ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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022:善悪一如

 

ワイリー様が戻られた翌日。

つまり色々と壊された翌日。

どうなることやら。

 

そう緊張していたワタシを半ば無視して、ワイリー様は新しいキーボードを叩いておられた。

ワイリー様の中では昨日の事柄。

光正の諸々とでも言うべきか、映像はなかったことになったのだろう。

 

なら有難い。

記録が原因で「デリートじゃ!」の事態は避けられる。

そうであるなら後は簡単な話。

キャスケット様の死を防ぐため。

早い所、外に出して頂ければと言うことだけだ。

 

「………………」

『………………』

 

まあ、流石にそう上手くは行かない。

忘れることにされてはいても、それでも気まずさはある。

何かしら切っ掛けがあれば良いのだが。

 

そんなことを考えながらデータの整理を進める。

色々と進んだ。

キャスケット様の死に繋がる可能性の高い何某か。

パルストランスミッションシステムのデータが来れば、それを利用した食事の再現。

そして中身に関してどの姿にするか、ようやく決めた。

 

優先順位として。

医療データ満載なストーンマンの派遣を提言。

次いで中身と外見の完成。

そうなれば外に出ても問題なくなるので、死に関わり得る危険情報の収集。

 

優先されるのはこの三つ。

戦闘力の増強は近々行ける。

新しい姿用のボムデータも、前から用意していたモノと軽く作った幾つかが出来ている。

食事の再現は暫く先になるのは、本当に本当に仕方ない。

以上。

 

これをどう成すか。

そうこう無意味に頭を捻っている内に、電子錠が鳴った。

目を向ければ、リーガルの文字。

操作する必要もないが即座に開ける。

滅茶苦茶丁度良い時に来てくれた。

 

『失礼。邪魔をする』

『おう』

「ラっしゃイ」

『早速で悪いが、光正博士達がほぼ半日此処に入り浸っていたと聞いたぞ? どんな話をしたんだボンバーマン』

 

若干興奮気味に入って来たリーガルが、ワタシのモニターに最も近い所に勢い良く座った。

驚いた様子のワイリー様に気付く様子もない。

ワイリー様が光正に良い感情を持ってないのを知っていてこうとは、肝が太い。

だが、乗らせて貰う。

 

「アあ、ワイリー様に禁止されテる」

『……親父?』

 

まあ別に禁止されてないんだけど。

言っちゃあ色々とマズいこともある。

そんな内心を出さないように注意しながらワイリー様を見やる。

 

リーガルの顔だけがワイリー様の方へと向いた。

それに対し、鼻を鳴らして答えられた。

だが、一分ほどもしたか。

諦められたかのように口を開かれた。

 

『――――光祐一朗とした話であれば許す』

「デ、良いカ?」

『……仕方ない、それで妥協しよう。どんな話をしていたんだ?』

 

若干呆れた表情が、モニターの方へと戻って来た。

話を促すようにその顔が動く。

肩を竦めて口を開いた。

 

「今後の、世界の話ヲ少ししタな」

『光祐一朗博士とか? …………ネットナビの第一人者だから分からないでもないが……どんな?』

「そうダな……例えバ、ナビに属性が当然みテえに付くようニなるっテ話をしタな」

『陳腐化する、と言うことか?』

「と言うヨり専業、特化型ナビが出るっテ話ダ」

 

例えば、カーネル。

軍用ナビとして、現実世界の機械類の操作も出来るカーネルは、そこに居るだけで情報収集から戦線の維持までを一体で行うことも可能となるだろう。

流石にそこまで可能となるナビは将来でも殆んど居ないだろうが。

 

水道局に勤めていた職員のナビであり水の供給を止めたアイスマン。

科学省内の、流石に小型だろうとはいえ、発電所の大電力をも単独で操れるエレキマン。

気象衛星をハッキングして世界に大雪を見舞わせたコールドマン。

 

パッと浮かぶだけでもこれだけ居る。

これらは戦闘も熟せるが、完全に専業化すれば単独でも様々な施設を管理し得る。

そうしたナビも、将来的には本当に出てくるだろう。

 

そうなれば。

施設の省力、あるいは最適化。

金銭や機密データの運搬等もより安全になる。

即ち、色々とより便利になって行くだろうと言う話だ。

 

そんなことをツラツラと口にし終えて。

数十秒ほど経ったか。

訝し気な目を向けて来ていたリーガルがため息を吐いた。

 

『…………それで?』

「アぁ……?」

『まさか、話したのはそれだけじゃあないだろ? そんな希望に満ち溢れただけの話をしていた訳じゃあ、まさか』

「…………ハッ!」

 

思わず、嚙み潰した嗤いが漏れる。

勘が良い。

いや、鋭いとでも言うべきか。

まさかそれだけで終わる訳がない。

 

「そノ通りダ! 犯罪が増加するダろうっテな!」

 

凶悪犯罪が増加する。

ナビ所有の有無で広がる格差。

 

頭脳労働のみならず、機械操作すら行えるプログラムにより雇用減少。

重要インフラ設備を人間に任されることで実質支配するナビやプログラムくん達。

重要な事柄に対しては、少数精鋭化に伴う隠蔽体質の強化。

ナビが犯罪を犯したとしてもその所有者、責任の所在の曖昧化。

 

そして。

人間とナビとの主従逆転。

高性能なナビのみが重要視される世界。

 

あるいは。

ナビのオペレーターを狙ったテロに脅迫。

優先されるべき現実と、その支えであるべき電脳、その逆転。

 

数え上げればキリがない。

記録による予測もあるが。

 

「マ、そんなとこダ」

『…………随分と悲観的だな』

「体制の変革、移行ニゃよくあルことなんダろ?」

『まあ…………分からないでもないが』

「なんダよ、歯に何カ詰まっタみてえな」

『……そう――悪の蔓延る世界になると――光祐一朗は言ったのか?』

 

おっと、来たか。

何の意味もなくわざわざ悲観的な未来を語っていた訳じゃあない。

リーガルの心。

全ての人間は悪である。

全ての人間が罪人である。

 

言ってしまえば、性悪説。

その心、考えを既に持っているのかが気になっての言葉でもあった。

持っているなら、ワイリー様が知っておいて損はないのではないか。

あるいは。

 

「いヤ、ワタシだガ?」

『ほう? まさかお前が性悪説を信じているとはな』

 

笑っているようで、鋭い視線が貫いてくる。

その信念が芽生える前ならば。

平凡な善なる道へと進めるようになるのではないか。

少しばかりそんな考えがあってのことだ。

 

何せ将来的にリーガルのやらかす可能性があることは、割と洒落にならない。

規模はモチロン、内容も含めて。

しかも、それを起こしたからこそ将来的な禍根、災いの芽を摘み取られると言った事柄でもない。

 

要するに、リーガルがすることが回りに回って世界が良くなるようなことではなさそう。

で、ある以上はやらかさないに越したことはないのだ。

だからワタシはこう答える。

 

「いヤ、別に」

『……なら性善説か』

「無記説ダな。零歳児にンな難しいコト聞くんジゃねえ」

『無記説?』

 

そう適当に返す。

だが生憎、聞いたことがなかったらしい。

訝し気に眉間に皴を寄せているリーガルを他所に、傍から聞いておられたワイリー様がため息を吐かれた。

 

『……ボンバーマン、一体どこからそんな言葉を調べた?』

「インターネットは広大デな。大体の情報は何処かしラある――ちナみにコレは、プログラムくんが襲っテ来るウイルスに説法しテた時に言ってタ」

『何なんだその状況……いや、無記説と言うのは?』

『産まれてすぐは善も悪もないと言う思想じゃ。要するに、どっちつかずの言い訳よ』

 

鼻を鳴らして答えられたワイリー様。

それを聞いたリーガルが、額を軽く叩きながらため息を付く。

 

『はぁ……ボンバーマン。ワタシはこれでも、それなりに真面目に聞いたつもりだったんだが?』

「しょうがネえダろ、零歳児なんダから」

『お前のような零さ…………お前は零才児と言わん!』

『やれやれ。まあ…………ならお前は、悪でも善でもないと言うことか』

「いいヤ、ワタシは悪ダぜ、生まれながらにしての悪ダ」

 

微かに、リーガルの眉が僅かに動いた。

それに気付いてないように、さらりと流して口にする。

 

「零才で大量殺害にデータの強奪マで熟す。生粋の悪党ダ、コのワタシは」

『! ………………ウイルスバスティングをそこまで悪し様に言うナビを初めてお目にかかったよ――本当に、生まれながらにしての悪党だな』

 

睨んで来ていたワイリー様が、意味に気付いたようで視線を逸らした。

知らなければそう思うだろう。

ウイルスバスティングで、ウイルスからデータを抜き取ったのだと。

 

だが、ワイリー様はご存知だ。

二つの意味で、ワタシは噓を言ってない。

ウイルスからデータを奪い取ったのは真実だ。

しかし。

各国の医療データを盗んで回った、割と生粋の悪党だと言うことも。

 

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