科学省内を練り歩く。
中々新鮮である。
この、整った感じが。
何と言うべきか。
空港だとかの、隅から隅まで清掃の行き届いた空間とでも称そうか。
あるいは、綺麗に整えられた芝生や花木を眺めているような気分か。
端にまで目が行き届いていると言う感覚。
そうでありながら、病院のようではなく、森林のような清々しいとでも言うべき空気感。
「フゥぅぅ…………」
パインとして色々動いていれば自ずと、アメロッパの様々な電脳空間を見る機会はあった。
ボンバーマンとしてもかつて、軍部の最奥にまで踏み込んだ機会もあった。
それ等、そしてパインとして色々としている中でも、最高峰。
流石は光両名のお膝元とでも言おうか。
ワタシも特に、宗教関連の部分は気を配っていた。
だがこれは、少し自信をなくす。
まあ、これから一部とはいえソレ等を打っ壊すことになるのだが。
さて、侵入。
これ自体は順調に行った。
フェイクマンの侵入。
そうして手に入れた位置情報を基にした、ドリルマンによるショートカット通貫。
この二つを有していては、出来ない事の方が珍しいだろう。
そうして入れる範囲での奥地まで侵入さえすれば、後は暴力。
やはり暴力。
暴力が全てを解決するのだ。
とは言っても、WNOの殆んどが揃った大規模行進はしかし、静謐に進んでいる。
未だ警報が鳴り響いていないのがその証拠である。
かくいうワタシ、
と言うかワタシ達は別行動。
奥側から手前側に向けて。
表に出ては困るような奥地のデータではなく、比較的浅層。
何かあっても困らないらしいデータを見させて頂きながら、ゆっくりと侵入を進めていた。
「…………歩き読みは辞めたらどうだ?」
「そ、そうだぜ! いい加減そろそろ見付かってもおかしくない……」
「はー! 早く見付かんねえかなあ!」
「マ、落ち着いテこウぜ」
ちょっと関心を寄せられたデータ。
水冷式のデータサーバーについてを流し見していると注意されたが、気にしない。
結構面白いのだ、これ。
大規模なデータサーバー、つまりはデータセンターにて発生する熱。
ソレ等を利用すれば、温水プールかはたまた風呂レベルにまで水温を上げることが出来るというもの。
「ワイリー様が昔、書かレた論文みテえでナ」
途端、他三体も足を翻して覗き込んできた。
分かり易くて助かる。
ちなみにどうやら、ワイリー様やそのご友人達なんかとの共著。
少しでも研究費用を手に入れるための苦肉の策だったのだろう。
日付を見るには十年以上前の代物だが、当時の苦労が忍ばれる。
いやはやしかし。
水冷式のデータサーバー。
ただの水を風呂レベルの水温まで高めるほどの排熱効率。
素晴らしい。
だから引っ掛かる。
お風呂レベル。
つまり、温泉に近しい温度。
そう言えばなかったか。
温泉と称してその実、入浴剤を投入していた何処ぞの温泉宿と言うか温泉地帯が。
「おい」
「ア?」
あ。
「君達、見ない顔だな? 此処は」
「ゴメン」
二つの意味で。
全員呑気に論文を読んでいた所為で普通に見付かった。
ので。
一気に跳び込んで踵落とし。
四股の要領で踏み抜き追加で《ミニボム》を振り撒いてデリート。
するまでの一瞬。
ダメージを受けながらでも流石は科学省のナビと言うべきだろう。
何かしらのプログラムを起動されたか。
瞬時に内部に警報が鳴り響き始めた。
同時に来ていた奥側への道が、ゲームでよく見掛けた縦線みたいだがしかし、大規模な防壁に寸断されているのも見える。
其方は予定通り。
しかし、当初の予定通りとまでは行かなかった。
だがそこは別に構いやしない。
高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応、と言うヤツだ。
「遮断されたか」
「はー……怖ぇなあ本当……」
「もうヤって良いんだよな?! 良いんだよなあ!?」
「まア待て」
三者三様。
反応は様々であるが、頷きながらも止める。
ワタシ達のやるべきことは陽動。
奥に踏み込めていないように見せ掛け、探索と場合によっては破壊を振り撒くこと。
なので一息、
「《デンジャラスボム》!」
まずは奥の道。
封鎖された所に向かって蹴り一閃。
中空。
寸断する防壁に激突し、刹那、破壊を巻き起こす。
風が吹き抜けていくが、
「ヒュー! 予想通りっチゃ予想通りダが……流石だァ」
無傷。
とまでは行かずとも、充分に遮断防壁の意義を果たしているのが見て取れる。
はい。
突破しようとした証拠作りは完了。
「じャ、諸君。手前側で捜索開始ダ」
「了解」
「あいあいさー」
「ヒャッハー!!!」
捜索なのだが。
世紀末な雄叫びを上げながら、まだ見ぬ相手に向かって突っ込んでいくグレネードマンを見送る。
訳にも行かない。
片手で頭を押さえ、残り二体を見やる。
コマンドマンは渋い顔。
バーストマンは真っ青。
いや、青いのは元からだった。
「…………追うカ」
「ハッ!」
「ィヤだなぁ~~~~~!」
心底からの言葉。
それでもワタシ達が進めば大人しく着いてくる辺り、弁えている。
有難いことに。
一先ずグレネードマンに関しては。
一度ワイリー様に、人格プログラムが変なことになってないか確かめて貰う方が良い気がする。
流石に暴走が過ぎる。
大分、陽動としては正しくはあるのだが。
いやだったら問題ないのか。
内心で首を傾げながら奥へ。
ではなく、浅い地点に向けて歩けば。
俄かに騒がしさが耳に入る。
爆発音も。
早速派手に始めている様子。
念のため後ろの二体にアイコンタクト。
コマンドマンは両肩の門を開き斉射態勢。
バーストマンもその頭頂から泡を吐き始めている。
準備は完了、問題なし。
「いクぞ」
「ハッ」
「うす……」
向き直り、一気に走る。
エネルギーのチャージも最中に行いながら。
道を抜ける。
一分と経たず。
やや開けた場所。
交差点とでも言うべきか。
ボムを投げ、殴り倒し、ダメージを受け、喜悦に震えているグレネードマンその姿。
そして踏み入れたと殆んど同時。
一部のナビの視線が此方を向いた。
硬直。
「ヤれ」
「《コマンドボム》全門掃射!」
「《デンジャーラップ》っぷ!」
空高くへと打ち上げられたミサイル群。
それが殆んど直角に曲がりあらゆるナビ達の下へ落ちる。
十数の泡が地表を滑るように飛びながら。
しかしグレネードマンは避けてナビ達の視界を覆い隠す。
さながら空対地、地対地。
轟音と爆風。
遍くを根こそぎ爆発に包み一瞬でナビ達を葬って見せ。
しかし残っているナビも僅かに見えた。
「《ハイパワーボム》着火」
其処には追撃。
指向性を持たせたボムの爆炎が体勢を立て直そうとしていたらしい幾つかの姿を一瞬で消し炭へと変えた。
特に多い部分は消したがまだ居る。
「イイイイイイヤッハァアア! 《フラッシュボム》ウ!」
だがそれ等もすぐ。
閃光を伴う数多の爆発に巻き込まれ。
納まった時に時には影もない。
探知を念のため周囲に向ける。
だが、姿は見取れない。
夜だからか。
一般職員は既に帰ったのは分かるが、熱心な研究員ならば残っていると予想していたのに。
あるいは、だからこそ、か。
まだ様子見。
その段階として置かれているのであれば、今の内に状況と整えよう。
「……引き続キ警戒を密に。コマンドマンとバーストマンは面白そウなモンがないか見てテ来い。例のガあれば、ソレも。たダ、団体行動を崩サず一緒にダ」
「ふぅ~、そりゃあ有難いぜ」
「…………了解」
一瞬不満そうな顔を覗かせたコマンドマンだが、バーストマンの言葉を聞いて引っ込めた。
汗を拭うようにしながら、心底からそのような言葉を吐かれては否定できまい。
「あー? そりゃないぜボンバーマンよう! 可愛い爆弾ちゃんがビンビン滾ってんだぜぇ?!」
「おめえは回復が先ダ。そレに此処に居座っテりゃすぐ後続ガ来る」
「ならいいか!」
「何かアりゃ戻って来イ。《ストーンキューブ》! ……っテな具合に場所を整エとく」
グレネードマンは本当に。
サドマゾで困る。
別にデリートされたい訳ではないのが余計に。
一先ず、継戦のための回復。
あと居座ってれば他が来ることを材料にすればあっさりと頷いた。
さておき話しながら《ストーンキューブ》。
交差点。
その入り口から少し離れた場所。
直線の視線と射線を遮る形に設置。
まず交差点に入らないと射線すら通せない状況を用意。
次いで通れるだけの十分な空間を用意しながら、やはり射線を通さないように。
何と言うべきか。
将棋やチェスでの、桂馬やナイトの跳び先に当たるような形で《ストーンキューブ》を順次配置。
一般的な武装であるショット系やソード系では苦慮するよう。
しかし、ワタシ達のような放物線を描くボム系。
それならば大した意味がなくなる。
「そこまですんのか?」
「かつてワイリー様の居ラれた科学省ダぞ?」
揶揄するような言葉にそう返す。
そうすればあっさりと得心行ったように頷いた。
本当。
ワイリー様のお名前を出すと話がスムーズで助かる。
そうしている間にもサブチップで回復を終えたらしい。
だが暇を持て余したのか。
徐にボケっと中央部分に立ち尽くしている。
文句を言おうかと一瞬悩んだが、辞めた。
どうせこの後、馬鹿みたいに戦い始めるのだ。
今ぐらいはゆっくりさせても罰は当たるまい。
「…………グレネードマン」
「なんでい」
「デリートされネぇ程度に、派手にヤんな」
視線を一方に向ける。
手を動かしながら。
ワタシの眼に釣られるように向け。
やがて気付いたように、愉しそうに嗤った。