ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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今話でこの章は終了となります。
来週からは予定通り、新章もとい過去のボンバーマン騒動の頃の話とさせて頂きます。
なお、来週の開始からその章の終わりまでは毎日投稿の予定です。

今話もお楽しみ頂ければ幸いです。





結成への備忘録

 

鼻歌を歌っている。

そんな大園ゆりこを。

緑色の片眼鏡を光らせながら、ワイリーは横目でその姿を見やった。

 

「……機嫌が良いな、ゆりこ」

「そりゃそうですよ!」

 

珍しく声を弾ませて。

見れば、少し顔も赤らんで見える。

 

「免許皆伝、貰っちゃったからね!」

 

そうして。

虚空に向けて拳を振るった。

空を切る。

その動作には奇妙なほどに音がない。

 

免許皆伝。

単純に。

ミヤビより、技術的には問題ないだろうとのお墨付きを頂いた。

それだけではある。

 

ミヤビからすれば当然のことであった。

数年間、付きっ切りだったのだ。

自身の技術を教え込むのにそれだけの時間を掛けた。

その上での試験。

むしろ認可出来なければ困るというもの。

 

「ただ」

 

見誤ったことがあるとすれば、

 

「最後に青タン、顔に作ってやれなかったのは残念だったけど」

 

普通に容赦ない。

その一点。

顔に青タン等と言っているのは随分と可愛らしい言い草だった。

通行人に浴びせれば軽く十回は死ぬような急所への攻撃も存分に織り交ぜての組手であったのだから。

 

一手。

見誤ればミヤビとて死んでいただろう。

ある種、卒業試験にも拘わらずソレをやって来たゆりこには流石のミヤビも感心したものだった。

 

そのような軽口のまま。

推定、虚空のミヤビの顔に向けてだろう。

熱心に貫手を放っているゆりこを笑って見、

 

「随分と慕われておるな」

「…………ワイリーさんの目は節穴だったのですね。知りませんでした」

 

そして後ろに付いてきているミヤビへと視線を送った。

憮然。

流石に此処までやって来る可能性を考慮していない訳ではなかった。

そんな言葉を顔に貼り付けたまま、着いて歩いて来ていた。

 

ドンブラー湖。

湖。

アメロッパの七不思議の一つ。

ワイリーの旅の次点にして終点。

 

始点こそ、島の方が位置付けられるだろう。

しかし次点。

次いだ切っ掛けと言える場所。

そこにいよいよ、ワイリーは戻ってきていた。

旅の終点として。

 

ペンションのような家。

やや埃の積もった室内。

先陣を切る形でゆりこが体を滑り込ませ、さっさと窓を開けに飛び込んでいく。

その後に鍵を開けたのに除けられたワイリーが続き。

幾らか段ボール等を運ばされているミヤビが後ろを歩く。

 

見えぬ場所。

至る所から響いてくる、窓を開ける音。

ホームレスが住み着いている可能性ぐらいは考慮していたワイリーだった、何部屋か覗いて、息を吐いた。

少なくともそちらの心配はなさそうである、と。

 

「…………さて、問題なさそうじゃな」

「では」

「うむ。地下の方に行こう」

 

言葉を交わし、頷いた。

そのままの足取りで部屋の一つ。

飾り気のない、倉庫だろうか。

そのような空間。

 

変哲のない壁をワイリーが数度叩くとあら不思議。

人より少し大きい程度。

壁が引っ込み、入れる隙間が出来ていた。

 

「へ~、面白ーい!」

 

何時の間にやら後ろに。

恐らく、一通りの窓を開け終えたのだろう。

ゆりこが顔を覗かせる。

チラと一瞥し、ワイリーは無言のままにただ頷いた。

同じように、ミヤビもゆりこも頷いた。

 

入り込んだ先は如何にもな地下階段。

無機質なコンクリート張りの其処を、おおよそ二階分程度だろうか。

降りて行った先には、エレベーターの中の空間のような小さな広間。

正面にただただ重厚な扉が待ち構えていた。

 

取っ手はない。

鍵穴も勿論。

あるのは、その扉の脇に何製かもよく分からない、A4サイズ程度の板がくっ付いているだけ。

 

「おうミヤビ、脇においてくれ」

「分かりました」

 

一声。

ワイリーがそう声を掛ければミヤビは言われた通り、広間の脇に段ボールを置いた。

元から閉じていなかったその中に無造作に探り。

 

プラスチックと思しきカード。

緑色のレンズをしたメガネ。

耳栓。

手榴弾らしきモノ。

メガネ以外をそれぞれ三つずつ。

取り出して二人へと配った。

 

受け取った二人は特に気にする様子もなく眼鏡と耳栓を付け。

板がくっ付いている方とは反対側。

扉近くの壁に体を張り付けるように、しかし自然体に構えた。

 

「さて」

 

と。

ワイリーがカードを板へと近付け。

同時にピンを抜いた。

 

扉が開いた。

瞬間。

青白い光が三人の脇を通り過ぎる。

ソレは即座。

衝突と共に歩いて来たコンクリートの階段を砕いた。

 

「ほぅ」

 

破片が飛び散る。

その有様には流石に驚いたような顔をしながらも。

しかし元々決めていたような具合に。

ワイリーは扉の中へと手持ちのブツを転がし込んだ。

 

そうして扉が閉まる。

刹那。

光と音が隙間から漏れ。

閉ざされた。

 

そして何事もなかったように。

いや、後ろを振り向き、破壊された階段を興味深げに眺めながら扉の前を横切り。

階段に目を剥いて固まっているミヤビに肩を竦め、仕方なさそうにゆりこにカードを手渡した。

 

同じように肩を竦めたゆりこが板の前に立ち。

一瞥。

ため息と共に、腕を振る。

瞬間ミヤビの頭がブレた。

 

ぎょろりと目を向けたのも数秒ほど。

ミヤビ自身も思う所があったのだろう。

僅かに気まずそうに表情を変え、先程まで頭のあった辺り、コンクリートの壁に半ばまで刺さったナイフを引き抜いた。

 

宙を銀の線が走る。

ゆりこの手の内に消えたソレは、そのまま袖の中へと放るように滑り込み。

二人は目を合わせた。

そして段ボールを漁っているワイリーを見、また見合わせ、首を横に振り、板にカードが当てられた。

 

光。

は、ない。

しかし気にするでもなく二人とも、ピンを抜いた手榴弾を放り込み。

再び扉が閉まる。

 

数えて十秒ほど。

アイコンタクトを交わし。

カードを掲げたゆりこが扉を再び開き。

 

瞬間。

地を這うように。

壁を走るように。

それぞれが部屋の中へと進攻する。

 

「おじさまー」

「居ったか」

「うん、居た居た」

 

十秒と掛からず。

ゆりこが扉を開き、段ボールを漁っていたワイリーへと声を掛けた。

それに顔を上げるでもなく。

閉まらないようにだろう、凭れ掛かっているゆりこを他所に。

やがて見付けたらしい、銃のようで、何処か玩具のように現実感のない物品を手に立ち上がった。

 

「…………それは?」

「ジャミング銃――まあ、玩具に近いが……見ておれ」

 

そのまま特に警戒するでもなく部屋の中へと入り込んだ。

研究室。

そう称するしかない部屋だろう。

所々に設置されたモニター他、電子機器が唸りを上げる中、ひんやりとした空気が空調から流し込まれている。

 

その中。

一角で何をするでもなくミヤビは床を見ながら佇んでいた。

そのようにしか見えないだろう。

普通の視界では。

 

しかし、ワイリー達の視界では違った。

電波を捉えられるように施された、電波ビジュアライザー。

特徴的な、緑色のレンズを介して世界を見れば。

あら不思議。

 

ミヤビの視線の先。

其処には蹲る、腰ほどはあろう紫髪褐色の女。

あるいは、現実に現れたネットナビのようにも見える姿が一つ。

そんな姿が、ないハズなのに、ある。

 

一回目の閃光手榴弾。

のみならず。

追加の二回分を含めた、計三回。

 

電波の体を持とうとも、根本的な構造は変わらない。

視覚で光を見て。

聴覚で音を聞く。

 

物理的な爆発であればすり抜けられようが、単なる光と音ではそうもいかない。

それだけなのであった。

そして、

 

「さて、実験じゃ」

 

感慨もなく。

ワイリー曰く玩具の引き金を引いた。

その銃先から放たれたのは、電波か。

照射され、蹲ったまましかし床を掻くように藻掻いたのは十数秒ほど。

やがて力尽きたようにその色が変わった。

 

腰ほどはあった紫の髪は消え失せ、肩ほどまでしかない金髪に。

褐色に見えた肌もまた、レイヤーを入れ替えたように白へと。

また、ネットナビのように角ばっていた体の節々のパーツが消え、一般的な服装を纏った女へと。

その姿を変じた。

様を見届けるよりも前にゆりこの足がその後頭部に叩き付けられ、一瞬跳ねた体は藻掻くことすらも辞めた

 

「…………電波変換、でしたか? 解けたようで」

「試作であったが、ジャミング銃はそういう代物じゃ。電波を掻き乱し……まあ要するに重度の車酔いに近しい症状を起こす。そう言う設計思想じゃったが、成功したな」

「ミヤビさーん? 手伝って貰えなーい?」

「すまん」

 

蹲る女の脇にナイフを置いて。

その両足のアキレス腱の止血を手早く進めながら文句を垂れているゆりこへと、ミヤビは肩を軽く竦めた。

手慣れた調子で部屋にあった背凭れ付きの椅子と、外から段ボールを持ってくると共に中の縄でその女を縛り合わせ、

 

「おい」

「はい?」

「裸の女とワシを話させるつもりか?」

「…………」

 

苦無で服を切りに掛かった所は流石のワイリーも止めた。

微かに顔を歪めたミヤビだが、引く気のない様子に軽く肩を竦め、視線をゆりこへと移した。

 

「ゆりこ」

「分かってるって」

 

半ば奪うようにワイリーの手からジャミング銃をもぎ取って。

銃口を腹にめり込ませるようにしながら身体調査へと移った。

その動きを見届けてから、ミヤビもまた動き始める。

 

部屋の外から段ボールを。

次いで、そのまま壊された階段を何でもないように跳び越え。

暫く、おおよそ数分で戻る。

キャンピングカーから荷物を持って。

ソレを数度も繰り返され、ゆりこも一通りの身体調査を終えた頃。

 

「――――、……」

 

小さな呻き。

ワイリーが女の正面側に椅子を動かすのを尻目に。

ゆりこは後ろに回って息を抑え。

ミヤビはワイリーの後ろに控える。

 

やがて。

閉じていた瞼が開き。

焦点の合わない瞳が虚空を見。

十数秒。

ワイリーの目と、合った。

 

「…………ワイリー」

「そうじゃ」

 

呟きに、何でもないように頷いて見せる。

徐々に意識が繋ぎ合っているのだろう。

困惑に満ちていたその表情が、節々を縛られている体、やがては動かないのだろう足先へと移り。

強く、下唇を噛んだ。

 

「…………損なった」

「そうじゃな」

「ワイリー様」

「なんじゃ?」

「聞き出しますか?」

「まずは普通に聞いてからにしよう」

 

テーブル。

揃えられた諸々。

万が一があっても、身元が抑えられないようにだろう。

財布の類は存在していなかったが。

 

市販の物だろう、包丁が二つ。

桐貫が一本。

手持ちサイズの拳銃が一丁。

そしてPETらしき物体。

それ等しかゆりこでも探し出せてはいなかった。

 

その中からPETらしき物体を無造作に取り、金属の箱へとミヤビは放り込み、閉じた。

瞬間、女の顔に微かな動揺が走った。

見る者が見れば分かることだが、電波の類一切を閉ざす箱である。

女にとって、唯一の逃亡手段が閉ざされたに等しかった。

 

見逃さず、しかし気付いてはいないかのように。

包丁を無造作に取って上げたミヤビを、ワイリーは「おい」と軽く嗜める。

一つ頷き、テーブルに戻してからまた戻った。

既に身体検査を終えている。

暗にソレを示したとも言えた。

 

一瞬顔を赤らめた女が、しかしすぐに青く。

一層、唇をキツく閉じた。

「まずは」なのだ。

普通に話をするのは。

 

「さて。目的を聞くべきなんじゃろうが……」

「………………」

「ムー文明。ソレに間違いはないな?」

「! ……話が早いわね」

「調べておったからな。だが、ソレの何を危険視したのかまでは分からぬ」

 

ギシリ、と。

あるいは歯が軋むほどに噛み締めながら吐き捨てる。

そのような女の姿に、ワイリーは内心で首を捻った。

顔には無論、出しはしない。

 

出すのは別。

嘲すような表情。

この手の。

自身を正義か、少なくとも善寄りと思っている存在であれば。

何よりも実力行使を辞さないような存在であれば。

 

「惚けたコトを……ッ!」

 

あっさりと感情を動かす。

 

「さて? 何のことやら」

「ナンスカに行ったコトは知っています!」

「だから何だ? ええ? ナンスカに行ったからと言って、何があると言うんじゃ? 分からんのぉ?」

「惚けないで! ラ・ムーを復活させる訳には行きません! あなたを殺してでも……ッ」

 

無言。

しかし。

ゆりこは手元のジャミング銃をその首後ろに突き刺すように捻じ込んだ。

 

そのまま頭を下げさせるように力を込めながら、女の脇に立った。

わざとらしく。

もう片方の手で苦無を弄びながら。

 

「――――どうします、おじさま?」

「別に。しかしそうか……ラ・ムー……電波の神……復活……アヤツめ……場所を知っておったか」

「何を今更っ」

「ちょっと黙ってて」

「やめい、ゆりこ」

 

縛り付けている縄が不吉な音を鳴らし始めて、痛々しく食い込み始める。

それでもなお力を込めることを辞めようとしない姿に、流石のワイリーも口を挟んだ。

一瞬の不満顔。

しかし言われてしまっては仕方ない。

そんな風に唇を尖らせ、一歩、後ろへと下がって行った。

 

合わせて銃口も離れる。

思わず、だろう。

女が後ろを振り向こうと顔を動かしたが、真後ろのゆりこを捉え切れないようだった。

 

忌々しそうに。

しかし、顔色の悪さは微塵も隠せないまま。

視線を戻した。

ナンスカへとその思考を移しているワイリーへと。

 

「地上絵……あと見せて貰った遺跡にもその類のものは見当たらなかった……見なかった部分にある可能性もないではないが……口伝。その辺りか」

「惚けないでと言ってます!」

「惚けとらんよ。電波の神…………滅んだ文明の神などと……ハッ!」

 

興味がない訳ではない。

滅んだ文明。

その神。

 

今なおも存在、あるいは生存と言うべきか。

しているらしいが、さて。

ワイリーとしては比較的どうでも良い事柄だった。

 

事柄でしかない。

神が実在している。

興味深い。

観察するに足るかも知れない。

研究するに足るかも知れない。

 

しかしそれは、すぐ目の前に居てこそだ。

それで。

どのような手法かまでは分からないが、古代のムー文明の人間が封じたらしいと言うことは、セキュリティが施されているような存在だ。

わざわざ手間を掛けてまで呼び出す価値はあるだろうか。

ない。

別に。

 

世界征服でもしたいのならば別だが。

その様な気、ワイリーには欠片どころか微塵もない。

ネットナビの何れかに強請られでもすれば、まあ一考ぐらいするかも知れないが。

面倒が勝る。

なぜ、わざわざ世界を制するような苦労をした上で他人なんぞを支配するという苦行まで背負わなければならないのか。

 

あるいは、自分の力を誇示したいとかか。

ならば本末転倒ではないか。

自分の力ではなく、神の力を頼る等と。

 

「はぁ~…………面倒臭」

 

心底から。

そう思っているようなため息と共に言葉を吐き。

ワイリーは機器の一つへと手を伸ばした。

画面が付き、ネットナビであるサーゲスの姿が映った。

 

「サーゲス」

『進めておる』

「そうか。で、女、名前は?」

「……レイヤー」

「嘘つくんじゃない、全く……」

 

そのままの調子で椅子を滑らせ、別の機器。

点灯した画面を覗きながら、少しホコリの被ったキーボードに息を吹き掛けてから、叩き始める。

レイヤーと名乗った女を無視して。

 

数回程。

ワイリーと女とで視線を左右させたミヤビもミヤビで、少し長めに目を閉じて、やがてテーブルに並べていた凶器の片付けを始めた。

もうそういう空気では、と言うよりもそういうことを進める気がワイリーにはない。

そう察して。

 

そして、ゆりこもそこからわざわざ声を上げる気はない。

内心はどうあれ。

少なくとも表向き。

女の後ろで、弄んでいた苦無は袖口の中に落とした。

銃口は、ブラすことは決してなく。

 

『キョキョキョ ! ワイリー様!』

『プラネットマン』

「落ち着け。見付けたか?」

『エエ! 仰ッテイタ通リ! ヘブンズシティ 先住民族ノ一人デス!』

「っ!」

『名前ハ…………Alia……アリア? エイリア? 読ミガ 分カリマセンネエ! ドチラデショウカ? 是非トモ 教エテハ貰エマセンカ? キョキョキョ !』

 

「キョキョキョ」と。

何処か勝ち誇ったような声を上げる、巨大なネットナビ。

その姿に、アリアかエイリアか。

どちらか分からぬが、その名を呼ばれ、顔を大いに強張らせた。

 

「仰っていた通り」と。

その言葉を聞き逃す程、迂闊ではなかった。

つまり、知られていた。

少なくとも、ワイリー達がヘブンズシティの居た頃か、居た後か。

どちらかまでは分からないにしても。

 

「何時から……っ」

 

理解してしまった。

少なくとも、確実に。

避けられたことも。

閃光手榴弾を放り込まれたことも。

 

何もかも、偶然では決してない。

襲撃する事自体も、何処で襲撃されるかも含めて。

確定したモノとして、予想されていたのだと。

 

「そうじゃな、アリア……としておくが………………自分が誰にも見えていない。そう思って動き回っているお前の姿は、探すまでもなくよく見えておったよ」

 

そして、ソレが答え。

探すまでもなく、動きがよく見えていた。

大した感情も籠っていない。

ただ、事実だからそう述べたよう言葉はむしろ、アリアと呼ばれた女の心を大いに抉った。

 

目を見開き。

呻きと共に力なく、その体から力が抜けていく。

椅子に縛り付けられていなければ。

そのまま床に倒れ込んでもおかしくはなかっただろう。

 

しかし無情にも。

吊るされるように縛り付けられた体は、倒れることすら許されない。

ただキーボードの叩かれる音が響き。

そして同時に、暴かれて行く。

 

アリア。

否。

エイリア、か。

そのプロフィール。

 

個人情報。

家族構成。

民族としての来歴すらも。

あっさりと。

 

その様な有様を、浅くも激しい呼吸と共に。

ただ、見上げるしかない。

電波変換をしたならば、何かしらすることが出来るかも知れない。

しかしそのような思考すらも、暴かれて行く全てを前にして。

ただ震えて見詰めている事しか出来ない。

出来なかった。

 

「――エイリアよ」

「! ……なに、かしら」

 

そして浮かび上がった一通りの情報。

ソレを前に腕を組んでいたワイリーが徐に。

その口を開いた。

 

「帰れ。邪魔じゃ」

 

エンター。

クリック。

それだけで画面一杯に浮かんでいた情報は消え去った。

 

次いで浮上するのは、様々な情報。

遺物解析データ。

様々な構築構造。

無線通信の根幹。

遥かに発展していた、ムーの文明。

其処より抽出した、ワイリーにとって面白そうな情報。

 

それ等をモニターいっぱい。

複数の画面に写しながら、腕を組みながら微かに笑う。

さて。

最終目的地は別としても、どれについて詳しく調べてみようか、と。

 

未知を調べる。

未知を深堀する。

ソレを前にしてみれば。

アリアの存在等、ただの邪魔でしかなかった。

もっともソレは、

 

「――――ウソよ!」

 

ワイリーの視点でのみ。

 

「私達を実験動物にでもするつもりなんでしょう!?」

「ああ……?」

 

ワイリーからすれば全く唐突に。

急に八つ当たりのように叫び込まれた言葉。

胡乱。

何言ってるんだと言う気持ちを素で浮かべながら、その顔をアリアへと向けた。

 

そして眉を釣った。

少なくとも。

アリアは本気で自身が解剖される。

実験動物にされる。

そう信じている。

そのような表情を見て。

 

「……何言っとるんじゃお前」

「知らないとでも?! ワイリー! 貴方が軍でどんな研究をしていたか、私達が!」

「……………………あぁ」

 

隠し切れぬ怯え。

威嚇するように叫んでいる姿。

ソレを見、聞き、ワイリーは理解した。

 

ムーの神。

電波の神。

その復活。

 

ソレを恐れているかも知れない。

実際、恐れても居るのだろう。

だが本質は、其処ではない。

 

実験動物。

研究者。

アメロッパ軍。

その三つが揃えば、嫌でも分かる。

 

ワイリーは、科学者である。

研究者である。

機械工学。

電子工学。

そして心、人間心理学に脳科学も嗜んでいる。

 

何よりも、だ。

ロボット工学。

人型ロボットともなれば。

 

人間工学。

生体力学。

人体解剖学。

 

その手の事柄に対しても、モチロン詳しい。

下手をすれば、治せないだけで下手な医者よりも人体構造に対しては理解しているかも知れない。

そのような領域にある科学者なのだ。

 

「なるほど」

 

ワイリーが製造に関わった、有名所で言えば、ニホンの無人戦車。

そしてアメロッパ軍での業務。

放浪の中で連れ歩いている、大園ゆりこの存在。

人間工学や解剖学等の知識。

 

「……ゆりこが改造人間とでも?」

「そうじゃなきゃ普通の子供は大人に勝てる訳ないわ!」

 

ワイリーの予想。

それに、吠えるように叫んだエイリア。

思わず勢いよく振り返ったゆりこ。

その姿を横目に、ワイリーは口を結んだ。

 

困ったことに。

外から見れば、そう見える事柄は確かに積み重なっている。

そう、思ってしまったが故に。

 

改造人間。

まあ、確かに。

ハチャメチャに鍛え抜かれた肉体と、割と緩い肉体のリミッター。

それらを以って、大の大人を一方的に組み伏せられるだけのモノにはなっている。

 

傍から見れば。

確かに、女子供の領域ではない。

ワイリーに付き従っている様からも、成程、改造人間。

ユーモラスではあるが否定し難い事柄ではある。

あるが、

 

「エイリア」

「っ!」

「ゆりこの体はゆりこの積んだ鍛錬の成果じゃ。ワシの改造、等という言葉で片付けるな」

「……どうみても普通じゃない」

「貴様がどう思おうがどうでも良いわ。だが、言葉は慎め」

 

軽く鼻を鳴らし。

無言で睨んで来るアリアを一瞥し、視線を逸らした。

モニターへと。

笑みは既にない。

ただ、不機嫌そうな面で見詰めているのみ。

 

これ以上、話すことはない。

暗にそう示しているような態度であった。

しかし、エイリアはそれに納得出来るハズもなかった。

 

「……………………信用できない」

「貴様からの信用も、信頼も、毛ほどの価値もない」

「ムーの調査結果をどうするつもり?!」

「言う必要があるのか?」

「ある! ムーはかつて、私達のモノだった!」

 

ぎょろりと。

その言葉にワイリーの目が向けられた。

無機質な。

無味乾燥した、色のない瞳が。

 

「数千年と放っておいたモノの権利を今更主張するか?」

 

冷たく射抜き。

冷めた言葉を告げる。

半歩。

椅子から立てぬまま、それでも思わずというように下がった足を無理矢理前に出し。

強引に、傍らのテーブルを支えに無理矢理立ち上がった。

 

「――――ええ! ムーの遺産は残された私達で管理すべきなのよ!」

「管理できておらん」

 

鬼気迫る。

あるいは、危機迫る。

使命感を宿した言葉を至極あっさりと斬り捨て、ワイリーはキーボードを撫ぜる。

 

そのような仕草だけで、その目の前のモニターは変わる。

様々な、事柄。

あえて言うならば、事件だろう。

 

ドンブラー湖で発生した津波災害。

ヒマナラ山脈で雪崩を起こす雪男。

斬り殺そうと迷宮を追い回す人形。

砂漠地帯で人を浚うという大怪鳥。

キングランド地下に誘拐する怪人。

 

それ以外にも様々な伝承。

否。

実際に起きていた事件。

 

「ご高説を垂れるのは結構じゃが、それで? 貴様……いや、貴様等が管理すべきと言うならば当然、責任を負うべきと思うのだが如何なものかな?」

 

手を組み。

椅子を回し。

ゆっくりとその顔を、ワイリーはエイリアへと向けた。

 

どうするのか。

ただ、そう問い掛ける。

それ以上でも以下でもない。

そのような、平坦な目で。

 

「……………………少なくとも…………貴方に任せる訳にはいかない」

 

答えは、何でもない。

解決策でもなければ。

言い訳ですらない。

ただの言葉。

 

元より予想していたワイリーは溜め息すら吐かずモニターへと向き直った。

ただ。

ミヤビが溜め息を吐き、片付けていたテーブルの包丁を取った。

 

「ミヤビ」

「もういいでしょう、ワイリーさん。押し問答を繰り返すより、始末を付けた方が早い――――正直、その方がこの娘のためにもなる」

 

腕の力で何とか立っている。

そのような有様のエイリアを見やりながら、ミヤビは言う。

 

「ムーの遺産を貴方に渡したくないという決意だけはあるようですが、何もかもが不足している。仮に貴方が殺されれば、ネットナビ達がこの娘の一族郎党に容赦しないでしょう……それこそ、アメロッパ軍に電波変換とやらの情報を渡すぐらいはする。そうなれば本当に実験動物だ」

「……一応、アメロッパは人権に配慮しておる」

「さて。十数年前まで先住民族を利用して人体実験を行っていた国の言葉に真実味はどれほどありましょうか――この小娘が直接的な手を打って来たのも、その辺りが理由とお察ししているのでは?」

「ミヤビ」

「詰んでいるのですよ、少なくともこの小娘は」

 

腕で支えきれなくなったのだろう。

しゃがみ込んでいる姿へと包丁の切っ先を向けながら。

ミヤビは平坦な声で呟いた。

 

詰んでいる。

ワイリーにムーの遺産を幾つも保有している。

ムーの遺産を管理し切れるだけの能力は一族にない。

無理矢理にでもワイリーを始末すれば一族が滅びる。

 

やりたいこと。

やるべきこと。

やれること。

全てが既に、出来る状況にない。

 

「憐れでしょう。死なせてやるのがせめてもの情け――そう存じます」

「まあ待て」

「ワイリーさん……」

「えぇ? エイリア、貴様はなぜ、ムーの遺産をワシに渡したくない?」

 

僅かばかり眉間に皺を寄せるミヤビを無視する形で。

ワイリーは俯いているアリアへと声を掛けた。

答えが返ってくるまでは、少しばかりを要した。

 

「………………ムーの力は悲劇を生むわ……誰の目にも留まるべきじゃない……なかった……」

「力か」

「ムーの力の欠片、電波変換……それだけでも、私達の一族がなんて呼ばれているかご存知?」

「……魔法使いの一族だったか?」

「あはは……本当、よくご存知ですね? そして魔法使いが大体どんな目に遭うかもご存知です?」

「………………」

「だから管理されるべき……そうでなくとも、人の目になんて触れるべきじゃなかったのよ…………」

「なるほど」

 

頷き、

 

「ならば協力できよう」

 

何でもないように言った。

 

「…………ええ?」

「ワシがムーを含めた古代の遺物を調べておったのは、その危険性からじゃ。収集していたのも、野放しにしておくべきではないと判断してのこと」

「……ちょっと、待って貰えます?」

「まあ聞け。ワシは別段、アメロッパに肩入れする理由はない――したくもない。しかし、世界が何かの拍子に壊れることを望んでも居らん……少なくとも、今の所はな」

「…………アメロッパに肩入れする理由がない、というのは?」

「分かり易く言えば敵対していた。殺される可能性すらもあった――まだあるのかな? まあ、よりを戻す気はない」

 

「その上で」と。

 

「ワシが現状、最も厄介と判断しているのはムーの遺物じゃ。その所在が知れる――あるいは管理の方法だけでも知れるだけ有難い」

「…………なぜ、厄介と?」

 

無言のまま。

ワイリーは立ち上がった。

そのまま片隅。

ミヤビの手によって運び込まれた荷物。

一角の中から、一つの箱を取った。

 

『孤高の証』。

ニホンの言葉でそう記された代物。

その箱をテーブルへと置き、

 

「っ!」

 

開いた。

それだけで。

肌に触る。

得も言われぬ気味の悪さ。

 

そして閉められた。

そうであったが、しかし、十分であっただろう。

一瞬でソレをその場にいる誰もが共有するには。

 

「…………古代文明が残した遺物は幾つも見て来た。しかし、ワシが警戒しているのはこの、ムーの遺物――否、兵器と言うべきか」

「兵器? ソレが……ムーの?」

 

あるいはアリアすらも知らないことなのだろう。

見せられた、ソレ。

箱にあった『孤高の証』を透かして見るように目を細めながら、小さく呟いた。

 

「幾つか見た、系列の似た遺物はその悉くが……言うなれば集合意識とでも称すべきか。少なくとも、人間性とでも言うべきモノを有していた」

「人間性……」

「しかし『孤高の証』は違う。ムーの紋章が刻まれておる点からして異質じゃ」

 

異質。

その言葉に、エイリアは唾を飲んだ。

 

「異質? …………それは……何故?」

「他の代物にはな、何処の何某と判別出来る要素は外観に存在していないかった。だが『孤高の証』にだけは、紋章が確りと存在している。まるでムーが造り出したモノと証明するようにな」

「…………確かに、見えました」

「その上で、人間の忌避感とでも言うべきか、負の感情を刺激する。だけでなくコレそのものが電波を遮断する性質を有している……ムーが電波を基本とした文明であるにも関わらず」

 

沈黙。

言葉に耳を傾かせている様子を見ながら、ワイリーは更に言葉を続ける。

 

「――――ムー文明はかつて、内紛によって滅びた。もっと言えば、『孤高の証』は今見せたものだけでなく、世界各地に点在する遺跡だとかに散り散りに、複数発見しておる。コレは果たして偶然と思うか?」

 

問い。

その言葉に。

視線を軽く動かし、やがて唇を湿らせながらも慎重に。

自分の思考を確かめるように口を動かす。

 

「………………私達もムーの滅びについて詳しい訳ではありません。ですが……電波の繋がりを断つというソレが複数あるなら…………」

「詳しく理由を語るならばもっとあるが、大筋はそんな所じゃ。電波兵器とでも言うべき代物がその辺に転がっておると思っては、ゆっくり世の中、眺めることも出来ん。だからワシが管理する――お前はソレを手伝え」

「て、手伝えって言われても……」

 

予想に反している。

少なくとも、アリアがしていた予測。

ワイリーによって、ムーの遺産がアメロッパによって軍事利用される。

そのような未来を予想していたからこそ、半ば命を賭して、無理矢理の排除を行おうとしていたのに。

予想に反している。

 

混乱しているのだろう。

目をウロウロと惑わせている姿を見、溜め息を吐き、ワイリーは視線をミヤビへと送った。

変わらずの顰めっ面。

しかし何処か気まずそうに、手に持っていた包丁をテーブルへと戻し、元の壁へと下がって行った。

 

ゆりこもゆりこで。

自身を改造人間扱いされたことに思う所はあれど。

しかし、ワイリーの探し回っていた代物についての理解はあった。

どの程度、普通の領域から外れた代物であるかぐらいには。

故にこそ危機感を理解出来るだけ、何とも言えない表情のまま、しかしアリアの動きには注視していた。

 

やがて。

一先ずは。

頭を落ち着かせたのだろう。

軽く息を吐き、アリアはワイリーを見やった。

 

「あの……管理を手伝えって言うのは?」

「ワシの秘書でもやっておけばよかろう。使えなければ放り出すが……使える限りは見張らせてやる」

「ひ、秘書……? あの、私、秘書なんてやったことなくて……」

「お?」

「あ、あの……その……ちょ、ちょっとパパとママに相談させて貰えると……電話貸して貰っても……?」

「好きにせい。あの電話は外に繋がっておる」

「ありがとうございます……」

 

思ったように動かせない足のため、地面を半ば四つん這いの膝歩きで進んでいくアリアを尻目に。

ワイリーは箱を元の場所へと戻した。

幾つか。

同じように、『孤高の証』と銘の記された他の幾箱と同じ場所に。

 

「で、おじさま」

「あ?」

「組織を作るなんて初めて聞いたんだけど」

 

そのまま椅子に戻ろうとしている所を。

ゆりこが口を挟んだ。

揶揄するような声に、思い出したように口を開いた。

 

「ああ……元から考えてはおったが、まあ今回の件もあって確定させただけじゃ。腰を据えて研究自体、するつもりは前々からあったからな」

「……そう。考えてはいたのね? アレの所為じゃなく」

「ミヤビもいい加減帰ることになってるじゃろ。そうなれば流石のワシも、何時までもふら付く気はない」

「ふぅん……」

 

何処か怪しむような視線。

不愉快そうに眉を顰め、問うた。

 

「ワシが誰かのため動くタマに見えるか?」

「見えるけど」

「んな訳あるかァ」

 

呆れ返ったような声音と表情で、ゆりこを見詰めるワイリーに。

向けられたゆりこはそれ以上の言葉を重ねず。

ただ溜め息を吐いて見せた。

 

ともあれ、と。

でも言うようにゆりこの視線がワイリーに向けたまま。

先を促すようにその目が窺い見る。

 

「別に人数を揃えるつもりはないが……まあワシのための組織じゃ。表向きには別の名前を出すつもりじゃが、目的も踏まえて名はこう付けようと思うておる」

 

ワイリーによる世界監視。

Wily’s World Watching

即ち、

 

「WWW――ワールドスリーとな」

 







「あの、ところでなんですけど」
「あ?」
「ウッ……! あ、足のケガはどうすれば……」
「…………電脳世界に潜ってリカバリーでも使ってみればいいんじゃないか?」
「えぇ…………」



「治りました! 治るんですね! 知らなかった、こんなこと! 凄い発見ですね!」
「えぇ……」
「……は?」
「噓でしょ」
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