ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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時間は加速する――!
でもワイリー側は側でもう暫く続きます――!





086:経過確認

 

お仕事。

忙しい。

死ぬ。

助けて。

等と言えるはずもなく。

 

現在、ワタシは絶賛、社畜生活を堪能している。

年中無休。

三百六十五日。

二十四時間休むことなく。

 

「          」

 

気が狂いそうである。

まあ、ネットナビなのでそんなことはないのだけれど。

いやはやそもそも、体が一つしかないのが悪かったのである。

 

ですので、増やした。

アタッチメント的に。

三面六臂。

と言うのを宗教系統で聞くことがあると思う。

それを縦に三倍、三段重ね。

 

流石にワタシ自身の体を、顔面三つに腕が六本にするのはちょっと。

外聞的によろしくない。

そのため社長室的な電脳世界にワタシ専用のパーツを用意し、出来るようにしたのだ。

 

結果、仕事が増えた。

なぜ。

いや処理能力が物理的に、いや電脳的にか、挙がったのでその分だけ効率的になったお陰なのだけれども。

 

そういう訳で増えた仕事量。

対応するにもなんか脳味噌、と言うか処理能力、其処等へんが混雑してくる感覚に襲われるようになった。

なので、やりました。

分割思考。

 

これは簡単。

ワタシの処理する部分を十等分すれば良い。

もっと分かり易く表現すると、コア、か。

命令を処理する部分。

それが感覚的に言うと一つしかなかったので、十個に分けている感覚。

 

人間であれば出来ない。

しかしワタシ、ネットナビ。

元々は超高性能機材であるPETを十全かつ効率的に扱えるようにするために創り出された存在である。

同時並行的に物事を処理する能力は確りとあるのだ。

 

「          」

 

結果。

仕事が増えた。

まあ分かってましたけども。

 

そう言ったことで現在のワタシは、九面十八臂とかいうナニソレとしか言い表しようのない状態でお仕事の処理を進めている。

もうね。

見た目がキモい。

コレに尽きる。

 

見た目は、そう。

三面六臂の上半身が三段積みされているようなイメージ。

なので、素直にキモい。

見知っているスタッフマン達はともかく。

見慣れていないスタッフマン擬きが軽く引いているのを何度も見掛けている。

 

ちなみに、残った思考回路の一つはどうしたかと言えば、遊ばせている。

何かあった時に困るから。

あと精神的、があるかは微妙な所だけれども、疲れが溜まらないようにローテーションで休ませています。

正直、結局全部ワタシなのであんまり変わりないのですけども。

 

「パ、パイン? ちょっと時間……ひぃっ」

 

声。

それに反応し、丁度仕事の終わった中段の一つを回転させ、向けた。

悲鳴が上がった。

「何度も見てるから慣れているでしょう」と言う気持ちと「まあでしょうね」と言う感想が混在する。

それはともかく。

 

モサモサ髪の猫背気味、ナードチックな眼鏡少女ナビ。

ウルシ。

それが一体のナビを連れてやって来ていた。

 

予定表を頭の中で展開する。

予定にはない。

しかし、時間を作ることは可能か。

 

形容し難い表情で此方を見ている視線は無視。

順次。

書類や計画、システム等と言った代物を終わらせ、あるいは区切りを付け。

能力拡張に向けた設計も一段落。

最終的に全能力を一つに注ぎ込んで片を付け、

 

「    ――――…………はいはいにゃ。お待たせしました」

 

十に等分していた中身の整理を軽く済ませ、意味もなく手を組んで伸びをしながらアタッチメントを外す。

そのままその二体。

そちらへと視線を向ける。

ただ、その目はワタシではなく後ろの柱みたいな九面十八臂に向いているが。

 

「いやぁ、悪いにゃウルシ」

「い、いや構わないんだけどさ、パイン……その、相も変わらず見た目が最悪……あ、いや、あんまり良くないと思うんだよね」

「基本的に此処まで人間の方の目が届くことを想定してにゃいから仕方にゃいですねぇ」

「仕方ないのかなぁ……? 本当に仕方ないことなのかなぁ……?!」

 

苦悶の表情を浮かべ、そのようなことを口にしているが、仕方ないのである。

お仕事が多いので。

仕方ないのである。

そう思わないとやっていけないのである。

さておき、

 

「……んじゃ、ちょっと奥で話してるから他の子、入れないようにしてくれるかにゃ?」

「奥を使うのかい? それは構わないけど、それだけ重要な話なら一っ走りシルヴァかスイスイ辺り」

「ウルシの性能を信じてるから問題ないにゃ。さ、行きましょ」

 

ウルシなら本当に一っ走りすればすぐだろう。

しかし基本的に、ナード状態なウルシは戦闘における全力を出さないように言い含めてもいる。

それこそ、自己の存続に関わる状態でもない限り。

速力も例外ではない。

奥を使う機会が少ないから、驚いたのかも知れないが。

 

ともかく。

かったるそうな顔で付いてくる彼女を連れて五十文字のパスワードを解除。

そのままワープ。

する前に念のため振り返り、へにゃへにゃな敬礼をしているウルシを見てからショートカットへと蹴り込んだ。

当然、ワタシもすぐに続いて。

 

「んぎゃおおおおおおおおお??!!!」

「おんぎゃあああああああああ!」

 

移動を終えておおよそ五秒。

後ろのショートカットが閉鎖。

転んだ体勢のまま訝し気な顔をした間抜け面が此方に向いたのも束の間。

肌を焼く炎。

具体的には、ダメージ二百程度の炎がワタシ達の全身を舐め包んだ。

 

絶叫し、転がる姿を尻目に身を任せること暫く。

十秒ほど。

唐突に炎は消え去り、何処か焦げ臭さの感じられる会議室だけが残っていた。

当然、高耐久仕様なので壊れていない。

その内にでも『リペア』はする必要があるかも知れないが、今ではない。

 

「…………それじゃあ会議を」

「おう待てや」

 

適当な椅子に座り、さてと口を開いた所で。

無茶しやがってみたいな姿でいたその顔に青筋を浮かべながら起き上がった。

まあ、予想は出来ていたこと。

 

「盗聴対策にゃ。そーゆーウイルスかプログラムでも貼り付けられてたら面倒臭いからにゃ~」

「せめて一言言ってくれないかなぁ?!」

「ごめんにゃさい」

 

てへぺろり。

とでも言うべきか。

舌を出し、片手で頭をごっつんこ。

相変わらず青筋は浮かべているものの、意図は分かってくれたらしい。

 

これから話すような事柄に、万が一があってはいけない。

億が一であってもだ。

あの方の不利益に成り得る事柄は、最低限必ず排除しておくことが務めである。

煤けたように見える姿のまま、すぐ傍の椅子にどっかりと座った。

 

「ぶっちゃけ焼かれる意味あった? さっきの場所で良くね?」

「いやぁ、スパイが居るからにゃ」

「……スパイ?」

「そうにゃ。スタッフマンのガワだけ似せた子が混じってるんですよ、最近」

「ふぅん……さっきの中にも?」

「二体ほど。ま、便利なんですけどにゃん」

 

ワタシ達からすれば諸バレなんだけれども。

スタッフマン達からすれば。

独自の連絡網に居ない存在は即ち部外者。

ワタシから見れば。

造詣の節々が雑。

 

というかそもそも。

ワタシが柱っぽく仕事してる姿を見て引いてた時点で。

スタッフマン達で常に共有と更新が成されている内情を知らないということなのでバレバレ。

笑っちゃいます。

 

機密情報も、理論や構造が滅茶苦茶なモノしかない、ソレ用の場所に案内するように誘導させている。

頑張って盗んだ暗号化されているシステム情報を解析しようとしている様子だが。

すみませんがソレ、現実世界での『美味しいカレーの作り方』でしかないです。

なのでレポートとか報告書の文字稼ぎにでも使って頂きたい。

 

ぶっちゃけると。

システムだとかの設計情報を盗まれる分にはまだ良いが、別方面。

進めている『バグの欠片』関連だとか『奥の手』関連だとかの、ワタシ独自の研究を盗まれるのは非常によろしくない。

 

なので当然、警戒は密にしているのだ。

いや、エサを見せて誘っているとでも言うべきか。

あとフェイクマン。

入って来ていても、他のスパイと見分けが付かないから来て貰い易いのだ。

閑話休題。

 

「……貴方が来た、と言うことはお勉強はお仕舞かにゃ? プルーン」

 

引き攣ったような表情を収め。

そのままべちゃりと音でも立てそうな具合に。

上体をテーブルに伸ばしながら。

薄っすらとした笑みを浮かべ、プルーンは言った。

 

「……一先ず、チョイナの薬師の方から漢方関連については学んできたよぉ~」

 

とりあえずその身に『リカバリー』を施し。

手を組み、肘を付く。

聞の態勢。

早々にかと一瞬面倒臭そうに目を細めたものの、多分ワイリー様の口調が移ったのだろう、親父臭い言葉と共に体を引き起こした。

 

「無茶苦茶面倒臭かったけどぉー……知識だけは皆伝……姿勢は破門っつわれたけどねぇ」

「姿勢は助手の子が居るから大丈夫にゃ」

「話が分っかるぅ」

「で、流用は出来そうかにゃ?」

 

ともあれ本題の一つ。

コレについては。

顔を見れば察せられた。

イマイチか。

 

「あー……量産には向かないわなぁ? 素材の堅さだとか色合いだとかで目分量の調整が必要な結構面倒臭い感じだしぃ」

「ふうむ……素材別に大量生産して品質を均一化して、最終的に各薬液の注入量を調整する感じでいけなくもない?」

「んー……いけなくはない、程度? まず素材の量産からになるけど? まあ本気でやるなら詰める所は多いかなぁ」

 

若干の疑問符が付いている言葉である。

だがこれは仕方ない。

漢方とは、個人個人に調整して作る代物なのだ。

それもその効能はどちらかと言えば底上げ。

即効性を好む人間との相性が悪いこともある。

 

こうして言葉を交わしてはいるが。

将来的にはともかく、今現在。

あるいは数年スパンの視野で見る場合、先送りが結局となる。

無駄にはなるまいが。

これからの数年に掛けてを話す上では。

 

「……まあ、知識は身に付けておいて損はにゃし。貰えたらコッチで保管もするにゃ」

「よろしくぅ。実際、西洋医学とは系統は違うだけの医療技術の一端だしねぇ」

「で、本題」

「うす……」

「――――病院を運営する。その意思に変わりは?」

「ない」

 

相も変わらぬ姿のまま。

そこは、プルーンがハッキリと言い切った。

その姿はともかく。

言葉は非常にありがたい。

 

そも、事の始まりは何だったか。

ストーンマンもといプルーンがワイリー様の元を離れる、と聞いた時からだろう。

その連絡があった時は非常に驚いた。

しかし、恐らくワイリー様がご命令されてのことなのだろう。

 

であるならばワタシが余計なことを言うものでもない。

それはそれとして。

実際ヤル気があるかどうか聞くぐらいは問題ないだろう、と確認をした。

 

ヤル気はある。

そう言った。

そして理由は、人を救うため。

らしい。

 

理由の全てが本当にそうなのかは些かの疑問点はあった。

少なくともワイリー様からそのように言うように、とはされていないとは思ったが。

だが、渡りに船ではあったのだ。

ワタシ側からしても。

 

今現在のアメロッパ。

暫く前に病院等と言った施設の買収のハードルが下がったばかりなのだ。

今現在の大統領の方針である。

この辺りは小さな政府、いわゆる政府は市場への介入をあまり行わない方針と言った部分や法律そのものが変わったことによる情勢の変化だとかが関連している。

長くなるのでカットするが。

 

ともかくとして、病院だ。

病院。

人の命のやり取りをする場所である以上、システム化による効率化の恩恵は計り知れない。

 

特に、人を救うべき医者が書類仕事に忙殺されて動けないのではお話にもならない。

そう言った面で、市場に入り込む余地はあった。

一枚の書類を書く代わりに一人の患者を見れる体制に出来れば、単純計算、売上は倍になるのだから。

余地だけは。

 

最大問題。

ノウハウがなかった。

人を救う技術。

医術に対するノウハウが。

 

しからば振り返って、ストーンマンもといプルーン。

このネットナビはどうだ。

一時とはいえ、病院のネットワークにて様々な事柄にも携わっていた。

人の生き死ににも、だ。

ワタシの知るネットナビにおいて、これ以上に相応しい存在は、ない。

 

唯一の欠陥は、ココロがやられていたことと、ワイリー様の側付となっていたこと。

流石にワイリー様にお願いしてまでその元を引き離すようなことをするつもりはなかった。

ワタシとしては、回収して、回復させられた後にでも一考程度だったのだ。

 

当初の予定としては。

だからこそ、病院含めた医療系統に手を伸ばすつもりはなかった。

その前提自らが動いたのであれば、話は変わる。

 

「――買収に際してはツガルと弁護士の先生にお願いすることになるにゃ。その前の選定については、スタッフマン達に資料を用意するようにお願いはしてるから問題ないにゃ。あとで渡すように伝えとくから優先順位をつけてね」

「うい」

「システムについては大まかにそれらしいのを造っている最中にゃ。形が整うまで……そうだにゃあ、もう二日は待って貰える? それで試作までは行ける見込みだから、要不要をまとめて要項にでもして欲しいにゃ」

「んぇ? まだ買収してないんじゃなかった?」

「どこかしらの買収は決定事項! でなければ試作だからってソレ用のネットナビ作るはずにゃいでしょ?」

 

今現在、造り上げているシステムの内容を頭に浮かべる。

病院ネットワーク内における、ネットナビによる書類業務の代行。

これがどの程度まで機能出来るかに依るだろうが、イチイチ診断書に書き記すことをナビが代替出来るだけでも随分変わると考えている。

 

当然、医者の最終確認は必要となるだろうが。

徹底的な効率化。

システム化。

分担からの流れ作業。

まで行くのは、患者に対する寄り添いだとかを考えて宜しくないだろうけれども。

 

「ワタシの計画にはぁ……人間工学、生体力学、人体解剖学! この辺りは深堀出来て損はにゃいですから! この辺りを傍から見て違和感なく押さえられる病院関係は渡りに船って感じにゃ」

「うん」

「それにぃ、重要インフラの一角を握れるってことは人間に対してこれ以上なく有効だと思いませんかぁ? ――ワイリー様もその辺り考えておられるんでしょうにゃあ」

「……そう、っすねぇ」

 

ちょっと渋い顔。

もしかすればキャスケット様のことが。

いや。

だが気にしない。

 

「――分かって下さったならオッケーにゅん。他の注意事項とかも一通り纏めておくから」

「よろしくお願いしまぁす」

 

医療現場の効率化による支配。

ワタシ達が居なければ成り立たない領域にまで持っていくことが理想的である。

そうすれば、ネットナビの地位をより不動のモノに出来る。

 

だと言うのに。

やはり気のない返事で手をひらひらしているプルーン。

その要である自覚はあるのだろうか。

 

まあ、良い。

働いて貰うことは決定事項。

序でに色々とデータを集めて貰うことも、だ。

予定通り、ワタシの知っているナマモノみたく、ヨダレを垂らして呻くリビングデッド並みになるまで酷使させて頂こう。

 

「――ま、面倒な話は此処までにしましょ」

 

それはそれとして。

一旦。

拍手。

切り替える。

 

「お?」

 

区切りを付ける。

胡乱な目が此方を向く。

話したいことを察したのだろう。

ゆっくりとその身を起こした。

 

「で、ワイリー様だけども」

「趣味が出来たみたいで安定はしてるね、安定は」

 

趣味。

と言われて、思い当たる節は少ししかない。

具体的には世界を巡り動いているらしい、と言った情報はある。

だがこれはあくまでもプルーン経由。

 

今現在、ボンバーマンとしての活動はフェイクマンがしている程度。

正直、ワタシがボンバーマンとして動くには時間が足りない。

凄まじく忙しいので。

 

故に、ワイリー様の情報について碌に入ってきていないのが困りもの。

時折来ている連絡も、都合良く使われている感ある連絡が主だし。

まあ、そこはワタシも色々と融通はして頂いているので構わない。

 

「あのプログラムとか?」

「あのプログラムとか」

 

あのプログラム。

忍。

風。

水。

それに関わるプログラムであった。

 

曰く、機密のプログラムだから大々的には使わないようにと警告されている危険物。

ワイリー様がそう口にされただけあって、実に恐ろしい代物であった。

色々と丁度良いナビ達が居たのでそのプログラムを組み込んだ結果。

なんか。

性格に癖が出始めたのだ。

 

元々作っていたネットナビの三体。

言い方は悪いかも知れないが、癖を薄めた性格に抑えていたのに。

所謂、原作とでも言おうか。

其方の性格に寄り始めている。

 

具体的には。

影で痴女り始めたり。

裏で捕食し始めたり。

表でサボり始めたり。

ちょっとアレだった性格を、言い方悪いが、扱い易いよう抑えていたのに。

原作への修正力的なモノでも働いてるのか疑惑。

 

ともかく、ちょっと流石に引いた。

修正力的なモノ、ではなく。

ワイリー様の技術力に。

 

組み込んだだけに過ぎないハズのプログラムはつまり、ネットナビの人格プログラムに影響を及ぼす領域に突っ込んでいる訳だ。

これを強化プログラムとかと称してばら撒くだけでちょっとしたテロになるだろう。

性能的にはかなり向上したから良いけれども。

いやワタシを見る度、舐り願望を垣間見せてくる子が出たのは割とマジで勘弁して欲しいと言った感想はあるけれども。

 

まあ、良い。

良いということにしよう。

風と水は分かるけどなんで忍、とかの疑問もあったけどそれ等も含めて。

お陰様で、ワタシの手詰まりになり掛けていた奥の手の一つの開発も順調に進んでいる。

だけではない。

 

「……しかし正直」

「お?」

「ワイリー様に友人って言える人が居たのは驚きにゃ」

「あー……」

「いや、友人やれるだけの優秀さにゃのは分かるけどもね?」

 

ワイリー様から紹介されていた三人。

その雇い入れは既に完了している。

機密のプログラムも実際の所、そのお礼みたいなものだったのだと思う。

しかし正直、お礼を言いたいのはワタシの方であった。

 

凄まじく優秀。

その一言に尽きる。

タレル氏。

ワイリー様の一番弟子を自称しているあの人も大概と思っていた。

それよりも内容によっては、と言うより総合的に見れば上回っていると推察出来るのだから恐ろしい。

 

何よりも素晴らしいのは。

ワタシの語った夢を笑い、実現を約束してくれたこと。

計画に参画してくれていること。

これだけでも価値はある。

 

自称天才とは大違い。

期待していた人物も居たが、色々と調べたり話したりした結果、結局は見た目だけが多かった。

知識の更新が出来てなくて。

まあ、愚痴を考えても仕方ない。

その点でいえばお陰様で、電脳世界で造り上げたシステムを現実世界に落とし込む、と言った事柄がスムーズに行き過ぎているぐらいだ。

 

科学省、無能。

とは言わない。

ワイリー様を放逐した事柄は責めるべき部分では確かにある。

 

しかし、このレベルの人材を遊ばせておくしかない。

そうせざるを得ない状況。

ワタシが悠々と引き抜けるような環境。

全く以って、金と言うのは厄介な代物であろう。

可哀想、とは言わないが。

 

「――落ち着いてるなら良いけど、実際どうなの?」

「恨みとかも落ち着いてる状況だねぇ。むしろ半分以上、諦めの境地? ってヤツじゃない?」

「………………」

 

世界旅行に出られて暫く。

プルーンを直して下さって、落ち着いたとは思っていたが。

そうか。

諦め、か。

世界を滅ぼす、等と言い出されるよりも、他者からすれば余程健全には見えようが、

 

「……ワタシのお送りした……んー、CADとかはどう?」

「プルルン的には便利っす」

「ワイリー様は?」

「時々使ってるぐらい」

「そう……」

 

イマイチだったか。

なんか凄いプログラム関連。

先日の騒動の際、派遣して下さったネットナビ達。

そう言った開発やら製造やら、色々としている様子はあった。

だからそこまで心配してはいなかったが、

 

「……思ったよりも重症?」

「どーいう意味で?」

「生き甲斐的な意味で」

「…………ま、しゃーない」

 

生き甲斐を失った。

ように思える。

競うべき相手、光正は人類の未来に呑み込まれ。

友好を結んだ、キャスケット様は権力に焼かれ。

復讐譚は既に、エピローグを迎えてから久しい。

 

やるべきことは済んだ。

そのように思われていないか。

ヤル気。

目標。

そう言ったモノは生きる上で重要な要素であろうに。

 

「…………老け込んでは?」

「それはない」

「そう? ……ま、なら良いってことにするにゃ」

 

これ以上を考えても仕方ないだろう。

思考を断ち切る。

すべき情報交換は済んだ。

 

「じゃあ出るかにゃ」

「その前にさぁ」

「なに?」

「なんか……人間的に言うなら? 生き急いでない? あの柱とかビックリじゃ済まないんすけど」

 

そうして出ようと席を立つが、引き留められた。

なるほど。

生き急いでいる。

そう見えるのか。

確かに、急いではいる。

 

誤解なきよう、解くのも必要だろう。

座り直し。

口を開く。

 

「――市場の制圧に掛ける期間はどのぐらいか知ってる?」

「市場?」

「そう。今、ワタシが進めてるネットショッピングとか営業用プログラム三種、ネットナビ講師サービス、建設にゲーム業界、細かく言えばカードゲームに動画サービスなんかも含めた人と人とを繋げるコミュニティの運営、その他諸々全部が全部に言えることかにゃ」

「いや、知らんけど」

「五年」

 

一般論であるしその論説にも色々あるが。

そう言われている。

五年経つ頃には、後続が技術等を模範模造して入り込むようになってくる。

故に。

市場を独占ないし強大な影響力を有し確固たる地位を固めたいのであれば、五年以内に築き上げる必要がある。

 

「幸いタレルさんに、少し前に入って下さった三博士。あの方々のお陰で現実世界への落とし込みは進んではいるにゃ――でも」

 

時間は幾らあっても足りない。

 

「幾つもの州に跨ったアメロッパ――幸い、ネットショッピングのお陰で宣伝なんかは楽なんだけど、時間がどれだけあっても、ねえ?」

 

国旗のように。

星の数ほど州がある。

法律も異なる。

緩さはあっても実質、別個の国のようなもの。

財務を火の車気味に高速回転させながら制圧前進を進めているのだ。

 

幸い、時期が良かった。

法律の変更。

それによって、いわゆる独占禁止法が変えられ、様々な債券がバラ撒かれ、買収された企業が腑分けにされて売られている。

企業買収には絶好の機会。

 

取り込みたい企業もお安いだけの企業であっても。

買収してネットワークやシステム等を組み込み。

場合によっては、ネットナビが居なければやっていけない状況にしてから、高値で売り払う。

そう言ったコトもしているので。

 

それでも幸いワタシ自身の財産にまでは手を着けていないから、いざとなればそれを打ち込む予定。

流石にそこまでするのは最終手段。

もうどうにも現金が回らなくなると予見出来た場合だけ。

 

ともかく、市場制圧。

アメロッパを制すれば世界を制す。

おおよそ間違ってはいないだろう。

ソレを成すため、今現在邁進を進めているのだ。

割と死ぬ気で。

 

ああ、そうだ。

確認すべきだった。

思い出した。

 

「……ちなみにワイリー様の所に行く予定、ある?」

「ない」

「あ、そう。あったらボンバーマンの件、お礼しとこうと思ってたんだけどにゃあ」

 

暫く前。

ボンバーマン大発生事件。

コピー未満の、劣化品の、改造版の、海賊版だが。

それでもまあ面倒臭い感じに、ウラインターネットだとかで大発生やらしていた時期があった。

 

可能であれば気付かれない内に仕留め切りたかったのだが。

折も悪く。

普通に忙しくて手が回り切っていなかった中。

気付いてしまったワイリー様が、派遣して下さった。

明らかに純戦闘用ネットナビ達を。

 

あとは、言うまでもない。

コピー未満の劣化ナビだ。

そんな存在が、ワイリー様の戦闘型ネットナビに勝てる筈もない。

 

と言うか単純性能で言うと、『W2』。

以前に作った緑色のネットナビにも性能面では負けている。

戦闘能力全般で見ても、『ジョー』シリーズにも。

その程度の代物でしかなかった。

 

勝っていたのは、破壊能力。

つまり、クラッキング能力。

このクラッキング能力が広範囲を巻き込めるボムを基準としたモノだった。

万が一に際、ナビ本体をデリート出来てもボムの方は残っているのだ。

派手に面倒臭かったから、早いところ全体的に片を付けたかったことではあった。

 

「自分のケツは自分で拭くってさ~」

「お? ……もしかして読まれてたかにゃ?」

「うん。それっぽいこと言ったらそう返しとけって言われてたぁ」

 

そのような、些細な情動もどうやらワイリー様には筒抜けらしい。

であれば有難く。

ただ、享受しておこう。

 

「あ、そうにゃ」

 

ふと、思い出して振り返る。

立ち上がり、着いて来ようとしていたプルーンが訝し気にしている。

だが気にせず、

 

「無茶はするんじゃにゃいよ? ワイリー様に顔向け出来にゃいですからね」

「お前が言ぅ?」

「そっちは少し前までショートしてたじゃにゃい。別に病院方面への投資が失敗に終わっても良いけど、アナタがダメになる方が損失として大きいんだから」

 

呆れ。

ソレが混じった顔で、目を細めて向けてくる。

何ともまあ、ワタシを責めるように。

 

「……失敗、ねえ?」

「にゃに?」

「プルルンは別に良いんだけどさぁ……他のヤツ等にもそういう感じのコト言ってる訳?」

「もちろんにゃ」

 

首を傾げながらも、当然のことを返す。

投資。

それによる最大の損失は何か、

と問われれば確かに投資そのものの失敗だろう。

 

では次の損失は何か。

投資した際に生じた経験。

ソレすらも回収出来ないこと。

そう、ワタシは考えている。

 

特に、ネットナビ。

忘れもせず、整備さえ怠らなければ十全を保ち続けられる存在。

その蓄えたハズの経験が、投資した金と共に消え去る等と。

 

悪夢でしかない。

最悪、失敗そのものよりも重い。

データとして共有出来る、というネットナビならではの観点から見れば、だ。

成功を共有出来て、失敗を共有出来ない。

これは、あまりにも最悪で最低が過ぎる。

 

「あー……かわいそ」

「にゃんで?」

 

問い掛けても曖昧に。

ただ笑って押してくる。

それに逆らうようなことも出来ず。

ただ、外まで押し出されていった。

 





「あ、そうにゃ」

思い出し、もう一度同じことを言いながら踵で強引に止まる。
振り返れば呆れ気味の表情。
否。
面倒臭さに溶けた表情を浮かべている。

「来年一年、ちょっとイベントするにゃ」
「イベントォ……?」
「そうそう。動画サービスしてるって言ったでしょ、ソレ」
「なにすんの?」
「一年間毎日、音楽をMV付きで投稿するにゃ~!」

現状、動画サービスというものはなかった。
なので、造った。
動画。
情報媒体として、非常に優れた代物だ。

コレの利用者が増えれば増える程、現実世界の情報が入り易くなる。
人間の文化の吸収もし易くなる。
ネットナビの学習に、これ以上ない。

難点は知名度。
ソレを増やすための案。
PETやPC。
それから毎日コンサートだとかとはまた違う、映像付きの音楽を見聞き出来るというのは非常に新鮮な体験になるだろう。

と言うか、既に流行が始まっている様子自体はあった。
音楽専用のテレビチャンネルで。
そこの後追いにも見えるがまあ、一定の話題性は確保出来よう。

あるいは現実世界のメディアが取り上げてくれるかも知れない。
関心を寄せて貰う。
その一つの施策としての、365日の音楽だ。
音楽自体は既に、音楽天使ことブラスが既に二百曲以上完成させているし、ワタシの方も四十曲ばかり用意してあるし、ビデオ部分はスタッフマンの人海ならぬナビ海戦術が通っている。

「その最終回、ラストで参加して欲しいにゃ。元々はパイにゃんだけのつもりだったけど、あなたが戻って来たんだしにゃん」
「イヤっス」
「え~」
「デュエットはマジ勘弁……せめて他も誘って下さい……マジお願いします……」
「しょ~がないですねぇ!」

一緒に歌うのは断固拒否の構え。
なら仕方なし。
デュエットは諦めよう。

モモコは作っていないため、不可。
名前を呼んだりしたらマジで現れそうで怖い緑も同様。
であれば。

「いっそのこと、呼べる子達全員集めての合唱にするかにゃ」
「ソレが良いと思いまぁす、はい、マジで」

赤ベコぐらい首をガクンガクンさせている姿に頷いておく。
軽く引きながら。
ちょっと怖いわ、そこまでされると。

「ま、まあ予定については追々確認するにゃ。そういうことでよろしくお願いしま~す」
「待て待て」
「にゃん?」
「どんなの歌うかだけでも教えてくんない?」

では、とばかりに戻ろうとした刹那。
肩を引っ掴まれ戻される。
その言分。
確かに、の一言。

「にゃはは! 多分、ワタシ達が歌うのにこれ以上ないぐらい相応しい歌だと思ってるにゃ」
「いや具体的にね?」
「も~、せっかちさんにゃん?」

おっと。
流石にイラッと来たような雰囲気。
なので慌ててその名を出す。

「ごめんなさいにゃ。まあとにかく、一緒に謳いましょうか――――『デイジー・ベル』を」
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