まず初めに、前話の分の投稿時間を09:30に間違えていました。
単なるミスです。
そのため前話を見逃されている方が居られるかも知れませんので、念のためご注意願います。
ともあれ、今話もお楽しみ頂ければ幸いです。
剣戟が煌めく。
振るわれる刀。
腕の盾。
それぞれが克ち合い、火花が散る。
目まぐるしく動く。
冷静に。
動きを見定め、腕の盾で防ぎ。
合間。
突き立てられる刀。
無尽に。
絶え間なく動き回りながらも。
合間。
降るように迫る刀。
「見事なモノですにゃあ」
憮然と腕を組んで眺めているシグマにそう声を掛ける。
目元が軽く動いたのが見える。
嫌味か何かとでも思ったのだろうが、ソレは否定させて貰う。
「にゃはは。あの子――アサギは、対カーネルを想定しているネットナビにゃ」
「……ほう?」
その言葉に、シグマが。
いや、のみならずスタッグマン。
あと周囲のスタッフマン達までもがワタシへと視線を向けた。
そう言えば、スタッフマン達にも言ってなかったか。
「……ご存知かも知れにゃいけど、昔、ワタシがカーネルと戯れたことがあったのはご存知?」
「さて」
「恐らくその当時……いえ、今もですけど……頂点に近しいネットナビと言えばカーネル。そう言う印象を受けましたにゃあ」
ワイリー様製。
それも当時、まだアイリスと別れる前。
間違いなく性能において最高峰。
今現在のワタシも負ける気はないが、果たして。
厳しいだろう。
そのような記録が未だ胸に深く刻み込まれている。
「そしてその頂点。一角を知ってるにゃら、超えるべくするのは当然でしょ?」
「なるほど。何時ぞやの試作ナビの……スティールだったか、アレもだな」
「そうです。ですがアサギはそれよりも発展させたネットナビの一体」
丁度一太刀。
アルマジロマンの防御を抜いた。
ダメージ。
与えた傷。
其処からその分のエネルギーがそのまま刀を通してアサギへと還元される。
「《モスキート》――ご存知かも知れにゃいですけど、主にウラインターネットに生息するウイルスより入手出来るチップにゃ。与えたダメージがそのまま回復に繋がるチップのデータを元に、アサギ共々専用に拵えた波動剣……ブレードと合わせて無尽蔵の回復で以って持久戦に陥れる。あの子はそう言ったデザインにゃ」
肩ほどに揃えた青い髪。
如何にもな軍服に帽子、そして靡くマント。
武器は唯一。
そして未だ腰元に二本残っている、計三本の波動剣と称した、吸血のブレード。
あと股下何ミリとか言うレベルのスカート。
下はパンツじゃないから問題ないが。
跳び跳ね回ってるから恐らくアルマジロマンにはモロ見えだろう。
普通のナビであれば拝む前にはデリート出来る。
あれ程までに動き回る必要すらない。
相性。
アルマジロマン。
腕に装備しているシールドのみならず、特に背中側を重点的に覆っている鎧のようなシールド。
アチラもアチラで長期戦の構えを是としたネットナビなのであろう。
しかし設計思想。
攻撃を防御する、その一点のみで不利を被っている。
勝負は見えている。
少なくとも、傍目には。
しかしアルマジロマンの目から闘志は消えていない。
対するアサギ側はどうか。
「ふぅむ…………」
「どうした?」
「これはもしかすればもしかするかも知れませんにゃあ」
攻めあぐねている。
苛立っている。
おおよそアサギは優秀な、戦闘用自立型ネットナビである。
対するアルマジロマンは元より『オフィシャル』。
任務の遂行を是とするネットナビであるし、何よりも性格が良い。
戦闘スタイルと、冷静な性格とがマッチしている。
否。
それは過信か。
此方へと時折注意を向けて来ている姿をわざと一瞥しながら、内心を嗜める。
猪突猛進と見せ掛け、頭の回る存在も居るのだから。
ともあれ別段アサギの戦闘スタイルと性格が噛み合っていないと言う訳ではないが。
腕を組む。
胸が変形するが、気にせずに。
もう一つの方のバトルは、チラと確認してみても相も変わらず硬直状態にされているから、其方は気にする必要はなかろう。
元ネタとでも言うべき、アサギの上官大好きな性格、思考はそのままにしてある。
此方を捕食し来ようとするような危険性は特にないので。
要するに。
人好きな犬のような性格は。
そのアサギが、ワタシが用意した舞台で攻めあぐねている。
戦闘時間を確認すれば、既に十分より少し前。
此処まで単一の相手に手古摺ったと聞いた記録はない。
ワタシは気にしないが、果たしてアサギ自体が何処まで苛立ちを抑えられるかと考えれば、
『ッ――――せめて奥義で葬るであります!』
「あ、バカ」
十分経過。
その瞬間、アサギは距離を置いた。
同時に剣を三本。
元より持っていた物以外の、残り二本を引き抜いた。
二つの意味で顔を覆う。
予想通り一気に決めに掛かったこと。
あと、極力使わないよう言っている技を使うこと。
実際シグマ達は興味深げに、半ば身を乗り出してその様子を記録に納めようとしている。
顔を覆うのに使っている人差し指を下に向けてちょこちょこ動かす。
腰元の銃に手を伸ばしているスタッフマン達を抑え。
仕方なし、ワタシも画面へと視線を戻した。
ちゃんとしたSランク相当の技として設定しているのだが、やっちゃたモノは仕方ない。
『奥義《ダイネンドウハ》!』
同時に。
各々がエネルギーを込める。
白い輝きを放ちながら、三本の刀が宙へと浮かぶ。
全身丸めて回転するアルマジロマンがシールドに覆われる。
『《ローリングシールド》』
『壱の太刀ッ!』
回転斬りと共に、込められたエネルギーが発露。
けたたましい音と共に衝撃波が散る。
『弐の太刀ィ!』
次いで掴まれ勢いよく振るわれた二振り目が輝きを失う。
『ッ参の太刀ィイイイ!!!』
三振り目。
振り抜き。
残心。
ではない。
驚愕に目を剥いている。
ワタシもだ。
面白い。
本体が回転することでシールドへのダメージ一極化を防いでいる訳か。
エネルギー供給が必要な観点から見て《オーラ》ほどの万能性はなさそうだが《バリア》ほど脆くもない、と。
考察している間にもその動き、回転が止まった。
アサギの目の前で。
全身を包むアルマジロマンのシールドの表面が不気味に揺らいだ。
『――《リフレクトバースト》!』
『な、ァ !?!』
瞬間。
爆発。
シールドエネルギーごと内より溢れたエネルギーの奔流に呑まれ。
むしろ破壊力を増すアクセントとして砕け散りながら全方位へと衝撃波と共に。
至近でソレを受けたアサギだが。
無傷とまでは行かずとも。
全身をズタボロになりながらも立っている。
ただ、帽子とマントは吹き飛ばされ、
「…………犬?」
「狼にゃ。それよりも」
緊張に逆立つ水色の獣耳と尻尾を露わとした。
尻尾については恐らく、アルマジロマンも気付いていただろうが。
耳の方は予想外だったのだろう。
些かの驚きの視線を頭上に向けている。
「――――此処からですかにゃ」
対するアサギは。
手に刀は、ある。
しかし、咄嗟に盾にしたのが見受けられた。
その代償は、半ばから消え失せた跡。
構えようとした所でソレに気付いたらしい。
途端、耳がペタリ。
頻りにカメラ、つまりは此方側に視線を送ってくるのが見て取れる。
残り二本も、折れてこそいないが方々に散っている。
アルマジロマンと戦いながら回収するのは、些か無謀か。
しかし、拾えねば勝てぬだろう。
ともなれば。
如何に攻撃を凌ぎながら拾いに行けるか。
さあ、どうする。
どう動く。
『………………拾われよ』
『なんと』
此方のセリフなのだが。
耳をまっすぐに立てた。
アサギの驚きの言葉を他所に、刀を納めたままのアルマジロマンは言葉を続けた。
『此れは演習。互いに実りあるモノとするならば、武器を拾うぐらいの目溢しは致す』
『……なるほど。では、有難くそうさせて頂くであります』
折れた刀は腰元へと戻し。
若干程度の駆け足で。
一本。
二本、と。
飛んでいた刀を拾い上げ、それぞれを腰元へと戻した。
『…………』
『…………』
向き合い。
構え。
『…………では』
『…………いざ』
どちらともなく踏み込んだ。
「やれやれにゃあ……試合に勝って勝負に……まあ、贔屓目に見て引き分け? ぐらいの感覚ですねえ」
「負けではなく、か?」
「贔屓目に見てね? 今後の成長に繋がるなら負けじゃあにゃいですよ」
あの場は、先程の手札を見てしまった以上は最早揺るぐまい。
とはいえ。
武人、もとい武者としての心意気を示されては素直に勝ちとも認め辛い。
心情的に引き分けぐらいが丁度良い。
「それよりも……」
そう区切り。
画面を動かす。
一瞬不快そうに顔を動かされたが、次の瞬間には険しいモノに変わっていた。
何故か。
プルーンとアリゲイツマンの戦いは、一方的な様相を見せているからだ。
『はーい……追加のお時間でぇーす……』
『ゴガアアァァ……ッ!』
大口の端から細かな泡を散らしながら床の上で悶え暴れるアリゲイツマン。
その脇腹に容赦なく、追加の注射が突き刺さる。
注射。
《スタンポイズン》。
プルーンの姿に合うようワタシが拵えておいた技の一つ。
内容物は単純。
ナビの様々なバグデータ。
その再現物。
要するに。
今現在、アリゲイツマンを苦しめているのは単純明快。
ナビカス等で発生するバグ、その複合物混合物の類。
に近いあくまでも再現データだが。
その処理を必死でしているようだが、時折追加されるデータによって渋滞を引き起こしているようで儘ならないのだろう。
酷い戦法である。
いや、本当。
作って預けたワタシが言うのも何だろうが。
アレはあくまで、一瞬の隙に突き立て、隙間を広げるための代物である。
運用想定としては。
隙にジャッキを差し込んでそのまま引き千切るような運用は想定してない。
開始早々に三本ほど突き刺した姿には引いたが。
幾らゆっくりしたいとは言えやって良いことと悪いことがあると思う。
いや、勝ち負けに良い悪いも別に、とは思う所だが。
あと恐らく、見極めてもいる。
そろそろ真面になりそうだと感じた辺りで追加しているのだろう。
傍から見れば酷い絵面でしかないのは置いておくとしよう。
まだ諦めてはいない様子でもあるし。
「………………」
「…………声、掛けます?」
「……借りよう」
あんまりな光景に、口元を引き絞ったシグマから送られる視線。
仕方なく。
スタッフマンに視線を送り、差し出されたマイクをそのまま回す。
何かの時のための連絡用である。
ソレに、声を掛けた。
「アリゲイツマン」
『おー……?』
『ギ、ぉガガガ』
「見るに堪えん。降参して構わん」
そう言い置いて。
マイクが返される。
ソレをそのままスタッフマンに流す。
這い回り、暴れるように動き回っていたアリゲイツマンの動きが若干緩む。
面倒臭そうなプルーンが、仕方なさそうに準備していた追加を納めた。
その身を震わせていた痙攣は少しずつ治まり。
しかし、
『ヒ、ヒィイイイ!』
情けない悲鳴を上げながら。
己の尻尾を隠すようにプルーンからずり下がり、遠ざかろうとしていく。
その姿にはスタッグマンもシグマも、目元を隠すように覆った。
いつの間にか戻ったアルマジロマンは険しい顔で腕を組むのみ。
「シグマさん」
「……なんだ」
「口元」
「おっと」
一言。
慌てて口元も覆うシグマから、視線をモニターへ戻す。
変わらず面倒臭そうに腕を垂らしたまま、アリゲイツマンに近付いていくプルーン。
遂には壁際にまで迫り。
見下ろしている姿を間近に、震えながらその口を開く。
『…………ま』
『ま?』
『まい……』
『まい?』
詰め寄るように。
耳に片手を当てながらも、面倒臭そうに変わらず。
しかし動かず。
近付かず。
その姿にいよいよ、その震える声が、
『ま……まい………………ま……』
言葉を、
『……ま……だだよブァァアアアカ!!!』
吐いた。
瞬間身を捻った。
回転。
同時に背に隠していた尾が鞭のように撓りプルーンの脇腹を襲う。
『はい知ってぶべら!』
面倒臭そうにソレを受け止めようとした様子だが。
想定より威力があったのだろう。
あるいは自身の重さを誤ったか。
完璧なタイミングで受けたようには見えたがそのままくの字に折れ曲がって吹っ飛ぶ。
『ふぎゃっ?!』
『《スピンホイール》!』
人間ならぬナビ大車輪の如く。
床を跳ねながら吹き飛ぶプルーンへの追い打ち。
エネルギーで形成された回転ノコギリの刃が幾つもその後を追って迫る。
『《ストーンキューブ》!』
回る視界の中でも確認は出来たのだろう。
追撃に対して即座。
生成した《ストーンキューブ》を壁代わりの足場。
三角跳びの要領で壁床と跳ね躱し、
『うオオン……ろ、肋骨が二、三本は』
『《スピンホイール》!!!』
『折れ危なぁい!!!』
その勢いのままわざとらしく脇を押さえながらゴロゴロしようとした所へ更なる追撃。
見事なUの字に体を逸らし連続して放たれたソレ等を避けた。
そのまま数秒ほどプルプルと震えていたが、べちゃりとまた垂れる。
『殺意高過ぎるぅ~……』
『…………』
『対話拒否かよぉ……やんなっちゃうよおん……』
わざとらしくプルーンが目元を押さえているが。
それでもなお、一言も発しない。
慎重に距離を測っている。
その有様では流石にどうにもいかないと判断したのだろう。
小さく舌打ちを漏らし、のろのろと立ち上がりながら足元にボムを生成した。
ワタシのボム。
《ハイパーボム》の簡易版である。
拡張機能を削減し、出来るだけ容量を削った上で渡してある。
他のボンバー達も同様に。
あんまり使われている所、見知ってはいないが。
『そぉれ』
へにゃへにゃなフォームから放たれるボムキック。
それであっても狙いは正確。
寸分かまでは読めないが、行動を起こさざるを得ない距離。
位置。
『チィッ』
『お、来た』
警戒は未だ。
しかし硬直は良しとせず。
距離を離すでなく詰める。
先程までの惨劇を恐れず。
胆力は中々と言えようか。
『《スピンアタック》!!!』
『バクダンあげゆ』
突進。
回転を加えた突撃。
大口を開き再度ソレを見せたアリゲイツマンへの対応は冷静。
躊躇なくその口の中へとボムを、蹴りは自信なかったのか投げ入れ、
『ンぐっ』
『おっ?!』
入り。
閉じ。
吞み込まれた。
両足で停まり。
そして、
『《カウンターバブル》!』
『ホぁああああああ!!?』
踏ん張った両足。
開かれた口から放たれたのは大泡。
ソレも中にボムを入れたまま。
大砲の如く勢いを付けて放たれた。
シェーっと片足立ちするプルーン。
だが反面行動は的確。
すぐさま生成された《ストーンキューブ》がその目の前に聳え立ちそのカウンターを遮り爆発、
『捉えたぜぇい!』
『んにゃにィっ?!』
半壊したソレの上へと跳び越え。
乗り締め。
足場に。
両腕までをも使って更に勢いの増した咢が言葉通りプルーンを捉えた。
咄嗟。
両手で上顎を掴み。
下顎も蹴るように突き出した片足によってギリギリの所で抑えられた。
「フフ……油断したようだな、プルーンは」
「かも知れませんにゃあ」
傍から見れば絶体絶命。
両手は上顎を。
片足は下顎を。
残った足で踏ん張っているようにも見えるがどれだけ持つか。
詰み。
そう見えるかも知れない。
その、本来の製造元を知らなければ。
『ギャハハハハハハ! 絶ェ体絶命ってヤツだぁ~なあ~! えぇー!』
『お助け下さい! お助け下さい!』
『イーヤだね! このままガムみてぇにグッチャグチャに噛ぁみ、潰して……っ』
気付いたらしい。
掴まれた、抑えられた、顎が全く動かないのだろう。
閉じようとしても。
驚愕にか目を見開き、両足を踏ん張ってせめて地面から引き剥がそうともしているようだが。
下顎を抑え付けられ、梃子の原理で浮かせられている様子。
微動だにしていない。
「………………なんだ?」
流石に不審に思ったのだろう。
眉間に皴を寄せているが、遅い。
ゆっくりと。
アリゲイツマンの体が浮き上がる。
上顎を掴まれたまま。
下顎は抑えられたまま。
体は万力を込めてだろう揺すり暴れ、尻尾に至っては火に掛けられた蛇のようにのた打ち回っている。
だが、頭上にまで持ち上げてもなおプルーンはまるで堪えない。
『バ、バカな!?!』
『いえーい、変則Y字バランスぅ~……こっからどしよ……』
考えてなかった。
溶けたような間抜け面をしているのを尻目に。
完全に真上へと持ち上げられ浮き上がった体躯が暴れているが、無意味。
困ったように小首を傾げ、視線をカメラへと向けてくる。
コッチ見んな。
『《バブルショット》!』
『うお、ウザ……』
尻尾の流石に顔の前まではどうやっても届く気配はなく。
逆転の手段なし。
しかし諦めず。
口奥から放たれたショットを受けてもそれだけ。
更に数発。
受けながら顔を顰めただけだったのも束の間。
思い立ったように口を開いた。
『ンひひ…………プルルンの本分忘れてたわ』
『な、何をするつもりだテメエ!』
身悶えを辞め。
微かな怯えを孕んだ言葉を紡いだのも束の間。
プルーンはただ、本来の姿同様、
『代わりに潰れといて~――《ウォールプルーン》』
ただ潰す。
迫り来る重量に目を剥くアリゲイツマンを盾代わりに、ただ、そうした。
沈黙。
その中。
追加のアップルジュースを入れさせる。
不機嫌そうにガブガブと飲み進めるアリゲイツマンは変わらず。
何とも、居心地が悪そうに手を組んだり離したりしているスタッグマン。
腕を組んでいるアルマジロマンは思い返しているのか、何処か恍惚と。
そしてシグマ。
ただ、薫らせるようにグラスを揺すり、その水面を眺めていた。
「――――――プルーン」
「はいにゃ?」
「アレは何だ?」
視線を外すことなく。
ただ、気になったことを口にしたような問い掛けに、首を傾げる。
質問の意図が分からない。
そう示せば、微かに言葉を選ぶようにだろう。
目を閉じること、暫く。
一息の飲み下し、グラスを置いた。
「毛色が違う」
「はい」
「性能も、他と比べ秀でている」
「ええ」
「最後に見せた《ウォールプルーン》も、似通っている」
「ふむ」
今度はワタシが瞼を下ろす番となった。
さて。
何を求められているか。
シグマの質問の意図は。
毛色。
性能。
《ウォールプルーン》。
軽く思考を巡らせれば、
おおよそ思い至ったであろう事柄が想定できた。
利用させて貰おう。
「…………そうですね。あえて定めさせて貰うにゃら、予備でしょうか」
「予備」
「ええ、ワタシの」
他と比べて性能が優れている。
存在としての毛色が違う。
未だ、他にそう数の居なかった「ウォール」の使い手。
こうくれば。
ワタシにとって何か特別な存在であろうと予想したのだろう。
ならばその予測に乗っかる。
実際。
ワタシに何かあった時、任せ得る存在は誰か。
と問われれば第一はワイリー様としても、次点にはフェイクマンやストーンマンが来る。
そしてフェイクマンは、無形が旨だ。
かつては色々と悩んでいた様子だったが。
受け入れ、ソレを生業としている。
ワタシの影武者とかも含めて。
対するストーンマンことプルーン。
アレはどうか。
まあ、表立って動いている。
目立っている。
なので丁度良いから生贄にしておく。
髪の内側も黄色だから丁度良いだろう。
「…………なるほど」
「ま、ワタシが居る限りは問題ないにゃあ」
「そうだな」
頷くシグマ。
何か凄い視線を向けて来ているスタッフマン達。
今までその手の話をしたことがなかったからそうもなろう。
恐らく脳内連絡網的なのでプルーン次期頭首説が駆け巡っているハズ。
苦労するのはプルーンだから放っておく。
「さておき、今回の総評ですが」
「うむ」
「一勝一敗一分け。勝ち越したかったにゃあ」
「分けか」
「それがしは負けた筈では?」
「ケッ」
「お二方ので差引ですかにゃあ」
訝し気な二つの顔が向けられる。
予め用意していた答えを、淀みなく口にする。
「アルマジロマンには、謂わば試合に勝った、と言った感じでしょう。勝負ではどうなっていたか分からにゃいでしょ? ぶっちゃけ此方の負け寄りですけど」
「……ふむ」
「アリゲイツマンにはまあ、言っちゃいますけど、アイツ遅刻してるので」
「あア? 遅刻だあ?」
「ほら、十五分何もしないでくれれば、みたいに言ってたでしょ?」
「……ありゃ本気だったってえのかあ?」
「はい。今頃、向こうで詰められてるんじゃにゃいですかね」
深々と。
ワタシの回答に溜息を吐いてソファに体を預ける。
引き続きアップルジュースを飲み進めてはいるが。
何と言うか、覇気がなくなった。
気が抜けたのだろう。
ともあれ、これで双方の面目は保たれる結果となった。
明確な勝利は『オフィシャル』のみ。
単純な勝利数であれば此方。
しかし内容を加味すれば、互角、と。
「――――ま、コレじゃあ勝つのは無理でしょうにゃあ」
「何だとぉ……」
「スタッグマン」
「チッ……だがよ、隊長」
「落ち着け……現状、かなり上位に食い込んでいると考えるのだが、それでも無理か?」
「無理無理。ボンバーマンがフォルテとセレナードに克ち合ったって言う過去の映像とか、見られてにゃいんです?」
ワタシ達がしているのはネットバトルであってシューティングゲームじゃない。
《エクスプロージョン》とか。
本気で撃っていたアレ等は本当にその領域である。
ワタシも半ば悲鳴を上げながら何とかフォルテを狙っていたのだ。
《ヒートショット》とか《バブルショット》レベルの攻撃で何とか出来る領域にはない。
その映像について、アメロッパ外には漏れていないようだが、其方は別にどうでも良い。
代理戦争でも何でも。
軍用ネットナビでも何でも派遣して来て貰って、無様を晒して頂きましょう。
その方がセレナードが王に成ってから手出しし辛くなろうから。
だが、だ。
仮にもその映像を見ているハズの、アメロッパ。
その政府の上層連中はどうした。
見ただけでも、まともにやり合った所で勝ちの目が極薄なのは知っているハズ。
もしや、その極薄に賭けたか。
ない。
有り得ない。
仮にアメロッパと言う現状、最大規模の『オフィシャル』。
そこから多くを送り込んで無様な敗北を決めれば、威信や権威は地に落ちることは自明の理であろうに。
あるいは、
「…………そう言えば今回の件にゃんですけどぉ」
「……どの件だ?」
「失礼。ウラインターネットの」
「ああ」
「何処からの発案にゃんです?」
「……オフィシャルネットバトラー達の案だと聞いている」
「ふぅん……」
下からの突き上げを抑え切れなくなったか。
お可哀そうに。
おお、哀れ哀れ。
と。
嗤って見捨てたい所なのだが。
先の通り、威信や権威が落ちると困る。
『オフィシャル』弱し。
そのような話になって、インターネット内をモヒカンが闊歩し始めるようになるとスタッフマン達や一部の子達の仕事が余計な方面で忙しくなる。
折角、普及のために頑張ってもいるのだからそれは面白くない。
他はどうでも良い。
むしろ勝手に集まって貰える位の方が都合が良いのだ。
だが、『オフィシャル』が治安維持に動けない程度。
折角強いのに、何とか出来る程度と思われるのは、本当に困る。
仕方なし。
勝手に落魄れてくれる分には本来、歓迎一択なのだが。
此度は本当に、出来ればやりたくない所なのだが。
面倒が起きないようにするには、助け舟を出すのが良いだろう。
「……………………予定者のリストは?」
「ある」
もしや狙ってたか、あのハゲ。
それともただ纏めていただけか。
まあ良い。
「その方々に……期間ももうないですし、強化訓練とでも銘を打って出来るだけ早く此方に案内して下さいにゃ。舐め腐った半分以上は足切り出来るでしょう――思ったよりも出来るならその限りじゃにゃいでしょうけど」
「よろしく頼む」
あっさりと頭を下げるシグマの禿げ頭を蹴りたくなった。
だが、収める。
呑み込む。
実際問題、受付や営業みたく表に出されているだけの側であろうし。
「心が折れたら申し訳にゃいですけど」
「ならば最初から挑もうと思うべきではなかったという話だ」
一先ず。
そう言うことになった。
なので。
細々とスタッフマン達に手隙な子達や、あとはウラの大戦に挑戦したい子達にサンドバッグが来ることを伝達するよう依頼。
シグマもシグマで何やらメールだとか連絡をし、そう経たずに終わった。
「……………………では、我々はこの辺りで失礼しよう」
「まあお待ち下さいにゃ」
「なんだ?」
「スネークマンが今で二十三勝目。あと二勝すれば出向中の子が出ますけど、見てかれます?」
「……不要だ」
一瞬、刹那。
その程度は迷ったようだが、シグマは立ち上がった。
残念。
中々ヤれる方なのに。
「だが」
「はい」
「出るのか?」
「やっぱり気になりますかにゃあ、Z‐Ⅰさん?」
「止めろ。もう終わった計画だ――――ヤツを回収してくれたことに感謝はしている。でなければ」
「言わずで結構。あの子もやる気満々みたいにゃんで、巻き込まれないようににゃ~」
軽く頷いて見せ、そのまま足を出口へと向けた。
何だかんだ気にはなっていたらしい。
まあ、恐らくはウラの戦いの折にでも顔を合わせるだろうし、そこまで気を回さなくとも良かろう。
どうにも落ち着きのない様子だったスタッグマンが真っ先に。
名残惜しそうにグラスを逆さに飲み干し、アリゲイツマンが続き。
遅れて。
視線が集まった所で名残惜しそうにアルマジロマンが立ち上がった。
そうして来た時と同様に、
「……………………そう言えばだが、来る前に見掛けたあの黄色いナビ」
「ん? ああ、にゃんですか?」
出ていく前に。
思い出したように、実際思い出したのだろう、そのようなことを口にした。
「ヤツの名は?」
「ダブル、と言うそうにゃ――何かありましたか?」
「拾ったのか?」
「まあ、そうですにゃ」
「そうか……いや、実のところ少しだけだが知った顔だったのでな……行方不明になったと聞いていたのだが、無事なら良かった」
「ふぅん……あんまり詳しく聞いてにゃかったんですけど、そうにゃんですねえ」
ああ、そう。
シグマ。
と言うよりも電脳世界のナビ達には計画を聞かせてないのか。
知らせていればこんな、アメロッパと関わりがある等、わざわざ漏らすこともあるまい。
独断か。
専横か。
ダブルへの尋問が些か甘かったかも知れない。
いや、此処はシグマの言葉。
安堵の発言に免じておいて、深堀せずおいてやろう。
「あと、失念しておったのだが」
「はい?」
「プルーンとアポイントを取りたい。言っておくが、サムからの話だ」
「ああ……この時期でサムさんであれば……軍人局に協力頂いているヤツのですか?」
そうしての話題転換。
来た最初の最初にそのような話をしていたか。
頷いている姿に、其方も本題の一つだったのかと納得する。
頭から抜けていた。
シグマ達の方も、プルーンの残虐ファイトを見て其方にリソースが割かれていたのだろう。
ワタシもワタシで、面倒な話が来ないか気を揉んでいたのだ。
「予定確認して、空いてる時間をお伝えしますにゃ」
「頼んだ」
何とも締まらない感じに。
その姿はショートカットの向こうに消えて行った。
さて。
準備を進めよう。