「おじさま」
「……なんじゃ?」
「なんだか、デジャブってヤツね」
「…………」
またしても。
ワイリー達は車に乗せられていた。
デジャブ。
要するに、エレキ夫妻の時のように。
半ば問答無用に連れて行かれる事態。
それ自体は、実の所、ワイリーとしてはまあ良いかと思っていた。
と言うよりも諦めが入っていた。
隠れていても、何処からか嗅ぎ付けられる。
それは致し方のないこと。
特にワイリーの動きは、目立つ。
遺物。
ソレを探している都合上、どうしても目立つ場所に訪れなければならないのだ。
遺跡だとか、美術館だとか、博物館だとか。
だから見付からないようにしているが、それでも半ば許容範囲にある。
問題があるとすれば、強引な手法を取られるか否か。
ソレも概ね問題はなかった。
悪意の有無。
その上で、強引かどうか。
悪意があり、強引であれば。
ミヤビとゆりこの業が牙を剥くことになる。
特にゆりこ。
彼女の方はかつて生死の境を彷徨ったからか、リミッターが割と緩みがちであった。
それこそ、見た目で侮り両手同士で組み合った相手の手を使い物に出来なくさせれる程度に。
少し逸れたが。
要するに、半ば拉致。
そこまでされるのは中々どうして、珍しいことのハズだった。
ハズだったのだが、起こった。
それだけである。
「……ワイリー様」
「なんじゃ?」
「此度は些か異常です」
「そうじゃな」
あるが。
ミヤビの言葉に、ワイリーは頷いた。
運転手が居るが気にもせず、頷いた。
視線を外に向ければ分かること。
四方。
さりげなさを装ってはいるが、同じような黒の車が走っているのが目に入る。
しかしその目的はあくまでも護衛。
ワイリー達を間違いなく無事に目的地へと送り届ける。
そのためだけと分かる程、注意が内よりも外へと向いている。
正直、強引さを鑑みて早々の国外脱出も視野に入っていた。
最低限。
遺物と関連物幾つかだけ抱えて。
だが着いて来たのは、害意はなさそうであったからこそ。
とはいえ、何が出るか。
そのようなことを考えながら、ワイリーは溜息を吐いた。
「間もなく、到着致します」
ともあれ、その言葉に気を取り直したワイリー達が座り直す。
各々、一応の警戒を強めながら。
ゆっくりと近付いてくる、ソレ。
絢爛。
とまではいかずとも、確とした存在感を放つ王宮。
「………………」
「なんだかカステラみたいな形ね」
等と呑気な感想を述べているゆりこをそのままに。
どうやら裏口だろう。
開かれ、促されるがまま。
差し出された手を断ったワイリーだが、案内に身を任せるがままに中へと足を踏み入れた。
「ようこそいらっしゃいました」
「ようこそいらっしゃいました」
「…………うむ」
二人。
茶髪を後ろに流すように揃えた青い目の男。
金色の長髪を緩やかに落とした緑の目の女。
恭しく頭を下げ、手を伸ばしてくるその二人の姿。
出された手を受け入れながら、ワイリーはモノクルに隠れている目を細めた。
ワイリーは知っていた。
国に入る前には、権力者を調べている。
最低限は。
だからこそ、その二人が何者であるのかを。
「……お目にかかることは初めてですね? 私はキング・グローリーです」
「クイーン・ピュリティです。我が国によくぞお越し下さいました、ミスター」
「…………国王夫妻直々のお出迎えとは痛み入る」
「…………」
「ッ」
感情を表には出さず。
しかしゆりこは流石に驚きに身を固くし。
三人揃って頭を下げる。
刹那、
「お止め下さい!」
慌てた声音のグローリーが止めに掛かった。
下げ掛けていた頭がそれで止まった。
「我が国最高のゲストの頭下げさせるなど……どうぞ、此方に」
国王自らの案内。
ワイリーが視線を走らせても見ても、当然ながら周囲の顔に変化はない。
しかし女王ですら、当然のことと一切気にも留めず、受け入れているような様。
些か、異様。
異様はまだある。
此処に来るまでに、ミヤビもゆりこも、身体検査の類を受けていなかった。
故に、持っている。
暗器。
武器を。
王族の護衛ともなれば気付いていて然るべきだろう、見せ札。
最中にあるまで気付かせないための伏せ札。
秘中の秘とでも言うべき隠し札まで。
全て滞りなく持ち込めている事実が。
それでいて警戒心がない訳ではない。
ただ、向ける対象に定められていない。
ワイリー含めた三人が、王族同様の庇護対象に含まれている。
そのような、異様。
ワイリーは、気にも留めていないように振舞いながら。
しかし、ミヤビは厳めしく警戒の色を醸し出しながら。
ゆりこは無邪気を装い周囲へと視線を彷徨わせながら。
案内されるがまま、王宮。
その三階へと辿り着いていた。
そのまま食堂だろう。
しかし、明らかにプライベートの雰囲気が漂う其処へと案内され。
勧められるがままに腰を下ろした。
「ところで、コーヒーはいかがでしょう?」
「コーヒー?」
「ええ! 我が国では休息にはコーヒーを、というのが一般的でして。よろしければ軽食も用意させて頂きます」
「……頂こう……ゆりこには砂糖とミルクを頼む」
「すみません……」
「はっはっは、構いませんとも。専用の牧場から取り寄せているミルクです。其方もお楽しく頂きたい」
柔らかく微笑み、視線を他所へと流す。
恭しく一礼をした壁際の一人ばかりが外へと出ていくのを尻目に、ワイリーは目を細めていた。
考えが読めない。
軽い調子で振るってくる話題には探りを入れるような話がない。
不審を募らせるのも束の間。
出て行っていた一人がノックと共に食堂へと戻ってきた。
陶器のミルク入れ。
小さく重ねられた角砂糖が四つ。
如何にもな、銀のポット。
内、ミルク入れと砂糖の小皿はゆりこの前に置かれ、ポットは女王の前に置かれた。
ワイリーが眉を顰めたのも僅か。
すぐ傍らに立ち、示されたカップ。
それぞれがそれぞれ一つを取れば、立ち上がった女王の手ずから、ポットよりコーヒーが注がれ始めた。
思わずミヤビが立ち上がり掛けたものの、一瞬、周囲へと視線を走らせ、腰を下ろした。
「……行儀が悪いぞ」
「申し訳ありません」
「お気になさらずとも」
「そういうわけにもいかん」
知ってか知らずか。
嗜めるワイリーの言葉を諭すように納めながら、一周。
注ぎ終えた女王が座り直した。
躊躇なくワイリーはカップを取り、香りに目を細め、
「浅入りじゃな」
「はい。我が国では酸味を楽しむのが一般的です――深入りの方がお好みで?」
「いや、文句を言うほど舌は肥えておらん」
そのまま口を付けた。
微かに眉を動かし、カップを置いた。
「……多分、良いモノなんじゃろうな」
「何よりも楽しんで頂ければ」
「そうか。悪くはないと思うぞ」
「それなら良かった」
微かに顔を窄め、ミルクを足しているゆりこに一瞬だけ苦笑を向け。
束の間。
ノックと共に再び、一人。
湯気立つワッフル。
「ほう」
と思わずワイリーが声を漏らしてしまったが、三角形に近しいものが五枚。
しかしただの三角形ではない。
花びらのような切れ目。
皿に広がるように装われた五枚のワッフルによって、さながら花が咲いているような趣向。
「冬は特に寒い故、薪ストーブが主流なのです」
「焼き場が円形の方が都合が良かったと」
「はい。それに、今はともかく昔は高級品でした。こう言った所もより贅沢に見せる工夫だったのだと」
「なるほどな……一人一皿なら、先にゆりこに回してやってはくれんか?」
「……よろしいのですか?」
「気にするほど裁量ではないわ」
暗に毒見。
既にコーヒーでも示されたソレを以ってなお、怪しむほど裁量と思われては敵わない。
そのようなことを口にすれば、小さく頷いた女王によって、ゆりこへと回された。
「……此方、ブラウンチーズにイチゴジャムとなります。合わせてお楽しみ下さい」
「チーズ?」
「厳密にはチーズではないんですよ。牛乳に含まれる糖分を含んだキャラメル、のように考えて貰えれば――まだ砂糖は入れていませんね? それであれば、コーヒーも一緒に楽しむとより美味しいですよ。ちなみに手でどうぞ」
ワイリーを一瞥したゆりこ。
だが関せず。
そのような雰囲気でコーヒーを啜る姿に、まずはブラウンチーズと合わせてワッフルを口にし。
口を閉じたまま感嘆の声を漏らした。
その姿に、カップの陰で口元を小さく緩め、しかし下した時には既にない。
品を損ねない程度に。
しかし、美味しそうに食べ進めるゆりこを尻目に、それぞれの前へとワッフルが置かれ、各々の口へと運ばれていく。
感想の言葉を溢しているゆりことの会話へと主導が移っていた、
食に関心があります。
そう、暗に示すようにジャムやブラウンチーズに対して質問を進める
合間に、ワイリー達二人は楽しみ終え、一息を付いた。
目端で気付いたらしいゆりこが感嘆の言葉で納め、そうして国王と女王の意識がワイリーへと戻った。
「ところでミスターは今回、どのような用件で我が国――クリームランドへ来られたのでしょう?」
「少々歴史観賞をな」
漸くの探りに、投げ槍気味に答えた。
明らかなウソ。
と言う訳ではないが、真実ではない。
これ以上にないほど分かり易いソレであっても、グローリーは気にせず「そうですか」と頷いた。
聞かれた方が気まずくなりそうなほど、率直な受け取り。
ワイリー自身、言っておきながら些かばかり座り心地が悪くなったのだろう。
微かに身を捩り、座り直した。
「よろしければ」
「うむ」
「案内の者を着けさせて頂ければと思うのですが、如何でしょうか」
「……お願いしよう」
露骨に渋い表情を浮かべて見せているミヤビを他所に、ワイリーは頷いた。
「妙ですな」
五日が過ぎた。
ミヤビの言。
それにワイリーは黙し、ニードルマンと音楽を聴きながら勉強中のゆりこも答えない。
一部屋。
用意された部屋は当初、個別か一部屋かとの話だったが当然一部屋。
そこに集まっての対応であった。
何があるか。
あるいは、何を求められる。
そのような警戒を他所に、何もない。
その事態に対する率直な言こそ、ミヤビの言葉だった。
招かれた翌日。
クリームランドの首都周辺。
其方の美術館や博物館への案内こそ国王夫妻自らではなかったが、それでも何某かの先触れがあったらしい。
館長と思しき人物による直接の案内。
流石にキチンとした歓待であると「遺物はないな、次」と言う訳にも行かないことはワイリーも理解している。
もしそのようなことをすれば、館長の首が飛びかねない。
その程度の理解と、同情は有している。
一抹程度だが。
故にこそ。
少しぐらいたまにはこう言うのも良いかと大人しく案内を受け、遺物への仮説を立てたり等と。
そのようにしながら幾つかを回るれば、それと共に説明もあって多少クリームランドへの理解を深めることとなった。
翌日以降は気儘に回りたいと流石に無用とし、案内の者も単なる食事処のガイドと化していたが。
閑話休題。
妙。
なのである。
何もないことが。
普通であれば、相応の歓待。
何かしらの下心が表れることが必定。
色を見せて来るモノ。
ワイリーにとって。
歓待されるということは何かを求められること。
そのような因果関係に結ばれた中での出来事である。
にも拘わらず、何もない。
ミヤビもその考えには同意の立場であった。
シャドーマン。
既に、クリームランドの電脳に忍び込み、盗聴盗撮の類がないことは確認済みであった。
『……………………ワイリー様』
「どうした、フェイクマン」
黙考。
沈黙に浸る二人と、流行りの動画サイトで音楽を選んでいるゆりこを置いて。
重々しく、ワイリーの懐から声が漏れる。
取り出された中。
PETに佇むのは、フェイクマン。
クリームランドに入る前に、何やら理由を付けてかギャラクシーマンと入れ替わって。
その姿。
腕にガトリングを取り付けた、警官のようなフェイクとしての姿であるが。
それが何処か呆れの含んだ声で問うた。
『お忘れですか?』
「………………何をじゃ?」
数秒。
クリームランドに思いを巡らせるも不発。
故に、あっさりと返す。
フェイクマンが顔を歪めた。
それも束の間。
両肩をガックリと落とした。
『……ワイリー様が主導された訳ではありませんから仕方のないことでしょうか』
「何の話じゃ?」
『セキュリティ騒動』
「セキュリティ騒動? …………あぁ」
「何か思い当たる節が?」
『サーゲス達が悲しむでしょう』
疑念を口にするミヤビと、わざとらしく肩を落とし、首を振りながら悲しげな声を漏らすフェイクマン。
それらを置いて。
目元を抑えたワイリーが慎重に、と言うよりも取り繕うようにか、口を開き。
やがてミヤビが深々と溜息を吐いた。
早晩。
食堂。
六度目の席。
と言っても毎回、国王夫妻が居た訳ではない。
ワイリー達の相手をやり通している訳ではない。
相応、公務を有しているのだ。
時に両方。
時に片方。
不在で、ワイリー達には食事が供される時もあった。
と言うよりも半分がそうであった。
なので夕食を共にするという意味では、三度目。
しかも丁度良く、夫妻が揃っている。
その中で、どちらかが口を開くよりも前。
ワイリー自身が腰を下ろすよりも前にPETを取り出し、二人に画面が見えるように置いた。
『――どうも』
「……やはり」
右腕。
大きなリボルバーを掲げるように。
あるいは見せ付けるように、その腕を持ち上げて見せたフェイクマンに。
国王グローリーは感嘆の、あるいは感謝の言葉のような声を漏らした。
居住まいを正し。
手を軽く振る。
それだけで、壁際に控えていた使用人達は水が引くかのように音もなく扉から出ていく。
最後の一人。
それが出、微かな金属音と共に閉じ、数秒。
「ミスター――ミスター・ワイリー様。改めて……本当に、ありがとうございました」
「構わん。ワシにとっては大したことではなかった」
事実である。
フェイクマンが口にするまで、完全に頭から抜けていたことだった。
自身が直接、携わった訳ではない。
それに最近は遺物の研究へと完全に気を取られていたことも相まって、だ。
その事実を知るのはこの場では、フェイクマンとミヤビのみ。
ゆりこは音楽と勉学に興じていたため知りはしない。
その詳細を。
故にこそ、
「おじさま、何したの?」
純粋な問い掛けに対して口を開き掛け。
片手を掲げることで止めた。
グローリー自らが。
「私達から、改めてお話しさせて頂きましょう」
そうして向けられた二人からの視線にワイリーは小さく頷いた。
実際、届けさせた。
それ以上のことは知らないのだ。
それほど興味がなかったから。
国王夫妻手ずからの歓待を受けるほどの覚えとしては、一切。
「我が国は少々特殊でして……我々国王は元々、国民の投票……民主的な手法によって王と認められたものなのです。だからこそ国民に背かぬよう、国民との距離も非常に近しいものです――皆で国を支える、同志として」
「……当時の我が国は比較的早期にネットワークを取り入れ、そして注力していたこともあって小国ながらも発展を遂げることに成功していました。私達と国民、一丸となって技術の発展に努めて……」
「しかし、違ったのです。いえ、必ずしも皆が皆、ではありませんが……我が国のためにと働いてくれていた訳ではなかった…………」
狂ったのは、一つ。
クリームランドの仮想敵国の一国。
ダークランドの手によって。
「――私達、皆で造り上げた防衛システムのデータを売り払った者が居たのですから」
「気付いた時には手遅れでした……気付くのが遅かった。捕まえることも適わなかった。当然ながら彼の国は知らぬ存ざぬと通し、しかし追及に力を注ぐよりもまず奪われたデータを基に我が国へのハッキングが考えられた以上、防衛システムを根本から見直すことを優先せざるを得なかった」
「国民に選ばれた王家だからこそ、国民を信頼するべき――――その心に変わりありません。ですが一丸となって突き進むべき時と定めたあの時にこそ、無為の信頼は…………すべきではありませんでした」
苦渋。
当時の、クリームランド内の狂乱を思い起こしたのだろう。
苦渋に顔を歪める二人は。
しかし、思い出したように三人を見、表情を戻した。
「転機は――二つ」
「一つ目はアメロッパから各国に対し、秘密裏に行われた緊急の通達でした」
「多少、暈されてはいましたが……クリームランドの防衛システムをそのまま流用している場合、その脆弱性もまた共通しており危険である。当然のことですが、その学ぶべき根本を買って済ませてしまったからこそ、気付かなかった所も多かったようです」
「私達としては……正直に言ってしまえば笑ってしまうような出来事でしたわ」
「とは言え、その時点では流石に疑惑の域を出ませんでしたとも。脆弱性を理解されていたとしても、ソレを理解し、抜き去ることは難しいことであると思っておりました――――あの時までは」
懐かしむように。
グローリーは瞼を下ろし。
少しして、真っ直ぐに見詰めた。
置かれたPETを。
其処に佇む、一体のネットナビを。
「二つ目は、我が国の中枢まで侵入し、ただデータを置き去って行ったナビの存在」
「生憎と私達は別の場所で動いていたので直接拝見は出来ませんでした。つい先程まで」
「ただ一体のネットナビが、我が国、国民達と築き直した防壁を悠々と越え、現れたと聞いた時の衝撃……怖気は……今でも夢に見るようです」
「遺されたデータはこの王宮の中――隔離したネットワークエリアに保存してあります」
「どのよう使ったかまでは申しません。しかし、遺して下さったデータが有ったからこそ、我が国はあの時からも大きく変わらない平穏を保てているのです――改めて、ありがとうございます」
そう。
深々と頭を下げた。
その姿に。
ワイリーは気まずげに視線を逸らし、腕を組んだ。
「…………気にするでない。ワシも少し、どうかと思っただけじゃ」
純粋に、気まずい。
正直、忘れていた。
吹けば消えている。
返されることもない。
ワイリーにとって、その程度のことだったのだから。
「どうかッ!」
ワイリーにとっては。
「どうか一つ、自覚して頂きたいミスター・ワイリー様! 我がクリームランドの人口は四百万人を超えている程度……ニホンの首都……どころか、アキンドシティの人口の半分にも満たない、確かに小さな国家だ……ッ!」
「ですがどうか、ご自覚下さい。貴方のお陰で、その四百万人の国民が救われました――大袈裟とお思いかも知れませんが、少なくとも、貴方が目にされたでしょう街の皆が今のように暮らしているのは貴方のお陰です。何度でも言います。他でもない、貴方のお陰なのですから」
「……そうか」
しかし鬼気迫る。
あるいは、多少血走っているかも知れない目を向けられ。
大人しく頷いた。
これ以上は押し問答にしかならないと諦めたとも言える。
別に怖くなった訳ではない。
そうして頷いた流れのまま、瞼を下ろしているミヤビへと視線を送った。
瞼を下ろしている。
にも拘らず、すぐさまに立ち上がり、ミヤビは扉の方へと歩き、そのまま開いた。
「話が終わったようだ」
一言。
それだけを告げて。
後ろに幾人を引き連れるように戻り、座る。
流れるように。
予め用意されていたのだろうコーヒーが各々の前に並べられ、食器も用意されて行く中。
思い出したかのように。
ピュリティが己が手を叩いた。
「そうですわ。難しい話があるかも知れませんから別々にしておりましたが……もうこれで片付きました。今後は娘をお連れしたいのですが、よろしいでしょうか?」
微笑み。
確認をするように隣のグローリーへと視線を向けた女王。
その視線に、当然のことのように頷いて見せた。
「そうですな。是非とも、ミスターにお会いして頂きたいのですが……よろしいでしょうか?」
「クク……ああ、構わんとも。座れるようなスペースを作らんといかんな」
さも。
小難しい話が有り得たから。
そのようなことを夫妻は口にしたが。
しかし鷹揚に頷きながら笑うワイリーには分かっていた。
怪しんでいたのだ、と。
百パーセントではない。
九十パーセント以上は、データを寄越したのがワイリーであるとは思っていたのだろう。
しかし、確証がなかった。
絶対ではなかった。
敵ではない。
その保証となる事実が見受けられなかったのだ。
だからこそ、後継者。
自身の子供までは今まで、居ることに言及しなかった。
万が一を考慮して。
最高のゲストと口にしていながらも。
真の意味では、警戒を捨て切っていなかったのだと。
「……ワシ等もそう遠くない内……と言っても一月は先になろうが、アメロッパに向かおうと思っている」
口にしながらワイリーは視線を、ゆりこへと向けた。
驚いたように。
だが、軽く微笑んで頷く。
その顔は気丈なものでなく、自然。
ワイリーとしては不安がないではない。
しかし、アメロッパ。
大陸に行くにはどうやっても海を渡る必要がある。
それも、ニホンとチョイナのような、数日と掛からず終わるような短いモノではなく。
もう一つの手として考えるのは飛行機であるが、これは元より考慮の外。
物を持ち込めないが故。
唐突に、そのようなことを口にしたのには理由があった。
クリームランドの王家が弱みを晒した。
だからこそ、ワイリーも手の内を晒した。
そう見えるようなモノを。
お互いに胸の内を明かしたように見えるように。
少なくとも周りには、お互いに何某かの繋がりが構築されたと感じられるように。
小さく、あるか無き程度にミヤビが頷いた。
それを確認するでもなく、ワイリーはコーヒーに口を付ける。
初日に注がれたモノ。
それと、そう変わらぬと感じられるモノを一口。
当初よりも何処か和らいでいる雰囲気の中で。
数分。
やがてその程度の時間が過ぎただろう。
扉がノックされ、開かれた。
視線が集まるその先から、一人。
少女が連れて来られていた。
波のようにウェーブの掛かった金髪。
空のように透き通った青い目をした、少女。
いや、
「………………その、な。ワシ等よりその子を優先した方が良かったと思うが?」
「これからは一緒にお食事の席に付かせて頂ければ」
「……まあ、良いんじゃないか?」
「………………子供については深く言うつもりはありません」
「かわい~」
「知ってたら配慮ぐらい」と口の中で言い訳のようにモゴつかせているワイリーを尻目に、呑気にゆりこは手を振っていた。
応えるように、手をバタバタさせている幼児。
お世話係だろう人物に抱き抱えられたまま、連れて来られていた。
子供用の椅子だとか。
様々なモノが次々と運び込まれてきている物へと視線を向けているミヤビを尻目に。
ふと、思い立ったように。
ワイリーが口を開く。
当然ながら多少なりクリームランドを調べる中、王族についても調べてはいた。
それほど興味はなかったので名前ぐらいで。
年齢までは調べていなかったが。
しかし、まだ直接聞いていない。
だから礼儀として、
「……それで? その子の名前は?」
そんな事柄、
「「プライド――――クリームランドのプリンセス、プライドです」」
満面の笑みを浮かべる二人から、その答えを受け取った。