ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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023:不穏の影

 

善と悪。

それ以外もある。

要するに灰色とか。

 

割と極端なコトを言うリーガルに、頭の片隅にでも留めて欲しい。

その結果が、少なくとも悪いようにはならないだろうと思ってのことだが、難しいだろう。

ワイリー様のご子息だけあって、割と頭固い所あるし。

夜まで居るのは宜しくないから等と出て行くリーガルの後姿を眺めながら、そんなことを考える。

 

時間的に少し暗くもなっているだろうし、心配になるが。

まあ、何時ものこと。

ワイリー様が見逃しているのだから大丈夫なのだろう。

形ばかり、瞼を下ろす。

 

細やかに秒針が動き、時計が時を刻む。

キーボードを叩く音。

電子機器の唸り。

 

「――――ワイリー様」

 

そんな、稼働音にだけ包まれた世界で独り、動き続けるワイリー様を見やる。

流れる水のように淀みなく動き続けるその姿。

電脳世界の住民と言う、住む世界からして違うといったある種絶大なアドバンテージを有していながら技術面においてワイリー様に勝ると思うことも出来ない。

 

「姿、決めタぜ」

 

美しさすら感じるコード。

記号が不意に、その流れを止める。

包帯の巻かれた指が止まった。

 

リーガルもあえて口にしなかった。

あるいは家で聞いていたのかも知れない、手の怪我。

それを感じさせずに動かされていた指が動きを止め、

 

「ソの姿と外套がアりゃ、外デ動けるダろ?」

 

一対の瞳がワタシを見据える。

睨むようでもない。

ただ、向けられた。

何処か平坦なその表情がワタシに探りを入れるように見据えて来ている。

 

「もウ随分と経ツじゃあネえか? いイ加減、外、出しテくれヨ」

『…………それが真意ではないな?』

 

平坦な言葉が耳に滑り込んでくる。

とは言えこれは、行き過ぎて狂っている訳ではない。

感情を抑えているだけ。

何もかも、お見通しと言うことか。

怖い怖い。

 

「諍いガ近いんダろ? 情報集めニ動きてエ」

『……フン! 奴から聞いたか』

「オう、っつウ訳でワイリー様の役に立ちテえ訳ダが、ダメか?」

 

吐き捨てるように口にされた後に、透かさず言葉を詰める。

答えはない。

だが、僅かに変わった表情。

 

何かを考えるように動く瞳。

少なくとも、暫く前に比べれば、そのご意志がかなり和らいでいるのが分かる。

もう少し押せば、行ける。

 

「アくまで探るダけで、分かっタのはちゃあンと報告すル。デ、どウよ?」

 

半ば確信を持って詰める。

恐らくは現状、キャスケット様に何か起こるとは思ってはおられないだろう。

 

しかし、アメロッパに何かあれば自身の関わる環境に変化が生じる。

ましてや、ワイリー様の居られるのはキャスケット様の懐。

軍部。

可能性としてある情勢の変化や影響を、他の部署と比べれば遥かに受ける。

 

『……電脳獣の件がある――お前の警戒しているファルザーも』

「ダからこソ、もう一つの姿が役立つ。ダろ?」

 

気にされてはいるだろう。

本当にそうであれば。

 

だが、ストーンマンは遅いし巨体故に目立つ。

カーネルはキャスケット様の一応、所有ナビ。

ならば新しいナビをわざわざ作ってまで探るかと言えば、そこまでする必要があるかは微妙な所。

 

何せワタシ自身、正直に言うなら可能性は限りなくゼロに近いと考えているのだ。

キャスケット様が亡くなられる可能性は。

ただ、時期的にキャスケット様が亡くなられる可能性が高いから気にしているに過ぎない。

何の情報もなければ、重要度で言えばそれほどではない。

 

気にはなろう。

しかしその手をわざわざ別のコトに割いてまでしようと思えるかは微妙。

だが、ワタシが居る。

やがて。

沈黙されていたワイリー様がゆっくりとその口を開かれた。

 

『……キャスケットから、その諍いに関する詳細は教えられないと言われた。機密も含むからとな』

「本当カ?」

『うむ。そして実のところ、つい先日にネットワークの整備をした地方はそこじゃ』

「…………」

 

新情報。

光正と会いたくないから出掛けていただけだと思ってたが。

キチンとした話であるなら、その意味合いが変わってくる。

 

となれば。

一般的には知られてないが、国としては結構な警戒区域と言うことになるか。

いや、ワイリー様がそう言ってるだけでそこまで深刻ではない可能性もある。

少なくとも今は、まだ。

 

あるいは、何かしらから目を逸らさせるのが目的か。

肌身で現地の雰囲気を感じて来られたのだから、何かしら思う所があるのやも知れない。

ワタシではどう足掻こうとも感じ取れない事柄ではある。

 

『――今夜やろう』

 

さらりと。

蛇口を捻るような滑らかさで。

あっさりとそう口にされた。

 

「! ……仕事は良いのカ?」

『こんな仕事、一日二日で終わる訳あるまい。期日に余裕も見とるし一日延びるぐらい誤差じゃ、誤差』

「良いノか、ソれ……?」

 

良いのかな。

良いのかも。

まあ、ワイリー様が良いと仰られてるのだから問題ないのだろう。

 

『お前のデータをそのままインストールするための新しい素体は既に用意してある。それと外見、あとは声のデータもか? それらを組み合わせればすぐにも出来るじゃろう』

「アぁ?」

『ん? なんじゃ?』

「ワタシの素体、そノまま使エば良いじゃネえか」

 

思わず声が漏れた。

元々は今の体をそのまま使う予定で、素体と羽織る外装との調整を手伝って頂くぐらいのつもりでいたのだ。

ワタシのために時間を割いて下さるのは嬉しくもあるが。

時間を取ってしまう申し訳なさもある。

そんなことを思いながら口にしたが、軽く笑われた。

 

『芸がないわ! 新しい酒は新しい革袋に、等と言われるが別に古い酒を新しい革袋に入れて悪い訳ではなかろう』

「ま、まア、ワイリー様がソう仰るナら是非お願イすルが…………」

 

ワイリー様がわざわざご用意して下さった素体。

それを使わせて下さるのなら、より一層の性能アップも見込めるから非常に嬉しい。

唯一心配なのはキチンと謎の記録までその素体の方にインストールして下さるかどうか、ぐらい。

 

そこに関してもキャッシュデータ何かが戦闘経験用にもなるだろうからとでも言って、一先ず全てのデータをちゃんとインストールして下さるようお願いすれば良い。

細かな分類仕分は移ったボディでするとしよう。

 

『………………そろそろ一年になる。誕生祝いも兼ねて、じゃ』

「……へェ」

 

そう言えば。

ワタシの意識が、記録の所為でか曖昧だった時期を踏まえれば。

もう、一年経つのか。

経ったのか、それだけ。

 

『プロトの反乱』と『電脳獣グレイガ』とか言うクソみたいなイベントが二つもあったから忘れていた。

まあ、グレイガの方にはワタシが自分から突っ込んでいった訳だから仕方ないにしても。

『プロトの反乱』に関しては完全にニホンからのとばっちりだったのはともかくとして。

 

しかし。

リーガルが居た時にしてた、ワタシは零歳児云々の話。

微妙に気遣って下さってるのか。

 

ならワタシのため、と言うより予め作っておいた予備をこの機会にワタシに当てるとかそう言う感じか。

というか正直、その方が気が楽。

どちらにしろ嬉しいのは変わりないが。

 

「ナら、ストーンマン先輩にモ何かしテやったのカ?」

『あいつが何か頼んでくるとでも?』

「ねエわ」

 

意地悪く言ってみるが、あっさりと返された言葉には頷くしかない。

何もなければずっとデータを眺めてるようなのがストーンマンだ。

在るとは思っているが、それでも本当に自意識があるのかないのか。

 

閲覧も整理も出来るかする意味のあるデータがなくなれば、あるいは新しいデータが欲しい、とか言い出すかも分からないが、流石にまだまだ量が多い。

ハズ。

暫くそれはないだろう。

まあ、ワタシから仕事を増やしてやるつもりではあるんだが。

それよりも、

 

「――ンじゃ、用意しとク」

『うむ』

 

最後の準備を進めよう。

 

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