『さあ――我が元に来い、孫娘よ!』
そう。
青白い顔の老人は。
嗤いながら言った。
激戦が繰り広げられた。
仮称ボンバーマンシリーズ。
何者かに作り出された、八種のボンバーマン達。
当然、バックアップデータがあったのだろう。
進む一同の前に、ソレ等は現れていた。
しかし、状況が違った。
最初とは。
マグネット。
追尾するボムを使うナビ。
瞬く間に剣撃に曝されて消えた。
ゴーレム。
超重量のボムを使うナビ。
狙撃の的となって撃ち抜かれた。
セクシー。
迷走するボムを使うナビ。
中空からの爆撃に襲われ消えた。
ブレイン。
起爆できるボムを使うナビ。
気にせず十字架に叩き潰された。
プラズマ。
電撃混じりのボムを使うナビ。
飛ぶ斬撃に斬り刻まれて消えた。
アイディール。
堂々と現れた原型に近いナビ。
瞬きの間にレーザーに呑まれた。
ゴールド。
燦然と輝きながら現れたナビ。
爆弾付きの杖の乱打で嬲られた。
ディアボロ。
双角とマントを靡かせたナビ。
携えた槍諸共に斬り伏せられた。
「ボスラッシュも呆気なかったにゃ~」
とはパインの言だ。
実際に呆気なかった。
故、カーネルは口を噤んだが。
試運転。
ソレを兼ねた、いや恐らく足手纏いにならないと見せるためだろう、送り出された四体のナビ。
如何なく実力を発揮して見せた姿に、アメロッパの威信を示すためにも最後、カーネルも出た形だったようだが。
不審。
そのようなモノが、誰もの内にあった。
パインは笑っている。
しかし、声だけだった。
光祐一朗やエックスはモチロン、この場に居る全てが察していることだ。
戦力の逐次投入。
その愚を。
にも拘わらず、相手がソレをしてきた。
その意図は、何か。
口に出さずとも、大凡は察していた。
時間稼ぎ。
であろうことは。
最早この状況下。
五種のボンバーマンを送り込んだ所で勝てない。
そう、判断を下したのだろうと。
であれば、
「………………」
『………………』
エックスと祐一朗。
その視線は、密やかにパインへと向いていた。
何かある。
ソレは、パインに関することなのではないか。
密書が送られ、誘い込まれている形なのだ。
疑心。
パイン自体を疑う要素は、祐一朗とエックスには大いにあった。
同行を拒否しなかったのは、その戦力。
海を挟んだ向こう側でありながらも聞き及べた特異性。
そして、最初の協力者であるサムとシグマの両名が、パインを信用している様子だったからだ。
ニホン側として、信じられる要素は殆んどなかった。
それでも、信じることにはしていた。
だがそれでも、あるのだ。
少なくとも、一つ。
疑う要素に出来る事柄が。
一つ、あった。
「――――おやおや此処は……」
やがて。
スティールとセピア。
その後に続いて、おおよそ二番手とでもいう立ち位置のパインが小さく言葉を溢した。
エリアを抜けた先。
ウラインターネット特有の、ノイズ交じりとでも言うべき重苦しい空気が消えた。
清潔感。
一種の神経質さすらも肌で感じ取れるような。
それこそ人間であれば、病院のような空気感を感じ取っただろう。
警戒を浮かべている面々。
それを他所に、パインは顔だけを振り返らせ、エックスの更に後ろである、最後尾を見た。
カーネルとシグマ。
その二体が互いに視線を絡ませ、やがてカーネルが頷きながら一歩下がった。
周囲を見やりながら、観察するようにシグマが前へと出る。
エックスを含めた、居並ぶ面々の横を抜けながら。
興味深そうに、顎を軽く擦りながら。
「――何か知っているのか、パイン?」
「まさか。ただ、空気が変わった感じがしたのでにゃ~……如何にも、って感じに場所も広いですし」
飄々としながらも、パインの視線は鋭い。
広さ。
ソレは今まで通り抜けて来た場所よりも群と広い。
この場に揃っている全員が暴れたとしても、大きな問題は早々起こり得ない。
そのような場所、空間。
如何にも。
ソレは、何か。
エックスは己が腕をバスターへと変形させる。
殆んど同時に、無言でソードを展開するシグマ。
遺った面々もまた、戦闘態勢を整える。
そんな中であった。
その上空。
斜め上を仰ぐような場所に、巨大な映像が表示されたのは。
『――――よくぞ此処まで来たものよ……』
「おやぁ? ……どうも、こんにちは……で良かったかにゃ?」
『プロフェッサー・ダムーシュニク――やはりかの国か』
『ハハハ! 生憎、今はあのような国、抜けているがなぁ!』
白眉白髭で、片眼鏡を付けた老人。
酷く調子は悪そうな顔色。
それでも、大笑している。
その様な姿が現れたのは。
しかし、誰であろうか。
最前に出ていたシグマ。
その更に前に、モニターで顔を表したサムの苦々しい言葉。
ソレにナビ達の視線が集まった。
応えるために、僅かに唇を湿らせ、口を開いた。
『プロフェッサー・ダムーシュニク。我が国とは冷戦状態にある、かの――いや、抜けたと言うのなら此処での明言は辞めておこうか――ある国にその人ありと謳われた科学者』
『そう! だが、忘れておるぞ! 天才だ! 天才科学者であるとなぁ!』
「元、でしょ?」
呵々と笑う。
ソレを軽く流す形で、パインが口を挟んだ。
何処か、嗜虐に満ちた声と共に。
「機械工学に精通していた、ドクター・ワイリーより一昔前の天才科学者! 其処におわすヒカリ博士達が築き上げているネットワーク文明を考慮すればぁ、二世代は過去になるのかにゃぁ?」
煽るようなその言葉。
ダムーシュニク。
そう呼ばれた老人もまた、笑うのを辞め、額に一筋の線を浮かべるのみ。
その反応こそが、事実であることを示していた。
『――――貴様』
「間違ったことを言っているようでしたら、伏して謝らせて頂きますにゃ~?」
唯一、前に立つシグマが振り返った。
攻撃的な言葉に何か思う所でもあったのだろう。
困惑とも迷惑とも取れる表情で。
しかし、言葉はなかった。
エックス達には見えないパインの顔を見た瞬間、気圧されたかのようにシグマが一歩ズレた。
その空いた空間を悠々と。
最初からそうするために出来ていたかのように歩き、再び最前へと出ていった。
「――――で、ワタシに招待状を送った理由をお聞かせ願いたいにゃあ、おじいちゃん?」
『……そう、まさしくソレよ』
「…………?」
困惑。
誰にも、それこそダムーシュニクにしかその表情が見えない場であっても。
浮かべているだろう困惑はこの場の誰しもが分かった。
しかしまるで気にも留めず、その口を開く。
『まだ一年程度しか経っていないが、ある時にワシはデータの解読を依頼された――曰く、ある科学者の創り出した傑作を納めたデータであると』
『暗号化は見事であった――白状しよう。このワシであっても、途中で失敗をするほどに困難なことであったとな……』
『しかし、成功した。一部ではあったが成功し……ソレ等は更なる研究へと使われることとなった。当然、ワシもその一部を手に入れることが叶った』
『ある時じゃ。是非ともソレ等のデータを欲しいと口にした輩が居った……国の役に立つナビの製造をすると口にし、失敗してもというので渡してやったが、まあ予想通り失敗に終わった愚物だがな――いや、失敗に終わったと思っていた、と言うべきか?』
『此処まで言えば分かるじゃろう――パイン』
「…………………………分かり兼ねますにゃあ」
『強情な奴め……では、こう言ってやろう。我こそは貴様の創造主だった男の上! 本来の貴様の持ち主であった男の更にその前! アメロッパなんぞではない! ワシこそが、貴様の真なる持ち主であるとなぁ!』
高らかに。
そう、宣言するダムーシュニク。
自身の口にした言葉に高揚しているのだろう。
死の色が濃く見えていたにも拘らず、今は赤みがかった生気が覗かせながら、
『さあ――我が元に来い、孫娘よ!』
高らかに謳われたソレは、
「いやぁー、キツイでしょ」
無常に斬り捨てられた。
『………………』
「要するに、ワイリーさんのデータを奪ったから自分が祖父って……脳ミソ疑う話にゃ。その理論でしたら、ワイリーさんこそワタシのおじいちゃんになるだけで……貴方なんて、見ず知らずの他人では? 強いて言っても、産婦人科の先生とかその程度じゃにゃいです? 関わりのレベルが」
『……!』
「それにそもそも出会った初対面の子を相手にいきなり孫娘扱い? それだけならまだしも真なる持ち主? 歳を取り過ぎて痴呆にでもなったのかにゃ? いきなり親族面して擦り寄って来るとか……現実世界の噂に聞いた話ですと、宝くじに当たったら急に現れた自称親戚か何かが一番近いですかにゃ? 純粋に気味が悪い、っていうヤツかにゃあ」
『……か……』
「総じて纏めますと、ノーセンキュー、って感じにゃ。とりあえずとっとと現実に戻って頂いて、どうぞ」
両掌を前に押し出して。
完全にお断りの態勢。
怒涛の勢いで垂れ流された言葉と相まって、ダムーシュニクを完全な沈黙へと追いやった。
あんまりと言えばあんまりな言い草。
エックスも気まずさから祐一朗に助けを求めるように視線を向けたが、無言のまま。
険しい表情。
あとは僅かばかりの嫌悪と同情だろうか、を浮かべた表情で目を細めるばかり。
視線を他に動かしても、エックスの求めるものはなかった。
素知らぬ様子のモノから気の毒そうな視線を向けるモノまで様々。
しかし、誰も助け船を出すモノは居ない。
そもそもが敵対である。
それを差し引いても、おおよそパインの言分はともかく、内容に大きな非はない。
残酷ながら。
現実がその通りであろうと頷ける範囲のことであった。
初対面で真なる持ち主を自称。
しかも互いに。
見ず知らずの相手を。
残念ながら当然。
痛い程の沈黙が暫く過ぎ去っていった中。
真顔で居たその額に、更なる青筋が浮かんだ。
限界を迎えた土壁のように。
次々と伝播し、亀裂のように数と広さを増していくその様を無言で見詰める面々を置いて、
『――――――コード認証』
「ッ」
『「偉大なる髭の我が元にて従え」』
「しま、パインッ!」
『最優先指令、貴様以外の全てのナビをデリートせよ!!! ワハハハハハハハハハ!!!』
虚を突かれた。
まさしく。
近寄ろうとしたシグマは既に言が終わったことを察して跳び下がり、構える。
パイン旗下の四体以外。
否。
シグマと続いてエックスもまた態勢を整え、見据える。
ゆっくりと。
己等へと振り返り来る、パインを。
虚無のような無表情で。
ゆっくりと振り返り。
そして、
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
そのまま通り過ぎ。
一回転。
背後からでも分かるほどにハッキリと、
「――お断りしまぁ~す、にゃん」
顔の横。
片手を腰に、もう片手で目元にピースを決め。
高らかに言った。
『ハハハハハハは、は…………ハ?』
哄笑が止まる。
得体の知れぬモノを知るかのように。
驚愕と、僅かばかりの恐怖を交えた瞳が、ソレを見下ろす。
最前に立ち。
表情が分からない。
ソレを。
『ハ…………有り得ぬ! 管理者コードだぞ! っ予め! 渡す前から貴様等に仕込んでいた最優先指示だ! 何故――何故通らん!!!』
「んー……例えばの話にゃんですけど」
震える声。
それにただ、何でもないように、
「自分の頭の中に異物があったら普通、取りません?」
パインは己が側頭を人差し指でグリグリとしながら問うた。
それだけ。
反応は劇的だった。
瞳は震え、視線が揺れ動き。
戦慄く体を遠ざけようとしたか、姿が小さくなる。
既に、当初の大物然とした姿はない。
恐怖。
恐慌。
得体の知れぬモノを見詰める老人の姿しかそこにはなかった。
『己が脳髄を……ッ! なんだ! なんなのだ貴様は!?! なぜこうも! こうまでも……! 何故違う?! 何故だ! 貴様とワシの造ったナビとでも! 差が生じる!? 何が原因でッ……!』
吠えるような叫び。
ソレにただ。
パインは腰に片手を当て、もう片手の人差し指で天を示す。
「――――パイン達こそ、見えぬ先を見、見果てぬ果てに手を伸ばし続け、彼方に到るためにこそ……自己研鑽と自己改造を繰り返す」
するりと。
一回転。
最中、一瞬だけ意味深にカーネルを見詰め。
しかしすぐに前へと向き直り、
「超々々天才的ネットナビにして見上げられるべくして見上げられる――」
片足を跳ね上げるように曲げ。
目元に両手でピースサイン。
「――アイドル! パイにゃんなのです! 体も鍛えず武器だけ凄くしても無駄無駄ァ! レベル10もない勇者が伝説の剣を持とうとレベル30の魔物に勝てると思いますか? ハイハイ程度の赤ちゃんがナイフを持った所で職業軍人に勝てると思いますか? ダンスの練習もしてないぺーぺーがステージ上で踊りながら曲を歌い切れると思いますか?」
『――!』
「貴方は間違えていた。貴方の技術は確かに高い方ですよ? ですが先へと歩みを進めずに強そうな武器を用意する方向にだけ手を伸ばした時点からずっと、目的を持って進み続ける側と基礎スペックに差が生じ続ける。当然の結果ではにゃいですか?」
問いに。
一瞬だけ老人は黙った。
『………………最早』
理解出来ぬモノへの怯え。
ソレを、隠せぬままに。
『最早話にならん! ネノルマールヌィ! ネスタンダールトゥヌィ! ネプラーヴィリヌィ! 消えろ! 消え去れ! 消えてくれ! 我が電脳獣の力で!!!』
怒声とも悲鳴とも付かぬ叫びと共に。
あっさりと消えた。
小首を傾げるパインだったが、やがて振り返った。
今度こそ、ちゃんと。
「カーネルさん。適当に話し合わせて良い感じに時間を稼げたと思いますけど、ハッキングは終わったかにゃ?」
「……既に現実世界での場所は伝え終えている。時期に派遣されるだろう。が……奴め、聞き捨てならぬことを言ったな」
「! そうだ、電脳獣……! 博士!」
『電脳獣……! まさかそのデータまで……?!』
「直接拝見した機会はないが、二ホンのネットワークを蹂躙した化物と聞いているが……」
『博士は……ニホンを離れておられたのでしたな。であれば……』
「……残念ながら私も直接見てはいない。生まれは後なのでな――それよりも」
素知らぬ顔で、レーザーマンが先を見据える。
姿は見えぬ。
しかし、この場の誰もが感じ取れた。
近付いて来ている。
何かが。
「フン……中々歯応えがありそうだ」
「歯応え、で済むかどうか……」
「うむ。キサマ達も警戒レベルを上げるべきだろう」
「いえ! 私達の愛があれば……!」
対し、呑気な会話を交わしている面々を半ば無視して。
否。
一歩。
来たる何かへの最前列に、姿を見せ付けるようにシグマが進み出た。
「セピアの言うことも最もだ。それに」
「それに?」
「博士の居られる科学省に投入されなかった程度の戦力。我々が負ける道理はない――違いますか、ドクター・ヒカリ?」
『…………エックス。君の力を見せてやれ』
「! ――はい!」
鼓舞するように。
ではなく。
ただ、事実をありのまま伝えるように。
淡々とした調子で口にする姿に、些かの緊張がなかったとは言えない一部からソレも抜けた。
無言。
そのままに。
シグマに並ぶように各々が武器を構える。
ソードを。
十字架を。
指一本を。
腕の先を。
各々が続々と己が武器を構える中。
やがて。
最奥より。
迫るように来たる。
双角を携え。
目がある筈の空洞に爛々とした灯を燈した、牛骨に似た頭蓋。
戦車染みた青い鋼鉄。
その無機質ながらも相反した巨体を揺らして。
人間の手骨にも似た、金属質の爪で床を抉り裂き。
足搔くように。
嘆くように。
全てのモノを滅ぼさんと言わんばかりに、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
電脳世界を揺らす。
雄叫びを上げた。
「――いくぞお前達! 《シグマブレイド》!」
「召されなさい! 《クロススラッシュ》!」
「……《フミコミザン》」
「《ブラックフォールボム》、ボンバーシュート!」
「天才的ィ、《ゴクモリウォールパイン》にゃー!」
「目障りだ――《ブレイクレーザー》」
「出力最大――《オメガデストロイ》」
「早々に終わらせよう――《クロスディバイド》!」
「《アルティメットバスター》ァァアアア!!!!!」
ミ゜ッ