電脳獣。
ダムーシュニクがそう称した存在。
それを撃破し、やって来た先。
破壊跡を辿るように一同が駆け抜けた先にあったのは、明らかなる研究施設。
その電脳。
先陣を切っていたシグマが警戒し、足を止めた。
しかしエックスはその後ろですぐさまに視線を走らせた。
様々、ある。
最奥の巨大なステージ染みた場所に歩を進めるカーネルと、ゆっくりとその後ろを追う。
エリア端に並ぶ、ホルマリン漬けのようにされているボンバーマン達を早々に覗き込んでいるパイン。
その中でエックスは、目端が捉えた。
資料を纏めてあるのだろう、フォルダ置き場とでも称すべきスペース。
その一角に向け駆け出していた。
さっ、と視線を走らせる。
番号等ばかりで見える限り、特別な名称を付けている訳ではないと分かる。
この中から目的の代物があるのか。
他所に渡っていないかどうかまで含め確認を取るのは相当な時間を要するだろう。
察し、思わず歯噛みするのを尻目に、背後から大股の足音が耳に入った。
「こらこらこら! 勝手に動くな、お前達!」
「あ、申し訳ありません……ですがお伝えしていた通り目的が目的なので、その……」
「ぶーぶー! あ、コレはブタの鳴き声じゃなくて不満を表すぶーにゃ」
「分かっておるわ!」
振り返れば、シグマ。
まず手始めにだろう。
パインの頭を掴み上げながら、すぐ後ろに立っていた。
掴まれているパインは特に気にしている様子もなく。
その配下とでも称すべき四体も思い思いに見歩いているのだから多少なり信頼されているのだろうと察せられた。
恐らくは、パインとセピアの証言によって、だろうが。
暴れるでもなく、目を横一本に。
さも仕方ないと両手を広げるジェスチャーをしているパインに、シグマも相手にする面倒臭さが勝ったか。
軽く、エックスに向かって放った。
器用に空中で体を回転させたパインが並ぶように立ったのに頷き、
「……一先ず、その辺りで待っていろ」
と一言言い置いてから奥へと歩を進めていった。
素知らぬ風でカーネルの傍で調査を眺めているレーザーマンの元へと。
「……博士」
『……仕方ない。暗黙の了解が得られただけ良しとすべきだ』
渋い声で、光祐一朗は溢した。
シグマはエックス達がどのような目的で動いているか知っている。
知っているが、現場を荒らされるのは看過できない。
ましてや、カーネルのハッキングの結果判明したことだが、此処はアメロッパ。
少し前まではウラインターネット。
正体不明の領域。
つまり便宜上、アメロッパの外と扱えたからまだ良い。
しかし今、此処はアメロッパ。
つまりはその法治下にあるのだ。
そこを好き勝手にされると困る、と。
本来で言えば、エックスとレーザーマンの二体が居ること自体もよろしくない所だろう。
そこに目を瞑っているだけ、相当に譲歩しているのだ。
不法入国のようなモノ。
ある種、それを見逃した上で「待っていろ」等と、目の前のデータ群を調査することを許されているだけ有情であった。
「カーネル! どうでしたか? あ、オレが聞いて良い範囲で構いませんが……」
「大した収穫はない。あの電脳獣擬き、どうやらストラージスケレータという名称だった――程度だ」
「……骨の番兵か。力不足――とは流石に言えんな」
『そうですね……先ほど引っ張って来た科学省にある電脳獣の検証データと比べるまでもないですが、単純な戦闘用プログラムとして見れば中々のものでした』
「…………ヒカリ博士から見ても、ですか?」
『少なくとも、エックス単独では相当厳しかったでしょう』
シグマと共に戻って来たカーネルの会話。
そこにエックス共々顔を挟んで来た祐一朗の言葉に、二体は頷いた。
数の暴力。
それも現状、最高峰に近いレベルの。
ソレに遭ってなお平然として居れば、本当に電脳獣級の存在だっただろう。
だが、恐らくは焦りか。
予想以上の早さか。
想定外の援軍故か。
パインを味方に引き込もうとしたことが今回、足を引っ張った。
敵対すれば、どうなっていたか。
パイン。
そしてそれに侍る四体のナビ。
数の利が完全に逆転していた。
故にこそ。
アメロッパ側から見れば、パインが異常を極めたようなナビであることが今回、功を奏した形であった。
ナビを作る、不可能を可能にした、ではなく。
異常を極めたような存在であったことが、だ。
「――――――む」
視線が集まっている中でも、平然と仕事をし始めているパインを中心とした沈黙。
それを破ったのは、シグマの漏らした声。
そのまま傍へと視線を向け、やがて顔を顰める。
何やら、事態が動いた。
そう判断した各々の視線がシグマへと移った中、顔を顰めたままシグマが周囲を見渡す。
一体一体。
ある種、様子を確かめるような慎重さを伴って。
「――――端的に言おう。悪いニュースだ」
「既に端的じゃにゃいですね」
「……ニホンの科学省のデータを利用された痕跡があった」
『『パルストランスミッション』が?!』
「…………ふぅ。はい、ダムーシュニクはソレを利用して電脳世界に精神のみで逃亡したようです」
険しい表情を浮かべている祐一朗にシグマは頷いた。
誰ともなく、息が漏れる。
『パルストランスミッションシステム』。
人間の精神を電脳世界に送り込む技術。
ソレを利用して、電脳世界に逃げ込んだなどと。
「で」
「……なんだね、パイン?」
「目的は何だったんです?」
「さて…………まあ、良いようなので伝えるが」
それを、
「不老不死が目的だったようだ」
言った。
「……………………不老不死? それが電脳世界とどう関係が?」
「どうやらあのご老人、精神を電脳世界に送り込むことで肉体的なものによる死を回避しようと画策したらしい」
「ふぅん……」
『…………そんな目的で作られたシステムじゃない……ッ』
「博士……」
「………………」
噛み締めるようにしながら天を仰ぎ、言葉を漏らす祐一朗。
ソレを心配するような目を向けているエックス。
やがて各々の視線は移ろい変わり、最後にパインへと移った。
唯一、趣の違う。
心底下らなそうな表情を浮かべている、パインへと。
「パイン」
「何かにゃ、カーネル?」
「何かあるか?」
沈黙は、
「――――ねぇ、パイにゃんの我儘聞いてくれないかにゃぁ?」
「……内容によるな」
「二つあってぇ、一つはあの博士がパルストランスミッションした場所にスタッフマン達を送る許可。つまり、どの辺りか教えて欲しいにゃ」
「…………もう一つは?」
「博士を『パルストランスミッション』から引き剥がすのは一日ぐらい待って貰えないか、ですね」
僅か。
「……理由は?」
リスクはある。
その様な場所を教え、スタッフマン達が送り込まれるのであればどうなるか。
当然ながら『パルストランスミッションシステム』のデータは幾らか抜き取られるだろう。
だが、ソレが目的ではない。
確信があった故。
確証を持てた故。
鋭い視線と共に問い掛けたカーネルを。
のみならず、エックスや祐一朗を。
軽く見渡すようにしながら、
「強いて言うなら――――分からせのため、ですにゃん」
パインは、にっかりと嗤った。