ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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018:深層

 

カメラの位置を戻す。

椅子に座り直す。

しかし、光正は変わらない。

天井を仰いだまま動かない。

 

「おめえ、行かなくテ良いのかヨ?」

『――無駄だからね』

「無駄?」

 

ワタシの言葉に顔をこちらに向けた。

口にするその目には諦念が垣間見える。

無駄。

記録の上で知っている未来から変わり得る可能性があるのは心配だった。

既にその記録から逸れているんじゃあないか。

あるいは、逸れられるんじゃあないか。

 

だからこそこんな、ニホンにとって有利に成り得る事柄をあえて口にしたのだ。

それなのに無駄とは。

不審を思わず顔に、此方の姿からして見えているのかは知らないが、浮かべるワタシに対し光正は諦めているように。

ただ、首を横に振った。

 

『――ニホン政府は確証がなければ動かないだろうさ。それにこの情報を手に入れたのがキミ……というよりアメロッパで、というのも問題かな?』

「ワタシから? ……あア」

 

そこまで言われ、意味を察する。

ワイリー様の居られるアメロッパ。

アメロッパとニホンは確かに協力はしている。

しかし、表面上はともかくとして水面下ではあまりよろしくないハズだ。

 

『プロト』に続いて『電脳獣』。

そうでなくとも色々と。

そんな所で得られた情報を、確かなモノとして受け止められるかと聞かれれば怪しい。

ワタシを寄越せと言っていたのもその実、情報収集も兼ねてのことだったろうし。

 

グレイガによる被害が日々増大している状況で既に数ヵ月近く。

それを抑えるため、しかも設計上では半年メンテナンスの必要がないと来ているのだから、意地でもグレイガがデリートされるまではフル稼働させたいハズだ。

 

『何かしらの報告書でもあれば別かも知れないけど、それもないだろう?』

「ナいナい」

『だったら無理だ。根拠がないと言って握り潰すハズさ』

 

そう言って、どこか乾いた笑いを浮かべた。

ニホンの。

と言わず、世界でも稀有な科学者であろう光正が。

上から資金を得る以上、避けられない定めと言うヤツか。

せめて空気を軽くしようと、努めて明るく振る舞って見せる。

 

「ハッ――ワイリー様に勝っタってノに、下ダと苦労すんダな?」

『止してくれ』

 

有無を言わさぬ口調。

モニター越し。

電脳世界と現実世界。

その区分は確かにあるにも関わらずその上でも感じさせてくる、底冷えする声色。

カーネルの発するモノとは種類の違う威圧感。

 

溢して見せていた忍び笑いを引っ込めて黙る。

冗談でも許さないと言わんばかりのソレに。

歳と共に積み重ねて来た何か。

上体を僅かばかり後ろに逸らしてしまっていたワタシの姿に己の言動を振り返ったのか、困ったような笑顔に変えた。

 

『あー……すまない』

 

どこか歪んで見える。

マジマジとその顔を見てしまうが、それでも最早そこに何かを見出せない。

 

隠した。

何をだ。

何を知っている。

何を隠している。

 

『ところで最近、ワイリーはどうだい?』

「……っテえと?」

『どう言ったことをしているか気になっていてね』

「ワイリー様? 知っテると思うガ、軍事の研究ばっかダ」

『そうだろう。ワイリーの研究は、ニホンでも無人戦車含め随分と先を行っていた』

「マ、ワタシの見タ目かラしてそうダろうな」

『ボンバーマン。言い方が悪いかも知れないけど、名前からしてそうだからね』

「ダろ?」

『それだけじゃあない。それらに併せたプログラミングの構築からしても天才的だった』

「当然! ワタシを作っタのは伊達じゃあネえ」

『流石にアメロッパ軍の総力を結集して製作したと聞いているカーネルというナビには劣るようだね?』

「――あア、そうダろう。それヨり」

 

等と。

大して価値のない言葉を交わす。

惰性のように適当な話を進めれば、それに光正が乗って来る。

それはそれで、普通の人間が相手ならば良い。

 

しかし相手は光正。

ニホン最高の科学者。

無駄話で終わらせるには惜しい

恐らく今後、このようにゆっくりと話を出来る機会があると思えない以上。

さて困った。

 

「――――」

『ん? どうかしたかい?』

 

楽しくはある。

あるが。

このまま話を続けていても意味はない。

ワタシの知りたいことの一端を知ることには繋がらない。

そうである以上、多少強引に踏み込まざるを得ない。

 

光祐一朗が何時戻って来るか分からない以上、隠そうとしている何か。

ワイリー様に取って有益になるか無益になるか。

そもそも益となるそれか、害となるそれか。

それでも。

 

「――ウん。一つ、疑問ダ」

『なんだい?』

「ナぜニホン政府はまダ、おめえの電子工学を――ネットワークを進めル?」

『…………』

 

踏み込む。

ワタシの記録にもない舞台裏。

その裾を覗こうと。

 

「『プロトの反乱』。『電脳獣グレイガ』。恐ラく次は、ファルザーと来タ」

『………………』

「電子工学を推進しタのはニホン政府最大の失敗、何テ言われテもおかしクねエ。既に不祥事二つ重ねテて、なんデまだネットワーク開発を強行出来てル?」

 

笑みを消し去ったその顔が此方に向く。

無表情。

先程までの、好々翁染みた柔和な顔からは想像出来ない。

光正。

ワタシの知り得ているこの男の情報は、そう多くない。

 

電子工学の権威。

インターネットの根幹。

『プロト』の中に居た殉職者。

ウラインターネットの関係者。

パルストランスミッションの開発者。

ココロネットワークを信じた片割れ。

 

それだけだ。

アメロッパで得られた情報もまた、大凡は功績ばかり。

分からなかった。

その中身までは。

 

「――――――」

 

だからこそ、ここで引く訳にも行かない。

ここでその胸に秘めている何かを聞いておくことが、あるいはワイリー様の何かを動かすかも知れない。

ワイリー様が納得出来るだけの何かが分かるかも知れない。

 

ニホンが落ち目とは言わない。

言えない。

記録から知っている将来の可能性を見れば、むしろ此処からが昇り調子。

 

だが、今は違う。

不審。

そう、不審に思っている。

 

連続して起きているネットワーク災害。

どれほど素晴らしい政策を立てて未来にどれほど発展しようとも、今を生きている人々の支持を集められているか。

ニホン政府は。

 

いないだろう。

わざわざ調べちゃあいなかったが、政治家の責任問題に飛び火していても何ら可笑しくはない。

担当している大臣やら幹部の首くらい切られていても、だ。

 

ならば賢いのは、小賢しくとも方針転換。

矛先をズラすように動けば良いんじゃあないのか。

丁度良く、ワイリー様が居られる。

恥も外聞も投げ捨てて乞えば、案外あっさりとニホンに戻られるかも知れない。

 

というか恐らく、戻られる。

目の前のこの男に、光正に勝てるとなれば、厭味ったらしく散々なコトを言いながらもきっと。

元々はネットワークとロボット、そのどちらかを推進すると言う話。

多少の問題は起こるだろうが、今更ではあっても不可能ではないハズだ。

 

というよりも。

ニホン以外の国からすれば、似た事案が起こるかも知れないネットワーク関連は出来れば避けたいと言う心理が働いていてもおかしくはない。

一年と経たず、二回なのだ。

情勢的にはまず間違いなく、逆風。

 

『――――』

 

ワイリー様の性格なんぞ、ニホン政府はともかく科学省の人間ならば知っていて然るべき。

にも拘らず。

ニホン政府がまるでロボットに方針を転換せず、むしろこうしてアメロッパその他にまで光親子を寄越す程に至極積極的。

 

不審。

不可解。

不可思議。

その理由が分かる、かも知れない。

 

ワタシに引き下がる気が一切ないことを察したのだろう。

また天井を見上げた光正。

出ては、行かない。

ならば。

 

固唾を飲んでただ見詰める。

たっぷりと。

五分ほどか。

経った頃になってそのまま、重々しくその口を開いた。

 

『――――――――誰にも言わないと約束出来るかい?』

「ワタシのデータに賭ケて良イ」

 

口が裂けても絶対に言わない。

撮ってあるから。

噯にも出さず、さらりと答える。

天井を向いたまま、視線だけがワタシを睨む。

怪しむようでいて何処か、縋るような視線で。

 

「…………ワイリー様に賭けテも良イ」

『――――仮に。仮にだよ』

 

それは信じるのか。

思わずそんな風に考えてしまった中、恐らくだろう。

光正は。

 

『――自然をコントロール出来る術があるとすれば、どうする?』

 

その胸の内に抱えていた。

コトの核心を吐き捨てた。

 

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