ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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最近、他の方によるエグゼ作品の投稿が多くて私は嬉しい。
いや本当に多いのは何故?
何はともあれ、お楽しみ頂ければ幸いです。





 086.5:準備会議

 

緊張している。

この私が。

無理もない。

そう、自嘲する。

 

これは世界を変える一手。

変え得る一手。

出来ねばあるいは、世界が滅び得る一手なのだ。

 

よもや。

と思う。

よもや、あの騒動での降格から始まった世界の一変。

その前線を走り続けることになるとは、と、

思い返しても、後悔等はありもしない。

 

少なくとも、あの時は確かにそう感じていた。

そう考えていた。

相当に甘かった。

理解が不足していたことは認めるが。

巡り巡ってこうなっているのだから。

 

「――――」

 

瞼を下ろし、開く。

眼前。

ホテルの一角。

細やかなパーティースペース。

 

『OS計画』は、端的に言って甘過ぎた。

広大なる電脳空間。

未だに未知も多いウラインターネットをも含めたその空間を、アメロッパのみでカバーし切ることは不可能。

 

結局の所、そのような結論に至った。

笑える話だ。

少し経てば、分かってしまったことだ。

 

アメロッパの手に余る。

アメロッパだけでは手が回らない。

ましてや、厄災に対しては。

 

『αβ計画』も。

『Z to A計画』も。

『50 stars計画』も。

『New Glory計画』も。

 

既に失敗した計画も。

その失敗を基に組み直された計画も。

志が低いと暗に嘲られた計画であっても。

どれほど優れた計画と目標を基に打ち出されようとも、だ。

 

盗聴対策等は事前に、かつ十全に行われた。

ホテルのシステム自体にも、パイン等やカーネルの参加と言った協力を得て余計なネットナビやプログラムくんも入り込めない状況にある。

だから、その分には問題はない。

ない、が。

 

緊張。

知らず、震えていた手を握り締める。

しかし世界の舵を握るのは我々、アメロッパでなければならぬ。

 

「――――皆さん、今宵はよくぞお越し下さいました」

 

にこやかに。

微笑み、見渡す。

その先には、座する世界が在る。

 

比喩ではない。

世界だ。

全世界。

国家として承認が成されている国家の代表、あるいはその代理。

そう呼べるレベルの人々が揃っている。

 

元首級の人物は数えるほどしかいなくとも。

世界が目の前に広がっているのは、間違いない。

引き攣りそうになる表情をあくまでも柔らかく作る。

微笑みを浮かべて、浮かべられていると信じて、

 

「今回は二部構成。パーティー前の説明と、本国にキチンとその内容を持ち帰って下さる方々向けの会議。その構成となっております」

 

既に。

大国への根回しは終えてある。

そう分かっていても、だ。

全ての国家が承認してこそ意味がある。

コレは、そう言った代物だ。

そうでなければ、恐るべきモノが牙を剥き得るのだから。

 

「司会進行はこの私、アメロッパの代表も兼任しております、サム・モーションが執り行わせて頂きます」

 

司会台より頭を下げる。

上げて片手で、相手側にとっての、前方を示す。

薄暗くなったパーティー会場。

その前方に浮かび上がる、プロジェクターによる光。

 

パインが作り出した、プレゼンテーション用ソフト。

有難いことに使い易く、かつ見易いソレ。

手助けも合って簡単に用意が出来た。

今回の、おおよその報告用資料。

 

見易く。

分かり易く。

なぜ必要なのかを示すためにこそ。

 

『OS計画』は既に失敗に終わっている。

他の計画も始まっていたり、あるいは進められようとしているが。

それでも。

アメロッパのみでは電脳世界の救世主に成れぬ。

ならば、どうするか。

 

救世主達の長となろう。

救世主達の舵を握ろう。

そのためにこそ。

 

息を吸い、吐く。

刹那。

司会台の近く。

パーティーの円卓の一つ。

座っている老人を見詰めてから。

小型パソコンのマウスを、密やかに押した。

 

「――これより、国際連合『オフィシャル』構想について、説明を始めさせて頂きます」

 

 

 

「ネットワーク社会の発展。これにより、あらゆる電子機器がネットワークを介して制御出来るようになり始めています」

 

 

 

「利便性と言う意味では皆様に配賦しているPETを介した翻訳もその一つでしょう……ネットショッピングを試された方は居られますか? …………そうですか。私も利用しています。店舗を訪ねずとも商品の購入が出来る。これもまた、ネットワーク発展の産物でしょう」

 

 

 

「ウイルスの目撃情報と集計の結果になります。幾つかグループ分けされていますが、電子機器によって発生するウイルスには明らかに方向性……傾向があります」

 

 

 

「つまり技術の発展――電子機器の高度化と共に更にその凶悪性を増していくことも予測されます」

 

 

 

「対策の一つにプログラムくんが挙げられますが、これにだけ頼ることの危険性については……あー、二ホンで起きた失敗例をご存知の方もおられるでしょう。推奨は出来ません」

 

 

 

「ネットワーク技術のみならず、技術自体の発展は現在、時間との正比例ではなく……こちらの表のように指数関数的な、曲線状の上昇を続けております」

 

 

 

「対ウイルス性能――つまり、高い戦闘能力を有するネットナビを用意することこそが急務となります」

 

 

 

「ネットナビを用いた凶悪犯罪――近年の例では、情報封鎖しておりましたが、我が国アメロッパの軍事基地等を対象に行われたクラッキング事件がその代表例と言えるでしょう」

 

 

 

「……詳細は以上です。今後、このような事件の発生が予想されます――仮に社会的なインフラ……水の浄化設備へこのような攻撃が行われた場合の被害予測を、対策の有無で比較させて頂きます」

 

 

 

「そのためネットナビの製造だけでなく、倫理観を持ったオペレーターの育成もまた必要となるのです」

 

 

 

「しかし育成を終えても、表立って対応出来るのは国内のみ。国外よりそのような事柄が発生させられたとしても国家間の折衝――時間が必要――越境犯罪の前では即応性に欠けます。このままでは」

 

 

 

「故にこそ、国際的な互助。協力関係の形成。そして国家間を繋ぐネットワークの悪用を防ぐ超国家的な警察機関『オフィシャル』を設立を、此処に提言させて頂きます」

 

話を、終えた。

一息をつく。

まだだ。

まだ終わりではない。

 

拍手は疎ら。

騒めきは、ある。

当然だ。

国際犯罪が一般的となる。

だから、国家間を繋ぐ超法的な警察機構を作ろう。

 

理由は分かる。

理由は。

だが、弱い。

国家の主権に関わるのだ。

おいそれと「分かりました」という訳がない。

 

「質問を」

「どうぞ」

「互助や協力関係の構築までは分かる。しかし、それ以上は必要ないのでは?」

 

最前の席。

いの一番の手を挙げ、通る声で問い掛けてくるキングランドの代表。

事前に話を通していた結果の、予定通りの質問。

それに対し、神妙な面持ちを作り、頷く。

 

「我々アメロッパも当初、そのように考えておりました」

「……アメロッパも?」

「その通りです。それではなぜ、そのレベルの国家連合機構を創るべきかという点は……やはりこの方に直接、説明頂く方が良いでしょう」

 

頷き合い。

老人が席を立った。

それだけ。

だが、騒めきが一瞬で引く。

 

ゆっくりと。

司会台ではなく、プロジェクターの映し出していた舞台。

その映像を消し、真っ白なスクリーンを背後に立つ。

老人。

 

ヒカリ。

タダシ・ヒカリ。

ネットワーク技術の根幹が、ただ、前に立った。

 

司会台よりマイクを外して駆け寄り、スタンドを調整。

その口元に合わせた。

微かな微笑みを見、元の場所へと戻る。

静まり返った会場。

その中でゆっくりと、口を開かれた。

 

「――ご紹介に挙がりました、光正です。この場では、二つ、お伝えしなければなりません。そしてそれは、記録に残すことは憚られますので、言葉だけで失礼します」

 

一瞬の嵐。

記録に残すことは憚られる。

タダシ・ヒカリの言葉。

 

その意味。

重さ。

理解する面々は息を飲み、理解できずとも異様さは分かる。

それ等すらもただ片手を上げるだけで制した。

 

「かつて……と言うほど古くありませんが、ニホンを襲った、三つの災厄について」

 

この場に揃っている者達で。

ソレ等を知らない者は居ない。

ネットワークに携わる者達にとっての黒歴史。

とでも称すべき存在達。

あえて言うならば、ニホンという国の恥部。

それを堂々と、口にする。

 

「ニホンの開発していた初期型インターネット『プロト』」

 

世界。

ニホンよりその根を伸ばした悪夢。

『プロト』。

 

「バグが原因の一つでしょうが、確証は未だ掴めてはおらず。しかし科学省内の断絶したネットワーク内で今なお研究を続けています」

 

苦々しい表情を浮かべる者。

懐かしむようにしている者。

どちらも居る。

そのどちらも、おおよそ間違いなくその後のヒカリ親子のサポートを受け、技術発展を甘受しただろう。

 

「『グレイガ』と『ファルザー』」

 

ニホンの復興。

インターネットの再建。

急ピッチで行われたが故に、甘かったのだろう。

 

「どちらもエリアの一つを用いた封印処理を施されました。『ファルザー』の暴走に関しては、何らかのバグが原因であるとの結論は出されています」

 

一瞬だけ。

私の方を見、視線を逸らされた。

分からないでもない。

 

ヒカリ親子両名の不在も、関連するか。

卓越した二名。

もっと言えば、パインの元に身を寄せているコサック。

その当時でも既に三名を失っていたニホン。

 

そうして急ぎ、対応をした科学者の一人。

あらゆる咎を押し付けられた者。

それが今、我が国の技術発展に携わっているのだから。

 

だが、だ。

本題ではない。

本題はそこではない。

本題は、

 

「『グレイガ』――――結論からお伝えしましょう」

 

其方だ。

もう一体。

『ファルザー』が造り出された原因。

其方は、

 

 

 

「『グレイガ』は、世界の何処にでも発生する可能性があります」

 

 

 

沈黙。

静寂。

息を飲むことさえもない。

困惑。

その渦中にあっても、ヒカリの口は止まらない。

 

「まず『グレイガ』は根本的に、『バグ』――『バグの欠片』の集合体です。故に、世界の何処であっても、必要分のバグが集結すれば発生し得る」

「アスペッターテ! 失礼、待って、待って下さい! アレは『プロト』の、いえ、状況が特殊だったから発生しただけなのではないのですか!?」

「説明は全て終えてから。通常なら、『グレイガ』が生じるレベルにまで『バグ』が発生し、集結する可能性は低いでしょう。ゼロではありません――ですが」

 

一度。

周囲へとその視線を向けた。

ゆっくりと。

言葉に耳を傾けていることを確認するようにしてから。

 

「科学省は研究の末、『バグ』その欠片を意図的に生み出す方法を発見致しました」

 

そう、口にした。

『バグの欠片』を意図的に生み出す。

その方法を、私は知らない。

正直、知りたくもない。

 

「少々特殊な手順を踏む必要はありますが、生産――量産出来るということです」

 

しかしまあ、笑い話にはならない。

出来ない。

つまるところ、こういうことだ。

 

ニホンのネットワークを蹂躙した『グレイガ』。

それは自然発生する可能性がある。

また、ソレを人為的に造り出せることも判明した。

 

これこそ、アメロッパが諦めた最大の理由。

電脳世界唯一の救世主には成れぬと見た理由。

そして同時に。

アメロッパこそが救世主の長、足り得る理由も。

 

「――――――その、方法は……?」

「言えません。いえ、言いません。ニホンという国家としても、ソレを流布することは有り得ないでしょう」

 

大統領閣下が拳を痛めながら悪態を吐いたのも分かる話だ。

私はゲボを吐いたし、その晩は眠ることも出来なかった。

ネットナビによる凶悪犯罪。

可愛らしい話だ。

 

ネットワーク先進国。

ネットナビを創り出したニホン。

其処ですらも、デリート出来なかった怪物。

そんなネットワーク、あるいはインターネット丸ごと吹き飛びかねない爆弾が、いつ産声を上げるかも分からないことに比べれば。

 

「……幸い、先のご質問に答える形になりますが、『グレイガ』が発生するには『バグ』が集まるだけではいけないことも判明しております」

 

だが、救いはあった。

 

「大量の『バグ』と、推測の域を出てはいませんが、環境と言った条件が重ならなければ生じないことは確認出来ております」

「確認!?! 実験を行ったのか?!」

「お伝えした通り『バグの欠片』を用意出来ることが判明しましたので――当然ながら隔離の上で確認した所、環境が安定している限り……安定させ続けていた限り、発生しませんでした」

 

絶句。

している質問者。

勢いのまま立ち上がり、所在なさげに周囲を見渡し。

押し黙っている周囲を見て、力なく席へと腰を落とした。

 

分かる。

なに『グレイガ』を気軽に創り出そうとしてやがる。

気でも狂ってるのか。

創れるかどうかの研究じゃあねえんだよ馬鹿が。

伝えに来たのがタダシ・ヒカリじゃなければ、恐らく殴り殺していた。

 

だが。

だが、困ったことにこれこそが救いだった。

大量の『バグの欠片』は必要だ。

さり気なくニホンがソレを大量に用意出来ることはこの際、置いておく。

 

自然発生した『バグ』が集結する可能性自体がまず低い。

それよりも整備や、ウイルスによる捕食の方が早い。

環境が安定していればただのウイルスの強化あるいは大量発生するだけで済む。

『バグ』と『環境』。

この二つが揃って初めて、『グレイガ』が発生し得る、らしい。

 

『バグの欠片』それ自体が電脳世界の環境を悪化させる。

故に、『環境』自体は『バグ』によって自家生産できる可能性があるのは難点だ。

難点だが、決定的ではない。

むしろ好都合な一面でもある。

 

「以前の論文で、『バグ』が存在していることによるエリアの環境悪化に触れておられました――エリアが不安定化していることを確認出来れば」

「大きな『バグ』が生じているか、集まっている可能性が高いでしょう」

 

環境の変化。

それをネットナビが確認できる。

そう言った事柄でもあるのだから。

ある意味で『バグ』そのモノの性質に助けられた形か。

 

『バグ』。

不安定なモノ。

ウイルスの餌。

ネットワーク環境悪化の原因の一つ。

 

だからこそ、普通なら『グレイガ』にまで至らない。

その前に排除されるのだから。

原因があるとすれば、一つ。

時期が悪かった。

 

「――ニホンに『グレイガ』が発生した原因の一つは恐らく、急激なインターネットの変更とその後の整備の不足。整備の不足と、ウイルスが捕食するよりも遥かに早いスピードで『バグ』が発生し続け、それが加速度的に増していったためと推測されています……そこに何かしらの環境要因も加わった」

 

沈黙が流れる。

暫しの沈黙が。

だがそれを破るように一人、口を開いた。

 

「そもそもヒカリ氏のネットワークが不完全であったのが問題なのではないか!」

「アメロッパとして発言するが、それ以前の試作ネットワークで発生していたバグとの類似性の確認は終えてある。残念ながらヒカリ博士が原因ではない」

 

この機会に少しでも有利を取りたいと考えたのだろう。

奥の方で一人が叫んだ言葉をすぐさま切って捨てる。

そんなもの、既に調べ終えてある。

タダシ・ヒカリを引き込むチャンスだったのだから。

 

だが、調査結果は白。

『バグ』は根本的に、ただの『バグ』。

高度に発展した分だけ『バグ』も同様と言うだけのこと。

それだけでしかなかったのだ。

 

「――我々にとって最大の幸運はニホンで発生したことだ。最初の発生がニホン以外であればそもそも抑え込めたかも分からん」

 

思わず零した言葉が、沈黙に浸っていた会場に響いてしまった。

思わず漏れた。

だが、本心でもある。

 

かつてアメロッパに存在していたボンバーマン。

カーネルと互角に戦ったネットナビ。

アレが手も足も出ずに逃げ帰るしかなかったのだから、アメロッパと言えど発生して抑え込めたか分からない。

ワイリー博士が居れば何とかなる可能性はあったが。

今はもう、居ない。

 

「……ウイルスやネットナビとは比較にならない脅威。それを未然に防止、あるいは対抗するための組織としての『オフィシャル』ですか」

「それだけではありませんよ」

 

苦々し気に。

そうせざるを得ない理由を呟いた誰かの言葉に、タダシ・ヒカリがさらりと返す。

そう、此処までは鞭。

入って全体で備えなければ世界全体が不利益となる。

鞭としての『オフィシャル』。

 

次は、飴だ。

入っていれば利益となる。

飴としての『オフィシャル』。

 

「『環境維持システム』というものが完成しました」

「…………聞いたことがないな」

「なんだ、それは?」

「環境……?」

「この星の環境をある程度、制御出来るシステムです」

 

脳内にクエスチョンマークが浮かんでいるのがありありと分かる。

私もそうだった。

初めて聞き、理解が追い付いた時、思わず笑ったものだ。

そうか。

タダシ・ヒカリはその領域に居るのか、と。

 

同時に思ったものだ。

そのためのインターネット。

電脳世界であったのか、と。

 

現実世界に張り巡らせたインターネット網。

それと『環境維持システム』とを合わせれば、文字通りこの星を制御し切れる。

自然を完全に人間の下に置くことが出来るのだ。

まあ、あまりそれに頼り過ぎれば危険性があるとも伺ってはいるが。

 

素晴らしい。

その一言。

自然など、人間の下にあって然るべきなのだから。

 

「…………詳しい説明はこの後の会議にてさせて頂きましょう」

 

苦笑い。

いや、それよりも深い苦みを湛えながら。

タダシ・ヒカリが説明を切る。

 

それは黙って流す。

今、深く説明する必要はない。

この後にも分かる。

 

理解が追い付いた時、理解できるはずだ。

『オフィシャル』に加盟することの意義。

意味。

圧倒的と言う他ない、利益。

同時に、ソレを狂わせる可能性のある『バグ』――鞭の必要性についてを。

 

「――――――よろしいかしら」

 

そのように。

理解が追い付いていない。

ハッキリとそれが分かる中で一人。

手を上げた。

 

騒めきが微かに落ち着く。

完全に静まらないのは侮られているからか。

理解出来なくもない。

とはいえ、

 

「如何がされたでしょうか」

 

クリームランドの女王相手に、配慮できないのは頂けない。

 

「クイーン・ピュリティ様?」

 

少なくとも、この中では唯一の王族で在らせられる。

私がそう問い掛ければ、最前より少し後ろ程度に居られた姿が伸びる。

目の下の隈が目立つその緑色の目をした女王が、黄金の髪を靡かせるように立った。

それで流石に、騒めきは消えた。

 

「それほどとなれば、相応に権限を有することになるでしょう。それこそ、監査する権限を。どの程度までを想定されているのですか?」

「どの程度、とは?」

「軍事施設」

 

瞬間。

空気が張り詰める。

既にそこまで想定したか。

 

「……後に説明させて頂く予定でしたが、お話ししましょう。現段階で国家中枢に関わるシステムに対しては、当該国家所属のオフィシャルに制限する方針で考えております」

「それ以外は? 理由を付けて他国の者が研究施設に入り込むようなことがあっても困るのだけれど?」

「どの程度までをその国家が中枢と判断するかに依ります。あくまで、現段階の構想では、ですが」

「…………分かりました。クリームランドとしては、『オフィシャル』への加盟を前提にこの後の会にも参加させて頂きます」

「ありがたく思います」

 

厳かに頷いている姿に、頭を下げる。

判断が早い。

改めて言うべきか。

流石、と。

 

この早さ、尋常ではない。

流石は真っ先にネットワークの導入を進めた、ネットワーク先進国。

機を見るに敏。

王族が自ら来たのも、タダシ・ヒカリの参加を嗅ぎ付けでもして尋常な代物ではないと判断し、気勢を制する目的もあったと見るべきか。

 

そのまま沈んでくれていれば、随分と楽であったろうが。

だがこれは仕方がない。

キチンと壁に見えるセキュリティが実は穴開きチーズでしかなかったと分かるよりかは余程マシだ。

 

アメロッパとしては、大した規模もなく乱を好むでもない小国の興隆など無視。

世界の秩序。

気を配るべきは、其方だ。

むしろ王族自らが参加を表明したことを利用し、『オフィシャル』を確実なものとすべきであろう。

参加を表明しない国家は、存在しないだろうが。

 

ふと気づけば、壇上にタダシ・ヒカリの姿はない。

既に元の場所に腰掛けている。

この場において、自身が話すことはもうない。

そう判断されたのだろう。

実際、その通りではある。

 

マイクを引き抜き、司会台に戻す。

少しずつ騒めきの戻りつつある会場内。

一度、それを治めるために。

 

「――――まずは、以上となります。より詳しいお話はこの後の会にてお話させて頂ければと思います。どうぞ、よろしく」

 

余裕を演じながら、見渡す。

同時に壁際の、アメロッパの用意した、スタッフへと視線を送る。

程なく運ばれてくる料理。

前座としてのコトは、一先ず済んだ。

 

この後を欠席する国は居まい。

仮に居れば、視野が無さ過ぎる。

少なくともこの会に参加するような存在で、それは有り得まい。

 

これこそが、『オフィシャル』を設立し得る飴と鞭。

抑止。

『グレイガ』の類型を武器として扱われる可能性を減らし。

『環境維持システム』の恩恵を奪われない状況とも出来る。

 

問題がない訳ではないが、己が国の環境をも崩壊させ得る手は中々打てまい。

仮に打とうモノならば、『オフィシャル』として、組織の権限でシステムを打ち止める。

それこそが計画。

そしてだからこそ、アメロッパが『オフィシャル』の舵を握れる。

 

既に量産体制の整った高性能ネットナビ。

『W2』や『ジョー』シリーズ。

そう言ったネットナビ達をも超え得るネットナビ達を、我がアメロッパに従えば、『環境維持システム』以外の自国のインフラ防衛にも当てられるようになるのだから。

 

まだ計画は進行中だが、それでも。

どれほど嫌と思おうが、覆るハズがない。

唯一にして最大の懸念は、未だに研究中の部分のある点だが。

これはケイン博士に期待している。

 

密やかに言葉を交わしている諸々を眺めながら。

耳打ちして来るスタッフの言葉に、安堵と共に確信を重ねる。

そう思いながらも、視界から外せずにいた。

 

「……………………」

 

どうあっても外せない場所に居ることを差し引いてもなお。

一人。

眉間に皺を寄せ、瞼を下ろし続けている老人。

時折掛けられる心配の声も、片手でただ制し、座り続けている。

 

これから先。

遥か先の未来をも、その名のように照らし続ける組織の始まりの場であるのにも関わらず。

あたかも罪を負うた罪人のように居る。

タダシ・ヒカリ。

その姿を、ずっと。

 

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