ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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日常での備忘録

 

幾つか。

弾ける音。

ソレを耳にし、慌ててワイリーは火を止めた。

 

「いかんいかん」

 

そのまま蓋したフライパンを持って外へと出る。

追加で幾つか音もするが、もう手遅れ。

軽い溜め息と共に。

後ろ足で扉を閉めて。

 

用意してあるテーブル。

既に幾つかのフライパンが鍋敷きの上に置かれてある、その横。

並ぶ中。

薄っすらと水滴越しに見える中身は様々。

 

幾つもの卵焼き。

ジャガイモの千切りを固めたような代物。

真っ黒なソーセージ。

指よりかは厚みのないベーコン。

トマト煮に浮かぶ白い豆。

今し方持ってきた、蓋端からハーブの匂いが立ち込める様々な種類のソーセージ。

 

揃えられた朝食。

それらを軽く見やり、頷き。

イスへと腰を下ろした。

 

そうしてから向けられた視線の先。

草原。

肩を軽く上下させながら向き合っている二人。

どちらも自然体。

キャンプ用のイスに座っているワイリーから見ても、ただ突っ立っているようにしか見えない。

 

静けさの中で見守りながら。

ワイリーは予め入れていたコーヒーを口にし、僅かに顔を顰めた。

砂糖が足りなかったのだ。

 

シュガーポットから粉砂糖を一匙。

手元のティースプーンで掬い、混ぜる。

数周。

 

ゆっくりと回し終えた所で、軽くカップの縁で滴を落とす。

拍子に軽い音が鳴った。

距離がある。

にも拘らず、それが合図になった。

 

間合い。

両者。

三メートルほどは合ったろう。

そのような距離が一瞬で詰まる。

 

「シッ!」

 

唸りを上げるゆりこの拳が空を切る。

撓る腕が鞭のように空気を弾く。

僅かに添えられた手指が軌道を逸らす。

地面を抉る蹴りから散弾のように土塊が飛び散る。

身を横に、蹈鞴を踏むようにソレ等が躱される。

 

目まぐるしく二人が交錯する。

その様を尻目に、ワイリーはPETを覗いた。

最近流行りの、誰もが見聞きし、投稿も出来る動画サイト。

『World Wide Watching』。

ニホンでは、Wが草に見えるから「クサミツ」、等と呼ばれているらしいことは友人の一人から聞いていた。

 

そんなサイトから、適当な音楽を選ぶ。

適当。

と言っても創設者であるパイン。

その投稿した366曲の中から適当に選べば、後はそれらが連続再生されるのだ。

いや、今はもう、要望に応えて500曲を超えている。

 

仮に選んだ曲が違っていても、ワイリーにとって特に問題はない。

素人なりの音楽が流れることもある。

聞いたことのない音楽も、案外楽しめる。

余程下手でなければ。

 

大体50曲、いや今は60曲ほどではあるが。

懲役二分だとか、音楽ではなくノイズだとか、意味不明だとか。

ナビの可能性だとか、新時代の音楽だとか、電脳ソングだとか。

滅茶苦茶な評価のモノもあるが。

そう述懐しながら、とりあえずと言った形でイヤホンを耳に刺した。

 

暫く前からの、ワイリーの趣味の一つ。

ミヤビとゆりこ。

その組手を眺めながらの休憩であった。

まあ、普通にしていれば流れる音声は中々剣呑な代物なので、「見ている分には面白い」を補うための音楽であった。

 

「ふぅ……」

 

コーヒーを口にし、風景を眺める。

概ね一方的な展開。

乱打を浴びせているゆりこ。

ひたすら躱し逸らすミヤビ。

たまさか逆襲として伸ばされる手足も、ゆりこが避ける。

 

まあ要するに。

ひたすらミヤビが強いのだ。

手の届く所に居ながら、まるで怪我もなく。

隙と見れば指導を物理的に叩き込む。

そのようなスタイル。

 

最初の頃からそうであった訳ではない。

一通りの。

ワイリーからすればよく分からないなりの修行を一年程度はしていたようにも思う。

その後から、組手形式の本格的な代物が始まったのだ。

恐らく伸びていた鼻を折るつもりだったのだろう。

 

割合と無残な有様に、ワイリー自身、指導に自信がある訳ではないが口を挟みそうにはなったものだった。

不要だったが。

ワイリーと共に暮らしているような人間。

大なり小なりの図太さがなければやってはいけない。

今では指導も碌になくなり、いやむしろ指導の拳に対して頭突きで圧し折りに掛かるぐらいにはなっている。

 

「成長したもんじゃな……」

 

過去を振り返りながら、ワイリーは未だ湯気立つコーヒーを口にした。

ミヤビを刀剣に例えるならば。

ゆりこは戦斧の類となるだろう。

触れるだけで斬れるほどに研ぎ澄まされてはいないが、不用意に触れば怪我をする。

 

死に瀕したことがあったからだろう。

肉体の枷を外すが得意で、取っ組み合った男の手を握り潰せるぐらいには力も強い。

その上で、それだけの技量には到っている。

しみじみと、ワイリーは過去を懐かしみながら頷いた。

 

ちなみに補足するとミヤビ、割と必死である。

顔には出していないが。

腕なりを折られればキャンピングカーの運転も出来ない。

 

そうなれば、帰されるのは殆んど必須。

と。

少なくともミヤビ自身は思っている。

「大園ゆりこに腕を折られたので帰ってきました」等と屋敷の人間には間違っても言えるはずがないのだから。

 

当然、殺すのもダメ。

うっかり致命傷を与えようものなら、どのような目に合うか。

自身のみであればあるいはミヤビも受け入れよう。

しかし、一族郎党がどのような目に合うか分かったものではないのだ。

 

合わせてワイリーを殺す等も当然、不可。

一族郎党、今後の電脳世界どころか世界から排斥され続ける未来しか見えない。

物理的に害する力はなくとも。

それだけの力を、ワイリーの作り出したネットナビ達が持ち合わせている。

そう確信しているが故。

 

ミヤビ自身は怪我を出来ず。

しかし、ゆりこに再起不能になる怪我を与えぬよう。

痛め付けたミヤビに対して割と容赦なく、ある種甘えて、振るわれてくる暴力を往なす。

神経を直接削られるような、闘い。

 

貫手。

抉られる脇。

その服の弛み。

散る布切れ。

体を回しながらもソレを眺め、ミヤビはしかし小さく笑う。

 

伸び切っている腕の肘関節に極めるように背骨と両腕で抑えて足を引っ掛ける。

変則的な小外刈り。

先は二択。

関節を折るか素直に浮かぶか。

 

「ちょ」

 

当然浮かぶ。

回転。

掴んで来ようとする手を透かしその体へと踵を叩き込む。

 

「っと!」

 

数メートル。

勢いのまま吹き飛んだゆりこはソレを殺すために自主的に転がり、やがて止まった。

不満そうに上体を起こし。

 

「流石に痛いじゃない!」

「それだけの元気があれば大丈夫だろう」

 

瞬間的に掴んだ靴。

既に握り潰し、太めの木の枝のようになっているソレを放り捨てているのを眺めながら。

ゆったりとミヤビは自身の腕を組んだ。

終わりの合図である。

 

「もー! 指が折れたらどうするのよ!」

「そんな柔な鍛え方はしておらん」

「腕も!」

「………………フッ」

 

既にワイリーの元へと足を進めているミヤビの横に。

プリプリと怒って不満を露わにゆりこが突っ掛かっているが。

それもまた、いつもの光景であった。

 

そのような光景であるから、ワイリーの対応も慣れたもの。

三曲目の途中であったが止め、イヤホンを抜き、二人に対して用意していたタオルを投げる。

汗ばむのは勿論、今回のように土が体に着くのも当然ある。

少し離れた所でせっせと汚れを落とす姿を眺めながら。

 

朝の運動を終えれば、次は朝食。

といっても、上品なものではないし、予め用意しておいた内容である。

消費したカロリー等の栄養補給が目的の、量が多い代物だ。

 

一般に人間が普段、全力を出しても使う筋力は六割程度と言われている。

平常時でも使っていると、体が壊れるから。

以外にも。

カロリーの消費が激しいから、と言ったことも理由に挙げられるだろう。

プロのアスリートが特別、カロリーの消耗が激しいのは通常使われていない筋肉すらも使う技術を身に着けているからだ。

 

エレキ邸ではお淑やかに振舞っていたが。

と言うよりも。

伯爵であるエレキ夫妻の前で少女をボコボコにするのは流石に憚られるため基礎以外の修行の類はお休みしていたが。

離れればその限りではない。

 

序に言えば。

カロリーの確保を主目的とした茶色が主な食事は、流石に貴族の邸宅でお願いするのは憚られる。

と言うこともあった。

 

「「「いただきます」」」

 

誰からともなく手と声を合わせる。

特段言い合せている訳でもなく、各々が勝手に蓋を取り払い。

脂と塩気の入り混じった香りがその場を満たした。

 

フォークを入れた卵の黄身が幾分かの形を保ちながらゆっくりと垂れる。

ナイフの入れられたジャガイモの固さ柔らかさの入り混じった何とも言えぬ歯触り。

レバーに似た何とも言い難い食感故に黄身や脂等の要素を吸い上げたブラッドソーセージ。

融けるようなベーコンの脂と得も言われぬ塩味。

酸味のあるトマト煮が口の中を満たし、張り付いたそれ等を綺麗に拭い去り。

ハーブ入りソーセージの香辛料の効いた味わいが鼻を通り抜けていく。

正しく、キングランドの贅沢な朝食。

 

閑話休題。

要するに、全力で動けば滅茶苦茶カロリーを使う。

二人とも。

それだけの話。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

三者三様。

一応の手を合わせ、そう終える。

さっさか片付けを始める二人を尻目に、ワイリーは運転席へと乗り込んだ。

 

流石に朝から激しい運動をした日までミヤビに運転を任せることを、ワイリーはしていない。

普通に事故が怖い。

何とか出来なくもないが、公権力を相手にするのは手間なのである。

ともかく。

 

経路の確認。

機器の調子。

電波の様相。

それなりに旅を続け、殆んど毎朝行っていることともなれば手慣れたモノ。

 

特に経路。

此方に関しては暫く前に届けられた、PET用カーナビがあった。

曰く、PETにソフトを入れておけばデジタル地図を展開。

車にプラグインしておけば速度や車軸の動きでどの辺りを走っているか大部分は自動で計測してくれるのだとか。

道なき道を走り出したり、変な方向に行ったりだとかは、PET内のナビがある程度は修正できるし現在地を口に出せば聞いたナビが合わせてくれるという寸法である。

 

少なくとも、イチイチ止まって紙の地図を広げる必要は皆無。

最近の、何にでもプラグイン出来るよう開発が進んでいる、ある種の流行。

ソレを利用した形である様子。

お高く下手すればPETと同じくらいはする、既存のカーナビを駆逐する勢いで広まっているらしい。

ちなみにお値段一万ゼニー。

 

「場所は昨日からの続きじゃ。問題ないな?」

『おまかせ~』『ワガハイ達三体で案内致します』『音楽流していいっすか?』

「控えろ」

『っす……』

 

声を掛ければ反応する、一体のネットナビ。

自律型戦闘用ネットナビ。

名は、ソードマン。

 

腕を持つ巨大な剣のような形をし、二本の同じような巨大な剣を背負う剣士である。

最も特徴的と言うべき部分は、武器である剣それぞれに疑似人格――つまりはネットナビとしての機能を保有させていること。

概ね同じ形だが、唯一にして最大の違いは鍔でもある顔と色だろう。

 

主人格、とでも言うべき部分は腕の付いた胴体部分。

あえて言うなら鞘と称すべき部分に差し込まれた剣の人格が対応される。

変則的な三身一体。

一体にて三種三様。

互いを互いに武器としても扱える、おおよそ通常のネットナビから大きく外れた、ワイリー製の第十番。

 

元々は、対カーネル。

含めた近接戦闘に秀でた強敵向け。

単独で様々なスタイルに切り替え、手管に慣れさせず勝利する。

 

そのような設計思想で創られ始めたのだが。

主人格の切替に数秒無防備になることや其々に盛り込まれた戦闘用データに、他のに人格がデリートされた後でも戦えるようにするための剣の生成能力等々。

機能や性能を詰め込めば詰め込むほど電脳的に大きくなっていき、並のナビの倍以上の大きさになった辺りで流石に冷静になったワイリーによって一先ず完成となったのであった。

 

そのような訳で滅茶苦茶強い。

模擬戦闘においてだが。

ゆりことニードルマンにはダブルスコアで突き放し。

ミヤビとシャドーマンにすら勝ち越していた。

かつては。

 

「…………昨日の段階で二人はどうじゃった?」

『ワガハイは負けが込んできております』『オレッチはやや優勢? みたいな? でも慣れられてる感』『六四ぐらいだけど、そろそろ五分になっちゃうかなー?』

 

ソレも長く続きそうにはない。

その答えにワイリーは頷き、後ろを覗いた。

外の片付けを終えての一休み。

ダラっとし始めている姿を確認し、周囲を軽く確認した上で、アクセルを踏んだ。

 

 

 

『《ソニックブレイド》乱れ斬りィ!』

 

唸りを上げる剣閃。

乱雑に振られているようで。

しかし、確かな意図を持って斬撃が宙を割く。

電脳世界の宙を。

 

ひらり。

ひらり。

と。

舞う木の葉のように。

千鳥足の老人のように躱すのはシャドーマン。

 

『シ――』

 

不意に足を止めその手が閃く。

乱れ割く斬撃の嵐。

その隙間を縫い手裏剣が三つ。

ソードマンへと迫る。

 

『むっ!』

 

咄嗟。

生成した大剣を盾に凌ぐが、その表情は険しい。

視線の先。

腕を向ける存在を目を向け。

 

『シャーシャシャ! 《ニードルキャノン》!』

 

恐らくはその予感通りか。

にやりと口元を釣り上げたニードルマン。

その手先から放たれるは数多の棘の弾幕。

剣山の如く面に放たれるソレ等は、

 

『《スピニングソード》!!!』

 

もう一本。

生み出された大剣二本の投擲。

圧倒的質量。

回転しながらニードルマンへと迫るソレ等は道中、貧弱と言わんばかりに棘を薙ぎ払い。

そして飛び退いていなければニードルマン共々床に串刺しにしただろう。

 

破壊されたデータの粒子が煙のように舞う中。

しかし幾本かの棘の刺さっているソードマンに油断はない。

更にもう一本、弓なく矢を番えるように構え。

水平。

平突き。

 

『カーッ!』

 

放たれた大剣が跳んでいたニードルマンを。

ではなく。

上空。

斜め上。

突如身を翻すように回転した先。

頭上からの奇襲を企てていたシャドーマンの腹を穿つ。

 

『ぬっ』

 

かに見えた。

しかし影。

切っ先の向こうは何もなし。

空へと突き立てたという痕跡のみ。

 

伸びた腕。

その下。

止まった背。

その後ろ。

黒塗りの刃を携えたシャドーマン。

 

『《ニードルアタック》!』

 

突貫するニードルマン。

万事休す。

かに思われた。

姿が消える。

否。

跳んだのだ。

 

誰かの舌打ち。

すぐさま飛びずさるシャドーマンを尻目に勢いを殺せぬニードルマン。

その脇腹を思い切り蹴り距離を離させたもう一体のシャドーマンが、

 

『《ソードプレス》!』

『《バクエン》!』

 

自身へと落ちてくる。

否。

勢いを増しギロチンの如く墜ちる切っ先へと焔を投げ掛け、

 

『  』

 

しかしあっさりと手向けた焔ごと串刺しに抜かれ。

朧へと消えた。

一縷の望みぐらいはあったのだろう。

その有様に一瞬だけ顔を顰めてみせたソードマンだったが、床に突き立った自身の体を浮かび上がらせ。

そうしながら、ゆっくりと剣を二本、生成する。

 

ゆらりと。

斜に。

脱力したような構え。

だが不用意に近付けば即座に切っ先が跳ね上がることは、既にどちらも知っていた。

 

『シャーシャシャシャシャシャシャ! 流石は戦闘用のお兄さまだぜ! 相変わらずイヤんなるぐらい強い! シャー!』

『ニードルマン。何時も言っておるがお前は軽挙が過ぎる。先は、遠距離に徹するべきであっただろうに』

『シャー……』

 

笑って見せればすぐさま刺される。

自身のお株を奪わんばかりの言動に両腕を広げて不満を表明している姿を尻目に、ソードマンの視線はシャドーマンへと移った。

 

『シャドーマンはやはり、高い水準で纏まっている。ワガハイ達でも何れは勝率が割り込むやも知れん』『末恐ろしいってヤツだな!』『ひゅーひゅー! 怖ぁい!』

『御託はよい。言いたいことがあるのだろう?』

『うむ。故にこそ、オペレーターであるミヤビ殿の手を借りるまでもないことこそ、欠点である――何度も言ってはいるがな』

 

さらりとそう言及される。

その言葉に、シャドーマンは目を窄める。

幾度とない言葉。

手を変え品を変え、様々な方法でもってワイリー製のネットナビ達はそう言い置いて来た。

そのような言葉なのだから。

 

『…………』

『そう険しい顔をされるな。ワガハイ達として嫉妬の念を拭い去れぬことだ』

 

そう、更に言われもする。

シャドーマンとしては何とも答え辛い事柄であった。

自律型ネットナビ。

それであっても、純ワイリー製と言うべき存在達と、シャドーマンとでは決定的な違いがある。

 

オペレータの有無。

いや。

あえて言うならば、オペレーターの必要性の有無、か。

 

ソードマン達を筆頭に。

ワイリーの創り出したネットナビはその概ねが完全なる戦闘用の自立型ネットナビ。

一部は補助用でもあるが、概ねがその方向性である。

自立している。

単独で完結している。

オペレーターの存在を考慮する必要はない。

 

創造主であるワイリーすらも。

 

だが、シャドーマンは異なる。

運用思想からして異なっている。

シャドーマンは、人に使われる前提の上で成り立っている自立型ネットナビ。

そもそもが、オペレーターのために存在しているのだ。

その上で、主たる戦闘用のネットナビである自身等に匹敵する能力を有しているのだから妬心の一つも湧くと言うもの。

それを素直に口に出来るだけ、ソードマンはまだ可愛げがある方であった。

 

ちなみにニードルマンはと言えば。

オペレーターはワイリーではないし、戦闘力も高いが完全戦闘型より低い。

何より尖っていると言うより抜けている方なので「コイツは……まあ…………うん」みたいな枠であった。

 

『……某としては、オペレーターに頼らねばならぬ存在と言われているように思えるがな』

『受け取り方の違いであろう』

 

完結していない。

不完全である。

そう度々突き付けられる側のシャドーマンとしては、そのように言いたくもなる。

そしてさらりと流すソードマンもソードマン。

 

三心一体。

そうである分、他の唯我の道を行く諸々よりはまだ、他者への理解もある方であった。

考え方の相違への理解も同様に。

 

『ともあれ……お待たせ致したな、ミヤビ殿』

「…………」

『ゆりこはニードルマンの軽挙を、防御系チップを以って果敢に擦り替えている。その上でミヤビ殿――欠なき穴を埋めるにはどうすべきと考えられるか?』

「シャドーマンは全般高性能であることは分かっている。中でも最たるは速さ。であればやはり、瞬間的な攻撃力であろう」

『であればそれを活かすため、息を合わせるには』『やっぱ特訓あるのみってね!』『やっちゃいましょーよ!』

 

完全に意識の外にやられ、隅っこに座っていじけているニードルマンとそれを慰めているゆりこを他所に。

双方。

ゆっくりと己の獲物を構える。

大剣。

小太刀。

 

それはそれ。

これはこれ。

騎士。

忍。

違いはあれど、戦士としての棚は当然ある。

 

ミヤビが幾枚か。

チップを用意したことを確認したソードマンが頷き。

シャドーマンが床を蹴る。

瞬間、火花が散った。

 

 

 

「分かってはいたが、カレーか」

「カレーです」

「私、好きだけど」

 

色のついた米。

液状に近い、さらりとしたソースのようなカレー。

スパイスの複雑に入り混じった匂いに紛れるトマトの香。

いや、大きなチキンの載ったソレ、

どちらかと言えばチキンのカレー煮が近しいか。

 

ネットバトルの実地を終えて。

ワイリーが運転をし続けていた合間。

揺れる車内でもまるでブレることなき包丁捌き。

ある種、鬱憤晴らしも兼ねているのかも知れないが。

 

忍の業を遺憾なく発揮された、カレーである。

ニホン式ではない。

スパイス――ナマステー産は暫く前に犯罪組織との抗争でキャンピングカーごと失ったのでピラミッドのある地方で購入した物――をミヤビが手ずから粉末にし、調整して作っている本格派である。

当然、ゆりこも食べれる味にしてあった。

 

毎週ごと。

遣ること成すことに周期性がない。

故に、時間間隔を維持するためにもとミヤビがやるようにしていた事柄であった。

手が離せない場合、ゆりこかワイリーが適当にやって、やっていないどちらかが大体文句を言っているが。

 

ワイリーも別に、カレーは嫌いではない。

ただ、食べながら資料を読んでいたら飛んだので苦手なだけであった。

自業自得である。

あと、窓が開けれない時は本格的な匂いが数日残り続けるのも微妙な所ではあった。

 

毎度のように手を合わせ、食し、終え、また手を合わせる。

車を止め、食事を終え。

いよいよが本格的な所であった。

少なくとも、二人にとっては。

 

「……それで、此方なのですが」

「フン……速さによりリソースを割きたいという訳か?」

「ソードマン以外にも言われていることですが、私の居る意味を見出せと」

「無理矢理引き出すことではあるまい」

「…………ふぅむ」

 

プログラミング。

ワイリーと言う、隔絶した技術者。

そこから直接物事を学べる機会。

早々得られぬソレを、ミヤビは貪欲に吸収せんとしていた。

 

プログラミング。

機械装置の設計を行う上でも、避けては通れぬ事項。

プログラムくんやネットナビによって高度化しようとも、必要であることには変わりない。

 

ワイリーとしても自己研鑽を兼ね、既に数十体ほどのネットナビを創り出してはいた。

真に望むモノ。

と言う意味では別かも知れないが。

閑話休題。

 

ワイリーにとって。

ミヤビ。

ゆりこ。

この両名は中々新鮮な弟子と言えた。

 

切磋琢磨する友。

それは学生時代から存在していた。

機械技術者としての弟子。

それは科学省在籍時代に存在していた。

あらゆる事柄を教え込んだ子供もまた、存在している。

 

だが、ネットナビに特化した弟子。

そこに限定する場合、存在していない。

かつてのワイリーであればそこまで熱心ではなかっただろう。

 

最低限教えて、あとは放っておく。

それぐらいで済ませていた。

間違いなく。

 

しかし、思う所。

一心にネットナビと自身の関係性を考え、瞑目し、頭を捻っているミヤビ。

そこからワイリーは視線を他所へと向けた。

 

一角。

幾つもの、金属製の箱の積まれた一角。

遺された物を保管してある、一角。

 

ソレ等は、機械に転用できるかと言えば。

不可能ではないだろう。

ワイリーの技術を以ってすれば。

 

しかし、無駄。

手間が掛かり過ぎる上に代用出来ない物ではない。

わざわざする理由はない。

全く用途を思い付かない訳ではないし、旅が終わればそれらの研究に軸を置くことになるとワイリーは考えてはいる。

しかしもう一度言うが、無駄が大きい。

 

だが、電脳世界にて転用するのであれば、そうとも言えない。

データに加工して転用するのであれば、思いの外に影響は大きい。

これが中々、ワイリーにとっては興味深い事柄であった。

 

視点の転換とでも言うべきか。

コト、遺物。

ソレに関して言えば、ワイリーは当初の偏見で懲りた。

ほんの少しばかり。

自身の視点が絶対視出来なくなった、とも言えるが複数の視点を用意した方が良いと思う程度に。

 

「どう歩むか、じゃ」

「……どう、とは?」

「お前はシャドーマンと協力して事に当たる前提で居るのか? あるいは、別々に動いても相応の働きが出来るようにしておくかじゃ」

「……使える手が大いに越したことはありません」

「であれば基本設計はそのままで良かろう。お前達が共同してコトに当たる必要があると分かっている時だけ変えられるように準備するぐらいで良いんじゃあないか?」

 

腕を組み、瞑目する。

ミヤビの時間は数秒ほど。

気付いたように片目を開き、画面。

其処に佇むシャドーマンを見やった。

 

「…………どう思う?」

『ハッ。ソードマン達の言葉に惹かれ過ぎているかと』

「……ソードマン達の言には正しさを感じた」

『私見で宜しければ』

 

シャドーマンの言葉。

ミヤビの反応は早い。

 

「申してみよ」

『バトルチップの性能は侮れませぬ。これは確かです。しかし、その性能を活用するためにミヤビ様の手を煩わせることは本末転倒に思います』

「ふむ」

『強力な代物であれば確かに、私の業を上回りましょう。しかし、使うまでの時間……特定のチップに合わせて距離を定め、隙を狙い、使用する……その間隙もまた無駄が多いのではないかと』

「我等の合力は無意味と思うか」

『否です。ミヤビ様との合力は無意味でありませんが、現状それは壱と壱を足して弐に届かぬ代物……』

「真に注力すべき事柄でなければ、か」

 

唸り、軽く顎を擦る姿を尻目にワイリーはその場を離れた。

おおよその道筋は見えている。

単独で動かす際は現状を維持。

協力して動く際は速さに特化。

 

そうなるだろうと見定め、次へと。

ゆりことニードルマン。

その両名に対して。

 

「~~~、~」

『シャッシャッシャー』

 

とは言っても、ワイリーが口を挟むようなことはない。

ゆりこは気にせず、ワールドワイドウォッチングで音楽を聴きながら勉強をしているし。

眼鏡を掛けたニードルマンはPETの中で勉強の進捗と共にチップを仕訳ているだけ。

理由は単純。

子供の全能感を以ってしても、あるいはその上でもなお、ニードルマンがどれほど普通じゃないかを理解してしまったがためだった。

 

必要なメンテナンス関連。

場合によってはパーツの更新は出来るようになってはいる。

しかし特段手を加えるつもりは、ゆりこにはなかった。

単純に、レンガで造られた大聖堂へと無暗に手を加える気がなかったのである。

ミヤビのように仕事に合わせて使うならばともかく、そのようなことがないのも相まって。

 

ニードルマンも、自身の作られた理由をよく理解していた。

他の先輩方と違って、あくまでもゆりこのために作られた存在。

先輩方のように特筆して強くある必要もなければ、智慧を働かせる必要もない。

ゆりこのやりたいようにやらせ、自身はそのサポートで良い。

なので、ウイルスバスティングついでに手に入れた目新しいチップの内容に目を通し、使えそうかどうかの確認に留まっていた。

 

なのでワイリー。

余計なことはせずスルー。

そのまま後ろを通り過ぎ、自身のパソコンの前に座った。

 

キャンピングカーを吹っ飛ばされた回数に合わせて新しくなったパソコンだが、機能に大きな変化はない。

ゆりこと同じように。

イヤホンを付け、耳に刺した。

 

「――ソードマン」

『はっ』『はい』『うぃ~』

「程々にな」

『……恐れながら、何れは敵にも成り得る相手です。手管を暴くに越したことはありません』『そーだぜ大将!』『やっちゃおーよやっちゃおーよ!』

「程々にな」

 

若干の不満を露わにしているソードマン達を無視し、連絡へと目を向けた。

まだ気が早い。

理解していても、確認せずにはいられなかったのである。

当然、ワイリーの目当ての連絡は当然まだない。

まだ一週間と経っていないので当然であるが。

軽く舌打ちをした刹那、ショートカットより現れる姿を捉えた。

 

黒い液体の入った人型の袋。

そう称すべきは、オイルマン。

ソレが体を揺らしながらやって来た所だった。

 

『おお、これは兄上!』『どったの?』『ワイリー様に用事ぃ?』

『おうよ兄弟! ワイリー様のご要望の情報を届けにな!』

「そうか。助かった」

 

軽く笑っている姿を一瞥するに留め。

示された手土産へとカーソル先を向けた。

とはいえ、そう差し迫った代物ではない。

単なる伝承等の情報である。

 

何処ぞのネットナビが創り出し、拡大と充実を続けているネットワーク大事典。

『モモペディア』。

各国の人間しか知らないような事柄や歴史等も好き勝手に書き込まれ、しかしその後ろ側ではネットナビ達によって裏取りや整理整頓までも併せて進められている情報百科。

多少怪しげな伝承であっても、情報源とでも言うべき資料等が存在すれば一応は残され続けているのである。

ソレ等を持ってきたのだった。

 

『……おお』

『おう、なんだよ兄弟』

『上手く忍び込まれたものだと思いまして』

『おれっちはその手のこと、苦手じゃあないんでね!』

 

感心したような声を上げるソードマンの言葉に、何でもないようにオイルマンは笑った。

一先ず、纏められた資料をワイリーは眺める。

エレキテル家地下に存在していた剣に類似した伝承。

については既に受け取り、確認を終えているので別の。

 

例えば。

ワイリー自身が一度は間違えた、剣。

最後、湖に投げ込まれたとされる剣。

その投げ込まれた場所の情報だとか。

 

「……よう纏まっておる」

『なら良かった。じゃ、おれっちは失礼するぜ!』

 

そのまま軽く手を振り、さっさと出ていくオイルマン。

後ろ姿に視線を向けていたソードマン。

その中の一体。

黄色い鍔の存在が、

 

『いっひっひ』

『……どうした?』

『別にぃ~』

 

わざとらしく笑い声を漏らし、ワイリーへと視線を送った。

意味深な。

何かを知っているような笑み。

対してワイリーは鼻を軽く鳴らし、

 

「気にする必要はない」

『りょ~解了解!』

 

そう答えればもう一度、ケラケラと笑い、口を閉ざした。

困惑気味の二体の視線がその一体、そしてワイリーへと向けられるが、口は開かず。

視線の意味をおおよそ理解していた。

理解していたが語らず、軽く顎を撫ぜた。

 

「ソードマン」

『はっ!』

「次の目的地は……あまり期待は出来んじゃろうが、予定通りに」

『……はっ』

 

瞬時に切り替え、ナビゲートの準備を進める姿を眺め。

一瞬だけ振り返る。

どちらの視線も向けられていないことを確認し、

 

「いや……キングランド自体もう、なさそうじゃな」

 

背凭れへと体重を掛ける。

軋む音をイヤホン越しに聞きながら。

ふと思い立ってまた声を出した。

 

「ソードマンの次は誰の予定だ?」

『ワガハイの次ですか? 次は確か……』『ギャラクシーマンだっけ?』『プラネットマンも熱心だよねぇ~』

「ギャラクシーマンか……ん、熱心? 何がじゃ?」

『お政治』『我々こそがお役に立てる! って張り切りっぱなしなんだよね、アイツ』『……少し控えて欲しいぐらいですが…………まあ、お役に立ちたいというのは分からないでもありません』

 

苦々し気に口にする、中央のソードマン。

同調するように両脇の二体もカタカタと動いて見せた。

そういえば。

ふと、ワイリーが自身の記憶を探ってみれば。

 

プラネットマン。

ひいてはその大本となる未確認飛行物体の技術関連。

ソレを基にしたナビ達が来る機会が多いようにもと思う。

ミヤビやシャドーマンとの模擬戦を行う回数も相応に。

 

更にワイリーが自身の記憶を掘っていけば確かそうだと一人頷く。

心なし、多いと。

そしてその心なし、と言う部分の切っ掛けは、ニホンに居た頃。

 

ワイリー自身のネットナビの劣化コピー。

もっとも、バージョンアップ前のネットナビの欠損データ。

それに補完される形で動かされていたナビ達。

あの見るも無残としか言いようがない存在達とその大本、保存されていた場所の壊滅を。

 

「…………そうか……まあ、苦労を掛けるな」

『『『お気になさらず』』』

 

一様に頭を、と言うよりも真ん中が腰を曲げれば強制的に全員下がるのだが。

下げたソードマンを見ながらワイリーは内心で溜息を吐いた。

命令。

プラネットマン達には直接的な命令を出したことは、確か一度もなかった筈だと、今更のように気付いて。

 

命令らしい命令も。

サーゲスの手伝いをするように。

その程度。

 

サーゲス達と協力してウラインターネットに拠点を用意している筈だが、他と違って命令らしい命令をしていなかったのだから。

その辺りは仕方ないか。

そう、自身を納得させながら。

 

あのナリで、手が掛かる。

内心もう一度、溜息を吐いた。

呆気ほどではない、微かな苦笑をその顔に浮かべながら。

 

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