ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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002:ハッキング

 

ワタシは、ボンバーマン。

仮称『異世界転生ボンバーマン』。

とでも言おうか。

記録は歯抜けだ。

とは言っても、記録の内容自体は確かと考えられる。

ならば消去候補のデータではあるが、この名称が一番現状に合致しているだろう。

 

まあ、そんな戯言はさておき。

進めていたワタシがワイリー様と行った給料交渉は失敗に終わった。

まあ、当然。

自分の作った道具が急に給料を要求してきたら困惑しないハズもなし。

むしろ無言でデリートされなかっただけ有難いぐらいだ。

それはされないと踏んではいたが。

 

しかし失敗に終わった交渉も、ワタシにはこの交渉自体に意味があると考えていた。

記録が確かであれば、そして『カーネル』の知っている限りの現状では、今のワイリー様は「優しさ」をお持ちである。

「甘さ」と言い換えて良いかも知れない。

ならば、だ。

 

「自主的に考えタ事柄を、無下にはシないカ?」

 

ましてや、ご自身で作られたネットナビのこと。

無関心な様子ではあった。

だが、多少の愛着はあるだろうと言う悪知恵を働かせてのことでもある。

幸いこの考えが正しいと証明された。

当初こそ困惑されていたワイリー様であったが。

 

「外ニ出タい」

「外はゼニーが必要ダ」

「ナら給料を貰うしカない」

 

と言う風な道筋を立てて説明したところ、応じて下さった。

ただし借金と言う形で。

 

『ゼニーは渡す』

『それを使ってでも良いし、使わなくてでも良い』

『だが、ゼニーを渡しただけの成果を持って帰ってこい』

 

そう言うことになった。

実に楽しそうに。

これについては非常に都合が良い。

給料は仕事を熟さなければ貰えない。

だが成果を持ち帰れば良いのであれば色々とやり様がある。

 

正直、出る許可さえ貰えれば良かったのだ。

出ればウイルスバスティングなりで稼げる見込みはあった。

成果に関しても、最低限はチップデータなりをお渡しすれば良いと考えていたのだ。

そこから徐々に許可の範囲を、と考えていたのだが。

しかし、あろうことかワイリー様はワタシに対して、自由な行動を許可して下さった。

 

いや、現在身を寄せているアメロッパに対して不都合なことのないようにと釘こそ刺されたが。

自由。

甘美な響きだ。

監視プログラムを付けられるでもなく、能力の制限をされるでもない。

むしろ何かあってデリートされないか心配して下さったのか、『フルエネルギー』系のサブチップまでご用意までして。

本当のことを言えないのが申し訳なく思うほどの手厚さだ。

 

だが、少なくともこれからする行動が、ワイリー様にとって不具合が生じるかと言えば生じないと言うことは確信を持って言える。

何をしようと言うのか。

それは簡単。

アメロッパ国外への訪問、もといハッキングであった。

 

 

 

ワイリー様はハッキリ言って世界最高峰の頭脳をお持ちである。

専門分野から外れているネットナビ製作においてさえも。

記録にある限り、現状から鑑みるにおおよそ二十年後でも通用するネットナビ『カーネル』を作られたのだからその技術力の高さが窺える。

いやはや、流石だ。

まあ、二十年後までには都度アップデートはされていたと思うが。

 

とにかく。

ニホンの技術の中枢である科学省。

そこに在籍している、光正。

彼こそが恐らく現状で唯一ワイリー様に匹敵する能力を持っているのだろう。

 

だがその彼は暫く前にPETの開発に携わったようだが今現在、大規模ネットワーク『プロト』の運行と運用で忙しい状況にあると言うのはアメロッパ内の情報を見て分かっている。

ワタシの有する記録から、コサックの作った『フォルテ』が油断ならない存在であると言うのも理解している。

いるが、そちらはそちらでまだ暫くはニホン国内で働いていると思われるので放っておいても良いだろう。

 

そう。

ワタシの有する記録的に見て。

アメロッパ軍からスカウトされる程の技術的に見ても、ワイリー様の作られたワタシを越え得るネットナビは現状、作成され得ない。

される環境ではない。

PETの扱いにも苦慮しているような具合だ。

 

いや、いきなり携帯電話だとかスマートフォンなるモノを渡されて使えるようになれと言われても使えないだろう。

それに技術レベル自体が本来踏むべき経過を無視しているぐらいに隔絶している代物だ。

ある種、そう言う部分の補助のためのネットナビではあるが。

 

ともかく。

あくまでも個人では、と言う但し書きは付くが、団体もとい国家の方もクリームランド等のようにまずネットワークの導入と構築を本格的に進めているような段階。

基盤を整えている最中なのに、ナビ作りに手を回せるほどの余裕はない。

そのお陰でか、ネットナビも居るには居るが、まだまだ不出来。

会社として部門を立ち上げている所もある様子だが、成果を期待される段階にはない。

プログラムくんは見受けられるが此方もイマイチ。

 

そう言う視点で見るに。

現状のセキュリティは穴だらけと言っても差し支えがなかった。

正確に言えば、セキュリティはあるにはあるが、ネットナビと言う存在を対象にするには脆弱極まる。

各国間を跨るネットワーク検問もまた同様。

 

現実世界的に表現するなら、道が出来てない場所はまだ多くあるが、道の続いている先の家々はどこもかしこもカギより先のトビラすらまともにない状況と言える。

入り込み放題、ハッキングし放題。

ニホンのネットワークを覗いた限り、あそこは頭幾つも抜けていると言って差し支えないので無視するとしてだが。

 

そうしてワタシが十四日間。

世界各国の繋がっている場所を――ただし一日はニホンへの潜入と観光、脱出に消費して――巡りに巡り、欲しかったデータを集めに集めた成果が、

 

「――これダ」

『ボンバーマン…………ワシはどうやらお前を侮っていたようじゃな』

 

画面越しにワタシの集めたデータを見られたワイリー様がその顔を引き攣らせた。

それを拝見し、ただ頭を下げる。

収集したデータ。

 

それは医療機関を中心とする施設関係から手に入れたデータだ。

某国の重要機密として取り扱われるような人体実験の研究データの他、一般的な病院の治療データまで。

 

恐らくニホンのようにネットワークの導入に向けてセキュリティが碌に組み上がっていない状態で、国の方針に沿って紙データの電子化を頑張っている結果なのだろう。

一応のセキュリティはあったが、対ネットナビ用のセキュリティと言うなら甘過ぎた。

だからこそ、その甘さに付け込んでデータを集めに集められた成果がここ、ワイリー様のコンピュータ内にある。

 

『…………念のために聞くが、痕跡は残しておらんじゃろうな?』

「もチろん。データを手ニ入れるダけに留めタ」

『なるほど……ハッキング用のシステムも組み込んではいないんじゃな?』

「……申し訳ねエ」

『いや、賢明な判断じゃ。万が一でも逆探知されれば言い訳が出来なくなる』

 

ただ無言で頭をより深く下げる。

暫くの沈黙。

何かを考えているらしいが、本筋は伝えなければならない。

 

「――ワイリー様」

『――なんじゃ?』

「コのデータ、特に医療データをアメロッパ軍に提供しナいカ?」

 

反応が消えた。

訝しみ、微かに覗き見る。

険しい表情のままだったモノが、ゆっくりと解けていく。

微かに頷きながらも溢される言葉には、納得の色があった。

 

『…………そう言うことか……そう言う事だったのか。考えておこう』

 

とは言ってもまだ、険しい。

しかしその目元は緩んでいるように見受けられる。

反応が思ったよりも良くなかった。

いや、悪かったのには焦ったが、幸いだ。

内心で舌打ちする。

 

焦り過ぎたのだ。

考えが浅かったと言い換えても良い。

将来的には悪の秘密結社を創られる可能性があるからと言って、そもそもの遵法精神がないと言う訳でもなかろうに。

猛省しているワタシを他所に、何事かを考えておられる様子だったワイリー様が頷かれた。

思考を断ち、耳を傾ける。

 

『一先ずこのデータの管理はストーンマンにさせる――ボンバーマン!』

「ハッ!」

『これらのデータは使う者が使えば億千の価値がある! 故に他言は厳禁じゃ! もし他言すれば……』

「すレば……?」

『デリートじゃ! 分かったな?』

「メモリーに刻ム」

『よし! これからも自由行動を許可する。さらばじゃ』

 

音を立てて通信が切れる。

それでも数えて五つほどは頭を下げたままにし、ゆっくりと上げた。

大きく、息を吐く。

電脳世界では意味のないことだが。

それでもそれをせざるを得なかった。

 

さて。

これらのデータについてどうされるかは分からない。

今は恐らく仰られていた通り、ストーンマンに保管させるべく連絡されている所なのだろう。

目的は達せられた。

 

医療データの収集。

即ち、バレル様の父親であるキャスケット様の死を防げるのではないか。

そう考えての行動だ。

どのように亡くなられたかについてはワタシの記録には残ってないため分からない。

 

だが、医療が発展すれば防げる、可能性がある。

所詮は可能性だが、ワイリー様が悲しまれる可能性が減るのであれば、何もしないよりかは遥かに良い。

と言うのが一つ。

実のところ、それ以外に幾つか目的もあった。

ワタシの前世とでも言うべき記録にある思い。

それを満たすと言う目的も。

 

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