。
のっそりとその後ろから姿を覗かせ、だらしなく笑う。

普段のカルダモンであれば一喝ぐらいはしていたかも知れない。
しかし、事前の言葉があった。
見目に反し、優秀であるし自分から言い出すぐらいのヤル気もある。
一先ず様子を見て欲しい、と。

そのような相手方の言葉があればこそ、待つ。
助手は、リネン。
そして、弟子。
暫くは弟子として数多を叩き込むことになるだろうそのネットナビの自己紹介。

「プルルンるん! はい、よろしくお願いしまぁす……」

トーンダウンするソレを。
何とも言えぬ不安を覚えながら。
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