ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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020:一筋の光

 

顔を覆った光正。

その両手が離れるまで、十分ほどは時間を要したか。

それでも、離しただけだ。

吐露したのはほんの僅かでしかないのだろう。

 

顔色が酷く悪い。

光祐一朗が戻って来ればと思ったのだが、その様子もない。

いやでも今、戻って来られるとそれはそれでワタシの立場がマズいんだが。

 

ともあれ。

まあ、十分もあればワタシでもその対応策ぐらい思い付く。

ワイリー様は犠牲になるが。

 

「――――オい」

『…………なんだい?』

「おめえかラ見て左奥のサーバーの中に工具箱がアる」

『……それで?』

「ソん中にワイリー様の隠しテる秘蔵のビスケットがあるんダ」

『……ふふふ、ありがとう。有難く頂くよ』

 

食べて良いとは言ってない。

ワタシは在り処を言っただけ。

内心の言い訳はこれにて完了。

早速、工具箱からビスケットの入った金属性の、何か押すとペコペコ鳴るぐらい薄い箱を取り出していた。

 

まあ工具箱と言ったものの見た目が工具箱なだけで中に工具が入ってる訳じゃなく、勝手に開ける者が居ないように工具箱に偽装しているだけらしい。

あと、保存が利くように。

そりゃあまあ、普通はそんな所に工具箱があったら開けないだろう。

 

『ん……これは…………うん、中々……』

「そリゃ良かっタ」

 

コーヒーと併せて次々と食べ進めて行く光正をぼんやりと眺める。

おおよそ八割ほど残っているように見受けられたビスケットだが、そう経ってないのにもう残り半分近く。

やけっぱち。

在り処を伝えたワタシが言うのも何だが、遠慮がない。

別に良いけど。

 

「……味ハどうダ?」

『いや、本当に美味しいよ。銘柄も――有名どころのヤツかな? 聞いたことがあるようなないような……』

「一時間あレば買いニ行けるトコのダったと思うガ……まダ買ってソんな経っテねえかラ湿気っテもないんダろ」

『こんな時でもそう言う時間はあるんだね』

「そリゃ買い物すル……待テ、コんな時ダぁ?」

 

大した意味もなく返したのだろう。

だが、思わず聞き返したその言葉の持つ意味に、露骨に表情を歪めた。

恐らくは最上級の秘密をワタシに知られて若干、警戒が緩くなったのか。

それとも甘味の所為で気が緩んだか。

 

だがワタシとしては好都合。

睨み据えていれば、手に持っていたビスケットを口に含み、飲み下した。

何事もなかったようにコーヒーにも口を付けてもいる。

手を止める様子が微塵もない。

 

「隠すヨうなら、こノ部屋から出セねえなア?」

『…………まあ、何れ分かることだけど。騒動が近いだろうね、アメロッパは』

「騒動?」

『ああ。キミはワイリーのことをどう思ってる?』

「稀代の天才」

 

ワイリー様はご謙遜されることも、いやそれはないが。

そもそも専門外であられる電子工学、そのネットナビ製造でおおよそ二十年先においてもなお屈指の存在であるカーネルの製造。

ニホンの軍事力を数段引き上げたとされる上にこれまた二十年先であっても現役戦力として使われていた多脚式無人戦車を始めとした軍事機器。

 

そしてそれを有効活用するためのシステムの構築まで出来る。

運が悪かっただけで一つの時代を築ける天才で在らせられる。

少なくとも。

目の前で頷いている光正が存在しなければ。

 

『その通り。それが今回、悪いんだ』

「っつウと……」

『元々力のあるアメロッパだが……ワイリーはロボット工学のみならずシステム関連でも成果を挙げているのは当然キミも知っているだろう?』

「あア」

『アメロッパがワイリーの力で更に国力を付けると警戒している国も多い。そして残念ながら――どことは言えないけど、消耗させるためだけに騒動を起こそうと言う国もあるんだよ』

「……厄介なもんダ」

 

ニホン陸軍の無人戦車。

立地的にそれほど有効活用出来ないはずの場所にあるソレが、後の世で「ニホンの誇る」とまで言われるのだ。

他国ともある程度は地続きの場所があるアメロッパに、そんなワイリー様のお造りになられる軍事機器が跋扈する状況になればどうなるか。

 

いや、そうでなくとも人力の必要な部分をワイリー様のロボットが代替すればどうなるか。

本来ならば国力と言う人間を削り合うハズの戦争が、一方的なパワーゲームに変わり得る。

 

ご友人で在らせられるキャスケット様がワイリー様をスカウトしたのは当然、憐れみだけであるハズがない。

実利を十分に伴っていたからこそ、アメロッパ軍内部に居場所が出来ているのだ。

しかし、それが問題だ。

今の時期も問題だ。

 

『……随分、心配そうだね』

「ワイリー様がアメロッパ軍にスカウトされタのは、軍事ロボ開発のタめ。そレは百も承知ダが…………」

『……心配ないさ。ワイリーが騒動の元に行くことはまずない』

 

思わず固まる。

普通そういう心配だと思うか。

そりゃそうか。

しかし、ワタシが心配しているのはそれではない。

司令官の、キャスケット様の方だ。

 

ワイリー様は現在、悪の道を進まずに居られる。

それは単にキャスケット様の存在。

ご子息であるバレルによって一時はその足を留めることになっても、止めるには至らない。

何処まで行ってもキャスケット様あってこそ、ワイリー様は止まって下さるのだ。

 

「――光正」

『何かな?』

「ワイリー様が軍を手伝ってルのが不満カ?」

 

苦虫を嚙み潰したよう顔をした。

 

『いや、科学と戦争は切り離せない。土木作業で使われたダイナマイトがその役割を増やしたように』

「ワタシにソう言うカ」

 

一瞬だけ。

すぐ表情を切り替え、そのようなことを口にする。

しかし話を重ねたからだろうか。

柔和に見える顔の皺には、憂鬱そうな色が刻まれて見える。

 

同様に。

だが、全く考えていることは違うだろうがワタシも憂鬱だった。

恐らくはコレだ。

キャスケット様がお亡くなりになるのは。

これからの騒動が切っ掛けなのだと。

 

『ニホンはこれに関わることはないだろう』

「ダろうな」

『だからこそ無責任なことを言うけれど、キミはキミに出来る最善を尽くすと良い。せめて後悔はしないようにね』

 

確かに。

ワタシに出来ることはどうしても限られる。

もっと言えば世界を隔てた向こうの話だ。

現実と、電脳の。

既に動いてる流れを変えられるとも思えない。

 

それでもワタシはともかく、ストーンマンが居る。

当初の予定では医療系のデータを渡すだけのつもりだった訳だが、キャスケット様にストーンマンも同行させるようワイリー様にお伝えすればまあ、生き残られる可能性は上がるだろう。

 

「ありガとよ」

『頑張ると良い』

「おウ、ちっトは頑張ル」

『それで、他に何か聞きたいことはあるかい?』

「ア?」

 

随分と気前が良い。

少しばかり、その内心が気になるぐらいに。

睨んでみても笑ったままで反応はほぼない。

裏がないように思えるが、それであっても、

 

「何ダってんナこと?」

 

聞かずには居れない。

対する光正は相変わらず笑ってビスケットを口にした。

 

『キミはワイリーが見せてくれている、未来のネットワーク社会に溢れ得る可能性の一つ』

「ワタシが?」

『ふふふ……偉そうな言い方になるけど礼節も重んじた、心あるナビだ。その未来を少しでも広げようというのは別に不自然じゃないだろう? ――これのお礼でもある』

 

食べ掛けのビスケットを指に挟んで揺する姿。

あんまりにも不自然だが、光正のことだ。

何かしら考えのあってのことだろう。

 

抱き込みたいのか。

ネットナビであるこのワタシを。

あるいは繋がりを作っておきたいとか。

今後のネットワーク社会の発展を考えれば可能性はなくはないが。

 

それとも。

本当に。

ワイリー様に、可能性を見ているのか。

どれだけ言い繕おうとも、ニホンから追い出され辛うじて怨みを抑えているだけに過ぎないワイリー様に。

 

「そウか」

 

いや、視点が違うんだ。

ワタシが知っているのは。

ワタシが生み出されてからと恐らく将来的に成り得る可能性のワイリー様だけ。

 

光正が知っているのは。

共に研究を進め、人類を繋ぐ可能性にまで到ったワイリー様。

その名の通り、正しく光を見ているのなら、ワイリー様の内からまだ表に出てすらいない闇を見ているワタシの姿は酷く愚かしいことだろう。

 

思わず小さな笑いが漏れる。

己への嘲りか。

光正への侮りか。

 

どちらにしろ、どちらでも良い。

聞きたいこと自体はあった。

ワイリー様は恐らく持ち出せてはいないだろうから、頂けないと考えていた情報が。

 

「じゃア言わせテ貰う」

『言ってごらん』

「パルストランスミッションシステム」

 

光正の顔に鋭さが宿る。

しかし、それでも言葉を続ける。

 

「ソのデータが欲しイ」

 

と。

 

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