ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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017:大鷹

 

コーヒーを口にしている。

その姿を眺めながら考える。

好奇の視線が増えた。

光正からだけでなく、光祐一朗からもだ。

勘弁してくれと思うが、致し方ない。

興味をそそられる理由を懇切丁寧に説明された以上、答えないのは不義理。

 

と言うよりかは此方からの質問に答えさせたい都合上、出来る限りの答えを出すのは必須。

何せ分野に限定すればワイリー様以上の知識を有しているだろう相手なのだから、その相手に質問出来るなら非常に有用。

ワタシの中の記録に触れないようにするのは当然だが。

 

『――――さて』

 

等と考えている内に。

コーヒーに口を付けていた光正がカップをテーブルに置いた。

 

「ト、言わレてもな」

『それだけ自分の意志を以って自由に行動出来る要因を知りたい、と言うことさ』

「困っタ。ワタシはワイリー様ヨり与えらレた範囲以上は何もしテない」

『…………なら幾つか質問させて貰っても良いかな?』

「マ、それぐラい構わネえ」

『んー……とは言えパッと思い付くのは一つだけなんだけどね。電脳獣についてだ』

 

電脳獣について。

そう言われると困る。

具体的に何を聞かれるかもだが、現状ワタシはアレについて詳しく知らないことになっている。

いきなり現れたバグの化身みたいなモノとしか。

 

「電脳獣?」

『――今、付けられている正式名称を知らないのかい? ワイリーも過保護と言うか何と言うか……』

「……名称っツうと、アのケダモノの? 何を知りタい?」

『うん。ニホンに電脳獣――個体名『グレイガ』について調べに来ていたのはワイリーからの指示かな?』

「ノーコメント」

 

不審げな顔をされても困る。

してるコッチが言うのは何だが、この記録を取られてたら困る。

してない可能性の方が高いだろうが、万が一にも言質を取られてワイリー様が不利になるようなことを言える訳もない。

 

『どうしたんだい? 急に?』

『父さん……そんな言い方じゃダメだよ…………ボンバーマン』

「なんダ?」

『居た理由は?』

「バグの欠片が各地デ不審な挙動をしてタんでナ、そノ調査。自由行動の許可ダけ取っテな」

『ええ……? それは答えてくれるのかい?』

「何処、トは言っテねえカらな」

 

ならば問題ないだろう。

仮にこれを録音されていた所で、ワタシがした質問の答えは『バグの欠片の調査』。

何処で、と具体的な場所を言われてない以上やり様はあるだろう。

光正からすれば、その辺りの感覚は難しいか。

あるいはわざと気を抜いているのか。

 

とは言え、答えなかった理由を言えば思い当たったようで苦い顔をしていた。

その辺り専門分野外のことだろうとワイリー様に匹敵するほど優秀なだけはある。

 

「聞きタいのハそれダけか?」

『……そう言うことか。うん――分かったこともある』

「何がダよ?」

『ワイリーが自立型ナビを生み出すならその自由意思を尊重するだろうと思っていた。完全な自由行動を許可することで自立性を育み、それが結果的にキミのようなナビに到ったと言うことかな?』

「イや、知らねエし」

 

ワタシのようなナビに到った理由に自立型を出すのは些か夢を見過ぎと思う。

ニホンで自立型と言えば。

あるいはフォルテに何か思う所でもあったのか。

 

ともかく、だ。

自立してるだけならストーンマンも二本足で立ってる訳だから要素の一つではあるかも知れないが、重要ではなかろう。

正直、記録が大部分の原因だろうし。

だがこの記録情報はデリートされようが外に漏らすつもりは微塵もないから、察するのは流石に無理か。

 

さておきどうやらこの考察に何某かの価値を見出しているらしいのが祐一朗。

ポケットから取り出して小さなノートに、ワタシをチラチラ見ながら何やら書き込んでいる。

この辺りからして本当に録音されてないとは思うが、用心し過ぎるに越したことはない。

 

『まあ、ワシが聞きたかったのはそれぐらいだ。あとは……ゆっくり世間話でもしよう、午後は特に予定が入ってないからね』

「ふウん?」

『ふふふ……コッソリで良いから、ワイリーの近況なんかを教えてくれないかな?』

「あァ、成程。ダメそうなコト以外なラ構わネえぜ」

『あ、その前にごめん、ボンバーマン。ちょっとお手洗いに行かせて貰って良いかな? コーヒー貰ったからか急に……』

「ン? アあ、今開ける」

『ごめんね?』

「構わネえよ」

 

腹の辺りを抑えながら出て行く祐一朗を見送り、扉が閉まる。

何ともなしの沈黙。

それよりも。

先程までの流れは、非常に都合の良い流れだ。

ワタシがしたい話をするのにそれほど違和感がない。

 

「……丁度良いカら聞きテえんダが」

『何かな?』

「電脳獣? グレイガ? アレの対策は出来タのかヨ」

『確かに気になるだろうね。それについては対策も進んでつい最近になって効果を上げた』

「本当か――アレに対しテ? どうヤって? ……っト、少し待テ」

 

予想は付く。

と言うよりかは、知っている。

問題はそれで合っているか、だが。

それよりも、

 

「随分と早かっタな?」

 

一分と経たず戻って来た祐一朗に声を掛ける。

開けたのは、先程と同じカードでだ。

角度の問題でかちょっと見えないが、キチンと外で待機してくれているようで、上々。

そうじゃなきゃ、光正に外を確認して貰う必要があった。

 

『ごめんごめん。少し歩いたら行く気が失せたんだ』

「そウか。マ、行きたクなっタら言え」

『ありがとう――ところで、何の話を?』

『電脳獣の対策プログラムに関してだ』

『ああ! あの人のですね?』

 

誰だ。

そんなワタシの考えが分かったかのように光正は小さく笑い。

少し溜めるようにしてから口を開いた。

 

『……科学省にもワシやワイリー以外の優秀な人材が居ると言うことさ。今回その対策を講じ、成果を上げた中心人物はケイン・スミス博士と言うんだが――彼はとても優秀でね』

「焦らスなァ」

『ふふ。対電脳獣用超大型デバッグプログラム、コードネーム『ファルザー』。狼型の『グレイガ』追跡のため電脳世界を自由に動けるよう鳥類をモデルに設計されたそのプログラムは、科学省の電脳世界で『グレイガ』と戦闘の末にその撃退に成功したことを機に――おおよそ三週間前になるが――電脳世界に放たれた』

 

博士のフルネームに覚えはない。

ない、が。

予想通り。

いや、想定通りだ。

 

「プログラム、ねエ?」

『何か心配があるのかい?』

「じゃア遠慮なく聞クが、メンテナンスの頻度ハ?」

『変わったことを聞くね……半年に一回の予定って言ってたっけ?』

『はい。ただ、自己修復の範囲を超える損傷が見当たらなければ一年に一回の予定だと――まさかバグの心配を? その対策も当然しているハズだけど』

「――――所でヨ」

 

席を立つ。

二人の見えるモニターを一瞥し、向こうから見える範囲にバグの欠片の保管場所が映ってるのを確認する。

多分見えるだろうが、それでも一応心配だから保管場所が確りと映るように位置を調整する。

 

やっぱり見えてはいたのか。

気になっていたらしいソレに対して僅かに身を乗り出したのが分かる。

わざわざ保管用の、それこそちょっとしたコンテナ半分ぐらいありそうなバグを欠片とは言え見るのはそりゃあ珍しいだろう。

一応、勝手に変化しないよう凍結されてるから変異する心配はないが。

 

「コレ、全部バグ――つウか、その欠片なんダが」

『うん、気になっていた。これだけ小さなバグを保管している理由もそうだけど、どうやって集めたのかも』

「そレが本題に繋がるんダが――コれ全部ウイルスバスティングで手に入れタ」

『………………それが全部?』

『……嘘でしょう?! ウイルスバスティングでバグの欠片が手に入るなんて報告はない! これだけのバグをどうやって?!』

 

あくまで冷静な風の光正。

しかし座り直した椅子から立ち上がるほどに驚いている祐一朗からして、ニホンでも知られてはいないことらしい。

将来的に、ウイルスバスティングが授業に組み込まれるようになれば別かも知れないが。

 

現状では予想通り。

集合知には到っていないか。

まあ記録にある中でも、シリーズによってはウイルスやナビが落とすモノもあれば落とさなかったりと色々。

実際ワタシが狙ってデリートしてみても、落としたり落とさなかったりしている。

つまりワタシの見解も、もしかすればその原因の一端を担っているのかも知れないしそうじゃないかも知れない程度だが。

 

「もしカしたら報告にアるかも知れネえが、ウイルスが攻撃しテくる瞬間にコっちの攻撃を当テるとフリーズすることがあルのは知ってルか?」

『……報告書にあった。まだ理由は分かってはいないから、あくまで噂にしかなってないけど』

「コれが恐らクその原因――攻撃の瞬間に大キなダメージを与えルと動作にバグが発生しテ、そんでフリーズするんダろうってノがワタシの見解ダ」

『…………』

「バグの欠片が落チるのも絶対じゃなイし、ソもソも安全面かラしてわざわざ狙ってフリーズさセれるヤツ自体少なイっつう話ダから、時々でもバグの欠片を残すっテこと自体知らナいのが大半ダろうな」

『へえ。なる、ほ…………――――――!』

 

感嘆の声を上げていた最中。

ワタシが言わんとすることを察したらしい。

血の気が引くとはまさにこの様。

 

祐一朗の顔が、見る見る青褪めていく。

対する光正の方は、目を閉じて天井を仰いでいる。

バグの欠片。

そう、欠片。

 

ある程度なら、自己修復の範囲にあるかも知れない。

しかし現実世界の人間に言い換えれば、変異してしまった細胞と言い換えるのが良いだろう。

それが自己修復や回復の範囲を超えてもなお増加を続ければどうなるか。

人間で言えば、恐らくは悪性腫瘍になってしまうハズ。

さて。

全身がプログラムである存在が侵されればどうなることやら。

 

「――デ、聞きタい。グレイガと戦闘を行ってるファルザーってヤツは、一回の戦闘デ何回フリーズしタか記録してあルか? 一日の戦闘デは? 一週間デも良イ」

 

弾かれるように、祐一朗が走り出す。

扉を操作して開けてやる。

ちょうど前に立っていたらしい兵士達が驚いたような顔をしているのを尻目に、そのまま駆けて行くのが見える。

だがすぐに閉まった扉に遮られ、見えなくなった。

後には、天井を仰いだままの光正だけが残された。

 

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