記録より若い。
それは当然か。
まだ十代後半。
髭やモミアゲもなく、身嗜みも綺麗に整えられている。
観察するようなワタシの視線に何を感じ取ったのか。
何処か冷たい笑みを彼は浮かべた。
『――はじめまして、ボンバーマン。話は親父から聞いている……色々と、な』
「そりゃドうも。ダがワタシも散々聞いてるゼ……よク出来た息子ダってヨ」
『ン…………そうか。まあ、そんなことはどうでも良い』
面食らった様子で僅かに顔を逸らした。
しかしそれは一瞬。
表情を作り直したようで、最初と変わらない笑みを浮かべながらその顔ほどはあろう機器を掲げて見せる。
不審。
思わず訝しむ表情を浮かべたワタシを他所に、折り畳まれていたらしいそれを開いた。
画面に浮かんだナビ。
その姿に驚いている間に、機器よりコードを引き出したリーガルが、口を開く。
『プラグイン レーザーマン.EXE トランスミッション!』
「オォォォォォォォ!!!」
そして姿を現す。
黒々とした体に、幾本もの青いラインを持つネットナビ。
『――さて、レーザーマン。他所の電脳世界は初めてだが、モチロン不調はないな?』
「――ハッ! 問題ありません」
『なら良い。では、先住民のボンバーマンに挨拶しろ』
「承知致しました……初めまして、わたしはレーザーマン。今回より暫くお前の手伝いをさせてもらう」
威圧感。
まだ、この世界に産まれてそれほど経っていないのは先程の会話で分かる。
その上でもなお、貫かれるような威圧感は流石の一言。
しかもまだ完全ではない。
記録には、その両肩より伸びた巨大なジェネレーターが存在するはず。
だが、現時点ではそれを有していない。
将来的にはソレまで備わると考えれば、末恐ろしいと言うのが正直な感想だ。
「オう、よロしく頼ム」
「…………」
「握手ダよ。まダその辺ノ知識は追っ付いテねえか?」
「この手を見てもまだそう言えるのか?」
そう言いながら見せて来るレーザーマンの掌には射出口があった。
記録で知っていたし、入って来た時に見えたから知っていたが。
何となく嘲笑されている気がしたのでその手を強引に掴み、思いっ切り振り回しておく。
「よロしく」
「…………」
「おイ、サッサと来いヨ」
「……ああ」
困惑の気配のまま振り回した手を見詰めているその姿に、少し困る。
まだ産まれ立てなのもあって乱暴に扱うのはよろしくなかったかとも思ったが。
少しの間、手を開閉させていただけで近付いてくる。
異常はない、らしい。
なら良い。
いや、心配させないで欲しかったんだが。
『さて……親父から話では聞いてるが、まずデータの方を見せてもらおうか』
「期待しテる――――コイツだ、レーザーマン」
「フン……なるほど。リーガル様、データをお送りします」
そうしてデータをスキャンして、一応の安全を確かめてから送り始めるレーザーマンを眺める。
レーザーマン。
記録の方にはなかったが、聞いた話ではワイリー様とリーガルの二人が共同で開発したらしいナビだ。
ナビの基礎構築、つまりは骨組みこそ光祐一朗の広げた疑似人格プログラムをワイリー様が予め準備し調整されたそうな。
だがそれ以外のプログラムや外装含めたナビの肉付きとでも言うべき部分は全て、リーガルが整えた。
実質的にリーガルの製作したナビと言えるだろう。
だが、他からすればそうではない。
ワイリー様が基礎を作った以上、ワイリー様の製作されたナビと考えるのが周囲。
その上で、現在の情勢を考えると表に出ればワタシの代わりにグレイガ討伐に駆り出される可能性があると危惧された。
初めてのナビをそのような事態に巻き込みたくないと考えられたワイリー様に対してリーガルはその危惧に理解を示し、故にレーザーマンは秘匿されることになったそうな。
しかしそれはそれとしてレーザーマンを狭い世界に閉じ込め続けるのもどうか。
と。
そんな時にワタシの改造の話もあり、リーガルがそれに乗ったと言うのが今回の流れになる。
『……なるほど。考えとしては当たり障りのない王道とでも言った所か』
「王道が一番使い易イ。違ウか?」
『フッ…………チップデータは?』
「アそこ」
『確認しろ、レーザーマン』
「すぐに――――ほう、これがチップデータ」
物珍しそうに山の中から一つ取り上げているレーザーマンを眺める。
無論、メリットがあるのはレーザーマンだけの話じゃはない。
リーガル自身にもメリットがある。
現在、リーガルは学生。
しかしワイリー様譲りの優秀な頭脳を持っているリーガルからすれば、アメロッパでも上位に入る学校すらイマイチらしい。
よりにもよってワイリー様の傍でその技術を学んでいるのだから、さもありなん。
実際、リーガルがワタシの居る電脳空間にレーザーマンを送り込むのに利用した機器。
それはニホンの科学省より出回っているパーソナルターミナル、即ちPETを解析して自作した物とのこと。
個人での持ち運びを考慮すれば大型だが、内部のプログラムを自作の上でレーザーマンをインストールした状態での使用に耐え得るのだから大したモノだ。
と言うかそれだけ見ても、ハッキリ言えば学生の能力より逸脱していると思われる。
案外、現実世界が魔境の可能性はあるので確かなことは言えないが。
それでも単純な能力で言えば、ワイリー様付きの研究助手達の一部よりも秀でている部分もあるのではないかとワタシは考えていた。
と言うよりそうでなければ、幾ら親の贔屓目があるとは言え推薦なさるとは思えないからだが。
『……データの数量自体は抽出する分としては十分だろう』
「おウ」
『親父が既にお前へ組み込んでいる《ミニボム》の簡易データだが、《ヒートショット》なんかから火属性データを抽出して追加し、ボムの着火用にするか?』
「悪クねえ考えダろ」
『現状は時限式だが、爆発までの時間を任意で操作出来るようにするのは?』
「基準ノ時間を今から変えネえなら良いゼ」
『《ブラックボム》はミステリーデータから回収したのか?』
「大体そうダ」
回収されずにバグってミステリーデータが変異する、なんて言う噂がある。
その一例として挙がるのが《ブラックボム》だ。
実際変異した所を見た訳じゃあないから確かなことは言えないが、しかしウイルスから得られるようなのチップデータが殆んどそのまま残っていることもあれば、何かしらの変異を起こしたデータ等。
そんな中で、恐らく元はボム系の何かだったのだろうデータがバグによって《ブラックボム》になると言うのは専らの噂だ。
バグ、と言う意味ではウイルスがミステリーデータから現れることがあるのも、その噂を助長している一つ。
話が少し逸れた。
それらのように普通では手に入らないチップなんかを交換や買い取った物もそれなりに数はある。
中でも《ブラックボム》。
これは攻撃範囲の広さ故に仲間を巻き込む危険性と強力とは言え着火の必要性から、人気がない。
『《ブラックボム》も十分な数あるのではないか?』
「かもナ」
素っ気なく答える。
レーザーマンの隣で、さも火属性のチップデータを漁っているような態度で。
画面越しにも刺すような視線を感じはするが、気付いてない風を装う。
とにかく。
リーガルのメリット。
それは実地を積める、と言うことだ。
知識はあるし、その使い方についても既に十分頭が回るとワイリー様は判断なされた。
しかし現状、それを巧く活用出来るか分からない。
だからこそ今回の機会だ。
掘り起こし、差し出した火属性チップの山の確認を進めるレーザーマンを他所に、ため息をついたリーガルが口を開く。
『…………出せ』
「……ア?」
『お前自身の考えか? それとも親父の差し金か? どちらでも良いが……あるんだろうもう一つ、設計図が』
残念。
二つある。
一つは、もう一つの姿用のため本当の意味で奥の手だ。
可能ならワタシだけ。
流石に無理だろうからご説明してワイリー様しか携わらせるつもりはない。
奥の手を知る者が少なければ少ない程に良い。
そう言う意味ではもう一つ。
《ブラックボム》を活用する此方の方もまた知られることすら本来良くはないが、
「…………こイつダ」
リーガルの成長をワイリー様がお望みである。
そのための実地。
多少の不利益は呑み込もう。