ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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※今話はご存知の方が少ないかも知れない用語を出させて頂きます。
 それでも、お楽しみ頂ければ幸いです。





019:環境維持システム

 

自然をコントロールする。

普通に考えれば絵空事だ。

笑い飛ばして本当のことを言うよう促す。

 

しかし。

ワタシの記録にある。

確かに、ソレがある。

 

「ソりゃあ……」

『ある――あるんだよ。いや、かつてあった、という方が正しいのだがね』

 

あった。

もう、既にか。

それは知らない。

その記録はない。

隠された設定の類か。

 

だが。

沈黙するワタシの反応を、胡乱なソレと判断したのか。

弱弱しくも、口を開いた。

 

『古代――といっても凡そ三千年ほど前と推察されているが、アメロッパ近くの島々ではアトランピアと呼ばれる文明が栄えていた』

 

アトランピア文明。

記録との違いを調べる一環で知ってはいる。

しかし、よくある滅んだ文明の一つとしか思わず流した記録があったか。

光正は口を開く。

 

『この文明は随分と発展していたことが研究で分かっている』

「出土品も殆んどネえ、チょっと遺跡が見付かっテる程度の文明だっタと思ウが?」

『表向きはそうだけど、その見付かっている遺跡内部――一般には公表されてはいないが、壁面や床面の一部に金属線が施されていることが分かっていたんだ』

「はへエ。変な文明ダな?」

『実際に発見されている遺跡自体、壊れているような物ばかりで数も少ない。色々と研究者達の間でも議論が交わされていたらしいよ――残っているのは儀式だとかに使われるような、特別丈夫に作られた施設だけなんじゃないかなんてね』

 

言葉を紡ぐ。

 

『――あくまでも偶然らしい。調査のために訪問していたニホンの研究者が持ち込んでいた機材を、残っていた金属線に繋いだ』

 

止め処なく、

 

『何を思ってそんなことをしたのかは知らない。あるいは何かしらのアトランピア文明による導きがあったのかも知れない』

 

流れ出していく。

 

『驚くべきことに金属線は回線、今でいうネットワークの一部。そこから、アトランピア文明に残っていたデータベースの一部へとアクセスすることが出来てしまった――――そしてその内部の情報を可能な限り、誰にも伝えることなく、その研究者はニホンまで持ち帰った』

「カスかヨ」

『ノーコメント……その後、ニホン政府へデータについて報告されると同時に、秘密裏に解読が進められた。結果、凄まじい存在が発覚した。その名も』

 

 

 

 環境維持システム

 

 

 

『あらゆる気象現象、地殻等といったこの星そのものにさえ干渉し得るシステムだ』

 

それは、知っている。

記録にあるからだ。

だがそれらしいモノは影も形も見当たらず、かと言って光正は忙しいだろうから野生の天才でも出て来るのかと。

今から約二十年先までの間で異常発展する可能性のある事柄の一つとして、気にしてはいた。

 

『それらのようなシステムの情報。理論。構造。その断片』

 

しかし。

知らなかった。

 

『勿論、疑問はある。本当にそうなら、それほどのシステムを有していながらも何故アトランピア文明が滅んだのかといった疑問が』

 

滅んだ古代文明の遺産とか。

そう言うのは大体、厄ネタだと記録にはあるのだが。

認識が違うのか。

 

『しかしそれを些事と捨て置ける程に、水害。竜巻。地殻変動。他にも様々。当時の季節や地形、その他を鑑みても明らかに奇妙な痕跡が遺跡やその近辺からは複数発見されておったのだから否が応にも信憑性は増した』

 

詳しく調べず流していたが、思いっ切り既に厄臭いのだが。

よくある人工知能の反乱とそう言ったオチじゃないのか。

現在で表せば、ネットナビ達の反乱とかそう言う類の。

 

『――振り返るが。少し前のニホンは、国際競争に勝つための二択を迫られていた』

 

なるほど。

そこでそう来る訳か。

 

『ワイリーのロボット工学か、ワシの電子工学――インターネットか。どちらに予算を集中させるか、というな』

「ツまり――国の奴等は乗っタ訳ダな? 過去に滅びタ文明ノ上に」

『フフフ。そうさ…………これを聞かされ、そのシステムの解明解析復元までを任された時、ワシは心底驚いたよ…………』

 

驚いたってか。

そりゃそうだ。

その決定を下したヤツに、

 

『ロボット工学でなく電子工学なら、アトランピア文明のシステムを模倣出来そうだから選ばれたんだと伝えられてねぇ……っ』

 

人の心は間違いなくない。

だが、国としては正しい。

 

『……これでも。科学省に勤める、科学者の端くれ。システムの解明を進めながら、『プロト』の開発も行った』

 

国は総体。

人間の集合。

人あっての国。

 

『さて。システムの解明を終えた頃、『プロトの反乱』が発生したのはワシの記憶にも新しい。キミにも随分と苦労を掛けたと聞いている――それについては本当に申し訳なかったと思う。すまなかった』

「あア、いや、大しタことじゃ…………あっタが」

 

頭を下げられてしまい、言い淀みながらも絞り出すように返す。

人の命。

対策予算。

後々の対応

数え上げればキリがない。

 

様々な要素を考慮すれば、個人の心情を斟酌しないのは。

分からないでは、ないが。

それを差し引いてもあまりにも、心がない。

 

『――システムの構築を行う場合にどれほどの金額を要するか試算が行われ、文字通り膨大な予算が必要だと分かったニホン政府はその時になって確証を欲した。そのシステムが本物であるとの確証を』

「エ? そノ時にナって?」

『まあ、何せ人災以外のあらゆる災害の防止に繋がるシステムだからね。人類史の革新どころの話じゃあないが、それを差し引いてもまず間違いなくニホン政府は膨大な利益を得られる』

「金か」

『だけじゃあない。それでも『プロト』によって生じた損害を端金と言えるだろう額になるが、だからと言って『プロト』の損害は端金で片付けられるモノじゃなかった』

 

人災以外から人々を守れる夢のシステム。

そう考えれば、光正も、一応の納得は出来たのだろう。

だからこそ、試算が出来る所まで調べ上げれたのだろうから。

 

『――――環境維持システムの解明に伴って、幾つか他のデータについても分かっていた。四つの事象に関わる壊れたプログラム。セキュリティデータの断片。挙げればまだまだあるが……ワシはその中の一つである、セキュリティデータを利用したネットナビの製作を命じられた』

 

ネットナビの製作。

思わず首を傾げそうになるのを堪える。

光正が製作したネットナビともなれば記録にあってもおかしくはないだろうが、量産型ナビを使っている記録しかない。

そう思っている間にも、

 

『仮にこれらの情報が真実であれば、欠損はあろうともそのネットナビはある程度まで問題なく稼働するハズ。その上、その後は残りのデータのセキュリティとしても使えると言う目論見の元に』

 

その口から言葉が流れ続ける。

セキュリティ用のネットナビ。

益々以って記録にはない。

 

『キミなら知っているかも知れんが、『プロトの反乱』に際してその優秀さが仇となってデリートを狙われ、その後に命令が撤回されたナビが居ったのだが……それ自体はまあ良い』

 

フォルテか。

それのデータを利用したとするなら、さぞや強力なナビだろう。

セキュリティとなればガード系のデータがあるとすれば。

知っている中で考えれば、バブルマンは少々強さに難がある。

なら、名人のゲートマン辺りか。

 

『――ワイリーの組み上げたろうキミの物ともまた違う、そのナビに使われていた完全自立プログラム理論と古代文明のセキュリティデータを基に作り上げたネットナビの名は、ファラオマン』

「ハ?」

 

いや、ファラオマンって。

そいつは当然知っている。

だがあまりにも予想外の名前だ。

いやしかし、同時に納得出来る存在でもある。

 

『ふふふ……そう! あえてアトランピア文明ではなく別文明をモチーフに仕上げた……んだけど、そこは関係なかったね――完成させたファラオマンのテストはすぐに実施され……成功した』

 

そりゃあ、セキュリティとしては最上級だろう。

ネットナビとしての性能面からしても恐らく、いやそもそもワタシ以上。

そしてその攻性データを基にしたろうチップ。

 

現状まだ出来てすらない様子のウラインターネット。

その、五大暗黒チップの一角に組み込まれるほどの性能だ。

いやまあ、ちょっとした役割で一度しか現れないワタシとは改めて、比べる必要がない程か。

 

『データ上では棺桶型の防護ビットからはレーザーしか発射されないハズだったんだが、何故か他にも色々出てきたりと不備はあった……が、攻撃行動自体は想定通り行われ、セキュリティデータが真実であることを証明してしまった』

 

「しまった」と言う辺りに忸怩たる思いが伝わってくる。

が、そこは無視させて貰う。

それよりも気になるのは、

 

「デ、そいツは?」

『優秀だったよ』

「……ダった?」

『セキュリティデータの不備か、完全自立プログラムに不具合があったのか……許可された存在の侵入までも許さない事実上の暴走状態に陥ってしまってね。フォルテ――同じプログラムのナビみたいに暴れた場合に備えて最初から鎮圧プログラムが施されていたからそのまま鎮圧、今は封印されている』

「そリゃあ可哀想にナ」

 

封印。

それが脱走でもしたか。

それともワイリー様が強奪して後々利用する方向か。

利用とはいっても、エリアへの侵入防止のためだけの様子だが。

 

「あのケモノ――グレイガっつっタな? ソの対策にも出さレないっテんだ、ニホンは随分とソのフォルテにトラウマがあルらしイなぁ?」

『……かくして。ニホン政府は解明を終えた『環境維持システム』を、国家プロジェクトの名の元で構築へと乗り出すことが決定した――電脳獣グレイガを抑え込めた暁にね』

 

揶揄するように言ったワタシの言葉。

それに曖昧な笑みを浮かべた光正が、何事もなかったように言葉を続けた。

 

『そしてその被害も将来的には些事だったと言える程度になるだろうけど現状、無視は出来ない。だから短期的な抑え込みだけでも出来ればと、キミ達……というよりワイリーに話が行ったらしい』

「馬鹿カ?」

『安心してくれ、ワシもそう思った――これらがワイリーではなく、ワシが選ばれてしまった理由』

「………………」

『ニホンがロボット工学ではなく電子工学を取り、失態と醜聞を重ねている上に追い出した者へと縋り付いておきながらもなお固執し続ける真相――――といって良いと思うが……ハハハ。これで納得して貰えたかなぁ?』

 

乾いた笑い声。

それを溢しながら顔を両手で覆う光正に、何も言えることはない。

首を、ただ横に振る。

しかし。

それでも、あえて何か言うならば、

 

「……冗談みテえな話ダ」

『ああそうさ、冗談さ――自然をそう簡単に操れるハズがないし、それが偶然にも古代遺跡から分かるハズもないし、そんな理由で俺が選ばれて良いハズがない。俺とアイツと、どっちの技術が優れているとかの話だったならまだしも……っ』

 

絞り出すように。

覆っている額に、指が食い込んでいるのが分かる。

震える言葉が、両の手の隙間から零れ落ちて行く。

 

『こんなの悪い冗談だっ……! 誰も信じるハズがない――――冗談でもなければ、一緒に励んだワイリーに合わせる顔がない…………ッ』

「……マあ、安心しロ。誰にモ言わネえ」

 





「言いワしネえ。言イわな」
『………………』

えげつないことをする。
少なくとも。
ニホンの技術を引っ張っていただろう二人に対する仕打ちとはとてもじゃないが思えない。
利益が大きいのは認めよう。

しかし何度でも、そして改めて言おう。
ニホンの発展に貢献してきた人間に対する仕打ちとは、とてもじゃあないが思えない。
何処のモノとも知れない技術を利用したいがためだけに選び、しかもそれを本人に伝え、解析までさせる等と。
余りにも、心がない。

『………………』

無言のまま、ワイリー様が再生機材を壊す。
その様をただ見守る。
壊す。
壊す。
壊す。

それは光正に向けておられた微かな憎悪もない。
ワイリー様自身を焼き焦がしていた怨念もない、
ニホン政府に対する嫌悪。

すらも、ない。
無。
底なしの、虚。
ひたすら顔に無を映したまま、手に持ったキーボードを再生機材に振るう。

キーボードが壊れれば、機材をテーブルから引き摺り落とし。
手近な椅子を引っ掴んで叩く。
叩く。
椅子の脚が曲がっても気にする様子もない叩く。
ただ叩く。

不意にその手から椅子が飛んで行く。
ワイリー様の手に注視すれば、衝撃に負けたのかその手の皮が破け、血を流していた。
声が出そうになる。

しかし僅かに眉を動かされただけで、その表情はまた無へと戻る。
手がダメならばとその足で潰す。
機材の一片すら残すことすら憚るように。
原型の僅かすら許さないように念入りに。

踏み潰し。
踏み壊し。
踏み躙り。

『    ……………………はぁぁあ~……クソが…………帰る』
「オ疲れ」

止まったタイミングでマイクを点ける。
何事もなかったように背を向けられた。
努めて軽く答え、扉を操作して開ける。
見れば、外に控えていた兵士が見開かれた双眼を部屋に向けていた。

破壊音が僅かながらでも響いていたのか。
だとしたらどれだけ派手な音が鳴っていたのやら。
止まるまで消音にしていたワタシには聞こえてなかったが。

しかしそれを気にされる様子もなく、廊下に消えていった。
唖然とした表情でワタシに視線を向けて来る兵士に、モニター越しだが肩を竦める。

「すマん、光正のコトで気に障ったミてえなんダ。悪イが片付けテくれ」

慌てた様子で道具を取りにだろう出て行く兵士を見送り、息を吐く。
ワタシの命もこれは明日で終わりかも知れない。
それでも。
ただただワイリー様の様子が心配でならない。

「……」

さておき。
ゆっくりと瞼を下ろして。
あの後の記録を、思い返す。


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