ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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016:光祐一朗

 

目を輝かせている光正。

そっちはまあ良い。

それよりも、もう一人。

明らかにワタシに対して警戒の色を見せている方。

 

『そして此方がワシの息子だ』

『…………はじめまして』

 

しかし、光正と一緒に光祐一朗も各国を回っていたとは。

奥さんは良いんだろうか。

あっさりとワタシの言葉に従う光正に、ガックリと肩を落とす姿を見ながら、その詳細を思い返す。

 

記録で知っている限り、ナビマスターと言われるほどのネットナビに精通した人物であり、技術力も一級品。

秘蔵されていたプログラムを使ったとは言えスタイルチェンジを初め、ナビカスタマイザーという素人でもネットナビという複雑機構に手を加えることが出来るようになるシステムの開発等々。

分かる限りでも、ワイリー様を含め五本指に入る技術者の一人。

 

もっと言えば。

コトを、複雑怪奇を極めたようなプログラムであるネットナビの改造を一般人でも出来るレベルにまで落とし込む、簡素化簡略化に限るならワイリー様を超えているかも知れない。

かも、でしかないが。

 

「おめえがカ? ま、よろシく。適当に座りナ」

『じゃあ遠慮なく』

『父さん……』

 

まあワイリー様はその知識と経験を以って専用機的なネットナビの製造が可能である点から見てどちらが優れているという話ではない。

そもそもロボット工学が専門で有らせられるのだし。

 

そして記録からではなく、改めて調べ知った限りでは。

ネットナビに搭載する世界初の人格プログラムを開発しながらもその特許を取らず、その根幹データを科学省経由で世界に広げた無私の人物。

と言えば聞こえは良いが、広められている人格プログラムにはブラックボックスとでも言うべき部分やスパゲティプログラムと呼ばれるような複雑怪奇な部分も多数。

それらを含めた詳細を開示することを拒む意味で、特許を取らないことが目的だったのではないかというのが専らの話。

 

ワタシも興味があって覗いたことはあったが、どういうプログラムなのか訳が分からなかった。

電脳世界の住民なのに。

ちなみにワイリー様曰く、

 

「ネットナビの倫理観、とでも言うべき最低ラインを設けるための内容が殆んどじゃ。てっきり光の所にデータが集積されるプログラムでも組み込んでいるかと思っておったのに……つまらん」

 

とのこと。

更にちなみにだが。

ワタシやストーンマン、カーネルに関してはその人格プログラムを改造したモノを組み込んであるそうだ。

何だかんだ人格プログラムに関しては認めてる部分もあるようなことを口にされていたか。

 

まあ「だからどうした」という話ではある。

ともかく、ワイリー様によって創られたワタシをあからさまに警戒している光祐一朗の姿勢は、本来ならニホンの科学者として正しいのだろう。

窺うような視線を此方に向けられても困る。

肩を竦めるワタシを見て、どこか観念したような様子で天井を仰いだかと思えば、思い切り音を立てて椅子に腰を下ろした。

出入り口に一番近い椅子に座ったのはせめてもの反抗というモノだろうか。

それはさておき光正の座っているその椅子、と言うよりその場所だが。

 

「光正」

『なんだい?』

「サイドデスクを開ケな」

『……父さん。僕が代わりに』

『ここかい?』

『父さん?』

 

一切躊躇いなくサイドデスクを引っ張り開けた光正に祐一朗は困惑の声を上げている。

しかしそれを気にする様子もなく、どこか手慣れた様子でそこからカップを出していく。

他にはインスタントコーヒーの瓶やスプーン、ミネラルウォーター等々。

わざわざワイリー様がそのサイドデスクにだけ仕込んでいた代物だ。

何も言わずそんなことをしていたのにはリーガルも困惑していたが、その理由が分かった。

 

『……これは』

『知ってる通りワシが昔からよく飲んでいるコーヒーだね。それにこの場所は、昔の席の位置――科学省でワシとワイリーとで共同研究をしていた頃の』

「へエ、じゃあコの部屋のレイアウトは昔ノ科学省を参考にしテんのか?」

『流石に完全にそういう訳じゃないが、雰囲気は……』

 

そう口にしながら周囲を見渡し。

ふと何かに気付いたようにその手をデスクへと伸ばした。

手に取って弄び始めたのは、小さな何か。

 

よくよく見れば、ティラノサウルスっぽいフィギュアか。

ワイリー様の私物。

微かに微笑んだのが見えたかと思えば、懐から何か取り出し、横に並べるように置いた。

そっちはどうも、トリケラトプス。

うん。

大きさ的に何か仕込まれてそうにも見えないし、気付かなかったことにしておこう。

 

「――ワイリー様がゴ用意されタ物ダが、何か不足カ?」

『いや、流石に水でコーヒーはね――ヤカンはないかい?』

「ア、すマん。二つ隣のデスクの上のダ」

『ヤカン……? えっと、金属じゃないみたいだけど、これがそうなのかいボンバーマン?』

「普通のヤカンみてエに上かラ水を入れナ。あトは下のボタンを押セば勝手に沸ク」

『……ポットとは違うようだけど、本当に?』

「本当ダ」

 

いわゆる電気ケトル。

水を温めるのに一々火のある所に行かなければならないことを面倒臭がった、もとい時間の無駄と仰られたワイリー様の作られた逸品だ。

既に電気ケトルらしい物はあったが、水を入れる部分にコードの着いていない持ち運びのし易い代物。

それをご自身で考え、作られたということだ。

まさに天才。

 

なお開発費用については軍の資金を流用したらしいが、上層部に同じ品を提供したことでなあなあになったと聞く。

福利厚生とか何とか。

それで良いのか、アメロッパ軍。

使ったのは殆んど材料費だけだったらしいし、恐らくワイリー様の功績込みで許されたのだろうけども。

 

『……これで、よし。どれぐらいかかる?』

「そんナ掛からネえよ」

『曖昧だね……』

「火を使っテ沸かスのにもイチイチ時間計っテんのか、おめえ?」

『…………失礼しました』

 

気まずそうに目を逸らす祐一朗を他所に、着々と準備を進めている光正に視線をやる。

気付かれたのか此方に笑い掛けてくる。

 

しかしそこに混ざっている好奇。

いや、科学者として自身の知識を満たしたい欲が垣間見える。

そこは科学者としての性というヤツか。

分からないのは、一体ワタシの何がソレを刺激したのかだが。

気にしても仕方がない。

 

「さテ、沸くまデに改めテ自己紹介と行コうか。ワタシの名前はボンバーマン、ワイリー様ガお創りにナられた自立型戦闘用ナビであリ、コれでも今のアメロッパなラ二番目ぐラいにゃ強イと自負してル――今は、ナ」

『じゃあ次はワシが……光正という。専門は電子工学、ワイリーとは同期で共同研究を行ってもおった』

『では、最後ですが。失礼――改めまして光正の息子の、光祐一朗といいます。先程は失礼しました。ネットナビの研究を特に頑張っています』

「ア、こレはゴ丁寧にドうも……マルチってヤツ?」

『それほど大したものでは……』

 

わざわざ椅子から立って挨拶してきた祐一朗に、同様に立って挨拶を交わす。

ふむ。

褒めるとちょっと照れた辺り、随分と警戒が解けたように見受けられる。

考えられるのは、ワイリー様が居られはしないがそれなりに歓迎の姿を見せているからか。

 

完全に解けた、というほどではないだろうが此方の行動を一から十まで警戒されるよりかは話し易くて良い。

それよりも。

光正から向けられる好奇の視線が強くなったのが気に掛かる。

 

「なんダよ?」

『……悪いね。君のことがどうにも興味深くて』

『興味深い? 確かに現状、固有の外見をしているナビは珍しいですが将来的には……』

「数年もすリゃ少なイが珍しクないダろうヨ」

『そうだろうね』

 

「だったらなんだ」と祐一朗共々口には出さない。

言うまでもなくそれぐらいは分かってるのは見れば分かる。

祐一朗から不審げな視線。

ワタシから先を促すように顔を動かして見せると、笑う光正がこう言った。

 

『キミが今までになく人間的なナビだからだよ』

 

人間的なナビ。

それは外見からしてそうだろう。

と口にしても意味はなかろう。

何かに気付いたような顔をしている祐一朗はともかく、その意味を理解出来ないワタシは無言で先を促すしかない。

 

『ワシが最初に驚いたのは、キミが椅子に座っていたことだよ』

「悪いカ?」

『いいや、全然。だが、立っていた所で人間のように疲れる訳でもないハズのネットナビが椅子に座っていたことにまず驚いた』

 

椅子が必要ないのは百も承知だ。

何せワタシはネットナビ。

消耗はする。

 

だがそれは人間の疲労とは違い、エネルギーの消費だ。

HPことヒットポイントの減少でも構わない。

しかしそういうことをしていた記録があるからこそ、意味がないとは理解はしつつもやってみたくなってしまう。

言うなれば、染み付いた癖。

 

『そこから不躾で申し訳ないが、その画面越しに君の部屋を見させて貰った』

「失礼ダな」

『悪いね。でも、会話と併せて分かったこともある』

「……」

『今使っているテーブルからしてデータを宙に出せるだろう? わざわざ置く必要がない君達ネットナビには本来邪魔なだけだし、奥に見えるのは折り畳み式のベッドかな? 科学省でワシ等もよく世話になってるが、立ったままでもスリープモードに移れる訳だから当然それも必要はない』

「そウか」

 

後ろを見やる。

確かにワタシの居る位置から鑑みるに、それらは全て見えているだろう。

ついでに言えばバグの欠片保管箱も見える。

これについては別に問題ないが。

ボタンの類はちゃんと見えないように調整してある。

いや、もしかして保管庫が見えていたから祐一朗に警戒されていたのか。

 

『ついさっき息子が立って挨拶をした時、わざわざ君も立って挨拶を返した――そもそも座る必要がないと言えばそこまでだけど、これもまた人間的だ』

「人間的カ?」

『認識は人それぞれかも知れないが、同じように対応しようとするのは近しいと思うね――極め付けはワシ達をここに招待した時に言ったね? 命じられてないが歓迎すると』

「言っタな」

『基本的に命じられたことをするプログラムくん等と違い、命じられてない範囲を自己判断出来る自立型ナビとしてもだ。主人の研究室に無許可で入れるなんて重要な事柄を事前の状況だけで判断するのは珍しいを通り越して稀有……いや、現状唯一なんじゃないかな? ワイリーが実は命じていたなら別だろうけど、彼が口に出すとは思えないし』

 

マズい。

それについては本当にそこまで大事と考えていなかった。

しかしワイリー様のされていたことを考えれば間違ってはない筈。

そうでなければカメラを設置なんてしないはずだし。

一先ず。

一先ずは、

 

「――――沸いタみてえダぜ?」

 

先延ばし。

 

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